蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

天動説と地動説 ー 西欧ルネサンス期のコスモロジー ー

西暦1633年、ガリレオはローマに呼ばれ、古代ローマの神殿(パンテオン)跡の近く、街中の小さな教会、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会で宗教裁判にかけられ、そこで聖書の教えに反するとされた地動説への支持を撤回する。その後フィレンツェ郊外の自宅への帰宅を許され、自宅軟禁という、比較的安泰な状況下で、78歳の生涯を終えている。


ローマ(ピンはパンテオン

この、よく知られた宗教裁判が行われたミネルヴァ教会から、迷路のような狭い石畳の路地を五分ばかり歩いたところに、今では観光客向けの屋台や大道芸で賑わうカンポ・デ・フィオーリ広場がある。その中央には、ややうつむき加減で、しかし、じっと、まっすぐに無限の彼方を見つめるような表情で立っている一人の男性の像がある。彼の名はジョルダーノ・ブルーノ。ガリレオの裁判が行われた30年以上前になる1600年に、ここで異端として火刑に処せられた。


ジョルダーノ・ブルーノ(1548-1600)
ローマ、カンポ・デ・フィオーリ広場、2013年8月、著者撮影

世の思想家たちが、世界の中心は地球なのか太陽なのかと命懸けで議論していたころ、ブルーノは、神の威光は無限である以上、宇宙は無限であって中心も果てもなく、太陽系のような惑星系は無数に存在し、人間のような生物もまた無数に存在するだろうという、当時としては荒唐無稽ともいえる独自の神秘思想を展開し、宗教裁判でも自説を曲げなかった。

最後に司祭から向けられた十字架からも顔を背け「私は何も恐れてはいない。真理の前に怯えているのは君達のほうではないのかね」と、持ち前の毒舌で演説を始めたという。結局、この頑固者はその毒舌に舌枷をはめられ、衆人環視の中、放たれた炎の中で絶命した。享年52歳であった。

若いころから玉石混淆の神秘思想に傾倒していたこの奇人は、行く先々でトラブルを起こしながら、ナポリ、ローマ、ジュネーヴトゥールーズ、パリ、ロンドン、パリ、ヴィッテンベルグプラハ、ヘルムシュタット、フランクフルト、パドヴァヴェネツィア、そして最後はローマと、ひたすら放浪の生活を送ったが、とりわけロンドンー彼に言わせれば、熊や狼のような野蛮な連中がうろついている、寒々しく不潔な田舎町ーに滞在していた二年間に、無限宇宙論を唱えた主著『無限、宇宙および諸世界について』[*1]をはじめとする、その危険な著作の多くが書かれた。

ガリレオが彼の辿った運命について知らなかったはずはない。そもそも、二人は1591年、当時空席だったパドヴァ大学の数学教授のポストを争ったという経緯もある。うまい具合に教授の座についたのはガリレオであり、ブルーノのほうはその翌年、逮捕されてローマに送られ、ヴァチカンの地下牢獄で最後の八年間を過ごすことになる。

ヨーロッパにおけるルネサンスは、通俗的には、迷信に凝り固まった中世のキリスト教的権威からの、人間の自由な感性と思索の解放であると理解されがちであり、宗教裁判にかけられたガリレオは、宗教からの科学の自立という、その象徴的人物として偶像視されがちである。しかし歴史というのはそう単純なものではない。近代的に改築されたガリレオ博物館には、彼が作った望遠鏡だけではなく、それを作った彼自身の指までが、飾り付きのガラスケースの中に恭しく飾られている。カトリックの聖遺物崇拝そのものである。

コペルニクスが唱えた近代地動説は聖書の教えに反するとされたが、実際には、聖書には天体の運動のことなどほとんど何も書かれてはいない。しばしば西洋の思想史は、より神秘的なプラトンと、より現世的なアリストテレスという、二大哲人の果てしない代理論争のようなものだと言われるが、西欧のキリスト教アリストテレス宇宙論を教義として受け入れた。いったんは忘れ去られかけた古代ギリシアの思想のうち、アリストテレスの思想のほうがたまたま先にヨーロッパに戻ってきたという、ほとんど偶然のような理由のゆえにだと考えられている。

アリストテレスがまとめ上げた世界観は、プラトンのそれと比べると、比較的堅実なものであり、常識的な観察事実によく適合していた。古代のギリシアにおいては、地球は球体であり、重力は地球の中心方向に向かってはたらくということは、すでによく知られていた。土や水のような重い元素は宇宙の中心に向かって運動していくものであり、また気や火のような軽い元素は宇宙の中心から離れる方向へ運動していくのだから、宇宙の中心に球形の土の塊である地球が位置することは当然であり、そこにはとくに宗教的な必然性もなかった。

一方、世界の本質はある絶対的な精神的存在であって、物質によってつくられている(ように見える)世界は仮のものにすぎない、というプラトンプロティノスの哲学が本格的にヨーロッパ世界に戻ってくるのには、一五世紀の思想家マルシリオ・フィチーノプラトンの著作の多くをラテン語に翻訳するのを待たなければならなかった。フィチーノは宇宙の中心が太陽であるとは直接言及していないが、その著作『太陽について』の中で、太陽は月や惑星や無数の恒星たちとは比べものにならないぐらい明るく、その眩いばかりの輝きは神の栄光以外の何物でもないと書き残している。こうした思想のほうがアリストテレスのそれよりも、むしろずっと宗教的であり、ガリレオのような正確な実験や観察にも裏付けられていない。しかし、それが太陽中心の宇宙観の形成に与えた影響は少なくないだろう。


マルシリオ・フィチーノ(1433-1499)
フィレンツェサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂・2013年8月、著者撮影

