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CE2019/02/25 JST 作成
CE2023/03/24 JST 最終更新
蛭川立

PKの実験的研究

PK(Psychokinesis:念力)は、「スプーン曲げ」や「念写」のような「マクロPK(macro-PK)」と、電子や原子核など素粒子レベルの現象を引き起こす「ミクロPK(micro-PK)」に分けられる。

乱数発生器実験

PK(Psychokinesis:念力)にかんしては、1930年代のラインの時代のサイコロ投げに代わって、放射性元素の崩壊やダイオードのトンネル電流などの物理乱数発生器(REG: Random Event Generator)を使ったミクロPK(micro-PK)の実験が行われるようになった[*1]

ダイオードの壁を「壁抜け」するトンネル電子の数や、壁に2つの通り道をあけておいて、光子がどちらを通過したか、などの、量子論的な確率現象を、心の力によって偏らせることができる、という実験である[*2]

コインを投げて、表が出るか、裏が出るか、その確率は50%である。コインを投げるときに「表が出るように」と念じたときに、表が出る確率が51%に増えるか、60%に増えるか、そういう実験を、コンピュータで行うようになってきた、というわけである。


ダイオードのトンネル電流を使った乱数発生器実験の結果[*3]。100000回の試行のうち55000回ヒットしているとすると、ヒット率は55%だということになる。

成功した実験だけが公表されているのではないか(公表バイアス:publishing bias)、失敗した実験が公表されていないのではないか(お蔵入り問題:drawer preblem)という問題もあるが、下の図のように、メタ分析の結果は、効果サイズの最頻値は0だが、平均値はプラスの方向に偏っており、これは、2610回の失敗実験がお蔵入りしていなければ説明できない。


乱数発生器実験のメタ分析結果。縦軸は試行回数(対数)、横軸は効果サイズ[*4]

詳細については、日本語でも読めるすぐれた概説がある。

 

PKは量子力学で説明できるのか?

ミクロPKの実験結果がいかに奇妙なものであるかについては、量子力学における観測問題にかんする知識がなければ理解できないが、詳細は稿を改めて論じたい(→「物理学は『超常現象』をどのように扱いうるか?」)。

(私的研究史

物理乱数発生器を、人間が集団的に興奮している場所や宗教儀礼の場などに持ち込むと、その興奮の度合いに応じて値が偏るという研究がある。これについては著者である蛭川じしんが研究に取り組んでいたことがあるが、それは錯綜したストーリーであり、大量の研究成果をまだうまくまとめきれていない。当座は下記の断片的リンクを参照されたい。

  • 2000年

岐阜県ポルターガイスト騒動が起こる(→研究結果

  • 2003年

青森ねぶた祭での調査(→祭りの様子研究結果

  • 2004年

ブラジル・パラナ州での調査(→「世界を夢見ているのは誰か」(ブラジルで調査をしたときのことを書いたエッセイ)ブラジルの宗教文化概説研究結果

  • 2013年

ロンドン大学ゴールドスミス校心理学科で特異心理学を学ぶ

  • 2014年

クイーンズランド大学哲学・歴史学科で科学哲学を学ぶ



参考サイト
石川幹人「地球意識プロジェクト」『超心理学講座―「超能力の科学」の歴史と現状―

CE2019/06/14 JST 作成
CE2023/05/29 JST 最終更新
蛭川立

*1:www.isc.meiji.ac.jp

*2:前掲書, 192.甲南大学 (2004).「1-13. ツェナーダイオードのトンネル電流」に、わかりやすい解説がある。

*3:Jahn, R. G. & Dunne, B. J. (2009). Margins of Reality: The Role of Consciousness in the Physical World. ICRL Press, 110.

『実在の境界領域』というタイトルで和訳あり。
ジャン, R. G. & ダン, B. J. 石井礼子・笠原敏雄(訳)(1992).『実在の境界領域―物質界における意識の役割―』技術出版.

*4:Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 157.

ESP(超感覚的知覚)の実験的研究

ESPとは狭義には透視のことであるが、下位概念であるテレパシーとは操作的な区別ができないので、まとめて扱われることが多い。

カード当て実験

ESPの実験的研究は1930年代にジョセフ・バンクス・ライン(Joseph Banks Rhine)によって行われたカード当て実験から始まる。

初期のESP実験に使用されたゼナーカード

被験者の中には非常に高いヒット率でカードを当てた人物もあったが、膨大な数の実験は全体として統計的に有意ではなかった。(そもそもこの時代には膨大な数のデータを統計的に分析できるほどの計算機がなかった。)

初期のESP実験の結果は、ユング共時性の概念にも大きな影響を与えた。

カード当てESP実験の成績を、二人の被験者の距離別に集計したもの[*1]

距離が遠ざかると効果が減衰するというメタ分析もある。もしそうなら、ESPは量子力学のような現代物理学を持ち出すまでもなく、単純に古典力学的な相互作用として説明できるのかもしれない。

その後、催眠やサイケデリックスの使用などでヒット率が上がるという仮説を確かめるために、変性意識状態にある被験者を対象とした実験が行われるようになった。

夢テレパシー

オカルトには否定的だったフロイトも、晩年にはテレパシーは存在するかもしれないと考えるようになった(→「フロイトのテレパシー論」)。しかし、ユング量子力学の影響を受けて提唱した共時性の概念とは異なり、フロイトはテレパシーをあくまでも因果性によって解釈しようとした。それは、人間が進化の過程で無意識に抑圧してきた動物的なコミュニケーションであって、夢のような変性意識状態ではそれが顕在しやすいという仮説を論じている。

死者や神仏が「夢枕に立つ」という現象は一般によく語られることだが、そうした逸話を分析すると、じっさいに「夢枕に立つ」のは、死者よりも生者のほうが多く[*2]、このことは、かりにテレパシーという現象が存在するとしても、それが生体間でのコミュニケーションであるという仮説のほうに整合的である(→「転生するのは誰か」)。

