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CE2019/02/25 JST 作成
CE2024/06/23 JST 最終更新
蛭川立

シロシビン療法体験報告(意識情報学研究所発表用)

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

この記事は特定の薬剤や治療法の効能を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の適法性については、当該国または地域の法令を考慮してください。

サイケデリックス(精神展開薬・幻覚剤)が意識を変容させ神秘体験を引き起こすこと、そうした物質を含む薬草が世界各地で治療儀礼として使用されていることについて関心を持ち、研究してきた。

サイケデリックスの精神作用にかんする心理学的な研究は、なかなか進んでこなかった。依存性のある精神活性物質と混同され「麻薬」として研究や使用が厳しく規制されてきたという理由もある。

しかし、2010年代から、サイケデリックスをうつ病や依存症の治療薬として利用しようとする試みがじょじょに復活してきた。

個人的には緊急事態宣言下の在宅勤務で持病の睡眠リズム障害をこじらせ、抑うつ症状が慢性化するようになってしまったのだが、このタイミングで、サイケデリックスに抗うつ作用があることに身をもって知ることができた。


シロシビン合法化の「オレゴン・モデル」

オレゴン州では2023年*2]から「サービスセンター(service center)」内でのシロシビンの合法的使用が始まった。

www.oregon.gov

シロシビンはスケジュールⅠの規制薬物であり、所持、施用、売買等は違法である。スケジュールⅠの物質は医療用の使用も認められていないが、サービスセンター内での使用は医療や宗教という目的外で認められている。使用に付き添うファシリテーター(facilitator)は医師、看護師、心理師のような臨床的な資格ではない。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b9/Legality_Psilocybin_US_map.svg/2560px-Legality_Psilocybin_US_map.svg.png
アメリカにおけるシロシビン・キノコの法的規制。灰色と水色の州は違法。青い点は非犯罪化した市区町村。紺色は非犯罪化に加えて免許制により合法化した州[*3]

全米ではまずオレゴン州がシロシビン・マッシュルームの公式サービスセンターを認可し、コロラド州が後を追っている。

違法薬物の個人使用を非犯罪化したオレゴン州では、オピオイドの乱用が広がり、2024年9月より、また再犯罪化された。大麻はすでに違法薬物のリストから外され、アルコールやタバコと同じ扱いになっている。

問題となっているのはフェンタニルなどのオピオイドが主であり、シロシビンなどのサイケデリックスについては事実上の容認が続いている。そのため、サービスセンターでシロシビンを使用するのは、完全に合法で安全に使用することを望む高所得者、州外・国外からの来訪者が多い。

ファシリテーター制度

2023年の春、旧知のビショップ・杉田・菜生子さんからファシリテーターの養成学校、Synaptic Institute[*4]に入学したいという連絡を受け、推薦状を書いた。


www.youtube.com
「Greenzone Japan」が取材したシロシビンサービスの紹介動画

菜生子さんは2024年の春からオレゴン州ファシリテーターとしての活動を始めた。8月の夏休み期間に、シロシビンサービスを体験するために渡米することにした。9年ぶりの海外渡航だった。

準備セッション

渡航前に問診票に記入し、zoomによるインテークと準備(preparation)セッションを受ける必要がある。

東京からオレゴン


オレゴン州アシュランド

シロシビン・サービスセンター


www.instagram.com


1回目のセッション


2回目のセッション


統合=インテグレーション

セッション後には、ファシリテーターが対面、そして遠隔でクライアントと面談をする。これをintegration(統合)という。


従来よりサイケデリック体験等の非日常的な意識状態から日常的な社会生活に軟着陸することは「グラウンディング」と呼ばれてきた。サイケデリック療法における「統合」においても、何年もかかる心理療法的な支持が必要になるだろう。