じっさい、多分に新プラトン主義の影響を受けていたコペルニクスやブルーノは聖職者であったし、フィチーノもまたそうであった。観光都フィレンツェの象徴ともいえるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は、真夏にはまさに眩いばかりの陽光を浴びて燦然とそびえ立っているが、その薄暗い内壁には、司祭でもあったフィチーノの功績を称え、大きな書物を抱えた彼の小さな胸像がひっそりと刻まれている。


フィレンツェ(ピンはサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

ルネサンス期に起こったことは、宗教からの科学の解放といった単純な進歩ではなかった。皮肉なことに、教会のほうがプラトンよりもアリストテレスのような手堅い理論を支持しており、それに異を唱えたブルーノらのほうが、より神秘主義的だったのである。制度化された宗教の教義よりも、ときに神秘家たちの直感から導かれた世界像のほうがより豊穣な輝きを持つことも少なくない、ということだろうか。

プラトンの宇宙モデルも天動説でありアリストテレスのそれとは基本的に違うものではなかったが、違ったのはむしろその根拠だった。プラトンは『国家』の中で、戦傷によっていったん「他界」し、ふたたび蘇生してきたエルという戦士が実際に回転する宇宙の構造を見て帰ってきたという逸話を紹介している。望遠鏡による天体観測の開始が大きな転換点となり、その後の四百年で宇宙の構造にかんする知識は飛躍的な進歩を遂げたが、その一方で西洋科学がプラトンの逸話のような体験が決して珍しくない心理現象であることに気づき、それに「Near-Death Experience(臨死体験)」と名づけてようやく細々と研究を開始したのはほんの四十年前のことにすぎない。後世の科学史の教科書には、近代文明における古代ギリシア哲学の復活について、内宇宙の研究の復活は、外宇宙の研究の復活よりもさらに五百年遅れることになったが、その理由は多分に偶然によるところが大きい、と書かれることになるかもしれない。



蛭川立 (2013). 「ここが特別な場所ではなかったとしても(意識のコスモロジー)」『風の旅人』47, 127-130、より抜粋、加筆修正。 
記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2013/12/01 JST 公刊
CE2022/06/18 JST 最終更新
蛭川立

【記事の改装工事中】モンゴル ー復活する宗教文化ー

高校と予備校を卒業した後、まず京都大学農学部農林生物学科に入学した。集団遺伝学を学びたかったからでもあるが、漠然と今西錦司に憧れていたからでもある。

国立民族学博物館でモンゴルの特別展が行われているらしく、Twitterに展示の写真が投稿されていた。


1939年の写真らしい。

それから60年後に、モンゴルを訪ねた。


1999年、ウランバートルにて。通訳のゲレレさんと。

ロシア製のジープは無骨だが乗り心地が悪かった。

1999年8月にウランバートルモンゴル国立大学で行われた国際シャーマニズム会議に参加した。

それから飛行機でフブスグル(Khövsgöl)県のムルン(Mörön)まで飛び、それからジープでウラン・ウール(Ulaan-Uul)まで北上、いつの間にかロシア領に入ってしまい、国境警備隊に追い返された。

本当にロシア国境を越えたのかどうかもわからない。地面に線が引いてあるわけでもない。人間に指摘されなければ、国境など、どこにあるのかわからない。旧ソ連圏では紛争が絶えないけれども、そもそも国境線というものが曖昧なのである。



明治大学のサーバー上にアップした以下のページを加筆修正しながらブログに移転中。
www.isc.meiji.ac.jp

ソ連崩壊後のモンゴルでは、民族主義が盛んになり、シャーマニズムが復活しつつあった。

ここに書いたのも1999年に短期滞在したときに聞いただけの話だが、21世紀の20年間にモンゴルで起こった社会と宗教の変化について、日本語で読める良い研究書が出た。

島村一平の『憑依と抵抗』。

『彼岸の時間』の第8章「非局所的な宇宙ー旧ソ連圏における認識論的政治学ー」にもモンゴルのことを書いたので、これも、まとめなおしたい。

後半部分では、マッハの極論に対するレーニンの批判を取りあげたけれども、そのことよりも、アインシュタイン実証主義の観点から絶対時空の概念を捨てたことのほうが重要なことだから、それはクイーンズランド大学の「物理学の哲学」のノートとともに整理したい。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

  • CE2022/06/13 JST 作成
  • CE2022/06/13 JST 最終更新

蛭川立

サンスクリットとデーヴァナーガリー文字

梵英辞典

梵英辞典としては、Monier-WilliamsのA Sanskrit English Dictionaryが一般的だが、オンライン辞書Monier-Williams Sanskrit-English Dictionary, 1899(外部サイト)」としても利用できるようになった。

もう一回りコンパクトな学習用梵英辞典としては、ApteのThe Practical Sanskrit - English Dictionaryがある。

(上記いずれもカトマンドゥの書店で購入し、時折、お世話になっている。)

梵和辞典

仏教用語など漢訳を参照したければ、まずは『梵和大辞典』。

逆に、漢訳された仏教用語から離れた、サンスクリット語ほんらいの意味をたどるには、むしろ梵英辞典のほうがいい。インド・ヨーロッパ語族は語源をともにする語彙も多い。

デーヴァナーガリー文字

辞書での並び順は、下の図のようになる。まず母音は、黄色の部分を左上から下へ、次に、子音は、水色の部分を左上から右へ、それから、緑色の部分を左上から下へ。


デーヴァナーガリー文字の一覧表(拡大すると細かい文字を見ることができます)

ヨーロッパの言語とは異なり、とくに子音が口腔内の位置に沿って整然と並んでいる。日本語の「あいうえお」と「かさたなはまやらわ」は、部分的にサンスクリットの影響を受けている。(「色は匂へど散りぬるを…」には、規則性はないが、こちらは日本化された仏教思想のあはれな世界観とうまく語呂合わせしている。)

