Cannabis and Cannabinoids
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植物としてのオオアサ
大麻、つまり[オオ]アサは、バラ目アサ科の一年生草本である。「má」という読み方は、中国語由来であり「麻」という漢字は、屋根の下にアサが二本生えているさまをあらわす象形文字である。
アサ(Cannabis sativa)[*2]
カンナビノイド
大麻(アサ)の有効成分である物質群はカンナビノイド(cannabinoid)と総称されている。
大麻には100種類以上のカンナビノイドが含まれているが、とくにサイケデリックスに似た精神活性作用を引き起こす物質としてはテトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC: THC: tetrahydrocannabinol)が、また向精神作用が少なく医療用としての使用がもっとも普及してきたカンナビジオール(CBD: cannabidiol)などがある。
カンナビノイドは体内のカンナビノイド受容体、CB1(主に中枢)・CB2(主に末梢)に作用する。
CB1受容体・CB2受容体の分布[*5]
CB1受容体のアゴニストとして精神活性作用を引き起こすのは主にTHC(テトラヒドロカンナビノール)である。
CBDの流行
精神活性作用をほとんど持たないCBD(カンナビジオール)は法的に規制されておらず、サプリメントとして広く流通するようになってきたが、難治性てんかんに有効だとして医薬品(エピディオレックス)としての治験も進んでいる。
CBDが注目されるいっぽうで、「多幸感」という「副作用」があるTHCが、逆にてんかんの発作を誘発する有害な薬物として忌避されるようにもなってきている。幸多きことを罪悪とする精神論の一種であろう。
THCと「脱法カンナビノイド」
THCは、典型的な精神作用を持つカンナビノイドであり、おもにΔ9-THCとΔ8-THCがある。
Δ9-THCは位置番号9位に二重結合があるが、Δ8-THCは位置番号8位に二重結合がある。
ところが、Δ9-THCもΔ8-THCも、麻薬および向精神薬取締法で規制されている。いずれの分子も、1個残った二重結合も水素化してしまうと、水素はさらに2個増えて6個になる。
これが「hexa-(6)hydro-(水素)cannabin(大麻抽出物)-ol(ヒドロキシ基)」、つまり、ヘキサヒドロカンナビノール(HHC)である。
Δ9-THCの向精神作用を1.0とした場合、Δ8-THCは0.5、HHCは0.8、CBNは0.1だという評価もある[*10]
HHCは麻薬及び向精神薬取締法では規制されていないので、THCのような精神作用を持つ合法的な物質として流通していたが、日本では2022年の3月に薬機法によって指定薬物として規制された。
9-Nor-9β-hydroxyhexahydrocannabinol(俗称「9β」、HHCの9位が-OHに置換された物質)
その規制をかいくぐるように、THCやHHCに酢酸(CH3COOH)を作用させた「THCO」や「HHCO」という物質が流通するようになってきた。
THCOとHHCO
しかし俗に「O系」と呼ばれるこれらの物質は、加熱するとケテン(CH2=CO)が発生し肺を傷めるという健康被害の可能性が指摘されている。また精神作用もTHC以上に強いともいわれており、これらも規制される可能性が高い。そうするとまた分子構造をすこし変えた、法の網をかいくぐる、さらに正体不明の物質が流通するという「いたちごっこ」が繰り返される可能性が懸念されている。
また、THCと「尻尾(アルキル基)」の長さが違うカンナビノイドの流通と規制も続いている。
THCV(TetraHydroCannabiVarin)
THCB(TetraHydroCannaButol)
THC(TetraHydroCannabinol)
THCH(TetraHydroCannabiHexol)
THCP(TetraHydroCannabiPhorol)
アルキル基が長いほどCB1受容体と強く結合するため、精神作用も強い傾向がある。上図のうち、THCはすでに麻薬として規制されており、THCPはHHCと同時期、2022年3月に指定薬物として薬機法で規制された。
とくに日本でこうした「脱法カンナビノイド」のいたちごっこが起こりやすいのは、大麻草やTHCの所持が厳罰化されたままだからでもある。
内因性カンナビノイド
人間の脳の中にも、カンナビノイドと同じ働きをする神経伝達物質が存在する。植物の体内で見つかった精神活性物質と同じ受容体に作用する物質が動物の脳内にも発見されるというのは、オピオイドと内因性オピオイドなどでも同じである。(DMTと内因性DMTはまったく同じ物質である。)
1992年には、カンナビノイド受容体を通じて機能する神経伝達物質が発見され、アナンダミド(anandamide)と命名された[*11]。インド哲学で超越的至福を意味する「アーナンダ(आनन्द ānanda)[*12]」と「アミド」の合成語である。アナンダミドは物質名としてはAEA(N-アラキドノイルエタノールアミド)とも呼ばれる。
AEA(アナンダミド)とΔ-9THCの立体構造[*13]
アナンダミド(AEA)と大麻に含まれるカンナビノイドの構造式は一見すると同じようには見えないが、その立体構造には類似性がある。
その後、内因性カンナビノイドとしては、2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)が発見された。
カンナビノイドと共進化
内因性カンナビノイドとして脳内に発見されたアナンダミドは、その後、黒トリュフ(Tuber melanosporum)の子実体にも含まれていることが発見された[*16]。
黒トリュフの体内におけるアナンダミドの機能は不明だが、トリュフの匂いはイノシシのオスのフェロモンに似ており、イノシシのメスを誘引するという。アナンダミド(AEA)も同様に、捕食者であるイノシシなどに食べられ、報酬を与え、そして胞子を拡散させるために機能しているという説もある[*17]。
アサの雌株が種子に近い部位でTHCなどを高濃度で分泌し、捕食者の食欲を増進させ(俗にいう「マンチ(munchies)」)[*18]、味覚などの感覚を増大させるのと同様の共進化だと考えられる。
