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武田薬品の麦角アルカロイド研究
東京帝國大學農芸化学科を卒業した阿部又三が武田長兵衛商店研究部(後の武田薬品研究所)に就職し、麦角アルカロイドの研究を始めた[*2]のが1938年である。
同年、スイスのサンド(現・ノバルティス)社ではアルベルト・ホフマンがLSD-25の合成に成功ていた。しかし、LSD-25は片頭痛治療薬や陣痛促進剤の一環として開発されたものであって、その向精神作用が知られることなく、世界は戦争に巻き込まれていった。
阿部の研究テーマは上司の勧めだったらしいから、武田研究所はこれ以前から麦角アルカロイドに関心を持っていたらしい。「産めよ増やせよ」という時代背景があった、と回想されている。
武田薬品の麦角研究は世界的にみても先進的で、逆に欧米での研究を刺激したとも評価されており[*3]、阿部又三とアルベルト・ホフマンの間には私信のやり取りもあった[*4][*5]。
山城祥二こと大橋力も阿部又三とともに麦角アルカロイドの生合成経路の研究を行っている[*6]。大橋は1975年に博士論文「麦角アルカロイドの生合成に関する研究」[*7]を発表した。
京都大学でのLSD研究
合成から5年後、1943年4月16日ににセレンディピティが起こる。ホフマンが偶然LSDを摂取してしまい、その向精神作用を発見した。ホフマンが帰宅中の自転車でその効果を確認したのが4月19日である[*8]。
その後、武田研究所でも麦角アルカロイドの向精神作用の研究が行われた[*9]。
1950年代後半になって、ザンド社からLSDのサンプルが京都大学医学部に送られ、その後、加藤清らが精神医学的な研究を深めていった[*10][*11]。木村敏の時間論における〈祭〉のメタファーも、LSDの自己実験によって着想を得たものである[*12]。
じつは、加藤はそれ以前にからメスカリンを独自に合成して実験を進めていたという。ただし、合成した物質がメスカリンかどうかわからないまま、ボランティアに飲ませて「官能検査」をしていたという[*13]。戦中戦後の混乱期での出来事である。
1957年には、武田薬品薬用植物園のヤマハギに含まれるDMTが子宮収縮作用を持つことが発見される[*14]が、この時点ではDMTの向精神作用については触れられていない。
筆頭著者の後藤實は戦後の日本で広く漢方薬の研究につとめ、また後進を育成した人物である。
精神展開薬研究に関連する研究者
- 佐保田鶴治(1899-1986)
- アルベルト・ホフマン(1906-2008)
- 阿部又三(1909-1992)
- 加藤清(1921-2013)
- 藤岡喜愛(1924-1991)
- 河合隼雄(1928-2007)
- 藤縄昭(1928-2013)
- 木村敏(1931-2021)
- 大橋力(1933-)
記述の自己評価 ★★★☆☆
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CE2021/07/23 JST 作成
CE2023/01/06 JST 最終更新
蛭川立
*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。
*2:阿部又三 (1987).「麦角菌研究の思い出」『日本農芸化学会誌臨時増刊号』61, 28-30.
*3:日本学士院賞 (1971).「農学博士阿部又三君の『麦角菌による麦角アルカロイド類の生産に関する研究』に対する授賞審査要旨」
*4:大和谷三郎・阿部又三 (1959).「麦角菌に関する研究(第30報)Elymoclavineといわゆるペプタイド型麦角アルカロイドとの化学的関連性」『日本農芸化学会誌』33(12), 1036-1039.
*5:阿部又三・大和谷三郎・山野藤吾・楠本貢 (1959).「麦角菌に関する研究(第31報)ハマニンニク型麦角菌の培養からPenniclavineおよび1種の新水溶性アルカロイドTriseclavineの分離」『日本農芸化学会誌』33(12), 1039-1043.
*6:大橋力・青木俊三・阿部又三 (1970).「菌類によるアルカロイドおよび関連物質の生産(第5報)代表的な麦角アルカロイド間の生成上の関係について」『日本農芸化学会誌』44(11), 527-531.
*7:大橋力 (1975).「麦角アルカロイドの生合成に関する研究」
*8:https://www.amazon.co.jp/LSD%E2%80%95%E5%B9%BB%E6%83%B3%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%97%85-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%83%E3%83%95%E3%83%9E%E3%83%B3/dp/4788501821/www.amazon.co.jp
*9:油井亨・竹尾雄児 (1962).「Clavine系麦角アルカロイドの薬理学的研究(Ⅰ)諸種動物における一般症状とこれに及ぼす2, 3中枢抑制剤の影響」『日本薬理学雑誌』58(4), 386-393.
*10:塚崎直樹 (2016).「加藤清とトランスパーソナル精神医学」『トランスパーソナル心理学/精神医学』15(1), 14-22.
*11:加藤清・藤繩昭・篠原大典 (1959).『LSD-25による精神障害—特にLSD酩酊体験の深層心理学的意義について』
*12:https://www.amazon.co.jp/%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%A8%E8%87%AA%E5%B7%B1-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-674-%E6%9C%A8%E6%9D%91-%E6%95%8F/dp/4121006747www.amazon.co.jp
*13:加藤清・上野圭一 (1998).『この世とあの世の風通し―精神科医 加藤清は語る―』春秋社, 62-63.
*14:後藤實・野口友昭・渡邊武 (1958). 「有用天然物成分の研究 第17報 植物中の子宮収縮成分の研究 その 2 ヤマハギ中の子宮収縮成分について」『YAKUGAKU ZASSHI』78, 464-467.