「人類学B」 西暦2021年度

秋学期 火曜日 4限(15時20分〜17時00分) オンラインで実施

概要

人間は、解剖学的構造や生理学的機能において他の動物と変わるところはない。しかし人間は、文化を持つ動物である。

群れを作り生殖を行うという動物的な行為を、親族や婚姻といった象徴的な観念によって改めて意味づけし、そして、ときにその観念のほうに束縛される。とりわけ、芸術や宗教などの精神文化は特異なものである。人間だけが歌い、踊り、描き、そして祈る。それは動物的生活からの解放であると同時に、動物的生存を否定する力にもなりうる。

四十億年におよぶ生命史の中で、なぜ人間だけが他の動物とは異なる存在になったのか。その違いはどこから始まったのか。人類学の授業では、進化的な起源をたどる一方で(これは、どちらかというと、人類学Bで扱う)、脳の構造や機能という観点からも考察する(これは、どちらかというと、人類学Aで扱う)。

人類学Bでは、まず人類の進化史を振り返り、人間が文化を持つようになり、その文化によって世界をいかに秩序づけようとしてきたのかを考察する。婚姻、親族、経済、暦法などを概観しつつ、より抽象的な精神文化である、科学や芸術へと話を進める。

人類学は「人間」を研究する学問であるが、対象としている「人間」の範囲が他分野より広い。世界各地の少数民族や、遺跡や化石にしか痕跡をとどめていない過去の人々、あるいは近縁の霊長類までも視野に入れる。人類学は自然科学に属する自然人類学と、人文科学・社会科学に属する文化人類学社会人類学に分けられるが、学際的な学部であることも鑑み、この授業では、自然人類学を基盤にしつつ、文化人類学社会人類学の視点も取り入れながら、総合的に議論を展開する。

なお、現代のグローバル化する社会では、開発と貧困、民族問題と宗教紛争などを扱う応用人類学の重要性が増しつつあるが、それらは、より社会科学的な内容を扱う、別の講義で併せて学ぶことをお薦めする。

対象としている人間集団の範囲が広いため、あまり馴染みのない地域や時代も取り上げるが、おもに蛭川が実際に訪れたことがある社会や遺跡で、自ら撮影した写真や動画も併せ、視覚的、聴覚的イメージも交えながら講義を進めていきたい。

到達目標

1.人間やその社会を、自然科学と、人文・社会科学の両面から総合的に理解できるようになる。
2.人間やその社会を、他の動物とも比較しながら、進化論的に理解できるようになる。

毎週の予定

毎週の授業は、必ずしも公式シラバスどおりには進まないが、以下のスケジュール表は、随時、更新していく予定。

01 09/21 講義ノート
人類学とは何か
人類学の科学史的位置づけ
宇宙・生命・人類の進化
宇宙論的時空のスケール
生物の系統分類と人間の位置
02 09/28 講義ノート
脊椎動物の進化
サル目の系統分類
人類の進化と大脳化
03 10/05 講義ノート
現生人類の拡散
遺伝子からみた人類の系統関係
遺伝子からみた日本列島民の系統
日本列島の歴史年表
人種・民族・文化
04 10/12 講義ノート
遺伝と進化
有性生殖と遺伝の仕組み」
個人向け遺伝子解析
有性生殖と配偶システム
ヒト上科の配偶システム
単婚と複婚
出自の規則
走婚と送魂ー雲南ナシ族・モソ人の親族構造と死生観
雲南モソ人の別居通い婚
2003年、SARS流行下、中国での調査記録
雲南省の地図
05 10/19 →「講義ノート
脳の進化
ヒトの脳の構造
人類の進化と大脳化
「情報と進化」
06 10/26 →「講義ノート
交換としての婚姻(日本,オーストラリア先住民)
11/02 (休講)
07 11/09 →「講義ノート
08 11/16 →「講義ノート
象徴的分類(インドネシア漢民族
11/23 (休講)
09 11/30 →「講義ノート
10 12/07 →「講義ノート
芸術の起源(ヨーロッパ,縄文文化
11 12/14 →「講義ノート
原始美術と現代美術(オーストラリア先住民)
12 12/21 →「講義ノート
呪物としての貨幣(ミクロネシア
(毎週の授業が予定表と若干ずれています)
12/28 (休講)
01/04 (休講)
13 01/11 →「講義ノート
14 01/18 →「講義ノート
近代科学と民族科学(全体のまとめ)



CE2021/08/18 JST 作成
CE2022/01/18 JST 最終更新
蛭川立