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CE2019/02/25 JST 作成
CE2025/05/13 JST 最終更新
蛭川立

Psychedelicsとその訳語

サイケデリックス・精神展開薬

精神展開薬は「psychedelics」の和訳である[*1]。「psychedelic」という英語は、1956年にハンフリー・オズモンドが、ギリシア語のpsychē(ψυχή:心、精神)とdēlos( δήλος:顕現、可視化)を組み合わせた造語である。

「psychedelics」は片仮名で「サイケデリックス」と表記されることが多いが、日本語に訳す場合は「精神展開薬」[*2]あるいは「精神拡張薬」[*3]である。山中康裕の著書では『たましいの顕現』[*4]という言葉が使われているが、「psyche」を「たましい」という和語に置き換えれば、このような訳語にもなるだろう。

近年の日本における慶應大学医学部と大塚製薬の共同研究では「精神展開剤」という訳語が用いられるようになっている。

サイケデリック」という言葉自体は中立的だが、このカタカナ語は、1960年代〜1970年代のカウンターカルチャーと結びついた、文化依存的なニュアンスを持つ。この文脈では「サイケ」は「心」や「精神」という意味ではなく、極彩色の幻覚、といった意味で使われる。

また「entheogen」という語も用いられる。これは、顕神薬、または音訳でエンテオゲン、エンセオジェンと訳される。「神」という宗教的概念が含まれるので、文化的な意味はあるが、しかし、医学的には中立ではない。

かつてLSDなどの精神展開薬が統合失調症の陽性症状に似た体験を引き起こすことから、精神異常発現薬(psychotomimetic drug)と呼ばれ、統合失調症の症状の解明に役立つと考えられたことがあったが、むしろメタンフェタミンが引き起こす覚醒剤精神病などの精神刺激薬精神病のほうが統合失調症の陽性症状と似ており、いずれもドーパミンの過剰から起こることが明らかになり、精神展開薬を精神異常発現薬と呼ぶことはなくなった。

精神展開薬と同じ物質群を示すものとして、幻覚剤(hallucinogen)という用語もある。ただし、精神医学で「幻覚」というと、統合失調症などの症状としてあらわれてくる幻聴、とくに悪口などの幻声というニュアンスがあるが、上記で議論したとおり、精神刺激薬精神病(とくに覚醒剤精神病)に伴う幻覚のほうが、統合失調症の幻覚と共通していることが明らかになったため、幻覚剤という用語は紛らわしくなってしまった[*5]

精神展開薬にも幻覚作用はあるが、どちらかといえば視覚が優位(幻視)であり、不快なものから崇高なものまで、多様である。LSDやDMTなどの典型的な精神展開薬はインドール核を持っており、こうした幻視はセロトニンの過剰と関係していると考えらえる。

しばしば「hallucinogen」の日本語訳として「幻覚剤」を当てることもあるが、訳語の対応としては誤りである[*6]

狭義のサイケデリックスを「major pcychedelics」と呼び、作用の似た物質を「minor psychedelics」あるいは「semipsychedelics」と呼んで区別することもある。広義のサイケデリックスに分類されるが、狭義のサイケデリックスには含めない物質群としては、以下のものがある。

リリアント・せん妄誘発薬

狭義のサイケデリックスの場合は閉眼時に幻覚が見えたとしても、意識は清明であるのに対し、トロパンアルカロイドなどの抗コリン薬は意識水準が下がりせん妄状態を引き起こし、それが何日も続く場合がある。このため、デリリアント(deliriants:せん妄誘発薬)と呼ばれることもある。詳細は「デリリアント(せん妄誘発薬)」を参照のこと。