英語における「n」に対応する子音は複数あるが、おおよそ「nga」「nya」「rna」「na」といった発音となる。

参考リンク

サンスクリットについて日本語で解説されたものとしては、故・上田真理子『まんどぅーかのサンスクリット・ページ』(外部サイト)が伝説となっている。

その他のインド系文字

南インドの文字も北インドの文字を借用している。南インド系文字はタイ語など、インドシナ半島を経て、ジャワ語・バリ語など、インドネシアの諸言語を表記するために使われてきた。


タイ文字のノート

また、北インドの文字は、北側のチベット文字にも借用されている。ハングルも中央アジアに伝わった北インド系文字を参考にして作られたという。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(自分の勉強用のメモなので誤りがあるかもしれません。つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)

デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

  • CE2022/05/17 JST 作成
  • CE2023/01/23 JST 最終更新

蛭川立

エンタクトゲン(共感薬)

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

カテコールアミンと中枢神経刺激薬

ドーパミンノルアドレナリンなどのカテコールアミン神経伝達物質に似た分子構造を持ち、興奮作用を示す中枢神経刺激薬(精神刺激薬)としては、作用が強く、規制されているメタアンフェタミン、コカインや、より穏やかで医療目的で使われているメチルフェニデート(MPD)(商品名、リタリンコンサータ)、ペモリンなどがあり、交感神経を活性化させることで、過眠症などの治療に用いられる。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9f/Methamphetamine-2D-skeletal-.svg/1920px-Methamphetamine-2D-skeletal-.svg.png

メタアンフェタミンメタンフェタミン) methamphetamine[*1]

フェネチルアミン誘導体

精神展開薬(psychedelics)(「サイケデリックス(精神展開薬)」を参照のこと)の作用機序はまだ完全には未解明だが、その多くはセロトニン(5-HT)とよく似た分子構造を持っており、じっさい5-HT2A受容体のアゴニストとして作用するものが多い。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9f/Overview_Phenethylamines.png
フェネチルアミン誘導体[*2]

しかし、ペヨーテLophophora williamsii :メキシコ先住民が儀礼的に使用してきたサボテン)やサンペドロ(Echinopsis pachanoi:ペルー先住民が儀礼的に使用してきたサボテン)に含まれるメスカリンは、カテコールアミン神経伝達物質と構造が似ているにもかかわらず、インドール系の精神展開薬であるDMTシロシビンとよく似た作用を示す。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5a/Mescaline_Structural_Formula.svg/1920px-Mescaline_Structural_Formula.svg.png

メスカリン mescaline[*3]

共感薬(エンタクトゲン)

メスカリンと構造が似た精神展開薬として、人工合成物質であるMDMA(3,4-MethyleneDioxyMethAmphetamine)がある[*4]

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/21/MDMA_%28simple%29.svg/1920px-MDMA_%28simple%29.svg.png

MDMA 3,4-methylenedioxymethamphetamine[*5]

メタアンフェタミンと構造がよく似ているが、フェニル基の3位と4位でメチレンジオキシ基と結合し、メチレンジオキシフェニル基になっている。メチル基が2個のメスカリンとも似ている。

その向精神作用は独特であり、典型的な精神展開薬と精神刺激薬の両方と似ており、両方と似ていない。典型的な精神展開薬のように、意識状態が大きく変わることがなく、幻覚が見えることもない。中枢神経刺激薬のような覚醒作用はあるが、より穏やかであり、むしろ他者への警戒心が弱まり、他者との共感性が高まる。

MDMAには、体温の上昇や脱水症状といった副作用があり、乱用の可能性の高い薬物[*6]として規制されている[*7]。しかし、MDMAは、心理療法と組み合わせることでPTSDの治療に有効であり、第Ⅲ相の臨床試験を終え[*8][*9][*10][*11]、オーストラリアでは2023年7月よりMDMA assisted therapy(支援療法)が始まる。

これらの物質を精神展開薬とは区別して、エンパトゲン(enpathogen)[*12]、またはエンタクトゲン(entactogen)と呼ぶこともある。日本語での定訳はない。そのまま片仮名で表記されるか、共感薬、共感剤と訳されることもある。

天然のエンタクトゲン

ペヨーテやサンペドロ(Echinopsis pachanoi)にはメスカリンが含まれており、サイケデリックスとして作用する。

https://europepmc.org/articles/PMC6864602/bin/CMP-12-184-F3.jpg
ペヨーテに含まれる主なアルカロイド[*13]

しかし、ペヨーテやサンペドロには、エンタクトゲンとしての作用もあり、メスカリン以外にMDMAに似た物質も含まれていることが発見されつつある[*14]

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/ab/Methylenedioxy_skeletal.svg/1920px-Methylenedioxy_skeletal.svg.png
メチレンジオキシ基[*15]

メチレンジオキシ基をもち、MDMAと類似する作用を持つ物質を「MDxx」ともいう。フェネチルアミン誘導体の基本であるPEAは「恋愛ホルモン」などともいわれるが(ブログ内記事「PEA」を参照のこと)、ペヨーテやサン・ペドロには、MDPEAやMMDPEA(ロフォフィン)といったエンタクトゲンが含まれている。

オキシトシン

中枢神経刺激薬と構造が似た物質がなぜ共感作用を持つのだろうか。この共感作用は間接的にオキシトシンを増加させることによって引き起こされているという説がある。オキシトシン自体もまた共感薬の一種だといえる。

https://media.cheggcdn.com/media/bd3/bd3a6d91-7dc4-4889-a0d2-bbedbfafc7c8/php8NIin8.png
バソプレシンオキシトシン[*16]