夢テレパシー実験結果の概要[*3][*4]

夢テレパシー実験は1970年代にニューヨークのマイモニデス医療センターで大規模な夢テレパシー実験が行われ、統計的に有意な結果が得られた。

しかし睡眠実験室での研究には大がかりな設備が必要で、追試を行うのが難しい。夢テレパシー実験を簡略化し、標準化が進められていったESP実験が、ガンツフェルト法である。

ガンツフェルト実験


Natural Mystery - Discovery Channel 夢テレパシー実験からガンツフェルト実験への研究史[*5](30分ぐらいのところにガンツフェルト実験の様子が紹介されている。)

ガンツフェルト法は実験の手続きが標準化されており、かつその標準化された方法で多数の実験が繰り返されてきた。

まず、「送信者」と「受信者」が別々の建物の部屋に分かれる。「送信者」は、あらかじめ用意された4種類の画像や動画のうち、乱数で決定されたひとつのイメージを、「受信者」に向けて、思念で送ろうと努力する。

いっぽう、「受信者」は――私もブラジルで体験したことがあるが――五感による漏洩が起こらないような薄暗い部屋に閉じ込められ、しかしゆったりした椅子に座ってリラックスする。両眼にはふつう、半分に切ったピンポン球が貼り付けられ、眼を開けても、目の前にはぼんやりした光景が一様に広がっている様子しか見えない。このような状況を、ドイツ語でGanzfeld(全視野)という。また、両耳にはヘッドホンがとりつけられ、サーッという軽い雑音がずっと流されつづける。ようするに、軽い感覚遮断状態におかれる。眠りに入る直前でうとうとしているような意識状態になる。その中で、いろいろなイメージが去来する。感じたことはそのままにしゃべって、録音しておく。


In Search of the Dead I: Powers of the Mind BBCウェールズ製作「心の力」。ガンツフェルト法など、ESP実験の実際が紹介されている[*6]。(10〜20分あたりでガンツフェルト実験が紹介されています。)

実験終了後、受信者が、送信用に用意された4種類の画像のうち、どれが自分の印象にいちばん近いかを判定する。その判定結果が「送信者」が思念で送ろうとした画像と一致する確率は、まぐれ当たりでは4分の1、25パーセントである。しかし、蓄積された実験結果は、約3分の1、33パーセント前後のヒット率を記録しており、これは統計的にはきわめて有意な結果である。

ガンツフェルト実験の結果[*7]

通常感覚による情報漏洩など、実験の不備や、不正があったのではないか、といった批判もある。成功した実験だけが公表されているのではないか(公表バイアス:publishing bias)、失敗した実験が公表されていないのではないか(お蔵入り問題:drawer preblem)という問題もあるが、メタ分析の結果は、七万回の失敗実験がお蔵入りしていなければ説明できないだけの偏りを示している。

ガンツフェルト実験のメタ分析結果。縦軸は実験内の試行回数、横軸は効果サイズ[*8]

それでも、いまだにESPの存在が証明され、定説として受け入れられているわけではない。データの蓄積が不足しているというよりは、メカニズムを説明できる理論がない、という理由も大きい。


詳細については、日本語でも読めるすぐれた概説がある。

www.isc.meiji.ac.jp

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CE2019/06/14 JST 作成 CE2023/05/27 JST 最終更新 蛭川立

*1:前掲書, 192.

*2:イギリス心霊研究協会が行った大規模な事例研究は1886年に『Phantasms of the Living(生者の幻影)』というタイトルで出版された。
Gurney, E., Myers, F. W. H. & Podmore, F. (1886). Phantasms of the Living. Rooms of the Society for Psychical Research; Trübner and Co.

*3:前掲書, 110.

*4:ウルマン, M., クリップナー, S. & ヴォーン, A. 神保圭志(訳)(1987).『ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学―』工作舎. (Ullman, M., Krippner, S. & Vaughan, A. (1973). Dream Telepathy: Scientific Experiments in the Supernatural. Macmillan Company.)

(マイモニデス医療センターにおける夢テレパシー実験の一般向け解説書)

*5:Discovery Channel (放映年不詳)Natural Mystery.

*6:Iverson, J. (written and produced). (1992). In Search of the Dead I: Powers of the Mind. BBC Wales.NHK教育テレビで『驚異の超心理世界』という邦題で吹き替えが放映された。

*7:前掲書, 192.

*8:Radin, Op. cit., 121.

サイケデリックスによる依存症の治療

この記事は書きかけです

クラシック・サイケデリックスには精神依存性があり、耐性が形成されるが、使用しなければすぐに元に戻る[*1]LSD、シロシビン、メスカリンには交差耐性があり[*2]THCアンフェタミンとは耐性を形成しない[*3]。逆耐性が形成され「フラッシュバック」が起こることもある。離脱症状はなく、身体依存性はない。サイケデリックスは嗜好品として多用されることは少なく、むしろ学術的、芸術的、瞑想的、宗教的な文脈で使われることが多い。

サイケデリックスは長い歴史の中で宗教や芸術の領域で、「長期にわたって」「繰り返し」使用されてきたが、これは、いわゆる「常習性」や「依存性」とは階層が異なる。依存性薬物に依存するという階層に対し、AA・NAのミーティングに繰り返し参加し、繰り返し告解を行うことは、いわばメタ認知の階層である。