エンタクトゲン・共感薬

広義の精神展開薬の一部には、インドールアミンよりもカテコールアミンに構造が似ており、MDMAのように、共感作用を持つ物質がある。これについては、enpathogen、entactogenという用語が使われることがある。Enpathogenとは、苦しみ(パトス:pathos)を共有するという意味を持つが、pathogenという言葉には、病原菌という意味もあるので、避けたほうがよいという考えもある。日本語での定訳はなく、エンパトゲン、エンタクトゲンと片仮名で使われることもあるが、強いて訳せば「共感薬」となるだろう。(中国語には「同感剤」という訳語もあるらしい[*7]。)。詳細は「エンタクトゲン(共感薬)」を参照のこと。

MDMAのような物質は、間接的にオキシトシンの分泌を促すことによって共感作用を引き起こすという機序が考えられている。それゆえ、オキシトシンも共感薬に分類することもできる。GABAの受容体に作用するエチルアルコールバルビツール酸ベンゾジアゼピン、あるいはカヴァラクトンも、似たような作用を引き起こす。

大麻カンナビノイド

大麻に含まれるTHCなどのカンナビノイドも広義のサイケデリックスに含まれるが、サイケデリックな作用は弱いので「マイナー・サイケデリックス」として「メジャー・サイケデリックス」には含めないのが一般的である。カンナビノイドは、大麻などの植物に含まれる植物性カンナビノイド、動物の体内で作られる内因性カンナビノイド、人工的に合成される合成カンナビノイドに分類されるが、重複する物質もある。

内因性カンナビノイドとして動物の体内で発見されたアナンダミドは、その後、菌類である黒トリュフの子実体からも発見された。大麻から抽出されるTHCは植物性カンナビノイドであり、大麻取締法の規制対象になっている。しかし、人工的に合成されたTHCは、その由来からして合成カンナビノイドとも呼ぶことができ、同じ物質であるのに麻薬及び向精神薬取締法の規制対象になっている。





CE2019/02/24 JST 作成
CE2025/06/24 JST 最終更新
蛭川立

*1:なお中国語でも「迷幻薬」という訳語が使われることが多いようである。しかし「翻譯的困難 - 藥物的分類術語」『蘑菇魂啟靈研究社 Psychedelics 心靈.顯現』においては、サイケデリックスとは幻覚とは正反対である、という正論が述べられている。

*2:この訳語の由来は正確には不明だが、京大医学部でLSDが研究されていたころにできた和訳のようである。(たとえば藤岡喜愛『イメージと人間』。)また、稲本志保(1994)「精神展開薬の宗教的使用と信教の自由」『学習院大学大学院法学研究科法学論集』にも「精神展開薬」の訳語が用いられている。

*3:この訳語の提唱者は、おそらく加藤清である。
武井秀夫・中牧弘允(編)(2002).『サイケデリックスと文化―臨床とフィールドから―』春秋社.

*4:

*5:なお中国語でも「迷幻薬」という訳語が使われることが多いようである。しかし「翻譯的困難 - 藥物的分類術語」『蘑菇魂啟靈研究社 Psychedelics 心靈.顯現』においては、サイケデリックスとは幻覚とは正反対である、という正論が述べられている。

*6:2021年に京都地裁で行われたDMT茶裁判では、弁護側証人の蛭川立と弁護人の喜久山弁護士は「psychedelics」の和訳として、ギリシア語の語源にまで遡って「精神展開薬」を使った。検察官は「幻覚剤」と訳すべきだと反論した。安永裁判長は「ま、psychedelicはサイケデリックということで」と仲裁した。

*7:翻譯的困難 - 藥物的分類術語」『蘑菇魂啟靈研究社 Psychedelics 心靈.顯現』(2021/05/29 JST 最終閲覧)

