フィールドワークそれ自体は調査の技法であって特定の研究分野とは独立であるが、とくに文化人類学を特徴づける研究方法論として発展してきた歴史的経緯がある。この授業では、その典型的なモデルとして、都市であるか村落であるかを問わず、研究対象となる人々のコミュニティに住み込んで調査を行うというフィールドワークの方法論を中心に、受講者の希望調査地域を踏まえつつ、教員自身の体験も交えて、少人数での授業を進める。
フィールドワークというのはきわめて実際的な方法であって、演繹的に構成された方法論というよりは、細かい具体的なノウハウの集大成という色彩が強い。理論的な基礎については「フィールド・アプローチⅠ」でも扱うので、この授業ではより応用的な実用性を重視するという観点から、敢えて細かい具体的な技術を題材にとりながら、随時、抽象的な一般論にも触れていくことにしたい。
- 調査の目的とビザ、調査許可の取得
- 訪問時期(季節、訪問先の暦法と祭日など)
- 移動手段(飛行機、船、列車、バス、タクシー、三輪タクシー、自転車、徒歩)
- 政情と治安(戦争、テロ、その他の犯罪、軍隊や警察との関わり方)
- 衛生状態(食事、風土病、感染症とワクチン、薬、保険と病院)
- 言語(現地語、公用語、英語、日本語)、ガイドと通訳
- 持って行くものと現地調達するもの
- どこに滞在するか(借家、ホテル、ホームステイ、集会所など)、どれぐらいの期間滞在するか
- 信頼関係を築く方法、謝礼と土産
- 調査方法(参与観察、聞き取り、質問紙など)、雑談の中から必要な情報を引き出す方法
- 記録のための機材(ノート、カメラなど)
- 調査する側とされる側の年齢・性別・社会的地位などをめぐる関係
- 禁忌(聞いてはいけない事柄、行ってはいけない場所、撮影してはいけない事物など)への対応、祭礼・儀礼等への参加
- 約束の不確かさ(借りたものを返さない、約束の時間に遅れるなど)、その他のトラブル(人間関係、金銭面など)への対応
(少人数での授業になると予想されるので、内容は履修者の調査対象や具体的な研究テーマに応じて調整したい。)
この授業は、実際に特定の地域(とくに、日本のように政情、治安や衛生状態が他地域に比べて非常に良い社会以外の地域)でのフィールド調査を予定している諸君に対して、各々の対象地域に対応した実際的な技術を伝えることを主たる目的としているので、そのような具体的な調査の予定がない諸君が漫然と聴講するようには計画されていない。なお、担当教員である蛭川が比較的詳しい地域はアジアの東半分~オセアニア~中南米に偏っているが、教員一人で全世界のすべての地域について詳しい体験的知識を持つことは困難であることはあらかじめお断りしておきたい。