蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「人類学B」2022/01/11 CE 講義ノート

来週が最終回で、今回は最後から二回目です。まずは、前回の授業のノートを貼り付けておきます。

hirukawa.hateblo.jp

入れ子が二重になってしまいましたが、前々回、前回と、あまりコメントが出てきませんでしたし、前回以前の授業を振り返りましょう。

掲示板方式の授業も目新しさがなくなってしまったかな、そろそろ教室に戻そうかなと思っていましたが、この授業は最後まで掲示板方式で続けます。それから、教室での試験は行わず、期末レポートを書いてもらいます。問題は事前にこのブログ上で公表します。

去年以前の問題もアップされていますが、ここ数年は、だいたい同じ方式です。授業では、簡単に答えの出ない難しい問題をいくつか扱ってきました。そういう、簡単に答えが出せない問題について論じてもらうという方式を続けています。毎年、良い考察がたくさん出てきます。受講者が多すぎて一人ひとりにコメントを返す余裕がないのが残念なところですが、授業時間中には余裕がありますから、掲示板で議論をしましょう。

さて途上国とか未開社会とかいうと、貧しくて生活が大変、というイメージがあるのですが、南太平洋の島々や、アマゾンの先住民族の人たちは、あんがいのんびりしています。気温が高くて雨も多い場所であれば、食べていくのには困らないのです。このあたりのことは、リンク先の記事に書きました。

貧困は、むしろ文明化、都市化によって起こるという側面があって、たとえば自動車やスマホのある生活を受け入れると、それを買うために現金が必要になり、現金を稼ぐために余分に働く必要が出てくる、といったメカニズムがあります。

原始的な生活ですと、充分な医療が受けられないという問題もあります。ヒトの自然状態での平均寿命は四十歳ぐらいです。病気だけでなく、乳幼児や高齢者の死亡率が高いことが大きな原因です。ところが都市化の問題もあって、都市は人口密度が高くなります。ゴミや排泄物などが自然に分解される許容量を超えると衛生状態が悪化し、人間が密になると感染症が流行しやすい、といった問題も生じます。

もちろん、文明が進歩して便利になることはいいことです。ネットやAIが進歩すれば、今まで人間がやっていた肉体労働や単純作業を、機械がやってくれるようになります。しかし、そこでまた、AIに仕事を奪われて失業してしまう、という問題が出てきます。

南太平洋の小さな島々や、アマゾンの森の先住民族の生活を知ることで、現代の、そして未来の生活のあり方を考えるヒントにもなると、こういう視点が人類学の興味深いところでもあります。

そして、来週の最終回に向けて、今までの授業をまとめていきたいのですが、では人間は、栄養のあるものをしっかり食べて健康で長生きすれば幸福かというと、それだけではない、というのが人類学のテーマでもあります。

何百万年かかけて脳が大きくなり、人類は進化してきたのですが、ただ社会を発展させ、技術を発展させ、繁栄してきたのかというと、それだけではありません。芸術や宗教など、動物としての生存には必要がなさそうなものも必要とする、それが人間の特徴です。

ミクロネシアの石貨のお話もしましたが、貨幣というのも、実態のない象徴です。物欲と金銭欲は違います。お金をたくさん稼いで銀行にお金がたくさん預けてあっても、それ自体は生存の役には立たないからです。貨幣は呪物なのですが、拝金主義も宗教の一種です。豊かな生活のためにお金を稼いでいるうちに、お金に意味を感じすぎて振り回されたり、してしまいがちです。なにか、物質から離れた記号や象徴に意味を見いだす、これが人間のユニークさでもありますし、人間の生きづらさや社会の問題の原因にもなります。