意識情報学研究所 研究会 2023〜2025年度

第32回 2023年10月24日
岩崎美香 明治大学情報コミュニケーション研究科
(博士修了)
ペルー・アマゾン地帯のアヤワスカ儀礼体験
ーサンタ・ローサ・デ・ディナマルカでの
シャーマンの儀式を中心に
第33回 2024年1月19日
張ヶ谷麻子 明治大学情報コミュニケーション研究科
修士課程)
チベット文化圏フィールドワーク報告
第34回 2024年3月7日
大門由衣 上智大学実践宗教研究科
修士課程)
臨死体験の質的分析
テキストマイニングとSCATを中心に
第35回 2024年4月13日
ザドフ・イタマル ハイファ大学アジア学研究科
(博士課程)
同志社大学社会学研究科
(研究員)
イスラエルと日本のサイケデリック文化史
第36回 2024年10月27日
蛭川立 明治大学情報コミュニケーション学部
(准教授)
国立精神・神経医療研究センター
(客員研究員)
サイケデリックス(精神展開薬)を使った
治療と心理療法の統合の可能性と必要性
第37回 2025年6月14日
青木蘭 東京大学人文社会系研究科文化資源学
(博士課程)
ペルーアマゾン調査報告
第38回 2025年7月5日
白鳥崇 明治大学情報コミュニケーション研究科
修士修了)
サイケデリクス使用実態オンライン調査
修論報告)

 
不定期の土曜日の13時00分〜15時00分(延長あり)に行います。明治大学駿河台校舎の会議室・教室を使用します。Zoomを使ったハイブリッド形式は検討中です。



CE2025/06/12 JST 作成
CE2023/06/20 JST 最終更新
蛭川立

【資料】草間彌生

精神科病院で人生を送ったという芸術家は枚挙にいとまがない。しかし、自らが入院する病院の斜向かいに、その病院よりも大きな、自らの名を冠した『草間彌生美術館』[*1]を建てたという、その象徴的な意味において、草間彌生は世界の病跡学においても特筆すべき鬼才というほかない。

yayoikusamamuseum.jp

1952年、松本で行われた初の個展で、草間彌生の才覚を見出したのは、東大医学部を出て信州大医学部の精神科の初代教授となった西丸四方である[*2]

hirukawa-archive.hatenablog.jp

西丸四方は、草間の病理について、統合失調症の非現実性と双極症の現実性の双方が創造性と経済性という形で融合したケースとして分析している。

草間の創造の泉源となっている幻覚も、統合失調症に典型的な、被害妄想をともなう幻聴ではなく、超越性を持ち色彩に富んだ幻視が主であり、西丸四方は、精神展開薬 psychedelics の作用との類似性に着目している。

草間は、絵画だけでなく、自身の体験に基づく、詩や小説、そして自伝的エッセイも多数、執筆しており、自身の体験を巧みに表現している。

hirukawa-archive.hatenablog.jp

彼女の入院生活は、1994年に出版された『蟻の精神病院』に、半フィクション形式で描かれている。

また、2012年のNHKスペシャル『水玉の女王 草間彌生の全力疾走』[*3]では、精神科病院内にカメラが入り、草間の入院生活がそのまま映し出されている。



CE2025/06/12 JST 作成
CE2023/06/12 JST 最終更新
蛭川立

記号=宮(signe)と布置=星座(Konstellation)

占星術天文学

科学は、反復される現象の中に法則性を見いだし、その法則を利用して未来を予測することができる。天文学は、そのもっともわかりやすい例のひとつである。太陽は朝になると東の空から昇り、夜が来る前に西の空に沈む。このことが毎日繰り返されることは、おそらく文字による記録が行われるはるか以前から認識されていたに違いない。そして、その繰り返しの法則によって、今日、西の空に沈んだ太陽が、明日にはまた東の空から昇ってくるであろうことを、容易に予測できる。これは、他の天文現象についても同様で、新月が半月かけて満月になり、また半月かけて新月としていったん姿を見せなくなっても、また翌日から満月に向けて満ちていくことを予測することができる。その後、天文学は着実に進歩を遂げ、太陽や月だけでなく、さまざまな天体の運動をきわめて正確に計算し予測できるようになっている。