オキシトシン点鼻薬自閉症における対人コミュニケーションを改善させるという説もあるが、臨床的な応用ができるところまでは確認されていない。

MDMAを経口摂取するほうがオキシトシン点鼻薬よりも共感作用が強く、オキシトシンの摂取量を増やすと効果が弱まり[*17]、逆に攻撃性のような反対の作用があらわれてくるという。

オキシトシンは特定の他者に対する愛着を強めると同時に、嫉妬心も増大させる。集団のメンバーの結束を強めるいっぽうで、排他性も強めるという負の側面があることも知られるようになってきている[*18]

カンナビノイド受容体とGABA受容体

大麻の有効成分であるTHCなどのカンナビノイドにも、MDMAほどではないが共感作用がある。

カヴァPiper methysticum )(→カヴァの伝統と現在)の有効成分である、カヴァインなどのカヴァラクトン類には、ベンゾジアゼピンに似た抗不安、催眠作用と筋弛緩作用があるが、認知機能は低下させず、むしろカンナビノイドに似た弱い共感作用があり、感覚は敏感になる。

カヴァラクトン類の作用機序はまだ未解明だが、カンナビノイド受容体(とくにヤンゴニンがCB1)に結合してカンナビノイドと同様の作用を示し[*19]GABA受容体に作用して抗不安、催眠、筋弛緩作用を引き起こすと考えられている。

南太平洋では、カヴァ茶は初対面の来客に対して儀礼的に振る舞われることが多く、これは、初対面の人間に対する緊張感を解くという意味合いもある。

エチルアルコールベンゾジアゼピンにも緊張感を解くという共感作用はあるが、これらは基本的にはGABA受容体を介して作用する抑制剤であり、覚醒水準は下がってしまう。また理性的な判断力が低下するぶん、感情が解放されて攻撃性があらわれることもある(奇異反応 paradoxical effect)。

MDMAに類似した共感薬やカヴァラクトン類の作用はもっと穏やかで、攻撃性のような強い感情はあらわれない。

追記


卒業生のriyo君の取材に応じて、MDMAの所持で逮捕された女優さんの件でコメントとしておきました。テレビの報道も「ダメ・ゼッタイ」のサイトも、よく読むと、かなり正しいことを言っています[*20][*21]



補遺
 
以前「共感剤」と書いていたものを「共感薬」に変更した。「薬」と「剤」に厳密な意味の違いはないが、前者は薬物そのもの、後者は錠剤、散剤のように、服用するときの形態を指し示すことが多いようである[*22]

記述の自己評価 ★★★☆☆(既知の研究をまとめたものであるが、内容は広く浅く、根拠となる研究が充分に示されていない。もうすこし整理したい。)
CE2016/11/04 JST 作成
CE2023/05/15 JST 最終更新
蛭川立

*1:メタンフェタミン」『Wikipedia』(2022/11/19 JST 最終閲覧)

*2:フェネチルアミン - Wikipedia

*3:メスカリン」『Wikipedia』(2022/11/19 JST 最終閲覧)

*4:MDMA全般について日本語で読める一般書としては、MDMA研究会 (2004).『MDMA大全ー違法ドラッグ・エクスタシーの全知識』データハウス.がある。

「違法ドラッグ」などとタイトルに入っているので、怪しげな書物かと思いきや、医学の専門書には及ばないものの、一般向けの入門的な概説書となっている。日本でMDMAが違法なのは事実。

*5:メチレンジオキシメタンフェタミン」『Wikipedia』(2022/11/19 JST 最終閲覧)

*6:「エクスタシー」(MDMAの俗称)として非合法的に流通している錠剤には、メタンフェタミンなど、他の物質が混ぜられていることが多く、それが誤用のひとつの原因となっている。

*7:日本では1990年に麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令(平成二年政令第二百三十八号)(e-gov法令検索)のリストに含められ、麻薬及び向精神薬取締法で規制されるようになった。

*8:[MDMA-assisted therapy for severe PTSD: a randomized, double-blind, placebo-controlled phase 3 study, 2021](https://www.nature.com/articles/s41591-021-01336-3)

*9:[MDMA-Assisted Psychotherapy for Treatment of Posttraumatic Stress Disorder: A Systematic Review With Meta-Analysis.](https://accp1.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jcph.1995)

*10:[A comparison of MDMA-assisted psychotherapy to non-assisted psychotherapy in treatment-resistant PTSD: A systematic review and meta-analysis.](https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0269881120965915?journalCode=jopa)

*11:[The Efficacy of MDMA (3,4-Methylenedioxymethamphetamine) for Post-traumatic Stress Disorder in Humans: A Systematic Review and Meta-Analysis.](https://www.cureus.com/articles/58217-the-efficacy-of-mdma-34-methylenedioxymethamphetamine-for-post-traumatic-stress-disorder-in-humans-a-systematic-review-and-meta-analysis#!/)

*12:「pahtogen」には「病原菌」という意味もあるので、使用を避けたほうが良いという考えもある。

*13:Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Aspects of Peyote and Mescaline: Clinical and Forensic Repercussions. - Abstract - Europe PMC

*14:Bruhn, J.G., El-Seedi, H.R., Stephanson, N., Beck, O. & Shulgin, A. T. (2008). Ecstasy analogues found in cacti. Journal of Psychoactive Drugs, 40, 219-222.

*15:メチレンジオキシ基 - Wikipedia

*16:Question: Vasopressin And Oxytocin Are Nonameric (9 Residue) Peptide Hormones (Shown Below) With Highly Related Structures, Each With...」『Chegg』(2022/11/19 JST 最終閲覧)

*17:Kirkpatrick, M. G., Lee, R., Wardle, M. C., Jacob, S. & De Wit, H. (2014). Effects of MDMA and intranasal oxytocin on social and emotional processing. Neuropsychopharmacology, 39, 1654–1663.

