蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

睡眠変調療養記 ー当事者研究としてー

睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害脂肪肝高脂血症の治療を進めています。医療法人ともしび会ファイヤークリニック(代表、江越正敏)に通院し研究協力も行っていますが、診療報酬以外の資金等の授受は行われていません。

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

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Henri Rousseau (1897) La Bohémienne endormieアンリ・ルソー『眠るジプシー女』)[*2]

睡眠と覚醒

なかなか眠れない、なかなか起きられない、というのが持病である。人間の体内時計の周期は平均で25時間だというから、睡眠時間のズレは誰にでもありそうなことだが、重度になると社会生活にも支障をきたす。十年も二十年もかけて、試行錯誤しながら養生してきた。

医学的なことについても、自分を実験材料にしながら多くのことを学んだ。とくに脳の生理学的な機能や、その遺伝的背景などについては、ひとつの当事者研究として、本業の研究と教育にもフィードバックしていきたい。

遺伝学の勉強から始めて変性意識状態の研究などを進めてきたのは、なにより知的好奇心からではあったが、睡眠や夢見が不調だったという当事者的な事情も背景にはなっている。

食事制限

眠りが浅いということにも、いろいろな要因があるが、ひとつは加齢とともに肥満が進み、睡眠時無呼吸が悪化してきたことにも関係がある。

これは、とくに2016年ごろに悪化し、頑張って減量して2018年にはいったん寛解した。

ところがこれがまた2021年ごろから体重の増加とともに悪化した。3月の人間ドックでは脂肪肝も再発していた。

今回の減量は、医療法人ともしび会・ファイヤークリニックの江越正敏先生と相談しながら、とくに2022年の4月から計画的な体脂肪の減少プログラムを開始した。


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ファイヤークリニックの広告。左が江越正敏院長[*3]

痩身願望が流行するこの飽食の時代にあって、人の弱みにつけ込む悪徳商法も多いのだが、江越先生はじつは精神科医である。もともとは松沢病院で知り合い、睡眠サプリの話で盛り上がったのが交流の始まりだったから、睡眠医学の観点からも適切なアドバイスをいただいた。

この治療のプロセスについては、私的なブログのほうにダイエット日記を書きつづけてきた。
hirukawa.hatenablog.jp

6月に入ってからは、薬を減らしながら、さらに減量を進め、6月16日には、中性脂肪が正常値に入る目安の体重、63kgに下がった。あとは、リバウンドしないように水平に維持していくのが目標。



iPhoneに記録された体重の推移

4月と5月の2ヶ月で体重は75kgから67kgに、無理なくきれいに直線的に減った。数字の上からすれば、2ヶ月で-8kgというファイヤークリニックの宣伝どおりの結果になった。(資料の開示に対する資金の授受、データの恣意的な公表等は行っておりません。)

体組成の推移

睡眠時無呼吸の治療のために減量したのが2017年の10月から2018年の5月にかけてで(→「睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害」)、2018年の3月に体組成計を買い替えた(→「脂質代謝と脳」)。その後、AppleWatchも買い足した。これは血圧を測るのに役立った。全体をまとめたグラフはこちらに移動。

医療化

睡眠障害」や「睡眠時無呼吸症候群」など、病名を列挙していくと自分が重病人であるかのように思えてきてしまうので、タイトルを「睡眠障害」から「睡眠変調」という言葉に代えてみた。精神疾患の呼称も「disease(病気、障害)」から「disorder(調子が悪い)」という意味に置き換わってきたようである。とくに精神疾患においては偏見が根強いという背景もある。

古き良き時代なら、中年太りになっていびきがひどいというのは、ありふれた話であって、それに「障害」や「症候群」といった名を与えなかっただけでもある。

あるいは学校で落ち着きがなく動き回っている子どもに「注意欠陥多動性障害ADHD)」という診断名をつけたりはしなかっただろう。私も落ち着きのない男の子だったが、四十年前の日本では、先生のいうことを聞かない悪い子どもとして叱られて廊下に立たされたりしたものである。その後、「処罰」から「治療」へという社会の変化が起こった。