占星術も、基本的にはこのような科学的思考に起源を持つ。天文学 astronomia と占星術 astrologia はもともと同じ因果性の原理にもとづいた方法論であり、厳密には区別されていなかった。一方、地上では、気温や降水量の変化もまた一年周期で繰り返される。潮の満ち引きは、月が満ち欠けするのと同じ、一ヶ月周期で繰り返される。天文学がもっぱら天体の運動の法則性を探究してきたのに対し、占星術は天上界を支配する法則と、地上界を支配する法則との対応関係を明らかにすることに、より熱心であったという違いはあるかもしれない。太陽と地球の位置関係に対応して、一年周期で気温が上下し、四季が巡ることを研究する分野を、現代では占星術とは言わないが、占星術は基本的にこのような法則性の探究の体系として発展してきたといっていい。占星術は中東世界や中華世界など、世界の各地で発展を遂げるが、それが関心を寄せたのは、季節の変化と同時に、むしろもっと人間的な現象、たとえば国家の運命や人間の心身の状態と天体の運行との相関関係であった。

それゆえ占星術は数千年の蓄積を持った統計学だといわれることがあるが、じっさいに統計学的方法論が育種学などの発展を背景に正確に整備されてきたのは、たかだがここ百年ばかりのことにすぎない。そして、占星術が発展させてきた法則とされる経験則の多くが反証され、現代に至っている。たとえば「生まれ星座」とパーソナリティとの関係という、現在もっともポピュラーに信じられている相関は、たとえばアイゼンクらによる統計的研究によってほほ否定されている。ただし、このことは占星術が非科学的な体系であったことを意味しない。むしろ逆で、明確な手続きによる反証可能性が保障されていることは、ある体系が科学と呼ばれるための、重要な必要条件のひとつだからである。

いわゆる十二星座占いは、二十世紀に入ってから一般的になったもので、それだけを占星術とみなすわけにはいかないが、それ以外の方法論でも、占星術天文学ほど大きな成功をおさめていない。それは失敗した科学、すなわち呪術にすぎないのだろうか。この問いに対する答えは、呪術というものの定義に依存する。

因果性と共時性

呪術は因果性の原理に基づいており、その論理構造自体は科学と同型である。つまり、占星術を因果性の原理においてとらえるかぎり、それは科学である天文学と、論理的な構造において変わることはない。しかし、フレイザーに代表される古典的な人類学が、因果的な思考のうち、その誤ったものを呪術、正しいものを科学と予め定義してしまったために、それを因果的な体系ととらえるかぎり、定義上、呪術である占星術はつねに間違っているということにならざるをえなくなってしまったのである。

しかし、因果性の原理にもとづいて統計的に均してしまうと埋没しまうのにもかかわらず、それでもある重要な瞬間に意味ありげな付合が起こる(ように思われる)ことがある。占星術師たちは、これを「占星術的瞬間 the momentof astrology」とも呼ぶ。それは、個別的な出来事であるがゆえに、あくまでも個人的な経験の文脈でしか語ることができない。

因果性の原理にもとづいて占星術のメカニズムを無理やり「科学的に」考えようとすると、たとえば惑星の重力が地球上の人間に影響を及ほしている、といった発想になりがちなのだが、月以外の天体の場合、物理学的にみてそのような可能性は低い。重力の到達距離は無限大とはいえ、土星のような遠距離にある小天体が、地球に住む人間の脳に影響を与えている可能性はきわめて低い。やはり占いが当たったように感じるのも、たんなる偶然か、さらにいうならば、一種の関係妄想なのだろうか。人は容易にコールド・リーディングバーナム効果の罠に嵌ってしまう。それは社会心理学が明らかにしてきたとおりである。

ethicとemic

たとえそうであったとしても、それは意味のある偶然であり、因果性ではなく、むしろ共時性シンクロニシティ)という視点からみれば、ある世界観 (コスモロジー)の枠組みが用意されるとき、その内部におけるイーミック emic な意味体系の中で、天体の配置と人間の配置との間に、非因果的な「照応 correspondence 」が起こる瞬間がある、と解釈できる。つまり、これはユング心理学的な問題であると同時に、記号論的、構造人類学的なコスモロジーの問題としても捉えなおされなければならない。


