「人類学B」講義計画

この記事は書きかけです。

総合科学としての人類学

学部の1・2年生向けの講義は「人類学A」と「人類学B」である。春学期の「人類学A」と秋学期の「人類学B」は独立の科目だが、人類学は文理融合の総合科学であるという主張は「人類学の科学史的位置づけ」に書いたとおりだが、二つの授業は、いずれも自然人類学の話から始めて、社会人類学文化人類学へと発展させていくという構造は続けたい。

「人類学A」は自然科学的な基礎知識として、脳神経科学を概観し、神経伝達物質、精神活性物質、そして芸術や宗教などの精神文化を論じたい。

「人類学B」は自然科学的な基礎知識として、遺伝学・進化論を概観し、配偶システム、親族と婚姻、社会人類学、経済人類学等々を論じたい。自然科学から人文・社会科学への境界領域としては、個人遺伝子解析や生殖技術、優生学論争、社会生物学論争などを中心に取りあげたい。

講義の概要

自然人類学的な背景として、まず生命の起源と進化、人類の起源と進化、現生人類の拡散、日本人の起源論を順に追っていく。これで講義3回ぶんぐらいになる。

また、現代的な問題として、個人向け遺伝子解析や認知機能とパーソナリティの小進化(と、それをめぐる生命倫理)も論じたい。これで講義2回ぶんぐらいになる。

人類遺伝学を論じるにあたっては、DNAからタンパク質へという遺伝学の基礎知識が必要だが、これはRNAウイルスやウイルスと宿主の共進化という現在進行形のトピックとも関係する。これで講義1回ぶん、追加である。

新型コロナウイルス、COVID-19の世界的流行は、特定のウイルスが変異しながら「進化」していくプロセスを人類的規模で精密に追跡した、人類初の小進化の研究でもあった。新型コロナウイルスの世界的流行自体が史上初なのではなく、それを細かく追ったのが史上初だったといえる。その背景には、PCR法やmRNAワクチンのような新技術の発展があり、また少数の人命を守るためには社会全体が活動を制限するという社会のあり方の変化でもあった。これはまた、性権力の社会学のテーマでもある。

有性生殖や配偶行動の進化生態学については『性・死・快楽の起源』に書かれたものを書き直したものをブログ教材として使用する。類人猿と化石人類の配偶システムの進化についても論じたい。ここにもまたセクシュアリティをめぐる倫理的な議論が必要になる。これで講義2回ぶんぐらいになるだろうか。

2003年に中国の雲南省モソ人の婚姻制度と社会構造について調査している最中に旧型コロナウイルスSARSの流行に巻き込まれたのは貴重な経験だったが、かんじんの婚姻体系の議論が途中で止まってしまっていた。雲南少数民族の社会は古代の日本社会と共通のルーツを持っており、歌を読み交わして妻問い婚を行う文化が日本の奈良時代平安時代の文化とよく似ていること、また中国のマルクス主義フーリエの社会思想の関係など、研究が途中で止まったままだった。

講義で扱う地域については、以下に列挙するとおり。

  • ミクロネシア、ヤップ島(1回)
  • インドネシアのジャワ島・バリ島(2回)
    • 象徴的二元論によって構成される文化
  • 中国の少数民族、ナシ族・モソ人(2回)
    • 走婚と送魂(通い婚から情死へ)と日本古代文化との類似性
  • 中国の漢民族(1回)
    • 中医学の象徴論
    • 近現代文明における象徴的二元論

講義の進行

宇宙誕生と生命の進化
遺伝と進化
遺伝と生殖
霊長類の進化
類人猿の進化
化石人類の進化
現生人類の拡散
日本列島民の系統
親族と婚姻
有性生殖と配偶システム
走婚ー雲南モソ人と古代日本人の別居通い婚ー]」
交換としての婚姻(オーストラリア先住民)
呪物としての貨幣(ミクロネシア
記号・時間・暦法(中米先住民,ヨーロッパ)
象徴的分類(インドネシア漢民族
芸術の起源(ヨーロッパ,縄文文化
縄文文化の超自然観
第11回 原始美術と現代美術(オーストラリア先住民)
第12回 憑依から舞踊へ(インドネシア
第13回 数学・音楽・天文学(古代〜近代ヨーロッパ)
第14回 近代科学と民族科学(全体のまとめ)



記述の自己評価 ★★★☆☆

  • CE2022/04/08 JST 作成
  • CE2022/08/14 JST 最終更新

蛭川立