こと発達障害についてはこの十年ほど医療化(medicalization)が進み「診断名」の流行が起こっているように感じていたが、じっさいには「発達障害という診断名」の流行は、日本では2000年代がピークで、その後は減少傾向にあるという。


発達障害に関連した新聞記事の数の推移[*4]

もちろん医療化にも良い部分がある。なによりも疾患としての分類が進むほどに、治療薬が保険で安価に処方されたり、障害者としての福祉が受けられるというメリットがある。そのことが製薬会社の儲けを増やしているのだという側面もあるが、製薬会社が新薬を開発して儲けること自体が悪いわけではない。

過眠症の特効薬だったメチルフェニデートは、日本ではリタリンという商品名で流通しており、副作用が少なくスマートなこの薬にはずいぶんと助けられた。しかし、2007年の「リタリン騒動」とも呼ばれる濫用事件がをきっかけに、日本では処方が強く制限されてしまった。

同じメチルフェニデートが「コンサータ」という名前の徐放剤として復活したときには、なぜかADHDの薬として変身していた。さらに、2013年には、成人期のADHDへと適用が広がった。発達傷害の研究が進んだともいえるし、小児期の発達上の問題だったはずの発達障害が、成人してからも続く病気として拡大解釈されるようになったのだとも解釈できる。

同じ成分の薬剤が違う診断名の疾患の治療薬として使われるというのは、たとえば不眠症に対して処方されるベンゾジアゼピン系の薬剤が「睡眠薬」であると同時に「抗不安薬」でもあり、「抗てんかん薬」が双極性障害に対しては「気分安定薬」として処方されたり、他にも不思議な例は多い。

このことは、とくに精神疾患ー精神的な症状が出てくるが、ほんらいは神経の病気であり、しかしバイオマーカーが見つからないものだと言ってもいいだろうーの領域では少なくない。これは、精神疾患の分類が未だに暫定的なものであり、疾患に対応する生物学的な機序が不明だからでもある。

てんかんのように、脳神経系における機序が明らかになった疾患は、精神疾患から神経疾患へと移動し、原因不明の疾患が精神疾患に取り残されてきたのだともいえるが、それではなぜ「抗てんかん薬」が「気分安定薬」でもあるのだろうか。

睡眠障害を訴えれば、精神的な苦痛がなくても、神経科というよりは精神科に行くことになる。不眠に対しては「睡眠薬」が処方されるが、これはまた「抗不安薬」とも重なる。過眠に対しては「精神刺激薬」が処方されるが、これはまたADHDの治療薬でもある。

ドーパミン再取り込み阻害薬であるメチルフェニデートが強い眠気や倦怠感に著効であるというのは、作用機序からして(も体感からしても)明らかだが、落ち着きがなくそわそわしている状況で「精神刺激薬」を飲んだら、余計に落ち着きがなくなってしまいそうなものである。(この逆説を説明する理論については別の場所で議論した。)

睡眠サプリとカンナビノイド

2019年に、コカコーラの歴史とからめて、近代は興奮へ、ポストモダンはリラクゼーションへ向かうという記事を書いた。

hirukawa-archive.hatenablog.jp

この時点では、コカ・コーラは、アメリカではCBDドリンクを売り出し、日本ではカンナビスは時期尚早、テアニンドリンクを売っていくだろう、と書いたのだが、すでに2019年の秋には、コカ・コーラEndian社に投資する形で、CHII OUTというCBD入りの飲料を発売することを計画していたらしいとを知った。

i-ne.co.jp
endian.co.jp

コカ・コーラの歴史も書き直したい。

時間論

経時的にバラバラに書きためた日々の治療のプロセスを、あらためてテーマごとにまとめてみたい。
hirukawa.hateblo.jp
『彼岸の時間』以来の、時間の人類学的研究についても徐々に進行中。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

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  • CE2022/06/13 JST 作成
  • CE2022/06/16 JST 最終更新

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