Body and Consciousness
この記事は公式シラバスと同じ内容である。毎週の講義の進行日程については「『身体と意識』 講義計画 西暦2023年度」を参照のこと。
授業の概要
意識の状態が変われば,それに対応して,経験される現実も変わる。もっともわかりやすい例は,睡眠中に見る夢である。夢の世界では,われわれは,夢の身体を持って行動している。
変性意識状態,つまり日常とは異なる意識状態には,夢のほかに,臨死体験,瞑想体験,精神疾患,あるいは向精神薬の作用など,さまざまな種類のものがある。しかし近代社会では,そうした多様な意識状態は存在しないか,存在しても問題にされないか,精神の異常として処理されがちである。
近代化される以前の多くの社会では,しばしば夢や幻覚と現実との境界が曖昧であった。とりわけ古代インド哲学や仏教思想の伝統では,物質的身体を持って「覚醒」して生きている状態のほうが,じつは夢の中で暮らしているような状態であり,その錯覚から「覚醒」しなければならないとする思想が顕著であった。
いっぽう,近代科学は,脳という物質のはたらきから精神が生み出されると考える。向精神薬が脳内でどのように作用するのかという機序の解明が進み,意識や思考などの複雑な情報処理が,脳内の生化学的な反応として理解されるようになってきた。
さらに現代では情報技術の発展も著しい。人生の三分の一が睡眠時間だということは変わらないが,われわれは「覚醒」しているときでさえ,テレビやスマートフォンの液晶画面の背後に,さらにはVRのゴーグルの中に,あたかも物質的世界が実在するかのように錯覚し,その仮想世界に没入して過ごす時間が増えている。現実と幻覚を隔てる境界の曖昧さは,原始社会や,古代宗教や,あるいは精神病理という特殊な世界だけでなく,近未来社会の日常となりつつある。
到達目標
1.人間の様々な意識状態を,心理学や脳神経科学の観点から理解できるようになる。
2.身体と精神の関係について,比較思想的な観点から理解できるようになる。
授業概要
第1回:胡蝶の夢と水槽の脳(全体の展望)
第2回:神経系の構造と機能
第3回:脳の状態と意識の状態
第4回:睡眠と夢
第5回:明晰夢と睡眠麻痺:夢と現実の狭間
第6回:向精神薬の神経科学
第7回:精神展開(サイケデリック)体験
第8回:芸術・宗教と精神疾患
第9回:西洋思想における身体と精神
第10回:東洋思想における身体と精神
第11回:輪廻転生と偽記憶
第12回:臨死体験
第13回:瞑想・ヨーガ・禅
第14回:リアリティとバーチャルリアリティ(全体のまとめ)
履修上の注意
必須ではないが,心理学や脳神経科学に関連する科目を履修しておくと,講義内容の理解の助けになるだろう。
教科書
特に定めない。