蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「不思議現象の心理学」 2023年度 講義概要

Anomalistic Psychology

この記事は公式シラバスと同じ内容である。毎週の講義の進行日程については「不思議現象の心理学 講義計画 西暦2023年度」を参照のこと。

授業概要

呪術・宗教的世界観においては、人間や、その他の動物や、あるいは木や岩などには、霊魂が宿っていると考えられてきた。人間が死ねば、霊魂は肉体から離れ、祖先の世界に行き、あるいは別の子どもの肉体に入って転生する。

やがてインドやヨーロッパで哲学が発達し、科学が発達する中で、肉体と霊魂、物質と精神についての研究が進んだ。しかし、物質や肉体は客観的に研究できるが、精神や霊魂は客観的な科学の対象にはならない。19世紀の西欧では、それでも精神や霊魂を科学的に解明しようとする研究から、心霊研究という分野が発達し、そこから心理学と超心理学が対になって派生した。

心は物質ではないので、原子や分子のように、客観的に観察することができない。しかし、遠い場所で起こった事故を夢に見たり、祈るだけで病気が治ったという報告を、統計的に分析することはできる。このような「超常現象」の研究が進められてきた結果、テレパシーやPK(念力)と仮定される現象が統計的に有意なレベルで作用することが明らかになってきた。しかし、心理現象は物理現象ではないので、示せるのは統計的な傾向だけで、その物質的メカニズムは解明できない。

昔の人々は雷が光り鳴るのを見聞きし、それを「超常現象」だと考えた。科学が発達した現代では、電気は超常現象ではなくなったどころか、もはや電子機器なしの生活など考えられない。同じように、テレパシーやPK(念力)のような「超常現象」も、科学がさらに発展すれば「通常現象」として理解できるようになるのかもしれない。じっさい、20世紀以降に発達してきた量子力学などの現代物理学によって、自然法則に反するような「超常現象」も科学的に説明できるという仮説もある。

いっぽう、人間の認識には、自然現象や心理的経験の中に意味のある因果関係を読み取りたいという認知バイアスが存在する。夢をお告げだと解釈したり、聖地の水を飲んで病気が治ったという解釈の多くは、偶然に対する過剰な意味づけでもある。にもかかわらず、そこに科学的な根拠があると主張するものを、疑似科学という。

しかし、夢で見た出来事と現実の出来事が一致した場合、それを全くの偶然だと証明するのも難しい。社会的な事件の背後に隠された陰謀が存在するといった考えを、事実に反する妄想として完全に否定することも難しい。科学と疑似科学の間に、明確な線引きをすることはできるのだろうか。

また、理屈では当たらないと思いながらも占いを気にしてしまうのも自然な感情であり、こうした認知や思考のパターンには、心の安定や社会の維持、あるいは芸術や宗教などの精神文化の発展といった、積極的な機能もある。

そして、客観的な科学がいくら進歩しても、心や意識のような主観的体験を脳という物質のはたらきに還元することはできない。曲がれという意志でスプーンが曲がったと主張すれば「超常現象」だとしてその真偽が議論になるが、曲がれという意志で指が曲がるのは、あまりにも当たり前の「通常現象」だから議論にもならない。しかし、指を曲げようとしている意識それ自体は、脳ををいくら解剖しても見つけることができない「超常現象」なのである。こうした認識論的な議論にも触れたい。

到達目標

1.一見,不思議に見える現象を解明していくことで,人間の心の働きがより広い視点から理解できるようになる。
2.科学的なものの考え方と,その限界が理解できるようになる。

授業内容

第1回:脳の中の幽霊(全体の展望)
第2回:心霊研究から心理学へ:科学史的背景
第3回:行動主義・統計学超心理学
第4回:因果性・共時性・テレパシー
第5回:呪術的治療とプラセボ(偽薬)効果
第6回:占術の象徴論
第7回:錯覚と幻覚
第8回:認知バイアスと妄想・陰謀論と終末論
第9回:知覚と透視
第10回:運動と念力(PK)
第11回:記憶・予知・自由意志
第12回:現代物理学における心物問題
第13回:意識研究における心身問題
第14回:科学・未科学疑似科学(全体のまとめ)

履修上の注意

必須ではないが,心理学や脳神経科学に関連する科目を履修しておくと,講義は理解しやすくなるだろう。

準備学習

実際の授業内容は,このシラバスに書かれた計画とは多少,異なるものになるかもしれないが,最新の進行状況は別途「蛭川研究室」のブログにアップし,更新していくので,随時チェックすることをお勧めする。
 授業の資料はブログ上にアップしてあり,授業の予定表から資料にリンクが張ってあるので,オンラインでの授業だけでなく,随時,予習も復習もできる。それぞれのページには質問やコメントを書き込むこともできる。ページのURLは科目ごとに異なるが「蛭川」「不思議現象」「2023」などと入力して検索すれば容易に見つかる。

教科書

特に定めない。

参考書

『彼岸の時間-〈意識〉の人類学-』蛭川立(春秋社)2002年(新装版は2009年)
『精神の星座-内宇宙飛行士の迷走録-』蛭川立(サンガ)2011年

成績評価の方法

期末試験または期末レポート(100%)


  • CE2022/12/23 JST 作成
  • CE2023/01/09 JST 最終更新

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