アメリカの「Parapsychological Association」は、American Association for the Advancement of Science (AAAS)に加盟している学術団体であり、日本超心理学会(JSPP: Japanese Association for Parapsychology)は、かつては日本心理学諸学会連合にも加盟していたそうだが、「超心理学」は、英語の「parapsychology」の和訳として適切だろうか。
「超心理学」はおかしい?
意味が違う?
「para」は、たとえば化学では「側」と訳される。「超」に対応する英語は「super」である。たとえば「supernatural」は「超自然的」である。
「paranormal」は「超常的」と訳されるが、ほんらいは「普通ではないが病的でもない」というニュアンスである。詳細は「心理学における『異常』と『超常』」(ブログ内記事)を参照のこと。
カタカナを使う?
「バイオテクノロジー」や「エスノメソドロジー」のように、もっぱら英語直訳カタカナ語のほうが一般的な分野もある。「transpersonal psychology」は、そのまま和訳すれば「超個心理学」となるが、それよりも「トランスパーソナル心理学」という日本語が定着した。
心理学では「personality」を「性格」と訳すか「人格」と訳すかで意見が分かれているが、「パーソナリティ」というカタカナ語が折衷案として使われるようになり、「日本性格心理学会」は「日本パーソナリティ心理学会」に改称した。
「パラ心理学」という日本語もあるらしいが、ほとんど使われていない。全部をカタカナにした「パラサイコロジー」は、大谷宗司、井村宏治、村上陽一郎の著書や訳書にみられる。
関連分野とその現代史
心霊研究
「psychical research」は、イギリスでは今でも一般的に使われている。日本語では「心霊研究」と訳されるが、「霊」という言葉が怨霊のようなニュアンスを持つのと、「心霊主義」と区別しにくいのが難点である。「Spiritualism」は、霊魂の死後存続を前提としている点で「主義」であり、心霊研究とは異なる。そのまま「スピリチュアリズム」と訳されることもある。これは、哲学における唯心論との訳し分けでもある。なおフランス流のspiritismは「霊魂主義」と訳されることもあるらしい。
日本には「心霊科学協会」という団体もある。
超心理学
イギリスではpsychical researchが使われ続けているのに対して、アメリカではparapsychologyが一般的である。APSR(アメリカ心霊研究協会)は影が薄い。Parapsyochological Associationは「scientific explanation」学会と合同大会を開いていたりする。
意識研究
1990年代からの流行は意識研究(consciousness studies)や意識科学(science of consciousness)である。ただし、扱っている分野が漠然として広すぎるという難点もある。
トランスパーソナル心理学
欧米のサイケデリックカルチャーやニューエイジ運動がアカデミックな心理学へと統合してきた歴史を背景としている。日本に導入されたが、文化的な背景が違うのでうまく根付いていない。一般向けのワークショップを行うトランスパーソナル学会と、アカデミックな研究学会を目指すトランスパーソナル心理学・精神医学会に分裂したが、両者ともに人数が少なく、近年では合同で学会を行っている。
トランスパーソナル心理学は、欧米においても積極的な発展は見られないが、1960年代に流行したサイケデリックスや大麻、禅や瞑想の文化が、逆に「ルネッサンス」を迎えている。医療用の大麻やサイケデリックス、健康法としてのヨガや気功、マインドフルネスが認知行動療法に取り入れられるなど。
懐疑主義
懐疑主義にもとづく研究団体としては、日本ではSCICOPの流れをくむ「Japan Skeptics」があるが、今はむしろ「超常現象の懐疑的調査のための会」(Association for Skeptical Investigation of Supernatural: ASIOS)が活発に活動している。しかし懐疑主義は、懐疑するというよりは、否定ありきという「逆ビリーバー」という立場に偏りがちなのが問題である。
そもそも、何を研究する分野なのか?
「超常現象」の科学的研究は自己矛盾
「超常現象=科学では説明できない現象」という退行的定義では、研究対象が積極的に定義できない。「UFO」も同様の語義矛盾をはらんでいる。
心霊研究の系譜
もともと心霊研究は、肉体の死後も霊魂が存続するかのような現象を研究対象にしていた。この流れでは、前世の記憶を語る子どもや、臨死体験の研究が進んできた。
ヴァージニア大学を中心とする、前世の記憶の分析研究は、客観的な実証性を持っている。
臨死体験研究は、主観的な体験の研究が主で、客観的な実証性にとぼしい。しかし、臨死体験とサイケデリック体験が類似している(臨死体験の「深さ」は臨床的な死への距離とは相関しない)ことや、内因性DMTの発見などを通じて、脳神経科学との接点が強まっている。
また、臨死体験が死後の世界の体験かどうかにかかわらず、その前後で人生観が変わることもサイケデリック体験と類似しており、これはサイケデリックスやカンナビノイド(〜大麻)の精神医学への応用とも結びついている。
日本では、大学生がアヤワスカ・アナログ(DMT植物茶)を服用し人生観を変え、希死念慮を自己治療したという事件があり、裁判になっている。(事件は2019年7月で、判決は2022年9月26日。詳細は「京都アヤワスカ茶会裁判」を参照のこと。)