EPQ-30(神秘体験尺度)の三次元目は「形容不能性」という逆説的な項目になっているが、サイケデリック体験には、つねに「good trip」と「bad trip」の両面がある。キリスト教神学の立場から、Ottoは宗教体験の核心にあるヌミノーゼ(das Numinose)には「魅せられる」と「不気味なもの」という相反する要素がある[*4] と論じているが、現象学的な分析は宗教学の考察に譲りたい。臨床心理学的には、サイケデリックスは、無意識のうちに行っている認知バイアスにたいする気づきを促すので、心理療法と組み合わせれば、抑うつ、トラウマ、嗜癖、薬物依存、不安、強迫をー解消するというよりはー自省を促す作用がある。

サイケデリックスは、むしろアルコール、ニコチン、コカイン、オピオイドなどの依存性物質にたいする依存症を改善する[*5]。とくにibogaineは5-HT2A受容体のアゴニストであると同時にκ-オピオイド受容体のアゴニストでもあり、オピオイドにたいする依存に対して有効だが[*6]、循環器系への負担が大きいという問題もある。

たとえばアルコール依存症については、脳内のmGluR2(代謝グルタミン酸受容体)タンパク質の不足によって起こるという生物学的仮説があり、シロシビンはmGluR2を増加させるという実験がある[*7]

AA(アルコホリクス・アノニマス)の創始者であるBillは、1936年にベラドンナAtropa beladonna)療法を受けた後で、霊的(spiritual)な光と遭遇し、アルコールを止め [*8]、「sobriety」という状態を得た。その後、ビルはLSDを服用し、この霊的覚醒(spiritual awakenness)を追体験した [*9] とされる。AAはその伝統に従い、Billの見解に対して意見を表明していない。

しかし、サイケデリックスが依存性薬物ではなく、むしろ12ステップにおける「神」を理解する補助として用いられる可能性は積極的に検討されている[*10]。あらゆる薬物から離れてクリーンな状態になるというのは偏った観念であって、脳内では内因性DMTや内因性カンナビノイドが生合成され作用しているのだから、クリーンになることはできないのである。

なぜ薬物が薬物依存を改善するのだろうか。サイケデリック体験は「インスタント悟り」と形容されてきた。ヴィパッサナー(vipassanā)瞑想やマインドフルネス、あるいは認知行動療法と相似しており、抑うつや不安に典型的な「反芻思考」に対するメタ認知的な「気づき(awareness)」を促す。AAの12ステップとLSD体験の並行性をシステム理論によって理論化したBatesonによれば「じぶんがはまり込んでるっていうのに気づくことが、中毒(原文はaddiction)から抜け出す鍵になる」 [*11] のである。

ただし「観察している自己」を観察している自己、という自己言及的な認知が無限の入れ構造になることがある。大学生は「世界の構造には再帰性がある」と証言しているが、彼はまた思考の階層性がベイトソンの学習の階層性[*12]に対応するとも証言している。

1960年代のアメリカでは、シロシビンが受刑者に回心の体験を引き起こし、再犯率を下げるという古典的な研究が行われたが、その後、長期にわたる縦断的研究が続けられている[*13]。アルコールを含む薬物関連の犯罪の再犯率を下げる[*14]ことは、薬物依存と嗜癖的な犯罪との間に相関関係があることを示している。


記述の自己評価 ★★★☆☆ (つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)


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*1:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acschemneuro.2c00170?casa_token=XQEzjoEzOPYAAAAA%3AMODLEbqJh0RW85fZQQrIIyd563428TIbEMsrzSphlORphf-yIUMLHdYGXBZXkvKK_SiuA_22vxvvynTXNQ

*2:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acschemneuro.2c00170?casa_token=XQEzjoEzOPYAAAAA%3AMODLEbqJh0RW85fZQQrIIyd563428TIbEMsrzSphlORphf-yIUMLHdYGXBZXkvKK_SiuA_22vxvvynTXNQ

*3:Tolerance to Lysergic Acid Diethylamide: Overview, Correlates, and Clinical Implications.

*4:ルードルフ・オットー 華園聡麿『聖なるものーー神的なものの観念における非合理的なもの、 および合理的なものとそれとの関係について』 (Rudolf Otto (1936). Das Heilige, Über das Irrationale in der Idec des Göttlichen und sein Verhältnis zum Rationalen.)

*5:Psychedelic Treatments for Substance Use Disorder and Substance Misuse: A Mixed Methods Systematic Review.

*6:John Martin Corkery (2018). Ibogaine as a treatment for substance misuse: Potential benefits and practical dangers.In Psychedelic Neuroscience (Progress in Brain Research Volume 242), 2018, Pages 217-257.

*7:Marcus W Meinhardt, Simone Pfarr, Grégory Fouquet, Cathrin Rohleder, Manuela L Meinhardt, Janet Barroso-Flores, Rebecca Hoffmann, Jérôme Jeanblanc, Elisabeth Paul, Konstantin Wagner, Anita C Hansson, Georg Köhr, Nils Meier, Oliver von Bohlen Und Halbach, Richard L Bell, Heike Endepols, Bernd Neumaier, Kai Schönig, Dusan Bartsch, Mickaël Naassila, Rainer Spanagel, and Wolfgang H Sommer (2021). Psilocybin targets a common molecular mechanism for cognitive impairment and increased craving in alcoholism. Science Advances, 7(47), eabh2399. doi: 10.1126/sciadv.abh2399.)

*8:(Anonymous)『アルコホーリクス・アノニマス』, 10-21.

*9:Carl Jung and Alcoholics Anonymous : The Twelve Steps as a Spiritual Journey of Individuation McCabe, Ian.

*10:Classic psychedelics in the treatment of substance use disorder: Potential synergies with twelve-step programs.

*11:ベイトソンベイトソン星川淳訳1987-1992『天使のおそれー聖なるもののエピステモロジー』東京、青土社、224. Angels Fear. 127

*12:

*13:Dr. Leary's Concord Prison Experiment: A 34-Year Follow-up Study

*14:Hallucinogen use predicts reduced recidivism among substance-involved offenders under community corrections supervision.