西洋の星座と中国の星座[*1]

たとえば、天球を分節する星座は文化によって異なる。それは、たとえば、ヨーロッパにおける星座と、漢民族における星座が異なることをみれば明らかである。漢族社会では北斗七星を「柄杓」と見なしてきたが、ヨーロッパでは同じ北斗七星と周囲の星も含めて「大熊」と見なすらしい。

戦争の象徴は火星か金星か

金星はヨーロッパにおいては平和と結びつくシンボルであり、戦いと結びつくのは火星である。しかし、古代のマヤ文化においては、金星が戦いの象徴であった。天文学暦法に執拗ともいえるほどの情熱を傾けたのが、インドに先駆けてゼロ記号と位取り表記を発明した古代マヤ文化だった。ユカタン半島北部の都市メリダから、内陸に向かって平らなサバンナの中のまっすぐな一本道をひたすら走り続けたところに、古代マヤの代表的な遺跡のひとつであるチチェン・イッツアがある。西暦五世紀から十二世紀にわたる期間、繁栄と衰退とを繰り返した都市の遺跡である。

チチェン・イッツァには、日本語では「天文台」と呼ばれるドーム状の建造物がある。もちろん中に望遠鏡が入っていたわけではない。建物は半壊しているが、おそらく中央の観測室から東西南北の四方向に水平な穴が開けられていて、そこから春分秋分の太陽を観察していたらしい。それだけなら、古代の人々は季節の運行を正確に知ることによって農業などの実用的な目的に役立てていた、という、一見わかりやすい解釈で説明できる。

しかし一方で「天文台」では、金星などの惑星の運行も正確に観測されていたらしい。また、古代マヤでは365(=20×(20-2)+5)日周期で循環するハアブ暦(世俗暦)以外に、260(=20×13)日で一巡するツォルキン暦(神聖暦)という、純粋に数学的な暦も併用されていた。そして、この世俗的な時間のサイクルと神聖な時間のサイクルは、(365×13×4)日=18980日=(260×73)日=52年という不思議な等式によって結び付けられていた。彼らはつねに数学的な構造によって世俗的な時間と神話的な時間をつなげていたかったのだ。断片的に残されている文献には、世界はこのサイクルのさらに100倍、つまり1898000(=365×20×20×13)日=5200年(約5125年という別の計算もある)で破壊と再創造を繰り返しており、現代は「四番目の太陽」の世界であり、その始まりの時代に、三番目の太陽の末裔である双子の兄弟が地下の王と怪物たちを滅ぼし、天に昇って新しい太陽と月になったという神話が書き記されている。

構造主義神話論理

星と星座は、構造主義的な記号が満たすべき分節恣意性と対応恣意性の二つの要件を満たしている。

そもそもサイン(シーニュ)とは「宮」であり「記号」という意味でもある。コンステレーションとは「星座」であり「布置」という意味でもある。レヴィニストロースによる神話の構造分析から表現を借りるなら、星座(コンステレーション)の中で人間が動いているのではなく、人間の中で布置(コンステレーション)が一当人にも意識されずに一動いている、と考えることはできないだろうか。

現代の人類学は、もはや呪術的思考を、前科学的な、誤った因果論とは考えない。たとえどのような立場に立とうとも、占星術をはじめとする呪術的思考(あるいは「野生の思考」は、文化がいくら「進歩」しても、19世紀の社会進化論者が予想したような形では衰退していない。近代化に伴って生じたのは、占星術の衰退ではなく、その扱う対象が、天下国家のような、外的な社会現象から、個人の生の意味といった、より内的な心理現象への移行である。

