「人類学B」2021/09/28 講義ノート

今週は、地質年代を下りながら、人類へとつながる系統樹を、ひたすら追っていきます。毎週のスケジュールは「人類学B、2021年度」のページに書きました。毎週毎週、すこしずつ書き足しながら書き換えています。本当は半期ぶんの全部の資料はあるのですが、去年のものをただ使い回すのではなく、書き直してからリンクを張ります。

予習復習は大いに結構ですが、今週は、だいたい「サル目(霊長類)の系統分類」と、「化石人類の進化史」のあたりです。それから、その手前に「脊椎動物の進化」という資料も加えておきました。

大脳化、脳が大きくなったという進化史は、また別の話なので、来週ぐらいに議論しましょう。それから来週はアフリカで誕生したホモ・サピエンスが何万年もかけて世界中に広がっていった。それから日本列島まで来た、というところまで進めます。

毎週のディスカッションの結果も資料にフィードバックしています。前の授業で気候変動、温暖化や寒冷化と人類進化の関係についてだいぶ議論があったので、そういう部分も書き加えました。

同じような系統樹の図ばかり見ていても、ちょっと面白くないかもしれません。本当はサルの生態など、DVDがあって、いつもは教室で上映しているのですが、このブログ形式の授業だとそれができません。また教室での講義ができるようになったら、上映しようと思います。

サル目(霊長類)の系統分類」のページの下のほうにも写真と動画へのリンクを張っておきましたが、興味があれば動画など見てください。愛知県犬山市にある、モンキーセンターはお勧めです。じっさいに行くと、世界中のサルたちがいます。ただ昨今は感染症対策も大変ですが、さしあたりは「日本モンキーセンターおうちどうぶつえん」などもご覧ください。

ところで地質年代なども、あるていどの基礎教養としては、知っておいてください。だいたい「紀」あたりを知っておいてください。試験には出しませんが。「今は?」と聞かれたら「新生代第四紀」、「だいしき」と発音したり「だいよんき」と発音したりするんですが、まあそれはさておき、あるいは「ジュラ紀」とか「白亜紀」と言われたら、はあ、それは「中生代」だな、とか、恐竜が栄えた時代だなとか、恐竜は中生代の終わりに絶滅したんだなと、それぐらいは知っておくとよいでしょう。歴史の勉強で、「中世」には鎌倉時代室町時代があって、武士が台頭した時代だな、といった知識があると便利なのと同じようなものです。

それから遺伝と進化のメカニズムのほうですね。遺伝子とかDNAとかRNAとか、突然変異とか自然選択とか自然淘汰とか、そういった基礎知識も、あるていどは持っておいてほしいのですが、知っている人は知っているでしょうし、知らない人はあんがい知らないかもしれません。これは高校までの理科で生物をどれぐらい勉強したかにもよっても違いますが、じょじょに説明していきます。掲示板授業なので、わからないことがあれば質問してください。

遺伝子は親から子へ、子から孫へと受け継がれていきます。長い長い進化の歴史も、子供を産むという出来事の繰り返しであるわけです。母親の卵子と父親の精子に遺伝子DNAが入っていて、それが授精してDNAが合わさって子供のゲノムができる、そういう身近な出来事の連鎖です。

もうちょっと応用編として、時事的な話題もとりあげますと、いま、ワクチンの集団接種が進んでいますね。アメリカのファイザーやモデルナが開発したワクチンが主流です。mRNAワクチンという最先端の技術です。mRNAって何?とか、変異株には効かないかもしれない?とか、そういうことが話題になっています。

こんな最先端のワクチンを全人類に接種しようという人類史上初の試みです。短期的には予防効果は抜群のようですが、将来的に未知の副作用が出てくるかどうか、それもよくわかりません。ただし、RNAとか変異とかいうことを知っておくと、ニュースも理解しやすくなりますし、怪しげな情報にも冷静に対応できます。

私も2回接種して、中和抗体ができてきたところです。私の個人のブログのほうに「抗体検査からワクチンへ」という体験記を書きました。検査キットを買ってきて何回も試してみたというマニアックな記事です。授業とは関係ないので興味がない人は読まなくても結構です。

そもそも今回の新型コロナウイルス、これは正式名称ではSARS-Co-V-2というのですが、これは一本鎖RNA型ウイルスなので、二本鎖のDNAよりもずっと簡単に変異してしまう。でも変異はいろいろ起こるので、より症状が重い方向ばかりに変異するとは限りません。非常に感染力が強くてほとんど無症状な変異が一気に広がると、ふつうの風邪になって終わってしまうかもしれません。最終的にはそうなるかもしれません。ただそれは今年起こることなのか、何十年後に起こることなのか、これはわかりません。

ワクチンを打つと人間のDNAが書き換えられてしまう?遺伝子が組み換えられてしまう?といった話もありますが、SARS関連コロナウイルスも、それを真似して作られたワクチンも、mRNAのようなものなので、逆にDNAに組み込まれてしまうということはありません。ただ、同じ一本鎖RNAウイルスでも、レトロウイルスというものがありまして、たとえばAIDSを引き起こすHIVウイルスなどがありますが、これはウイルスが自分のRNAを逆転写してDNAを合成して、宿主のDNAに入り込んで遺伝情報を書き換えてしまうことがあります。

ウイルスというのはべつに人間を殺そうという意図を持った生き物だというわけではなくて、むしろ遺伝情報の一部が体の外に飛び出したものだといえます。つまりウイルスが感染するというのは、人間からまた別の人間へと遺伝情報が移動しているのだともいえます。じつはまったく無害でまったく病気を起こさない、だから誰も気づかないウイルスが日々大量に行き交っているのですが、病気を起こさないので誰も研究しないんですね。だから実態もよくわかっていません。

SARS関連コロナウイルスはもともとコウモリから来て、ハクビシンラクダなど、人間以外のいろいろな動物の間も行き来しています。遺伝子というのは、親から子へ、だけではなく、ウイルスという形で、親子だけでなく、たくさんの人間の間、いろいろな種類の動物の間も行き来してしまう、ひょっとしたら何万年か先に、人類の手が急に翼に変化して、空を飛べるようになるかもしれません。

こういうメカニズムで生物の進化が起こる可能性については、最近、だいぶ研究が進んできたようですが、驚くべき発見です。詳しいことは「ウイルス進化論」という記事に走り書きをしました。人類学の話題からはちょっと逸れますが、興味があれば読んでみてください。日本人の起源の解明にも関係しているということは、また来週ぐらいに扱います。

余談が長くなってしまい、しかもかなり専門用語が出てきてしまいましたが、遺伝学の用語ですね、よくわからなければ、なんとなくわかるような、わからないような、という程度に、聞き流してください。DNAや遺伝子や変異や進化のことなども、これから3週間ぐらいかけて、必要におうじて、行きつ戻りつしながら説明していきます。



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CE2021/09/26 JST 作成
CE2021/09/28 JST 最終更新
蛭川立