蛭川研究室

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サイケデリックスを含有する植物

この記事は書きかけです

ほとんどのサイケデリックスは、世界各地の先住民社会において、治療儀礼の中で用いられてきた植物に含まれている。人工化合物も、それらと構造が似ている。 サイケデリックスの多くは世界各地の先住民社会において、治療儀礼の中で用いられてきた植物に含まれており、人工化合物も、それらと構造が似ている。

西アフリカ熱帯では、ibogaineを含むTabernante igoga(イボガ)が使用されてきたが、それ以外のサイケデリック植物の使用は中南米に集中している。

psiloscybinを含有するPsilocybe spp.(シビレタケ属)などの菌類は、世界中に広く自生しているが、治療儀礼に使われてきたのはメソアメリカの先住民文化においてである。

同じくメソアメリカで使用されてきたヒルガオ科のTurbina corymbosaの有効成分はLSA(リセルグ酸アミド)であり、人工化合物であるLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)と類似した分子構造を持つ。

南米のアマゾン川オリノコ川流域では、DMT(N, N-dimethyltriptamine)、5-MeO-DMT(5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine)、bufotenin(5-HO-DMT)を含む多数の植物が使用されてきた。とくにマメ科Anandera spp. Mimosa spp.(ミモザ属)、Acacia spp.(アカシア属)、ニクズク科のVirola spp. が喫煙に用いられてきた。

アマゾン川上流域では、DMTを含むPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどのモノアミン酸化酵素A阻害薬(MAOIA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)が「アヤワスカ」という茶にして服用されてきた。アヤワスカと同様にDMTとMAOIを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

以上の物質はすべてセロトニンと構造が類似したインドールアルカロイドである。しかし、サボテン科のLophophora williamsi(ペヨーテ)はメソアメリカ北部で、Echinopsis pachanoi(サン・ペドロ)はアンデス北部で使用されてきたが、いずれもmescalineやMDPEA(3,4-メチレンジオキシフェネチルアミン)などのフェネチルアミン誘導体を含む。人工化合物であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)はMDPEAと類似した分子構造を持つ。

MDMAやMDPEAなどの作用は、サイケデリックスと精神刺激薬の両方の作用を示し、おそらくはオキシトシンを介して共感作用を示すことから、entactgen(共感薬)と呼ばれることもある。

以上の物質は、major psychedelics、classical psychedelicsと呼ばれる。それに対して、類似した作用を持つ物質は、minor psychedelicsと呼ばれることもある。

麻酔薬であるPCP、katamine、DXM、亜酸化窒素もサイケデリックスと類似した精神作用を示す。

カンナビノイド受容体作動薬にはアサ科のCannabis spp.(アサ属)やTrema orientalisウラジロエノキ属)などに含まれるカンナビノイドがある。また南太平洋で用いられてきたカヴァPiper methysticum(カヴァ)に含まれるカヴァラクトンは、カンナビノイド受容体作動薬であると同時にGABA受容体作動薬でもあり、抗不安作用や催眠作用がある。

また、せん妄誘発剤(deliriants)は、ナス科のDatura spp.(チョウセンアサガオ)やAtropa beladonnaベラドンナ)などの植物に含まれる。

サイケデリックスの一覧表
インドールアルカロイド
LSA(リセルグ酸アミド) ヒルガオ
バッカクキン
LSD(リセルグ酸ジエチルアミド) (合成化合物)
DMT、NMT
5-MeO-DMT
5-HO-DMT(ブフォテニン)
多数の動植物
(ヒトの体内にも存在)
シロシン(4-HO-DMT)
シロシビン
シビレタケなど
イボガイン イボガ
フェネチルアミン誘導体
2C-B (合成化合物)
メスカリン
MMDPEA(ロフォフィン)
ペヨーテ
サン・ペドロ
MDMA (合成化合物)
ミリスチシン ナツメグ
カンナビノイド受容体作動薬
カンナビノイドTHC、CBDなど) アサ
ウラジロエノキ
アナンダミド(AEA) 黒トリュフ
(ヒトの体内にも存在)
カヴァラクトン カヴァ
メセンブリン カンナ
解離性麻酔薬など
ケタミン (合成化合物)
PCP(フェンシクリジン) (合成化合物)
DXM(デキストロメトルファン (合成化合物)
亜酸化窒素(N2O) (合成化合物)
サルビノリン サルビア
GABA受容体作動薬
イボテン酸
ムッシモール
ベニテングタケ
テングタケ
トロパンアルカロイド
スコポラミン
ヒヨスチアミン
アトロピン
チョウセンアサガオ
ベラドンナ
ヒヨス
マンドレイク
キダチチョウセンアサガオ

