蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

サイケデリック・ルネサンス前史 ー当事者研究ー

この記事は書きかけです。この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

理系男子として

戦争の次々の世代に生まれて、中産階級の賢くて優しい両親のもとで育った。反抗すべき親世代が消えていったからである。学生運動やヒッピーの時代は終わっていた。

大学では進化遺伝学や進化心理学を学んだ。進化論か宇宙論かのどちらかを専攻したかった。時間的にも空間的にも、宇宙の広大さには幻惑されていたのである。

大学生のとき、学生合宿で徹夜で議論し、夜明けに意識を失った。ただ眠ったのではなく、けいれん発作を起こして意識を失った。脳波を調べたが、てんかんではなかった。ではどういう病気か。京大の保険診療所の新宮先生は、軽度の躁うつ病かもしれないが、軽躁は才能でもあるし、治さないほうがいいでしょう、と言った。とくに服薬はしなかった。

キノコブーム

大学院生のころだったか、マジック・マッシュルームが流行した。それは、天文学のような外的な宇宙ではなく(もっと魅力的な)内宇宙に望遠鏡を向ける作業であった。

共進化

それは学術的に研究しなければならない。すでに研究してきた進化生態学からすれば、たとえば牛糞に生えるキノコは、ウシに食べられることで多幸感を引き起こし、その糞は胞子が菌糸へと成長する栄養源になっている。

シャーマニズム

またこの物質は、単なる嗜好品や濫用薬物とは質的に異なるものであり、それが儀礼的に使用されていた場所に戻って研究する必要が必要だと思った。

自分じしんはシャーマニズムについての研究を進めてきたので、ルネサンスが急速に進んでいることに気づくのが遅れた。

中南米の先住民社会では、シャーマンがサイケデリック植物を摂取し、患者の病気の原因を探すという使い方が主であったから、サイケデリックス自体が精神疾患を治療するということはあまり考えたことがなかった。

カウンター・カルチャーの衰退

私が大学生になったころには学生運動カウンターカルチャーも衰退した後だった。

2013年から2014年にかけてはロンドン大学で心理学を学んでいたが、学生たちが元気だったのは1980年代で、その後は無力化と右傾化が進んでいるという。これは先進国に共通する問題である。

ルネサンスの胎動期

ロンドンでもサイケデリックスの話題には意外に触れなかった。ただ、もうすぐケタミンが医療用途で合法化されるという話は聞いた。しかし、ケタミンは麻酔薬である。それがどういう病気の治療に使えるのか、はっきり理解できなかった。

2015年には、オーストラリアで科学哲学、とくの物理学の哲学を学んだ。

メチルフェニデートフルニトラゼパムも処方されない状況で、過眠と倦怠感は相当に悪化した。楽しい研究に対する意欲は失われていなかったので、定型的なうつ病の診断基準を満たさなかったが、日本人の精神科医に勧められたSSRIセルトラリン)を服用したところ、持病の過眠症が大きく改善した。このころから、抗うつ薬について本格的に関心を持つようになった。

トラウマの改善

2016年には、研究室のゼミ生がペルーに調査に行き、サン・ペドロを持ち帰ってきた。これを何人かの人たちと食べてみたのだが、とくだん、抗うつ作用のようなものは感じなかった(このとき自分はうつ病ではなかったのだろう、と今になってそう思う。)

しかし、サンペドロには、むしろMDMAに似た、親近感を強める作用を感じた。カヴァと同じようにマッサージと組み合わせてみたが、あまりうまくいかなかった。サン・ペドロが引き起こす親近感は心理的なものであって、肉体的なものではなかった。

しかしこの時、サン・ペドロを食した知り合いの女性が幼少時のトラウマを克服したという事実を知り、ここではじめてMDMAがPTSDに著効だということを知った。

睡眠障害から精神科入院へ

2017年から2018年にかけては、睡眠障害の検査をきっかけにして、国立精神・神経医療研究センターと晴和病院に入退院を繰り返したが、このときに睡眠障害気分障害の専門研究者たちとずいぶん議論をした。日本でもケタミンの抗うつ作用にかんする実用研究が始まるという話を聞いたが、依然としてケタミンのような麻酔薬が精神状態を改善するようなものではないだろうという懐疑的な気持ちがあった。

合法サイケデリックスがネットで流通

2019年には京都で大学生がDMT植物のお茶を飲んで自殺念慮を自己治療するという事件があった。植物を譲渡した青井さんの裁判が始まったのが2020年で、弁護側証人としてアヤワスカやDMTの薬理作用についての研究を網羅的に調査した。この調査の中で、ようやくサイケデリックスがうつ病や依存症に対して著効であるという事実を知った。

インターネット上で「脱法」THCアナログやLSDアナログが流通を拡大させていることを知ったのは2022年のことである。大学生など若い人たちから合法的に流通している物質のサンプルをわけてもらい、自分でも少しずつ試してみた。その中でも、1V-LSDや1D-LSDは、毒味のために少々摂取しただけなのに、強い意識変容は起こらなかったのに、慢性的に重かった身体が急速に軽くなるのを感じた。サイケデリックスに抗うつ作用があることを体感したのはこのときが初めてだった。逆にいえば、緊急事態宣言下で、いつの間にか自分がうつ病になっていたことに気づいたともいえる。

日本のルネサンス

2023年には、気分障害の研究をしている精神科医のもとで、ケタミンを初体験した。予想どおり、ケタミンにはサイケデリック作用があったが、麻酔薬特有のボンヤリした感覚があった。しかし、その直後から翌日にかけて、やはり重たかった身体が軽くなり、陽光がまぶしく感じられた。すでにケタミンの治験からシロシビンの治験へと進みつつある慶應大学病院の先生かたとの出会いもこの2023年の秋のことだった。

このころから、日本でのサイケデリック研究の第一人者だと思われるようになったらしく、取材や執筆、講演などの仕事が急増した。それは良かったのだが、2023年の末には過労が重なったのか、夏から冬への温度低下が急激すぎたのか、倦怠感はさらに悪化した。一発逆転を狙ってSSRIを服用したものの、症状はさらに悪化した。とうとう、絶望的な自責の念に押しつぶされるような、典型的なメランコリー型うつ病のような抑うつエピソードを生まれて初めて体験した。

この文章を書いているのは2024年の3月だが、やっと回復してきたところである。


CE2024/03/11 JST 作成
CE2024/03/18 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。