実験超心理学と統計的仮説検定

PKとESPの操作的定義

行動主義的な超心理学の立場に依拠すれば、PKやESPという能力が実在するかどうかについて議論する必要はない。

決められた手続きの実験を行い、その結果を統計的に処理した結果、偏りが出れば、それを操作的(operational)にPKやESPと名づけて議論を進めることができる[*1]

これは超心理学という分野が特殊だからではなく、行動主義の影響を受けた実験心理学全般と同じ方法論である。

しかし、とりわけ超心理学の場合にはその傾向が顕著であり、逆にいえば、心的現象を操作的、統計的に処理していく、もっとも典型的な分野だともいえる。

コインを投げる→PK

たとえば「表が出るように」と念じてコインを投げる、という実験によってPKを操作的に定義することができる[*2]

1回投げて表が出ても、たまたま表が出る確率は\frac{1}{2}だから、偶然かもしれない。では、何回投げて、何回表が出れば「PK」が働いたといえるのだろうか。2回投げて2回とも表が出る確率は\frac{1}{4}、3回なら\frac{1}{8}と、まぐれ当たりの確率は下がっていくが、何回投げても0にはならない。

この場合、一般にn回投げてn回表が出る確率pは\frac{1}{2^{n}}であり、果てしなくコインを投げつづけても、つまりn→∞としても、p→0、つまり、まぐれ当たりの確率は限りなく0に近づくけれども、決して0にはならない。(0に収束する。)

帰無仮説を立てる

統計的な仮説検定の手続きでは、最初に仮説を立てるのだが「実験協力者はPK能力を持っている」という仮説は立てない。それは、何回コインを投げても完全には証明できないからである。

そうではなく「実験協力者はPK能力を持っていない」という、逆の仮説を立て、表が多数出た場合に、それが偶然に起こった確率を計算し、その確率が充分に低ければ、「『実験協力者はPK能力を持っていない』とはいえない」と、議論を進める。

つまり、一般に

「『データが偏っている』ので『二つの変数の間に関係がある』」

という積極的な仮説を立てるのではなく、逆に

「『二つの変数の間には関係がない』ので『データの偏りは偶然生じた』」

という「帰無仮説 null hypothesis」を立て、その帰無仮説

「『データの偏りが偶然生じた』といえる確率は無視できるほど低い」

という論理で帰無仮説を棄却することによって、つまり、二重否定の論理によって議論を進めていく。

有意確率の計算

実験が終わってデータが得られたら、その偏りが帰無仮説によって説明できる、つまり「データの偏りが偶然生じた」確率(有意確率)を計算する。

この有意確率(たんにp(probabilityの略)と表されることも多い)が0になれば帰無仮説は完全に棄却されるのだが、すでに述べたように、有意確率は限りなく0に近づくことはできても、決して0にはならない[*3]

そこで、ある一定の水準(有意水準 level of significance)を決めて、pがその基準より小さい場合に、それは充分に小さく、0とみなせるとして、帰無仮説を捨てることにする。

有意水準としてはふつう、0.05(5%)か0.01(1%)が用いられる。心理学など、人文社会系の学問で、厳密な分析が難しい場合には、より緩やかな5%が用いられたり、場合によっては0.1(10%)が「有意傾向」として用いられることもある。逆に、失敗が大きな問題になる医学系の分野や、疑いの目で見られやすい超心理学の分野でも、より厳しく、0.001(0.1%)以下を有意とする場合もある。

」をp<0.1、「*」をp<0.05、「** 」をp<0.01、「*** 」をp<0.001を表す記号として使うことも多い。

いずれにしても、これらの数字は十進法を基準に決めた便宜的な値であって、数学的な必然性があるわけではない。

たとえば、有意水準を5%とすると

p≧0.05なら
 →「『データの偏りは偶然生じた』といえる」
 →「5%水準で有意ではない」という

p<0.05なら
 →「『データの偏りは偶然生じた』とはいえない」
 →「5%水準で有意」という

けっきょく、この方法では「データの偏りが必然的に生じた」という積極的な結果を示すことはできない。つまり、統計的に有意な結果が出ても、二つの変数の間に「ある有意水準を基準にすれば」「関係がないとはいえない」と控えめに言えるだけで、「関係がある」とは言い切れない。

具体的な計算の例

たとえば「表が出るように」と念じてコインを投げた場合はどうだろうか。

すでに述べたように、1回コインを投げて表が出ても、p=\frac{1}{2}なので、有意確率は\frac{1}{2}でしかない。それでは、100回投げることにしたらどうだろうか。もし100回とも表が出れば、p=\dfrac {1}{2^{100}}〜0.00…(小数点以下に0が101個!)…005となり、きわめて低い確率になるが、0ではない。偶然にそんなことが起こる確率は、ほとんどない、ということである。

では、99回表が出て、1回だけ裏が出てしまった場合はどうだろう。p=\dfrac {1}{2^{99}}だろうか。そうではない。1回裏が出たといっても、最初に裏が出て、その後99回表が出た場合から、最初から99回表が出続けて、最後に裏が出た場合の100通りがあるから、p=100\left( \dfrac {1}{2^{99}}\right)である。そして「99回以上」表が出る確率は、2個を足し合わせてp=\dfrac {1}{2^{100}}+100\left( \dfrac {1}{2^{99}}\right)となる。

さらに、98回表が出た場合には、2回裏が出たということであり、それは、最初の2回で裏が続けて出た場合から、最後の2回で裏が続けて出た場合を、足し合わせなければならない。

一般にn回の試行でk回の当たりが起こるのは\begin{eqnarray}{}_n C _k\end{eqnarray}ということになる。しかし、ここから先の計算の手順は端折る。計算方法を詳述するのがここでの目的ではなく、そうすると議論の道筋がわかりにくくなってしまうからである。(確率論や統計学の入門書やWEBサイトは無数に存在する。)