アサ(大麻)の起源は2800万年前(古第三紀漸新世)だとされるが(→「アサ(大麻)の起源と伝播」)、黒トリュフの起源は1億5000万年(中生代ジュラ紀)まで遡れるので、カンナビノイドを介した動植物の共進化は、アサよりも前にトリュフと捕食者との間で始まっていたのかもしれない[*19]。
記述の自己評価 ★★★☆☆
(授業のための覚書を書き足していくうちに、かなり長くなってしまったので、それぞれ切り出して別記事として独立させます。大麻、オオアサ、麻、アサなど、表記が揺れているが、これは文脈によって使い分けるしかありません。大麻について肯定的な引用が多くなってしまったかもしれませんが、危険性などについても信頼できる情報があれば教えていただければ幸いです。)
*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。
*2:「アサ」『Wikipedia』(2021/06/02 JST 最終閲覧)
*3:CBDfxJapan (2021).「カンナビノイドとは?- CBD、CBG、CBN、CBC」(2022/06/17 JST 最終閲覧)
*4:Farahnaz Fathordoobady, Anika Singh, David D Kitts, and Anubhav Pratap-Singh (2019). Hemp ( Cannabis Sativa L.) Extract: Anti-Microbial Properties, Methods of Extraction, and Potential Oral Delivery. Food Reviews International, 35(7), 664-684.
*5:FundaciónCANNA.「The Endocannabinoid System」(2022/06/17 JST 最終閲覧)
*6:福田一典(銀座東京クリニック院長)(2015).「421)難治性てんかんとカンナビジオール」『「漢方がん治療」を考える』(2021/06/02 JST 最終閲覧)
*7:「delta-8-Tetrahydrocannabinol」『Wikiwand』(2022/08/30 JST 最終閲覧)
*8:「delta-8-Tetrahydrocannabinol」『Wikiwand』(2022/08/30 JST 最終閲覧)
*9:アッキー (2022).「HHCとは? 話題のカンナビノイド ヘキサヒドロカンナビノールを解説」『VapeMania』(2022/08/30 JST 最終閲覧)
*10:Daily CBD (2022). What is HHC? Hydrogenated Cannabinoids & Apocalypse-Ready THC (2021/10/22 JST 最終閲覧)
*11:William A. Devane, Lumir Hanuš, Aviva Breuer, Roger G. Pertwee, Lesley A. Stevenson, Graeme Griffin, Dan Gibson, Asher Mandelbaum, Alexander Etinger, and Raphael Mechoulam. (1992). Isolation and Structure of a Brain Constituent That Binds to the Cannabinoid Receptor. Science, 258, 1946-1949.
*12:古代インドのヴェーダーンダ学派では、存在(सत् sat サット)+意識(चित् cit チット)+至福(आनन्द ānanda アーナンダ)= सच्चिदानंद saccidānanda サッチッターナンダという三位一体の基本概念が意識の本質だと考える。
*13:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z
*14:「エンドカンナビノイド」『脳科学辞典』(2022/06/17 JST 最終閲覧)(孫引き)
*15:「Tuber melanosporum」『Wikipedia』(2021/06/13 JST 最終閲覧)
*16:Giovanni Pacioni, Cinzia Rapino, Osvaldo Zarivi, Anastasia Falconi, Marco Leonardi, Natalia Battista, Sabrina Colafarina, Manuel Sergi, Antonella Bonfigli, Michele Miranda, Daniela Barsacchi, and Mauro Maccarrone (2015). Truffles contain endocannabinoid metabolic enzymes and anandamide. Phytochemistry, 110, 104-110.
*17:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z
*18:Marco Koch, Luis Varela, Jae Geun Kim, Jung Dae Kim, Francisco Hernández-Nuño, Stephanie E. Simonds, Carlos M. Castorena, Claudia R. Vianna, Joel K. Elmquist, Yury M. Morozov, Pasko Rakic, Ingo Bechmann, Michael A. Cowley, Klara Szigeti-Buck, Marcelo O. Dietrich, Xiao-Bing Gao, Sabrina Diano, and Tamas L. Horvath (2015). Hypothalamic POMC neurons promote cannabinoid-induced feeding. Nature, 519(7541), 45-50.
*19:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z