蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

ケタミンの再発見

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

 

hirukawa-notes.hatenablog.jp

日本でもケタミン・クリニックが始まる

承前。

イギリスでケタミン治療が始まった、という話を聞いたのは2018年のことだった。

それから5年後、2023年の2月には日本で最初のケタミンクリニックが始まったという。時代の流れは速い。

www.value-press.com   nagoyamasui.com 名古屋麻酔クリニックが日本初のケタミン療法を開始したというプレスリリース

その後、東京の美容クリニックでもケタミン治療が始まったという。

nbcginza.com

美容クリニックのメニューに「海外でメンタル疾患に好評の革新的治療法」が並んでいるのは、いかにも場違いな感じがする。ただし、美容クリニックには、鎮痛目的でのケタミンの使用実績がある。

さらに、佐賀の大島病院でも入院によるケタミン治療が行われるようになったという話を聞いた。日本でもあちらこちらでケタミン抗うつ薬として使われはじめている。

www.ohshimahospital.jp

現在、国内のある大学では治験が行われています。これらの結果が発信されて世の中の風潮が変われば外来で施行出来る日が再び来るのではないかと考えています。希死念慮や自殺企図に関してこれ以上の治療は、現時点は考えられないと思われますので、そうなる日が来ることを切に願っております。

Webサイトには、医師の切実な願いが載せられている。

麻酔薬から抗うつ薬

ケタミンは麻酔薬である。「ケタラール」の添付文書[*2]には「体重1kg当り1〜2mgを静脈内に緩徐(1分間以上)に投与」と書いてある。

しかし、麻酔に使う半分以下、0.2〜0.5mg/kgという少量で、迅速な抗うつ作用を示すことが注目されつつある。

https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1038%2Fs41386-021-01242-9/MediaObjects/41386_2021_1242_Fig1_HTML.png?as=webp ケタミンの抗うつ作用[*3]

また双極性障害抑うつ状態についても有効性が確認されつつある。 

https://psychnews.psychiatryonline.org/cms/10.1176/pn.45.18.psychnews_45_18_031/asset/images/medium/joan_ketamine_9a3.jpeg 治療抵抗性の双極性うつ病を患う 18 人の被験者を対象とした実験結果[*4]

たしかにケタミンの抗うつ作用は迅速である。ただし、その効果は3日ぐらいしか続かない。2日おきぐらいに投与を繰り返せば、数ヶ月は維持できるらしいーということは、2023年9月に順天堂で行われた精神神経薬理学会で、David Nutt先生から聞いた。

www.greenzonejapan.com

(英語では「キャィトミン」と発音するのだということも、そのときに学んだ。なぜか懇親会でもナット先生と話そうとする先生がたはほとんどおらず、私がひとりで彼を独占し続けた。2013年にイギリスで心理学を学んでいたころは、「キャィトミン」という言葉は耳にしなかった。ナット先生は、自分もグリニッジに住んでいた、昔ですけどね、と言っていた。)

プラセボよりも効果があるのか?

www.gizmodo.jp

投与直後から入眠時幻覚のような特殊な主観的作用を感じるケタミンに対し、何の効果も感じない食塩水では比較にならない。

https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1038%2Fs41398-020-00897-0/MediaObjects/41398_2020_897_Fig1_HTML.png?as=webp

12日間にケタミンミダゾラムを6回投与されたときの抗うつ作用[*5]

たとえばベンゾジアゼピン系のmidazolam(日本では「ドルミカム=眠り・来る」という名前で知られている)をプラセボとした比較研究もある。 しかし、シロシビンやDMTのようなクラシック・サイケデリックスのほうが、もっと明晰で、効果も単回投与で1年ぐらい持続するという。ケタミンの次は慶應大学病院でシロシビンの治験が始まろうとしている。

即効性の意味

ケタミン→クラシック・サイケデリックスという流れは、じょじょにモノアミンの不足を補う、従来の抗うつ薬の歴史からは断絶している。むしろ、システムのリセット、「仕組みはよくわからないがとにかく一発ガツンと殴ればハッとする」という、壊れた機械を叩いて直すかのような「力づくの」治療法に似ている。その点では、ECT→rTMSという歴史との連続性がある。

抗精神病薬がない時代には、統合失調症に対するマラリア発熱療法といった「力づくの」治療法が行われていたし、また断眠療法はいまでもうつ病に対して即効性があると認められているが、その作用機序はケタミンと似ているという仮説もある[*6]

ケタミンルネサンス

(この部分の記事は独立して下記のURLに移転しました。) hirukawa.hateblo.jp


記述の自己評価 ★★★☆☆ (つねに加筆修正中であり未完成の記事です。記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしていますが、遺伝情報のような冗長性がハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)


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CE2024/03/30 JST 作成
CE2024/07/31 JST 最終更新
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