*18:研究は多数あるが、個々の出典は未確認

*19:https://d1wqtxts1xzle7.cloudfront.net/59097876/j.phrs.2012.04.00320190501-4068-a2r9a7.pdf?1556704525=&response-content-disposition=inline%3B+filename%3DKavalactones_and_the_endocannabinoid_sys.pdf&Expires=1602911148&Signature=CPR-GhdZ1ZJxtYr9HURt15icxGUHwrMZKwzWe5fdM2UKL1yCZhgrdkHB604vhR7LbPB4vXysl-Tf5vbuPIM2PryNGbvEInaWaCKcIpXD7TYDcXyCMChpekzFVkOXvffvjZgIMO2PL2-7WBXTgKcFMsIG0IDV3lVT5WKD8uFxMhuqdnWcgVOs2inpGRSbkv-iKzv1Kk3YnqCB4ilVqpSlPkaNP-TzNmNOXcUpkTpystNQCKYFzIAZV5jN1Q34ouUwzMuk~gz9Lsf~JaGC1RnV1iqjTfYpnba6thiJLFMJm9i4y4zyubm7v4DUE9GeOEFWMWlQVQHs9MUaTeoIALH8bA__&Key-Pair-Id=APKAJLOHF5GGSLRBV4ZA

*20:www.youtube.com

*21:引用している啓発サイトは「薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ」である。MDMAの有害な副作用としては、体温の上昇や脱水症状がある。ただし、インタビューの中でも説明したように、温度の高い場所で長時間汗をかいて踊り続けるという環境との相乗効果でも悪化する。また違法物質として流通するために生じる危険性については、別記事「〈ナチュラル〉と〈ケミカル〉の象徴論」を参照のこと。

*22:山善子 (2009).「今後検討すべき用語ー精神病、精神障害(がい)、病と症・薬と剤の使い分け、などー」『第105回日本精神神経学会総会抄録集』, 599-603.

カンナビノイドに類似する作用を持つ植物

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

アサ科の植物

カンナビノイドはアサ(Cannabis spp.)以外の植物、とくにアサ科の植物にも含まれているはずだが、まだあまり研究が進んでいない。

https://tu.ac.th/uploads/news-tu/images/june64/eng%20bu.jpg
Trema orientalisカンナビノイドが発見されたことを報じるタンマサート大学(タイ・バンコク)のプレスリリース[*1]
 

ウラジロエノキの花序[*2]

2021年には、タイで薬草として用いられてきたウラジロエノキ(Trema orientalis)の花序にΔ9-THCとCBNとCBDが発見された[*3]

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8126263/bin/peerj-09-11446-g001.jpg
アサ(A)とウラジロエノキ(B、C、D)のクロマトグラム[*4]

しかし、CBDについては、ほとんど検出されておらず、存在が疑わしいという批判もある[*5]

トリュフ

黒トリュフ(Tuber melanosporum)にアナンダミド(AEA)が含まれており、菌類やアサ(Cannabis spp.)などの植物が食欲増進作用(マンチ: munchies)を持つ物質を分泌し、胞子や種子を運ぶ捕食者との間で共進化が起こってきた可能性については「カンナビノイドと共進化」に書いた。

大麻に似た作用を持つ植物は他にも多数知られているが、まだ作用機序がよくわからないものが多い。


大麻の代用として使用される植物[*6]

大麻に含まれるカンナビノイドの中で、Δ-9THCなど、弱い精神展開作用を示す物質はCB1受容体のアゴニストとして機能しているが(大麻に含まれるカンナビノイドについては「大麻とカンナビノイド」を参照のこと)それ以外にもCB1受容体に作用し、Δ9-THCと似た精神活性作用を持つ物質は、他の多くの植物にも含まれている。

https://els-jbs-prod-cdn.jbs.elsevierhealth.com/cms/attachment/2119034689/2088317307/gr1.jpg
CB1受容体作動薬/拮抗薬を含む植物[*7]

カヴァ

カヴァ(Piper methysticum)の根に含まれる物質群カヴァラクトンは、カンナビノイドと性質が似ている。多数あるカヴァラクトンのうち、ヤンゴニンはCB1受容体のアゴニストだということが確認されており[*8]、Δ9-THCと似た精神活性作用を示す。


カヴァは高さ1mぐらいに成長する(ハワイ大学マノア校植物園、2004年9月)

南太平洋(メラネシアポリネシア)ではカヴァの根を水と混ぜた飲料(華和茶)が儀礼的に使用されてきたが、カヴァの文化と現代の世界への広まりについては別の記事、「カヴァの伝統と現在」に詳述した。

同じCB1受容体作動薬を含んでいても、大麻はインド文化の文脈では、とくに瞑想(ヨーガ)と組み合わせることにより、内面的探求を通じて普遍的な精神性を探求する薬草として使用されてきたのに対し、オセアニア文化の文脈では、カヴァは茶会を通じて社会的なつながりを確認するための共感薬(エンタクトゲン)(→「共感薬(エンタクトゲン)」)として用いられてきた。カヴァラクトンはまたGABA受容体にも作用するので、緊張を和らげる作用もある。礼儀作法を重んじ、客人を「おもてなし」するところなどは、日本の茶道とも非常によく似ている。

サルビア、マカ、ニンジン

サルビア・ディビノラムはメキシコ先住民マサテコが儀礼的に使用してきた薬草である。その有効成分であるサルビノリンAはCB1受容体に作用するだけでなく、κ-オピオイド受容体のアゴニストでもあり、解離性麻酔薬に似た作用を示す。

マサテコはシビレタケ(いわゆるマジック・マッシュルーム)を儀礼的に使用しつづけてきた民族であり(→「マサテコのシビレタケ儀礼」)サルビアやタバコも、キノコの儀礼の一環として用いられるのがふつうである。