イボガ

Tabernante igogaにはiboga(イボガ)が含まれている。

麻薬原料植物として国際的に統制されているのは、コカと大麻とケシである。日本だとシロシビン含有キノコも規制されている。逆にいえば、ほかの植物は規制されていない。

マイクロドース用として流行している薬草はイボガで、オランダなどではふつうに売られており、通販で取り寄せている日本人も多いと聞いた。

イボガの根にはイボガインやヨヒンビンなどのアルカロイドが含まれていて、根皮の粉末のイボガイン含有量は2〜7%ぐらいである[*1]

ブラジルではさらに包括的な調査が行われており、イボガの根の樹皮として販売されている製品のイボガイン含有量は0.6% 〜 11.2%であり、TA (トータルのアルカロイド)として販売されている製品では 8.2% 〜32.9%であり、HCl(塩酸イボガイン)として販売されている製品では61.5% 〜73.4%だったという[*2]

イボガインの通常の用量は15〜22mg/kg[*3]だという。体重70kgとして換算すると1.0〜1.5gとなる。さらにイボガの樹皮に5%のイボガインが含まれているとすると、これは樹皮の20〜30gに相当する。

www.ibogaworld.com IbogaWorldはオランダのアイントホーフェンにある

シロシビン含有キノコ

Psilocybe spp.(シビレタケ属)にはpsiloscybinが含まれている。ヒルガオ科のTurbina corymbosaの有効成分はLSA(リセルグ酸アミド)であり、人工化合物であるLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)と類似した分子構造を持つ。

DMT(N, N-dimethyltriptamine)、5-MeO-DMT(5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine)、bufotenin(5-HO-DMT)を含む多数の植物、とくにマメ科Anandera spp. Mimosa spp.(ミモザ属)、Acacia spp.(アカシア属)、ニクズク科のVirola spp. が喫煙に用いられてきた。

DMT植物

またDMTを含むPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどのモノアミン酸化酵素A阻害薬(MAOIA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)が「アヤワスカ」という茶にして服用されてきた。アヤワスカと同様にDMTとMAOIを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

以上の物質はすべてセロトニンと構造が類似したインドールアルカロイドである。しかし、サボテン科のLophophora williamsi(ペヨーテ)はメソアメリカ北部で、Echinopsis pachanoi(サン・ペドロ)はアンデス北部で使用されてきたが、いずれもmescalineやMDPEA(3,4-メチレンジオキシフェネチルアミン)などのフェネチルアミン誘導体を含む。人工化合物であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)はMDPEAと類似した分子構造を持つ。

MDMAやMDPEAなどの作用は、サイケデリックスと精神刺激薬の両方の作用を示し、おそらくはオキシトシンを介して共感作用を示すことから、entactgen(共感薬)と呼ばれることもある。

以上の物質は、major psychedelics、classical psychedelicsと呼ばれる。それに対して、類似した作用を持つ物質は、minor psychedelicsと呼ばれることもある。

麻酔薬であるPCP、katamine、DXM、亜酸化窒素もサイケデリックスと類似した精神作用を示す。

カンナビノイド受容体作動薬にはアサ科のCannabis spp.(アサ属)やTrema orientalisウラジロエノキ属)などに含まれるカンナビノイドがある。また南太平洋で用いられてきたカヴァPiper methysticum(カヴァ)に含まれるカヴァラクトンは、カンナビノイド受容体作動薬であると同時にGABA受容体作動薬でもあり、抗不安作用や催眠作用がある。

また、せん妄誘発剤(deliriants)は、ナス科のDatura spp.(チョウセンアサガオ)やAtropa beladonnaベラドンナ)などの植物に含まれる。

これらの薬草の文化的使用についてはいくつかの総説がある[*4][*5]

