「人類学B」講義計画 西暦2023年度

この記事は常に書きかけです。

西暦2023年度に開講される人類学Bの公式シラバスについては「『人類学B』西暦2023年度 概要」を参照されたい。重複するようだが、こちらのページでは毎週のじっさいの講義計画をリアルタイムで更新していく。授業はライブであり、シラバスどおりには進まない。受講生からのフィードバックや時事的な話題なども考慮しながら進めていく。

文理の学際領域としての人類学

学部の1・2年生向けの講義は「人類学A」と「人類学B」である。春学期の「人類学A」と秋学期の「人類学B」は独立の科目だが、人類学は文理融合の総合科学であるという主張は「人類学の科学史的位置づけ」に書いたとおりだが、二つの授業は、いずれも自然人類学の話から始めて、社会人類学文化人類学へと発展させていくという構造は続けたい。

「人類学B」は自然科学的な基礎知識として、遺伝学・進化論を概観し、配偶システム、親族と婚姻、社会人類学、経済人類学等々を論じたい。自然科学から人文・社会科学への境界領域としては、個人遺伝子解析や生殖技術、優生学論争、社会生物学論争などを中心に取りあげたい。

講義の概要

自然人類学的な背景として、まず生命の起源と進化、人類の起源と進化、現生人類の拡散、日本人の起源論を順に追っていく。これで講義3回ぶんぐらいになる。

また、現代的な問題として、個人向け遺伝子解析や認知機能とパーソナリティの小進化(と、それをめぐる生命倫理)も論じたい。これで講義2回ぶんぐらいになる。

人類遺伝学を論じるにあたっては、DNAからタンパク質へという遺伝学の基礎知識が必要だが、これはRNAウイルスやウイルスと宿主の共進化という現在進行形のトピックとも関係する。これで講義1回ぶん、追加である。

新型コロナウイルス、COVID-19の世界的流行は、特定のウイルスが変異しながら「進化」していくプロセスを人類的規模で精密に追跡した、人類初の小進化の研究でもあった。新型コロナウイルスの世界的流行自体が史上初なのではなく、それを細かく追ったのが史上初だったといえる。その背景には、PCR法やmRNAワクチンのような新技術の発展があり、また少数の人命を守るためには社会全体が活動を制限するという社会のあり方の変化でもあった。これはまた、性権力の社会学のテーマでもある。

有性生殖や配偶行動の進化生態学については『性・死・快楽の起源』に書かれたものを書き直したものをブログ教材として使用する。類人猿と化石人類の配偶システムの進化についても論じたい。ここにもまたセクシュアリティをめぐる倫理的な議論が必要になる。これで講義2回ぶんぐらいになるだろうか。

2003年に中国の雲南省モソ人の婚姻制度と社会構造について調査している最中に旧型コロナウイルスSARSの流行に巻き込まれたのは貴重な経験だったが、かんじんの婚姻体系の議論が途中で止まってしまっていた。雲南少数民族の社会は古代の日本社会と共通のルーツを持っており、歌を読み交わして妻問い婚を行う文化が日本の奈良時代平安時代の文化とよく似ていること、また中国のマルクス主義フーリエの社会思想の関係など、研究が途中で止まったままだった。

講義の進行

09/21 人類学とは何か
人類学の科学史的位置づけ
暦法コスモロジーと文化相対主義−」
09/28 宇宙の進化と生命の進化
宇宙論的空間と進化論的時間
生物の系統と進化
10/05 有性生殖と配偶システム
  「遺伝と生殖」
10/12 人類の起源と進化
脊椎動物の進化
サル目の系統進化
ヒト上科の社会構造
人類の進化と大脳化
10/19 現生人類の拡散
日本列島民の系統
ウイルスと人類の共進化
10/26 チベット文化圏
単婚と複婚
出自の規則
走婚ー雲南モソ人の別居通い婚ー
送魂ー雲南ナシ族・モソ人の葬送儀礼
ブータンの母系社会」
11/02 (休講)
11/09 中国(漢民族
陰陽五行の世界観
神話の実体化ー丙午現象
呪薬の論理
11/16 遺伝子解析と優生学
個人向け遺伝子解析
11/23 (休講)
11/30 遺伝子と文化の共進化
認知機能・パーソナリティの小進化
人種・民族・文化
12/07 ミクロネシア
ヤップ島の親族構造と呪物としての貨幣
神話の構造(オーストロネシアと古代日本)
南太平洋のカヴァ文化
12/14 インドネシア・バリ島
バリ島民の象徴的世界観
12/21 「バリ島民の儀礼と芸術」
12/28 (休講)
01/04 (休講)
01/11 現代社会における象徴的コスモロジー
01/18 ヨーロッパ
「〈神話〉から〈科学〉へ」
01/25 (期末試験)



記述の自己評価 ★★★☆☆

  • CE2022/04/08 JST 作成
  • CE2023/02/08JST 最終更新

蛭川立