マカアンデスで精力剤として使用されてきた薬草だが、その精神活性作用や性機能との関連については不詳である。

マカと亜鉛は組み合わせて売られることも多い

マカは精子の生産を助ける亜鉛を多く含んでおり、マカも亜鉛も日本ではサプリメントとしてコンビニでも売られている。

なお、ニンジンに含まれるファルカリノールは、逆にCB1受容体の拮抗薬である。

カンナ

クン・サンの治療儀礼

南部アフリカの先住民、サン(ブッシュマン)は、南東アフリカに起源を持つ現生人類の、狩猟採集民としての生活様式を残してきた民族として知られるが、同時に外部の文化からの影響を受け、その文化はつねに変容してきた。

https://64.media.tumblr.com/17bcd4794f2329325c17e4f675055395/tumblr_ptbmdxkKwl1rasnq9o1_1280.pnj
コイ・サン系民族の分布。黄緑色がクン(!Kung)の居住地[*9]

クン・サン(!kung san)においては、集団的なトランスダンスによる治療儀礼が行われる。踊り手の体内からは「ヌム(n/um)」という、沸騰するようなエネルギーが沸き起こり「キア(!kia)」というトランス状態に入るとされる。

「ヌム」はハタ・ヨーガにおける「クンダリニー(कुण्डलिनी, kuṇḍalinī)」と似た概念であり、インドのヨーガ文化がバング(大麻)とともに発展してきたことを考えると興味深い。


www.youtube.com
1950年代に撮影されたクン・サンのヒーリング・ダンス(n/um tchai)

訓練中のヒーラーは、グワ(gwa: 同定されていないが、大麻だという説もある)[*10]の根、ガイセ・ノル・ノル(gaise noru noru: Ferraria glutinosa)という植物を補助的に使っていたとされるが、その伝統は現在では失われている[*11][*12]。トランス状態を引き起こすという使用法からして、これらの植物にはサイケデリックス・カンナビノイドに類似する物質が含まれていると推測できる。

カンナの薬理学

サンの社会で伝統的に使用されてきた精神活性植物は他にも多数あった。カンナ(!k”wai:n / ganna / kanna / canna: Sceletium tortuosum)は、トランス儀礼には用いられなかったようだが、心を開き、穏やかにする薬草として知られてきた。

https://stringfixer.com/files/219987719.jpg
カンナ(Sceletium tortuosum[*13]

サンの社会では外部からもたらされた大麻が使用されてきたという記録もあり、カンナの精神作用と似ているので、カンナとともに摂取されたり、カンナの代用品として摂取されたりしてきたらしい[*14][*15]

https://www.researchgate.net/profile/Muhali-Jimoh/publication/351867974/figure/fig2/AS:1027599174213633@1622010143684/Geographical-map-indicating-the-distribution-of-Sceletium-in-South-Africa-redrawn-by.png
カンナの自生地(赤色)はアフリカ大陸の南部である[*16]

カンナは経口でも喫煙でも使用されるが、抽出した成分を経口摂取すると「明るく白い光のトンネルのさらに先にある光に向かって、川の流れのように移動し、甲高い音がともなう」という体験が起こることも報告されている。これは臨死体験の「トンネル体験」ともよく似ている。(臨死体験においては、脳内で生合成されるDMTの作用でビジョンが体験されるという説が有力だが、詳細は「臨死体験」を参照のこと。)

https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1038%2Fnpp.2013.183/MediaObjects/41386_2013_Article_BFnpp2013183_Fig1_HTML.jpg?as=webp
カンナの有効成分、メセンブレノール、メセンブレノン、メセンブリン、メセンブラノール[*17]

カンナに含まれるアルカロイドのうち、メセンブリンはCB1受容体に作用するが[*18][*19]、間接的にセロトニントランスポーターにおける5-HTの再取り込みを阻害するため、抗うつ薬として使われているSSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と同様の抗うつ・抗不安、薬物依存改善作用があるという[*20][*21][*22][*23]

https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1038%2Fnpp.2013.183/MediaObjects/41386_2013_Article_BFnpp2013183_Fig3_HTML.jpg?as=webp
カンナ(黒)とプラセボ(灰)を摂取した場合の、恐怖刺激(左)とニュートラル刺激(右)に対する扁桃体の反応[*24]

ヒトの脳画像を用いて、カンナは扁桃体の活動を抑制して抗不安作用を示すというメカニズムも解明されつつあり[*25]、「Zembrin」という商品名でサプリメントとしても流通している。

www.zembrin.com
Zembinの公式サイト[*26]

ナツメグ

スパイスとしても一般的なナツメグMyristica fragrans)はメスカリンに似たミリスチシンなどの物質が含まれている。弱いサイケデリック作用があることから、「マリファナの二流の代用品」とも言われるが、ミリスチシンが内因性カンナビノイドであるアナンダミド(AEA)の分泌を促すという研究もある[*27]

Amazon.co.jpで売られているナツメグ

京都大学薬学部の伊藤美千穂らは、ナツメグ精油にはカンナビノイドによる「マンチ」に似た食欲増進作用があることを発見し、人間を対象とした臨床研究を進めている[*28]


補遺:コイサン諸語の吸着音

コイサン語は人類でもっとも古い言語の名残を残しているとされるが、吸着音を含む子音の体系を持っており、IPAでの表記法以外に、「/」や「!」など、半角文字による略記法が用いられることが多い。


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コイサン語における5個の吸着音の発音

「ちぇっ」と舌打ちするような発音だが、これは聞きながら練習しないと体得できない。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(研究用のメモであり網羅的な内容ではありません。間違いや不足しているところなどをご指摘いただければ幸いです。)