かつて、俗なる人間と関連する聖なる象徴は、人間の外部、なかんずく天界に投影される傾向が強かった。漢民族の陰陽五行説がその代表例であるとおり、たまたま太陽系の地球から見える天体は、コスモロジーの象徴としての条件をよく満たしている。太陽と月は、男と女などの象徴的二論と親和性が高いが、その見かけ上の大きさがほぼ完全に同じなのは、天文学では説明不能な、意味ありげな偶然の一致である。肉眼で容易に観測できる惑星の数である5が指の本数に等しいのもまた同様である。

しかし、社会の近代化に伴って、神話的因果論の内面化が進む。意識的な自我が確立するに従って、その影の部分として無意識という領域が、あらためて「発見」されることになる。通常の因果性では説明不能な現象の原因を、天上の星界から、無意識という、内部にある外部世界に求めようとする傾向が強まる。社会の「心理学化」である。

ただし、ここまでの議論は、すでに歴史社会学等で論じ尽くされていることであり、いわゆる現代思想のオーソドックスな見解でもあるが、しかし、それでは依然として、共時的な、意味のある無然を説明することが難しい。社会が心理学化した一方で、哲学から分した心理学の主流は物理学をモデルとした科学としてその体系を確立させようとしたあまりに、そのしわ寄せとして超心理学のような自己矛盾をはみ出させてしまうことになってしまった。その矛盾は、今なお解決していない。

そこで我々は、ふたたび内宇宙と外字面、ミクロコスモスとマクロコスモスの「照応」という、神秘主義的な概念に立ち戻らざるをえなくなる。言い換えれば、心/物、内部/外部という表面的な分節の背後に、イデア界のような、世界を成り立たせているより根源的な領域について再考せざるをえなくなるのである。そのような状況の中で、占星術は、呪術的・神話的な思考を共時性という概念で捉え直そうとするとき、非常に有益な示唆をもたらしてくれる。なぜなら、それはまさに「シーニュ(宮)」と「コンステレーション(星座)」の体系だからである。

「精神展開剤の現在と未来」シンポジウムの報告

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

この記事は特定の薬剤や治療法の効能を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の適法性については、当該国または地域の法令を考慮してください。

シロシビン体験報告(2024年9月17日・慶應医学部)

hirukawa.hateblo.jp
承前。2024年9月に慶應大学医学部でオレゴン州のシロシビン療法体験について話題提供を行った。


普段のブログの記事にSNSYouTubeを貼り付けたものをそのまま投影しながら発表し、議論を行ったのだが、ネットに親和性が高い、若い人たちにはユニークな試みだと評判が良かった。

「精神展開剤の現在と未来」(2025年5月24日)

(続く)



記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしていますが、遺伝情報のような冗長性がハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。「」で囲まれたリンクはこのブログの別記事へのリンクです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

  • CE2025/05/17 JST 作成
  • CE2025/05/30 JST 最終更新

蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

「問題分析ゼミナール・問題解決ゼミナール」西暦2025年度

春学期

日程 分析ゼミ 解決ゼミ
04/07 (休講) (休講)
04/14 (ガイダンス) (ガイダンス)
04/21 (寶野:タバコの歴史) (休講)
04/28 旭:中南米の先住民文化 石原:タイの伝統文化
05/05 (休講) (休講)
05/12 周:変性意識状態 松澤:音楽について
05/19 井村:現代のサイケデリック 植野:仏教思想の基礎(1)
05/26 堀田澤:沖縄とアイヌ比較文化 石原:バリ島の伝統文化
06/02 松澤:音楽について
06/09
06/16
06/23
06/30
07/07 旭:中南米の先住民文化
07/14 周:変性意識について (未定)
07/21 堀田澤:沖縄とアイヌの文化 (未定)

秋学期

(作成中)


  • CE 2025/04/16 JST 作成
  • CE 2025/07/07 JST 最終更新

蛭川立