途中を省略すると、コインを100回投げて表が出る回数の期待値(μ)、分散(\sigma ^{2})、標準偏差\sigma)は、それぞれ

μ=50
\sigma ^{2}=25
\sigma=5

となる。X回表が出た場合の標準正規分布(μ=0、σ=1)

Z=\dfrac {x-\mu }{\sigma }

では、おおよそ、Z>3.08>2.33>1.65>1.29と、p<0.001<0.01<0.05<0.1が対応しているので、この公式にμ=50、\sigma=5を代入すると、それぞれの確率に対して、表が出た回数が、66回以上、62回以上、59回以上、57回以上と対応している。

カードの模様を当てる→ESP

あるいは、5種類の模様が印刷されているトランプのようなカードの模様を当てる実験によってESP(透視[*4])能力を操作的に定義してみることができる。これは、ラインが行った方法である[*5][*6][*7]


ラインがESPの実験に使ったゼナーカード。今でも同じものがライン研究所で販売されている。

一般に、1回の試行で当たる確率がpである場合、n回の試行でk回の当たりが出る確率は

\begin{eqnarray}{}_n C _k p^{k}\left( 1-p\right) ^{n-k}\end{eqnarray}=\dfrac{n!}{k!(n-k)!}p^{k}\left( 1-p\right) ^{n-k}

であるから、カード当ての場合は、

\begin{eqnarray}{}_n C _k \left(\frac{1}{5}\right)^k\left(\frac{4}{5}\right)^{n-k}\end{eqnarray}=\dfrac{n!}{k!(n-k)!}\left(\frac{1}{5}\right)^k\left(\frac{4}{5}\right)^{n-k}

となり、コイン投げと同様の計算ができる。

ゼナーカードは5種類の模様が印刷されたカードが5枚ずつ、合計25枚で1セットになっている。

たとえば25枚のカードの模様を当てるという実験を行った場合、期待値(μ)、分散(\sigma ^{2})、標準偏差\sigma)は、それぞれ

μ=5
\sigma ^{2}=4
\sigma=2

となり、コイン投げと同じように計算すると、当たりの枚数が3枚以上、9枚以上、10枚以上、12枚以上の場合、有意確率が0.1、0.05、0.01、0.001を下回る。


蛭川は、2019年度の授業での実演で25枚のうち16枚を当てて見せた。もちろん有意確率はp<0.001である。しかし、これは蛭川に透視能力があることの証明にはならないし、また、トリックを使ったことの証明にもならない。また、A君はちょうど期待値の5枚を当てた。これは特殊能力なのだろうか?

第一種の誤りと第二種の誤り

すでに議論したとおり、統計的な仮説検定は、原理的に完全な方法ではない。ときには誤った結論に導かれることもある。この誤りの可能性には二種類ある。

データの偏りが偶然なのに、偶然ではないと結論してしまう
 → 第一種の誤り type one error(偽陰性

データの偏りが偶然ではないのに、偶然だと結論してしまう
 → 第二種の誤り type two error(偽陽性

第二種の誤りは、実験データに含まれる貴重な可能性を見過ごしてしまうことを意味している。

第一種の誤りでは、何もないところに関係性を見いだしてしまうということ意味している。

第一種の誤りを冒す確率は設定した有意水準と同じで、有意水準の確率が高いほどその危険性は増す。たとえば、有意水準が5%、つまり二十分の一の場合、20回に1回はこの誤りが起こる。つまり、無関係なはずの変数の組み合わせを手当たり次第に20通り試せば、1回ぐらいは5%で有意な結果が出てもおかしくないことになる。

実証主義反証主義

なぜ、二重否定という回りくどい論理を使うのだろうか。この考え方は、統計的な仮説検定法だけではなく、科学的な方法論一般の考え方でもある。

たとえば「黒いカラスが存在する」という「特称命題」は、黒いカラスを一匹見つければ証明できるが、「すべてのカラスは黒い」という「全称命題」を実証するためには、地球上のすべてのカラスを観察して、全部が黒いことを示さなければならないので、事実上、不可能である。しかし、これを反証するためには、白いカラスを一匹見つけるだけで良い。全称命題は経験的に検証(verify)することはできないが、反証(falsify)することはできる。

実証主義(positivism)がより洗練されたものが反証主義(falsificationism)である。ポパーは「実証可能性(verifiability)ではなく反証可能性(falsifiability)が境界設定の基準として採用されるべきである[*8]」としている。(「境界設定」というのは、科学と科学ではないものを分ける基準という意味である。)

科学的な研究には、理論を証明することはできない。「理論はけっして経験的に実証できない[*9]」のであり、反証しかできない。有意確率が決して0にはならない以上、どれだけ実験結果が出ていても、超能力が存在する、とはいえない。そもそも、すべての科学理論は完全には証明できないし、されていない。逆に、超心理学実験が否定的な数字を示していることについて、科学では説明できないことがある、と語ることにも意味がない。というのも、全ての科学理論は反証可能である以上、説明不可能な部分を持っているからである。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

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CE2023/04/09 JST 作成
CE2023/05/29 JST 最終更新
蛭川立

*1:おおよそ、ESPについては、カード当て→夢テレパシー→ガンツフェルト実験、PKについてはサイコロ実験→放射性元素を使った乱数発生器実験→ダイオードを使った乱数発生器実験、と実験方法が変わってきている。

*2:日本の硬貨は、数字が書いてあるほうが裏ということになっているらしい(出典不詳)。

*3:歪みのないコインを99回投げて99回表が出ても、次に表が出る確率は、やはり\frac{1}{2}である。「99回続けて表が出たのだから、次もまた表が出るだろう」とか、逆に「99回続けて表が出たのだから、次こそは裏が出るだろう」と考えてしまう認知バイアスを「ギャンブラーの誤謬」という。