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  • CE2021/04/26 JST 作成
  • CE2022/09/22 JST 最終更新

蛭川立

*1:Thammasat University (2021). The World’s First Discovery on Cannabis Compounds Found in “Trema Orientalis (L.) Blume”(2022/07/08 JST 最終閲覧)

*2:Flowering Plant Families, UH Botany

*3:Tiwtawat Napiroon, Keerati Tanruean, Pisit Poolprasert, Markus Bacher, Henrik Balslev, Manop Poopath, and Wichai Santimaleeworagun (2021). Cannabinoids from inflorescences fractions of Trema orientalis (L.) Blume (Cannabaceae) against human pathogenic bacteria. PeerJ, 9, e11446, doi: 10.7717/peerj.11446

*4:Tiwtawat Napiroon, Keerati Tanruean, Pisit Poolprasert, Markus Bacher, Henrik Balslev, Manop Poopath, and Wichai Santimaleeworagun (2021). Cannabinoids from inflorescences fractions of Trema orientalis (L.) Blume (Cannabaceae) against human pathogenic bacteria. PeerJ, 9, e11446, doi: 10.7717/peerj.11446

*5:Giovanni Appendino, Orazio Taglialatela-Scafati, and Eduardo Muñoz (2022). Cannabidiol (CBD) From Non-Cannabis Plants: Myth or Reality?. Natural Product Communications, 17(5), doi:10.1177/1934578X221098843

*6:シュルテス, R. E.・ホフマン, A.・レッチュ, C. 鈴木立子(訳)(2007).『図説快楽植物大全』 東洋書林, 98. (Schultes, R. E., Hofmann, A., Raetsch, C. (2001). Plants of the Gods. Inner Traditions.)

*7:Ethan B Russo (2016). Beyond Cannabis: Plants and the Endocannabinoid System. Trends in Pharmacological Sciences, 37(7), doi:10.1016/j.tips.2016.04.005

*8:Ligresti, A., Villano, R., Allarà, M., Ujváry, I., Di Marzo, V. (2012). Kavalactones and the endocannabinoid system: The plant-derived yangonin is a novel CB1 receptor ligand. Pharmacological Research. 66 (2), 163–169. doi:10.1016/j.phrs.2012.04.003. PMID 22525682.

*9:University of Cape Town (2019). 「Modern-day distribution of speakers of Khoisan languages in Southern and East Africa.」(孫引き)(2022/06/20 JST 最終閲覧)

*10:ショスタック, M. 麻生九美(訳)(1994).『ニサ―カラハリの女の物語り―』リブロポート. (Shostak, M. (1981). Nisa: The Life and Words of a !Kung Woman. Harvard University Press.)

*11:カッツ, R. 永沢 哲・田野尻哲郎・稲葉大輔(訳)(2012).『〈癒し〉のダンス 「変容した意識」のフィールドワーク』講談社, 423-429. (Katz, R. (1984). Boiling Energy: Community Healing among the Kalahari Kung. Harvard University Press.)

[asin:B09YHW31JG:detail]

*12:Peter Mitchell and Andrew Hudson (2004). Psychoactive plants and southern African hunter-gatherers: a review of the evidence. Southern African Humanities, 16(1), 39–57.

*13:tortuosum|多肉植物図鑑」『stringfixer』(2022/06/23 JST 最終閲覧)

*14:Peter Mitchell and Andrew Hudson (2004). Psychoactive plants and southern African hunter-gatherers: a review of the evidence. Southern African Humanities, 16(1), 39–57.

*15:アフリカでは大麻はインド由来の言語でbhangと呼ばれることが多く、kannaの語源とは関係がなさそうである。なお赤い花を愛でる園芸用の植物「カンナ(canna)」はラテン語で「葦」という意味である。

*16:Richard James Faber, Charles Petrus Laubscher, and Muhali Jimoh (2021). The Importance of Sceletium tortuosum (L.) N.E. Brown and Its Viability as a Traditional African Medicinal Plant. In Pharmacognosy - Medicinal Plants, IntechOpen, 1-12.

*17:David Terburg, Supriya Syal, Lisa A. Rosenberger, Sarah Heany, Nicole Phillips, Nigel Gericke, Dan J. Stein, and Jack van Honk (2013). Acute Effects of Sceletium tortuosum (Zembrin), a Dual 5-HT Reuptake and PDE4 Inhibitor, in the Human Amygdala and its Connection to the Hypothalamus. Neuropsychopharmacology, 38, 2708–2716.

*18:Andrea Lubbe, Alfi Khatib, Nancy Dewi Yuliana, and Selamat Jinap (2010). Cannabinoid CB1 receptor binding and acetylcholinesterase inhibitory activity of Sceletium tortuosum L.. International Food Research Journal, 17(2), 349-55.

*19:Nigel Gericke and Alvaro Viljoen (2008). Sceletium-A review update. Journal of Ethnopharmacology, 119(3), 653-63.

*20:T. L. Olatunji, F. Siebert, A. E. Adetunji, B. H. Harvey, J. Gericke, J. H. Hamman, and F. Van der Kooy (2022). Sceletium tortuosum: A review on its phytochemistry, pharmacokinetics, biological, pre-clinical and clinical activities. Journal of Ethnopharmacology, 287, 114712. doi:10.1016/j.jep.2021.114712(この2022年4月の論文が記事執筆の時点での臨床研究の最新のレビューである)

*21:Felix Makolo, Alvaro Viljoen, and Clinton G. L. Veale (2019). Mesembrine: The archetypal psycho-active Sceletium alkaloid. Phytochemistry, 166, 112061. doi:10.1016/j.phytochem.2019.112061.

*22:Dirk D. Coetzee, Víctor López, and Carine Smith (2016). High-mesembrine Sceletium extract (Trimesemine™) is a monoamine releasing agent, rather than only a selective serotonin reuptake inhibitor. Journal of Ethnopharmacology, 177, 111-6.

