「人類学B」 概要 西暦2023年度

Anthropology B

この記事は公式シラバスと同じ内容である。毎週の講義の進行日程については「『人類学B』 講義計画 西暦2023年度」を参照のこと。

授業の概要

人間は、解剖学的構造や生理学的機能において他の動物と変わるところはない。しかし人間は、文化を持つ動物である。

群れを作り生殖を行うという動物的な行為を、親族や婚姻といった象徴的な観念によって改めて意味づけし、そして、ときにその観念のほうに束縛される。とりわけ、芸術や宗教などの精神文化は人間に特異なものである。人間だけが歌い、踊り、描き、そして祈る。それは動物的本能からの解放であると同時に、生物としての生存を否定する力にもなりうる。

40億年におよぶ生命史の中で、なぜ人間だけが他の動物とは異なる存在になったのか。その違いはどこから始まったのか。人類学の授業では、人類の進化的な起源をたどる一方で(おもに人類学Bで扱う)、人類の文化を脳の構造や機能という観点からも考察する(おもに人類学Aで扱う)。

人類学Bでは、まず生物と人類の進化史を振り返る。遺伝子の進化、有性生殖の仕組みから、現代の遺伝子解析や生殖技術についても議論する。

また、人間が文化を持つようになり、象徴的コスモロジーによって社会をいかに秩序づけようとしてきたのか、親族と婚姻、儀礼と神話、政治と経済の起源と発展の歴史も考察する。

人類学は「人間」を研究する学問であるが、対象としている「人間」の範囲が他分野より広い。世界各地の少数民族や、遺跡や化石にしか痕跡をとどめていない過去の人々、あるいは近縁の霊長類までも視野に入れる。人類学は自然科学に属する自然人類学と、人文科学・社会科学に属する文化人類学社会人類学に分けられるが、この授業は、学際的な学部の講義である。自然人類学を基盤にしつつ、文化人類学社会人類学の視点も取り入れながら、「人間」総合的にとらえていきたい。
 
なお、現代のグローバル化する社会では、開発と貧困、民族問題と宗教紛争などを扱う応用人類学の重要性が増しつつあるが、それらは、より社会科学的な内容を扱う、別の講義で併せて学ぶことをお薦めする。

対象としている人間集団の範囲が広いため、あまり馴染みのない地域や時代も取り上げるが、講義で扱うのは、おもに蛭川が実際に訪れたことがある社会や遺跡である。自ら撮影した写真や動画も使い、視覚的、聴覚的イメージも交えながら講義を進めていく。

到達目標

1.人間やその社会を,自然科学と,人文・社会科学の両面から総合的に理解できるようになる。

2.人間やその社会を,他の動物とも比較しながら,進化論的に理解できるようになる。

授業内容

第1回:人類学とは何か?(全体の展望)
第2回:宇宙の進化と生物の進化
第3回:有性生殖と動物の配偶システム
第4回:人類の起源と社会構造の進化
第5回:現生人類の拡散と日本列島民の起源
第6回:親族と婚姻(ブータン雲南、古代日本)
第7回:交換の経済人類学(ミクロネシア
第8回:遺伝子解析と生殖技術
第9回:遺伝子と文化の共進化
第10回:養生と統治の象徴論(古代漢民族
第11回:儀礼コスモロジー(1)(インドネシア・バリ島)
第12回:儀礼コスモロジー(2)(インドネシア・バリ島)
第13回:神話と科学(古代ギリシア、西欧近代)
第14回:人間社会の未来(全体のまとめ)

履修上の注意

高校理科ていどの生物学を知っておくと自然人類学の理解は容易になるが,それ以上に特別な予備知識は必要ない。逆に,文化人類学社会人類学を学ぶためには,身近な社会常識をいったん忘れて,客観的な視点を持つことのほうが重要である。

春学期の人類学Aと秋学期の人類学Bは,内容に重複もあるが,独立の科目である。人類学Aと人類学Bは単独でも受講できる。

授業準備

実際の授業内容は,このシラバスに書かれた計画とは多少変更になるかもしれないが,最新の進行状況はリアルタイムで「蛭川研究室」のブログにアップし,更新していくので,随時チェックすることをお勧めする。

講義の予定表からは授業内容の概要にリンクが張ってあるので,大まかな予習・復習をすることができる。それぞれのページには質問やコメントを書き込むこともできる。ページのURLは科目ごとに異なるが「蛭川」「人類学」「2023」などと入力して検索すれば容易に見つかる。

教科書

特に定めない。

参考書

『彼岸の時間-〈意識〉の人類学-』蛭川立(春秋社)2002年(新装版は2009年)

成績評価

期末試験(100%)


  • CE2022/12/17 JST 作成
  • CE2023/02/05 JST 最終更新

蛭川立