*4:透視とテレパシーと予知を併せてESPと呼ぶが、これらの区別は難しい。

*5:Rhine, J. B. (1934, reprinted in 1964). Extra-Sensory Perception. Bruce Humphries.(ESP実験の報告書。Google Booksによるオンライン復刊)

*6:Rhine, J. B. & Pratt, J. G. 湯浅泰雄(訳)(1964).『超心理学概説―心の科学の前線―』宗教心理学研究所出版部.(日本語で読める概説)

*7:Horn, S. 石川幹人(監修)・ナカイサヤカ(訳)(2011).『超常現象を科学にした男―J.B.ラインの挑戦―』紀伊國屋書店.(ラインの伝記)

*8:ポパー, K. R. 大内義一・森博(訳)(1971).『科学的発見の論理 (上)』恒星社厚生閣, 49. (Popper, K. R. (1934). Logik der Forschung. Mohr Siebeck.)

*9:前掲書, 48.

サイケデリックスを含有する植物

この記事は書きかけです

ほとんどのサイケデリックスは、世界各地の先住民社会において、治療儀礼の中で用いられてきた植物に含まれている。人工化合物も、それらと構造が似ている。 サイケデリックスの多くは世界各地の先住民社会において、治療儀礼の中で用いられてきた植物に含まれており、人工化合物も、それらと構造が似ている。

西アフリカ熱帯では、ibogaineを含むTabernante igoga(イボガ)が使用されてきたが、それ以外のサイケデリック植物の使用は中南米に集中している。

psiloscybinを含有するPsilocybe spp.(シビレタケ属)などの菌類は、世界中に広く自生しているが、治療儀礼に使われてきたのはメソアメリカの先住民文化においてである。

同じくメソアメリカで使用されてきたヒルガオ科のTurbina corymbosaの有効成分はLSA(リセルグ酸アミド)であり、人工化合物であるLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)と類似した分子構造を持つ。

南米のアマゾン川オリノコ川流域では、DMT(N, N-dimethyltriptamine)、5-MeO-DMT(5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine)、bufotenin(5-HO-DMT)を含む多数の植物が使用されてきた。とくにマメ科Anandera spp. Mimosa spp.(ミモザ属)、Acacia spp.(アカシア属)、ニクズク科のVirola spp. が喫煙に用いられてきた。

アマゾン川上流域では、DMTを含むPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどのモノアミン酸化酵素A阻害薬(MAOIA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)が「アヤワスカ」という茶にして服用されてきた。アヤワスカと同様にDMTとMAOIを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

以上の物質はすべてセロトニンと構造が類似したインドールアルカロイドである。しかし、サボテン科のLophophora williamsi(ペヨーテ)はメソアメリカ北部で、Echinopsis pachanoi(サン・ペドロ)はアンデス北部で使用されてきたが、いずれもmescalineやMDPEA(3,4-メチレンジオキシフェネチルアミン)などのフェネチルアミン誘導体を含む。人工化合物であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)はMDPEAと類似した分子構造を持つ。

MDMAやMDPEAなどの作用は、サイケデリックスと精神刺激薬の両方の作用を示し、おそらくはオキシトシンを介して共感作用を示すことから、entactgen(共感薬)と呼ばれることもある。

以上の物質は、major psychedelics、classical psychedelicsと呼ばれる。それに対して、類似した作用を持つ物質は、minor psychedelicsと呼ばれることもある。

麻酔薬であるPCP、katamine、DXM、亜酸化窒素もサイケデリックスと類似した精神作用を示す。

カンナビノイド受容体作動薬にはアサ科のCannabis spp.(アサ属)やTrema orientalisウラジロエノキ属)などに含まれるカンナビノイドがある。また南太平洋で用いられてきたカヴァPiper methysticum(カヴァ)に含まれるカヴァラクトンは、カンナビノイド受容体作動薬であると同時にGABA受容体作動薬でもあり、抗不安作用や催眠作用がある。

また、せん妄誘発剤(deliriants)は、ナス科のDatura spp.(チョウセンアサガオ)やAtropa beladonnaベラドンナ)などの植物に含まれる。

サイケデリックスの一覧表
インドールアルカロイド
LSA(リセルグ酸アミド) ヒルガオ
バッカクキン
LSD(リセルグ酸ジエチルアミド) (合成化合物)
DMT、NMT
5-MeO-DMT
5-HO-DMT(ブフォテニン)
多数の動植物
(ヒトの体内にも存在)
シロシン(4-HO-DMT)
シロシビン
シビレタケなど
イボガイン イボガ
フェネチルアミン誘導体
2C-B (合成化合物)
メスカリン
MMDPEA(ロフォフィン)
ペヨーテ
サン・ペドロ
MDMA (合成化合物)
ミリスチシン ナツメグ
カンナビノイド受容体作動薬
カンナビノイドTHC、CBDなど) アサ
ウラジロエノキ
アナンダミド(AEA) 黒トリュフ
(ヒトの体内にも存在)
カヴァラクトン カヴァ
メセンブリン カンナ
解離性麻酔薬など
ケタミン (合成化合物)
PCP(フェンシクリジン) (合成化合物)
DXM(デキストロメトルファン (合成化合物)
亜酸化窒素(N2O) (合成化合物)
サルビノリン サルビア
GABA受容体作動薬
イボテン酸
ムッシモール
ベニテングタケ
テングタケ
トロパンアルカロイド
スコポラミン
ヒヨスチアミン
アトロピン
チョウセンアサガオ
ベラドンナ
ヒヨス
マンドレイク
キダチチョウセンアサガオ