2024年4月から10月までのPHQ-9の推移

シロシビンセッション自体は8月23日と25日の2回だったが、それに先立って抑うつ症状は軽快している。これは、オレゴン州でシロシビンサービスが始まったという情報を知ってから、じっさいに参加することにして、事前の準備セッションを始めたという、一連の流れの影響でもある。過食や過眠のような症状は冬に悪化し、夏に軽快するという季節的な変動もある。

2023年にシロシビンサービスが合法化され、2024年にそれに参加することになったこと自体が沈滞した気分を改善させてくれたことでもあるので、シロシビンという物質を摂取した結果、「抗うつ作用があった」というだけではない。そもそも伝統文化の中でのシャーマニズムは、こうした社会的・神秘的な共時性(意味を付与された偶然)を介して治療効果を発揮するものである。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしていますが、遺伝情報のような冗長性がハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。「」で囲まれたリンクはこのブログの別記事へのリンクです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

  • CE2024/08/20 JST 作成
  • CE2024/10/27 JST 最終更新

蛭川立

【資料】『病の起源 うつ病』

NHKスペシャル 病の起源 うつ病~防衛本能がもたらす宿命~

www.nhk-ondemand.jp


親族と婚姻(人類学講義メモ)

秋学期の「人類学B」では、生物の有性生殖から、動物の配偶システム、そして人間社会における親族と婚姻というテーマを扱う。

hirukawa.hateblo.jp

ここ数年、アマゾン川上流の先住民族である、シピボ=コニボが、森の精霊と共生する民族、アヤワスカを飲む/飲ませる民族としてグローバルな注目を集めている。しかし、シピボの社会がどのような生業に支えられ、どのような親族構造を持っているのかについて人類学的な議論が不足しているのも事実である。

シピボ=コニボの伝統社会における、親族の基本構造は「姉妹型の妻方居住の一夫多妻制」[*1]なのだが、その構造を「夫方居住の一夫一妻制」を自明の規範とするーさらには多妻婚を「不倫」と見なすようなー西洋近代的なエスノセントリズムから相対化してとらえるためには、文化人類学社会人類学にもとづく理解が必要とされる。

「親族」や「kinship」という概念もまた東アジアや西ヨーロッパの特定の文化に依存した概念である。社会人類学では親族をリネージとクランに分け、そのクランを母系、父系、双系、重系、のように分類する。たとえばシピボの社会の婚姻居住規制は妻方居住婚であり、母ー娘関係を主軸とするリネージが存在するが、クランを持たないため、母系社会とはいえない。

親族構造論は文化人類学社会人類学の基本をなす理論だが、近年は応用人類学的な研究が進むにつれ、議論されることが少なくなった。しかし一方で進化生態学にもとづく配偶システム論の発展によって、遺伝子=文化共進化理論の基礎として、ふたたび重要な役割を果たすようになってきている。


親族構造論の基礎文献


記述の自己評価 ★★★☆☆
(日々その都度、思いついたことを書きとめているだけなので、文章は荒く、途切れ途切れです。学術的に価値がありそうなコンテンツは、できるだけ加筆修正して独立させます。)


「問題発見テーマ演習B」 西暦2024年度

オーシェイ, M.・山下博志(訳) (2009). 『1冊でわかる 脳』岩波書店.(O'Shea, M. (2005). The Brain: A Very Short Introduction. Oxford, Oxford University Press.)

ブラックモア, S. ・篠原幸弘・筒井春香・西堤優(訳) (2010).『1冊でわかる 意識』岩波書店.(Blackmore, S. (2005).Consciousness: A Very Short Introduction. Oxford, Oxford University Press.)

