Deliriants
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トロパンアルカロイド
トロパンから生合成されるスコポラミン、ヒヨスチアミン、アトロピン(l-ヒヨスチアミン )などを総称してトロパンアルカロイドという。
トロパンアルカロイドは広義のサイケデリックス(精神展開薬)(→「サイケデリックス(精神展開薬)」)に含まれる。しかし、狭義のサイケデリックスの場合は閉眼時に幻覚が見えたとしても、意識は清明であるのに対し、トロパンアルカロイドは意識水準が下がりせん妄状態を引き起こし、それが何日も続く場合がある。このため、デリリアント(deliriants:せん妄誘発薬)と呼ばれることもある。
デリリアントの作用は、それ自体で死に至ることは少ないが、外傷や自傷行為も引き起こす[*3][*4]。
トロパンアルカロイドはナス科のチョウセンアサガオ、ベラドンナ、ヒヨス、マンドレイクなどの植物に含まれる。
チョウセンアサガオ Datura spp. |
中米 |
ベラドンナ Atropa belladona |
ヨーロッパ |
ヒヨス Hyoscyamus albus |
ヨーロッパ |
マンドレイク Mandragora spp. |
ヨーロッパ |
キダチチョウセンアサガオ Brugmansia candida |
南米 |
これらの植物は世界各地で呪術的に使用されてきたが、不快なせん妄状態を引き起こすため、どちらかといえば邪術や呪詛のために用いられてきた。現代でも違法薬物にはなっていない。
なお、アンデス北部が原産地であるコカノキ科のコカに含まれるコカインは、麻酔薬でもあるが、精神展開作用はなく、合成物質であるメタンフェタミンに似た中枢刺激薬である(→「中枢刺激飲料の現代史」)。
キダチチョウセンアサガオ
キダチチョウセンアサガオ属(Brugmansia spp.)はアマゾン川上流域の先住民族のシャーマニズムにおいて薬草・毒草として用いられる[*5]。
ペルー・アマゾンの先住民シピボ族はフシュ・カナチャリ(hushu kanachari:白いカナチャリ)、キダチチョウセンアサガオ(Brugmansia candida)を薬草・毒草として使用してきた[*6]。
アマゾンのキダチチョウセンアサガオ[*7]
筆者がシピボ族の集落で研究していたときには(→「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」)ユベ(邪術師)が敵を呪うときにアヤワスカにカナチャリを混ぜて飲ませる、と聞いたことがある。カナチャリを混ぜたアヤワスカを飲まされた相手は数日間、邪悪な精霊に憑依され錯乱状態になるという。じっさいにはユベもカナチャリも見たことも[たぶん飲まされたことも]ない。(この記事に載せている写真もWEBサイトからの引用である。)ウナヤ(クランデロ、シャーマン)になるためのディエタ(食事制限をしながら植物の精霊と交感する修行)をするときには、修行者は自らカナチャリを摂取することもあるという。
ベラドンナとスコポラミン
ベラドンナ(セイヨウハシリドコロ: Atropa belladonna)は、西ヨーロッパ原産の植物で、種名の「bella donna」はイタリア語で「美しい・女性」を意味する。ベラドンナの抽出液を点眼すると瞳孔が開くので、目を美しく見せる薬として使われたという。
ヨーロッパの魔女(witch)はベラドンナを軟膏として用いていた。魔女が空を飛ぶという伝説は、ベラドンナに含まれるスコポラミンやヒヨスチアミンなどの幻覚作用をあらわしている[*8]。
中世までのヨーロッパでは女性のシャーマンたちが薬草の知識を伝承していた。15世紀以降、キリスト教がヨーロッパの農民社会に広がる中で、こうしたシャーマンたちは魔女狩りによって悪魔的な信仰として排斥されていったと考えられている。
スコポラミンには抗コリン作用があり、少量では酔い止め薬として広く使用されている。
酔い止め薬「ニスキャップ」(アネロン)
また、大容量のスコポラミンにはサイケデリックスと同様の迅速な抗うつ作用や薬物依存改善作用があると報告されている[*10]。
断酒自助会であるアルコホーリクス・アノニマス(AA)の創始者の一人であるビルは、ベラドンナによるアルコール依存症の治療の過程で霊的体験を得て、アルコール依存症を克服した。その後ビルは実験的にLSDを摂取し、その体験がベラドンナ療法中に起こった霊的覚醒と同様の体験だと確認している(→「AAーアルコホーリクス・アノニマスー」)。
記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)
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*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。
*2:「Tropane alkaloid」『Wikipedia』(2022/07/22 JST 最終閲覧)
*3:ヨーロッパでは男性が自分の陰茎と舌を切断したという精神分析学的な報告もある(Andreas Marneros, Philipp Gutmann, and Frank Uhlmann (2006). Self-amputation of penis and tongue after use of Angel’s Trumpet. European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience, 256(7), 458–459. doi: 10.1007/s00406-006-0666-2)
*4:日本ではパーティーで酒と一緒に服用され事故死も起こしているという(金邦夫 (2020).「山中のドラッグパーティーで大惨事…『幻覚を見ているのか?』救助隊員が遭遇した若者の奇行」『文春オンライン』(2022/07/22 JST 最終閲覧))
*5:シュルテス, R. E.・ホフマン, A.・レッチュ, C. 鈴木立子(訳)(2007).『図説快楽植物大全』 東洋書林, 140-143. (Schultes, R. E., Hofmann, A., Raetsch, C. (2001). Plants of the Gods. Inner Traditions.)
*6:Centro ecologico «UNI RAO» La planta maestra ha florecido pero en Perú, seguimos en cuarentena…(2022/07/22 JST 最終閲覧)
*7:Centro ecologico «UNI RAO» La planta maestra ha florecido pero en Perú, seguimos en cuarentena…(2022/07/22 JST 最終閲覧)
*8:要出典
*9:Michael D. Bailey (2022). The invention of satanic witchcraft by medieval authorities was initially met with skepticism. Yahoo! News.(2022/07/22 JST 最終閲覧)
*10:Jaffe, Robert J Jaffe, Vladan Novakovic, Eric D Peselow (2013). Scopolamine as an Antidepressant A Systematic Review Clinical Neuropharmacology, 36(1), 24-6. doi: 10.1097/WNF.0b013e318278b703.