イボガ

Tabernante igogaにはiboga(イボガ)が含まれている。

麻薬原料植物として国際的に統制されているのは、コカと大麻とケシである。日本だとシロシビン含有キノコも規制されている。逆にいえば、ほかの植物は規制されていない。

マイクロドース用として流行している薬草はイボガで、オランダなどではふつうに売られており、通販で取り寄せている日本人も多いと聞いた。

イボガの根にはイボガインやヨヒンビンなどのアルカロイドが含まれていて、根皮の粉末のイボガイン含有量は2〜7%ぐらいである[*1]

ブラジルではさらに包括的な調査が行われており、イボガの根の樹皮として販売されている製品のイボガイン含有量は0.6% 〜 11.2%であり、TA (トータルのアルカロイド)として販売されている製品では 8.2% 〜32.9%であり、HCl(塩酸イボガイン)として販売されている製品では61.5% 〜73.4%だったという[*2]

イボガインの通常の用量は15〜22mg/kg[*3]だという。体重70kgとして換算すると1.0〜1.5gとなる。さらにイボガの樹皮に5%のイボガインが含まれているとすると、これは樹皮の20〜30gに相当する。

www.ibogaworld.com IbogaWorldはオランダのアイントホーフェンにある

シロシビン含有キノコ

Psilocybe spp.(シビレタケ属)にはpsiloscybinが含まれている。ヒルガオ科のTurbina corymbosaの有効成分はLSA(リセルグ酸アミド)であり、人工化合物であるLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)と類似した分子構造を持つ。

DMT(N, N-dimethyltriptamine)、5-MeO-DMT(5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine)、bufotenin(5-HO-DMT)を含む多数の植物、とくにマメ科Anandera spp. Mimosa spp.(ミモザ属)、Acacia spp.(アカシア属)、ニクズク科のVirola spp. が喫煙に用いられてきた。

DMT植物

またDMTを含むPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどのモノアミン酸化酵素A阻害薬(MAOIA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)が「アヤワスカ」という茶にして服用されてきた。アヤワスカと同様にDMTとMAOIを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

以上の物質はすべてセロトニンと構造が類似したインドールアルカロイドである。しかし、サボテン科のLophophora williamsi(ペヨーテ)はメソアメリカ北部で、Echinopsis pachanoi(サン・ペドロ)はアンデス北部で使用されてきたが、いずれもmescalineやMDPEA(3,4-メチレンジオキシフェネチルアミン)などのフェネチルアミン誘導体を含む。人工化合物であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)はMDPEAと類似した分子構造を持つ。

MDMAやMDPEAなどの作用は、サイケデリックスと精神刺激薬の両方の作用を示し、おそらくはオキシトシンを介して共感作用を示すことから、entactgen(共感薬)と呼ばれることもある。

以上の物質は、major psychedelics、classical psychedelicsと呼ばれる。それに対して、類似した作用を持つ物質は、minor psychedelicsと呼ばれることもある。

麻酔薬であるPCP、katamine、DXM、亜酸化窒素もサイケデリックスと類似した精神作用を示す。

カンナビノイド受容体作動薬にはアサ科のCannabis spp.(アサ属)やTrema orientalisウラジロエノキ属)などに含まれるカンナビノイドがある。また南太平洋で用いられてきたカヴァPiper methysticum(カヴァ)に含まれるカヴァラクトンは、カンナビノイド受容体作動薬であると同時にGABA受容体作動薬でもあり、抗不安作用や催眠作用がある。

また、せん妄誘発剤(deliriants)は、ナス科のDatura spp.(チョウセンアサガオ)やAtropa beladonnaベラドンナ)などの植物に含まれる。

これらの薬草の文化的使用についてはいくつかの総説がある[*4][*5]

アヤワスカ

アヤワスカとは、アマゾン川流域の先住民族が服用してきた茶であり、DMTを含有するPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどの選択的モノアミン酸化酵素A阻害薬(RIMA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)の二種類の植物を煎じて茶にしたものである。アヤワスカと同様にDMTとRIMAを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

イボガとイボガインはほぼ一対一対応である。それからアサとカンナビノイド、カヴァとカヴァラクトンもほぼ対応している。

メスカリンは中米のペヨーテとアンデスのサン・ペドロの二属のサボテンに含まれる。

シロシンとシロシビンは、ほぼシビレタケ属の菌類のみに含まれる。しかし、シビレタケ属のキノコは世界的に自生しているのに、儀礼的に使用されてきたのはメソアメリカに限定されている。

DMTは、アマゾン・オリノコ地域のチャクルーナやヨポに含まれ、儀礼的に使用されてきた。DMTは特異な物質であり、多くの動植物の体内で生合成され、神経伝達物質でもある。DMTはミカン科、マメ科(ヨポ、アカシア、ミモザヤマハギなど)、イネ科、アカネ科(チャクルーナ)、ナツメグ科(ヴィローラ)などの植物に含まれる。またヒキガエルの分泌液には5-MeO-DMTやブフォテニンが含まれる[*6]

LSDとMDMAは、合成サイケデリックスとしてもっとも研究され、流通してきた物質である。いずれも国際条約で規制されたが、アンダーグラウンドでは流通しつづけており、医療用としても再評価が進んでいる。また分子構造をすこし変えた合法物質も研究・流通している。(「LSDアナログ」を参照のこと。)

**伝統文化の中の精神展開薬

精神展開薬を含む薬草は世界各地の伝統文化で、呪術・宗教的な儀礼の中で用いられてきた。(「『茶』の文化的バリエーション」を参照のこと。)

サイケデリックスを含む薬草の使用は、とくに中南米の先住民文化に偏っている。

中米のアステカ文化を引き継いだマサテコ族は、テオナナカトル(シビレタケ)、オロリウキ(ヒルガオ科)、ピピルツィンツィン(サルビアの一種)を用いてきた。ペヨーテはウィチョール族などに引き継がれ、サン・ペドロは北部アンデスで使用されてきた。