アヤワスカ

アヤワスカとは、アマゾン川流域の先住民族が服用してきた茶であり、DMTを含有するPsychotria viridis(チャクルーナ)と、その分解を防ぐharmine, harmarineなどの選択的モノアミン酸化酵素A阻害薬(RIMA)を含むBanisteriopsis caapiアヤワスカ)の二種類の植物を煎じて茶にしたものである。アヤワスカと同様にDMTとRIMAを組み合わせたものをアヤワスカ・アナログという。

イボガとイボガインはほぼ一対一対応である。それからアサとカンナビノイド、カヴァとカヴァラクトンもほぼ対応している。

メスカリンは中米のペヨーテとアンデスのサン・ペドロの二属のサボテンに含まれる。

シロシンとシロシビンは、ほぼシビレタケ属の菌類のみに含まれる。しかし、シビレタケ属のキノコは世界的に自生しているのに、儀礼的に使用されてきたのはメソアメリカに限定されている。

DMTは、アマゾン・オリノコ地域のチャクルーナやヨポに含まれ、儀礼的に使用されてきた。DMTは特異な物質であり、多くの動植物の体内で生合成され、神経伝達物質でもある。DMTはミカン科、マメ科(ヨポ、アカシア、ミモザヤマハギなど)、イネ科、アカネ科(チャクルーナ)、ナツメグ科(ヴィローラ)などの植物に含まれる。またヒキガエルの分泌液には5-MeO-DMTやブフォテニンが含まれる[*6]

LSDとMDMAは、合成サイケデリックスとしてもっとも研究され、流通してきた物質である。いずれも国際条約で規制されたが、アンダーグラウンドでは流通しつづけており、医療用としても再評価が進んでいる。また分子構造をすこし変えた合法物質も研究・流通している。(「LSDアナログ」を参照のこと。)

**伝統文化の中の精神展開薬

精神展開薬を含む薬草は世界各地の伝統文化で、呪術・宗教的な儀礼の中で用いられてきた。(「『茶』の文化的バリエーション」を参照のこと。)

サイケデリックスを含む薬草の使用は、とくに中南米の先住民文化に偏っている。

中米のアステカ文化を引き継いだマサテコ族は、テオナナカトル(シビレタケ)、オロリウキ(ヒルガオ科)、ピピルツィンツィン(サルビアの一種)を用いてきた。ペヨーテはウィチョール族などに引き継がれ、サン・ペドロは北部アンデスで使用されてきた。

アマゾン川上流域でアヤワスカの原料となるチャクルーナはもっぱらDMTを含有しているが、オリノコ川流域で喫煙されるヨポにはDMT、5-MeO-DMT、ブフォテニンなどが含まれる。マメ科のヨポはアカシア属やミモザ属と近縁である。

旧大陸インドール系のサイケデリックスを含む植物としては、西アフリカのイボガがある。

マイナー・サイケデリックスとしては、南〜東アジアを原産とするアサ、シベリアのベニテングタケ、南太平洋のカヴァが挙げられる。

トロパンアルカロイドを含む植物としては、ベラドンナ、チョウセンアサガオキダチチョウセンアサガオなどが世界各地で用いられてきた。これらの植物もとくに中南米で他の植物と組み合わせて使われてきた。


www.youtube.com << 「ドラッグと宗教儀礼」とは、いかにも物騒なタイトルだが、医療大麻を推進する正高先生との対談動画の中でも世界各地のサイケデリック植物を紹介した。アサ(大麻)、イボガ、ペヨーテ、サン・ペドロ、シビレタケ、アヤワスカ、ヨポである。

また、別のページに書いた記事は以下のとおり。

-アヤワスカ --「南米におけるアヤワスカ文化の現代史」 --「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」 --「ブラジルにおけるアヤワスカ宗教運動の展開」 -サン・ペドロ --「サン・ペドロ」 -ペヨーテとシビレタケ --「中米先住民文化と精神展開性植物」 -アサ --「大麻の精神作用と精神文化」 --「カンナビノイドに類似する作用を持つ植物」 -カヴァ --「カヴァの伝統と現在


記述の自己評価 ★★★☆☆ (講義用のノートであり学術的には正確ではありません。正確さを期してつねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長でもあります。)


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CE2023/04/07 JST 作成 CE2023/04/07 JST 最終更新 蛭川立