蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

フェネチルアミン(PEA)

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

フェネチルアミン (phenethylamine) は、フェニルエチルアミン (phenylethylamine)ともいう。略してPEA。

「恋愛ホルモン」

PEAは脳内で生合成され、ドーパミンノルアドレナリンのようなカテコールアミン神経伝達物質と同様に機能するらしい。

happymail.co.jp

通俗的には「恋愛ホルモン」とも呼ばれ、恋する女は美しくなる等々、随所に魅惑的な言説が流布している。そしてまた、恋は冷めやすく、長続きするのは愛である、といった人生の知恵も語られている。

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カカオにはPEAが含まれており、バレンタインデーにチョコレートを贈るのは、恋の魔法である、などとも語られる。

カカオは中米の先住民が儀礼的に使用してきた飲料であり、内因性カンナビノイドであるアーナンダミドも含まれている。伝統的にはカカオには砂糖を入れることはなかったが、商品化されたチョコレートの最大の魔力は砂糖かもしれない[*2]

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Fenyloetyloamina.svg/2880px-Fenyloetyloamina.svg.png フェネチルアミン[*3]

フェネチルアミン誘導体には、メタンフェタミンのような刺激薬も含まれるが、不思議なことに、トリプタミン誘導体のサイケデリックスに似た作用を持つ、MDMAやMDPEAなどのエンタクトゲン(共感薬)(ブログ内記事「エンタクトゲン」を参照のこと)も含まれる。

フェネチルアミン誘導体の精神作用の自己実験を続けたシュルギンは、PEAは経口摂取しても「効果は感じられない」と述べている[*4]。消化管内ですみやかに分解されるからである。しかし、PsychonautWikiには、PEAは「MAOIと組み合わせて摂取することで、MDMAと同様、強いエンタクトゲンとしての効果を引き起こしうる」と書かれている[*5]

「BrainON」

ラン藻の一種であるAphanizomenon flos-aquaeから抽出したPEAの粉末がサプリとして流通している。

E3Live社製「BrainON」

「BrainON」は、PEAと、シアノバクテリア(ラン藻)光合成色素であるフィコシアニンの粉末であり、深い紫紺色がある。

スティックに小分けされたBrainONの粉末。AMALA・河合真由美(公式サイト)さんからお譲りいただいたもの[*6]

日本語のシールの下に、英文で成分が表記されている。

英語をカタカナ読みした「ブルーグリーンアルジー」というのは、ようするに「ラン藻」のことである。真核生物の藻類と区別し、原核生物であることを強調するために、シアノバクテリアと呼ぶことも多い。

水を注いでかき回すと、泡の立ち具合がアオコか水の華かという風情になる。

スティック一本分を一服すると、体内から温泉が湧き出てくるような、心地よい熱感を感じ、それが何時間も続く[*7]。精神刺激薬のようでもあるが、柔らかな陶酔感もあり、サイケデリックスのような内省的なところもあり、そして何時間も突き上げられるような感覚は、MAOIを含むアヤワスカにさえ似ている。

抗うつ作用

PEA自体は経口摂取してもMAOですみやかに分解されてしまうので、PEAのサプリメントを飲んでも、じっさいにはあまり効果がないはずである。しかし、PEAはセレギリンなどのMAO-B阻害薬(ドーパミンやチラミンなどの分解を阻害するが、ノルアドレナリンセロトニンなどの分解は阻害しない)と組み合わせると、分解が抑えられ、MAO-B阻害薬の抗うつ作用を増強するという[*8]

このBrainONを服用すると、なぜ数時間も効果が継続するのだろうか。PEAとともに濃縮されているフィコシアニンがMAO-B阻害薬としての作用も持つという、驚くべき仮説がある[*9][*10]。もしそうなら、BrainONは、同じ植物の成分の組合せによるフェネチルアミン・アヤワスカだということになる(ブログ内記事「アヤワスカ茶の生化学」を参照のこと)。

アノトキシン(藍藻毒)

ラン藻はシアノトキシン(藍藻毒)と総称される毒素を生産する。とくに富栄養湖で大量発生するアオコが水生動物に致命的な害を与えることはよく知られた問題である。

世界中の淡水域・汽水域に生息するAphanizomenon flos-aquaeもまたアオコを形成するラン藻であり、神経毒や肝毒性物質を生産する。

サプリメントとしては、オレゴン州アッパー・クラマス湖を産地とするものが世界的に多く流通している。

アッパー・クラマス湖

この湖で収穫されるAphanizomenon flos-aquaeミクロシスチンなどのシアノトキシンを生産しており、サプリメントにも混入している可能性については、公的な注意喚起がなされている[*11][*12]

アッパー・クラマス湖に生育するAphanizomenon flos-aquaeはシアノトキシンを生産しない系統であるとか、サプリメントに混入しているのは他種に由来する毒素だという議論がある。いっぽう、毒素を摂取するリスクをおかしてでも健康食品として高額で購入し摂取する意味があるのか、サプリメント会社の過剰宣伝ではないか、等々の議論が続き、Wikipedia上でも編集論争が起こっている[*13]

追記

サプリメントにおける論争には、しばしば自然なもの、天然なものは健康によい、という象徴論が混入し、やがて疑似科学論争に発展していく。科学的なエビデンス自然主義的な象徴論の不毛な論争は避けなければならない(ブログ内記事「〈ナチュラル〉と〈ケミカル〉の象徴論」を参照のこと)。

PEAには共感作用があるかもしれないし、抗うつ作用があるかもしれない。類似する作用を持つ物質としては、たとえばMDMAがある。「合成麻薬」などといって、ただ規制するのではなく、きちんと研究して有効活用できるようにしたいものである。


記述の自己評価 ★★★☆☆ (つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)


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CE2022/05/02 JST 作成
CE2022/05/08 JST 最終更新
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