アマゾン川上流域でアヤワスカの原料となるチャクルーナはもっぱらDMTを含有しているが、オリノコ川流域で喫煙されるヨポにはDMT、5-MeO-DMT、ブフォテニンなどが含まれる。マメ科のヨポはアカシア属やミモザ属と近縁である。

旧大陸インドール系のサイケデリックスを含む植物としては、西アフリカのイボガがある。

マイナー・サイケデリックスとしては、南〜東アジアを原産とするアサ、シベリアのベニテングタケ、南太平洋のカヴァが挙げられる。

トロパンアルカロイドを含む植物としては、ベラドンナ、チョウセンアサガオキダチチョウセンアサガオなどが世界各地で用いられてきた。これらの植物もとくに中南米で他の植物と組み合わせて使われてきた。


www.youtube.com << 「ドラッグと宗教儀礼」とは、いかにも物騒なタイトルだが、医療大麻を推進する正高先生との対談動画の中でも世界各地のサイケデリック植物を紹介した。アサ(大麻)、イボガ、ペヨーテ、サン・ペドロ、シビレタケ、アヤワスカ、ヨポである。

また、別のページに書いた記事は以下のとおり。

-アヤワスカ --「南米におけるアヤワスカ文化の現代史」 --「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」 --「ブラジルにおけるアヤワスカ宗教運動の展開」 -サン・ペドロ --「サン・ペドロ」 -ペヨーテとシビレタケ --「中米先住民文化と精神展開性植物」 -アサ --「大麻の精神作用と精神文化」 --「カンナビノイドに類似する作用を持つ植物」 -カヴァ --「カヴァの伝統と現在


記述の自己評価 ★★★☆☆ (講義用のノートであり学術的には正確ではありません。正確さを期してつねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長でもあります。)


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CE2023/04/07 JST 作成 CE2023/04/07 JST 最終更新 蛭川立

サイケデリックスの分子構造と生合成過程

メジャー・サイケデリックスの多くは、モノアミン神経伝達物質セロトニンドーパミンノルアドレナリンなど)と同様の構造を持っており、単純にこれらの物質と同じ働きをすることで精神作用を発現しているのは明らかである。とくにDMTは多種の植物の体内でも生合成されるが、動物の脳内でも生合成され神経伝達物質として機能している可能性が高い。

インドールアミン

インドールアミン系の神経伝達物質・精神展開薬は、トリプトファンから生合成される。

https://www.frontiersin.org/files/Articles/335267/fnins-12-00232-HTML/image_m/fnins-12-00232-g001.jpg トリプトファンから生合成される神経伝達物質・精神展開薬[*1]

トリプトファンからセロトニン(5-HT)が生合成され、そこからブフォテニン(5-HO-DMT)とメラトニンが合成される。また、トリプトファンからトリプタミンが合成され、そこからジメチルトリプタミン(DMT)が合成される。

ミカン属などの植物の体内では、DMT(ジメチルトリプタミン)からトリメチルトリプタミンが合成される。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9b/Biosynthesis_of_psilocybin.svg/2880px-Biosynthesis_of_psilocybin.svg.png トリプトファンからDMTを経てシロシビンに至る生合成経路[*2]

また、シビレタケ属などの菌類の体内では、DMTからシロシン、シロシビンが生合成される。(シロシビンは人体内に摂取されると分解されてシロシンに戻る。)

https://miro.medium.com/v2/resize:fit:640/format:webp/1*ZnBQK9zpH-1EnLIcgvbAuA.png LSDとLSAの構造式[*3]

LSDは麦角アルカロイドから人工的に合成された物質だが、中米先住民が使用してきたアサガオに類似の物質LSA(リセルグ酸)が発見された。

https://www.researchgate.net/profile/Scott-Farrow-2/publication/326526978/figure/fig2/AS:650643903639552@1532137003473/Proposed-biosynthetic-pathway-to-ibogaine-in-Tabernanthe-iboga-Tryptophan-and-geranyl.png

イボガインの分子構造は、やや複雑だが、やはりインドール核がある。

これらのインドールアミン系精神展開薬は、セロトニン受容体(主に5-HT2A)のアゴニストとして作用し、そのはたらきを増強すると考えられている。(シナプスにおける受容体については「神経伝達物質と向精神薬」を参照のこと。)

いわゆる「神経症圏」の疾患、つまり不安、うつ、強迫などに有効とされるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と同様、インドール系の精神展開薬は、少量ではSSRIと同様の作用を示すが、ある程度以上では精神展開作用を示す。

フェネチルアミン誘導体

モノアミン系神経伝達物質のもうひとつのグループが、カテコールアミン神経伝達物質であり、これらはチロシンから生合成される。

https://ars.els-cdn.com/content/image/3-s2.0-B978044459433400002X-f02-43-9780444594334.jpg チロシンからカテコールアミン神経伝達物質とメスカリンが生合成される経路[*4]

メスカリンはメジャー・サイケデリックスであり、インドールアミン系サイケデリックスとよく似た精神作用を示すが、ドーパミンノルアドレナリンと構造が似ている。

やはり同様の分子構造を持つMDMAは合成物質だが、精神刺激薬と精神展開薬の中間的な、独特の共感作用を示すため、エンタクトゲン(共感薬)(→「共感薬(エンタクトゲン)」を参照のこと)として、サイケデリックスとは別種の物質群として分類することもある。

このことは、精神展開薬が単純にセロトニン受容体のアゴニストとしてセロトニン系の神経系を活性化するだけではなく、より複雑な作用機序を持つことを示唆している。


CE2016/10/10 JST 作成
CE2023/03/19 JST 最終更新
蛭川立