*23:Felix Makolo, Alvaro Viljoen, and Clinton G. L. Veale (2019). Mesembrine: The archetypal psycho-active Sceletium alkaloid. Phytochemistry, 166, 112061. doi:10.1016/j.phytochem.2019.112061.

*24:David Terburg, Supriya Syal, Lisa A. Rosenberger, Sarah Heany, Nicole Phillips, Nigel Gericke, Dan J. Stein, and Jack van Honk (2013). Acute Effects of Sceletium tortuosum (Zembrin), a Dual 5-HT Reuptake and PDE4 Inhibitor, in the Human Amygdala and its Connection to the Hypothalamus. Neuropsychopharmacology, 38, 2708–2716.

*25:David Terburg, Supriya Syal, Lisa A. Rosenberger, Sarah Heany, Nicole Phillips, Nigel Gericke, Dan J. Stein, and Jack van Honk (2013). Acute Effects of Sceletium tortuosum (Zembrin), a Dual 5-HT Reuptake and PDE4 Inhibitor, in the Human Amygdala and its Connection to the Hypothalamus. Neuropsychopharmacology, 38, 2708–2716.

*26:Zembrin』(2022/06/23 JST 最終閲覧)

*27:Adrian Devitt-Lee (2019). 「ナツメグに含まれる化学成分がアナンダミドを増やす」『 Project CBD』(2021/06/19 JST 最終閲覧)(孫引き)

*28:Kakuyou Ogawa and Michiho Ito (2019). Appetite-enhancing effects of nutmeg oil and structure–activity relationship of habituation to phenylpropanoids. Journal of Natural Medicines, 73(3), 513-522.

人面把手付土器

顔面把手付土器ともいう。深鉢のふちに、同時代の土偶と同じような顔がついている。

http://www.isc.meiji.ac.jp/~hirukawa/anthropology/area/ne_asia/Jomon/bowl_face1_M.jpg

人面把手付土器(撮影:蛭川立
縄文時代中期前半(3000-2500 BCE)長野県梨ノ木遺跡出土[*1]

人面把手付土器も意図的に壊されたようにばらばらになっていることが多く、土偶と似たような機能を持っていた可能性がある。



記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2022/03/20 JST 作成
CE2022/03/20 JST 最終更新
蛭川立

てんかんの検査/内部視覚


井の頭公園の木漏れ日
Office Yule(動画閲覧注意:明滅する光が脳を刺激します)

睡眠障害の検査

2018年6月。晴和病院睡眠障害の検査のため脳波の検査を二回行った。

終夜睡眠ポリグラフ検査では睡眠時無呼吸が治っていたのがわかったが(睡眠時無呼吸は2021年にまた悪化した)その他に、周期性四肢運動障害が見つかった。血液中の鉄分が低めだったが、フェリチンは十分なので、治療するほどのことはないという。

てんかんの検査

大学生のころ、徹夜明けに全身のけいれん発作を起こし、意識を失ったことが二回あった。その後、脳波の検査を行ったが、てんかんに特有の脳波はみられなかった。たんに徹夜で脳が疲れ果てていたらしい。


てんかんの発作は疲労や寝不足と木漏れ日などの光刺激によって起こりやすい[*1]

睡眠の検査のついでに、主治医にお願いして、もう一度、三十年ぶりにてんかんの検査も行った。正直なところ、好奇心のほうが強かった。

「うとうと」する、過呼吸、光刺激の三条件で、脳波を計測する。点滅する光の周期を3Hz〜30Hzまで、段階的に早めていく。白い光が点滅しているだけなのに、瞼の裏には視野いっぱいに水色の格子模様が広がる。


検査のときに見えたイメージをパステルシャインアートで素描

光の点滅が早くなるにつれて、光のタイルは水色からすみれ色に変わり、格子模様の間にはピンク色の光斑も踊り始めた。まったく圧倒されるような色彩の演舞であった。


パステルだと淡い色彩しか出せないが、検査のときにの色彩はもっとヴィヴィッドだった

点滅する光を見ていると、恍惚とした色彩が展開してくるという体験は、以前からあることで、それはいっしゅの美的体験ではあるのだが、なにかの病気の兆候であっては困る。だからもう一度調べてみようと思ったのである。

そのことは検査技師にも医者にも話してみたが、脳波には異常はないという。睡眠に異常があることはわかっているが、それ以上のことはわからないままである。



検査担当の伊東若子先生に聞いてみた。

医者「てんかんであれば、脳波に特有の揺れが出ますが、そんなことはないですよ」
患者「てんかんではないのなら何の病気ですか」
医者「病気じゃないですよ」
患者「病気ではないのなら何ですか」
医者「才能ですね」

主治医の上瀬大樹先生にも訊いてみた。

患者「検査中に同じような訴えをする患者さんはいないのですか」
医者「いません」
患者「本当ですか?たくさんの人が検査を受けていますよね?」
医者「本当です」
患者「じゃあ草間さんはどうですか」
医者「あのひとは神様の生まれ変わりだから」

上瀬先生は草間彌生さんの主治医だったこともあるそうなのだが、どうやら彼女は、ふだんから視野に水玉模様が見えているのだという。



付記

1980年代にはシンクロエナジャイザーという機械があったが、いまは「ENTOPTIC(内部視覚)」というスマホアプリがあるという。

meetia.net


www.youtube.com

スマホ用のVRゴーグルを使う。光ではなく音で誘導する方式のようだが(個人的には)この映像はてんかんの検査や入眠時幻覚に似ている。



記述の自己評価 ★★☆☆☆
CE2018/06/16 JST 作成
CE2022/11/22 JST 最終更新
蛭川立