イギリスで出版されている人文科学系の超小型入門シリーズ「A Very Short Introduction」は、日本語では「〈一冊でわかる〉」シリーズとして翻訳されている。このうち「脳」と「意識」の二冊をテキストにして輪読する。全体として、神経系の生化学から、知覚や認知、意識と自我、そして夢や変性意識状態へと議論を進める。

予備知識は必要ないが、高校生ていどの生物学の知識があれば、なおよい。

日程 内容 発表
09/26 (授業計画)
一冊でわかる脳
10/03 体液から細胞へ 寶野
10/10 脳の中の情報伝達 塚原
10/17 ビッグバンからビッグブレインまで
10/24 感覚・知覚・行為 大屋
10/31 (休講)
11/07 記憶はこうしてできる 鵜月 村田
一冊でわかる意識
11/14 なぜ意識は謎なのか 長谷川
11/21 人間の脳 東原
11/28 時間と空間 大津 片山
12/05 壮大な錯覚 下田 青山
12/12 自我 榊原 堀田澤
12/19 意識的な意志 木村  
12/26 (休講)
01/02 (休講)
01/09 変性意識状態 古梶
01/16 意識の進化 田辺


  • CE2022/12/05 JST 作成
  • CE2024/10/17 JST 最終更新

蛭川立

オレゴン州シロシビンサービス訪問記(慶應医学部発表資料)

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

この記事は特定の薬剤や治療法の効能を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の適法性については、当該国または地域の法令を考慮してください。

シロシビン合法化の「オレゴン・モデル」

オレゴン州では2023年*2]から「サービスセンター(service center)」内でのシロシビンの合法的使用が始まった。

www.oregon.gov

シロシビンはスケジュールⅠの規制薬物であり、所持、施用、売買等は違法である。スケジュールⅠの物質は医療用の使用も認められていないが、サービスセンター内での使用は医療や宗教という目的外で認められている。使用に付き添うファシリテーター(facilitator)は医師、看護師、心理師のような臨床的な資格ではない。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b9/Legality_Psilocybin_US_map.svg/2560px-Legality_Psilocybin_US_map.svg.png
アメリカにおけるシロシビン・キノコの法的規制。灰色と水色の州は違法。青い点は非犯罪化した市区町村。紺色は非犯罪化に加えて免許制により合法化した州[*3]

全米ではまずオレゴン州がシロシビン・マッシュルームの公式サービスセンターを認可し、コロラド州が後を追っている。

違法薬物の個人使用を非犯罪化したオレゴン州では、オピオイドの乱用が広がり、2024年9月より、また再犯罪化された。大麻はすでに違法薬物のリストから外され、アルコールやタバコと同じ扱いになっている。

問題となっているのはフェンタニルなどのオピオイドが主であり、シロシビンなどのサイケデリックスについては事実上の容認が続いている。そのため、サービスセンターでシロシビンを使用するのは、完全に合法で安全に使用することを望む高所得者、州外・国外からの来訪者が多い。

ファシリテーター制度

2023年の春、旧知のビショップ・杉田・菜生子さんからファシリテーターの養成学校、Synaptic Institute[*4]に入学したいという連絡を受け、推薦状を書いた。


www.youtube.com
「Greenzone Japan」が取材したシロシビンサービスの紹介動画

菜生子さんは2024年の春からオレゴン州ファシリテーターとしての活動を始めた。8月の夏休み期間に、シロシビンサービスを体験するために渡米することにした。

準備セッション

渡航前に問診票に記入し、zoomによるインテークと準備(preparation)セッションを受ける必要がある。

東京からオレゴン

シロシビン・サービスセンター


www.instagram.com

1回目のセッション

2回目のセッション



帰路、ポートランドに立ち寄る

統合=インテグレーション

セッション後には、ファシリテーターが対面、そして遠隔でクライアントと面談をする。これをintegration(統合)という。


従来よりサイケデリック体験等の非日常的な意識状態から日常的な社会生活に軟着陸することは「グラウンディング」と呼ばれてきた。サイケデリック療法における「統合」においても、何年もかかる心理療法的な支持が必要になるだろう。

記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしていますが、遺伝情報のような冗長性がハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。「」で囲まれたリンクはこのブログの別記事へのリンクです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

  • CE2024/08/20 JST 作成
  • CE2024/09/17 JST 最終更新

蛭川立