基礎物理定数と自然単位系のことは大学に入学したころから考えていたことで、そのことは『精神の星座』の電子版の後書きにも書いた。
物理定数の基本を遡ることは、自然法則の基礎を集約することでもあり、物理学の基本を集約することでもある。
一昨年、たまたまハメロフ先生と出会い、量子重力について議論したところで、また頭を整理するために、物理学の成り立ちと物理定数について、久しぶりに考えなおした。
この記事は、以下の、量子重力理論について書いた記事の導入部分を切り出して独立させたものである。
hirukawa.hateblo.jp
古典力学
物質間に働く4種類の相互作用のうち、重力と電磁気力はいずれも逆二乗則にしたがうので、式も似ている。
電磁気のほうは単純ではない。電場と磁場では同じ方程式が成り立ち、対称的なのに、磁気単極子は存在しないのである。このため真空の透磁率μ0ではなく真空の誘電率が基礎物理定数とされることが多い。
すこし気持ちが悪いが、電気と磁気の対称性の破れは自然法則の基本問題である。
逆二乗則
なお、逆二乗則というのは、場が三次元空間にあるからで、半径rの球体をイメージするとわかりやすい。
三次元空間における逆二乗則[*1]
比例定数をわざわざという形にするのは、球の面積がだからである。
量子力学
素粒子論
物質を構成するミクロな世界が解明され、電子、陽子、中性子という3個の素粒子が原子を構成することが明らかになった。
素粒子の電荷はかならず電気素量eの整数倍である。だから、ε0とμ0のどちらかを選ぶのではなく、どちらも捨てて、eを基礎物理定数とするのがシンプルである。
質量のほうはどうかというと、電気のように「素量」がない。質量に素量は存在しないのである。
陽子と中性子の質量はだいたい同じで、電子の質量は無視できるほど小さい。原子量や分子量をあらわすときには、だいたい陽子と中性子の質量を1としてあらわす。正確に計算するためには炭素の原子核のの値を使うが、これは便宜的な計算にすぎない。
絶対時空の留保
現代物理学の二大理論、量子力学と相対性理論は、時空や実在を公理とせず、「観測」という操作を組み込んでいる点で、古典力学とは異なる。
ニュートンの『プリンシピア』は絶対時空を「公理」としたが[*2]、カントは時空を「感性の形式」[*3]にすぎないとした。
時間や空間は認識するがわが作っている仮の枠組みなのだが、現代物理学はその点を自覚するようになった。
不確定性原理
真っ暗な部屋の中に物があっても見えない。手探りで探すと、触ると場所がずれてしまう。懐中電灯で照らせば明るくなるが、見るためには懐中電灯で照らさなければならない。照らすということは、光子をぶつけて、跳ね返ってくる光子を知覚することである。
それゆえ、物体の位置や運動は正確には観測できない。物体が重いほど影響を受けにくく、物体が早く動いているほど影響を受けにくい。
物体の運動量は、慣性質量(重さ)と速度の積であらわされる。そして、運動量と位置は反比例する。いいかえれば、[位置][運動量]=「これ以上小さくできない有限の数」となる。この「これ以上小さくできない数」は定数で、プランク定数と呼ばれる。
これがハイゼンベルクの不確定性原理である。プランク定数が無視できるほど小さければ古典力学による近似ができるが、素粒子レベルでは無視できない。
次元解析を行うと、プランク定数の次元は
[位置]×[運動量]
となる。
これを、空間内での[位置]ではなく、時間軸上の[時間]との関係でみると
[エネルギー]×[時間]
となるから、不確定性原理の不等式は
と変形することもできる。
相対性理論
特殊相対性理論
真っ暗な部屋で懐中電灯を照らすということは、光子を放射するということだから、光子がぶつかって戻ってくるまでには有限の時間がかかる。
光子は質量が0なのだから、速度は無限大なのかというと、そうではない。速度は有限である。なぜ有限なのかという理由は、ここでは敢えて触れないで曖昧にしておく。cは真空中の光速度だが、光子という素粒子の性質というよりは、自然界の最高制限速度という一般的な意味を持つ。これも基礎物理定数である。
光のあるところで目の前に見えている物体の位置は、「現在」の位置ではない。物体までの距離がlなら、cl秒前の位置と運動を見ているのであって、「現在」ではない。つまり、目の前に見えるものはすべて過去のことであり、遠いところほど過去を見ていることになる。
相対性理論においては、光速度cを介して、時空は以下のようにあらわされる。
空間は三次元であり、時間は四次元目ではあるが、時空は互いに虚実の関係にあり、四次元時空は複素平面のような構造をしていると考える。
一般相対性理論
特殊相対性理論の中心となる定数がcなら、一般相対性理論の中心となる定数はGである。
もっとも、Gは古典的なニュートン力学によって定義されたもので、相対性理論によって修正されたというわけではない。むしろ、ニュートン力学をより深めたというべきである。
ニュートン力学の中にはすでに慣性質量と重力質量は区別できないという含意があるが、これは電磁気学において慣性質量と電荷が別であることと比較すると、じつは不可思議なことである。
そこで、一般相対性理論では、慣性質量と重力質量は操作的(operational)に区別できないことから、逆に、慣性質量と重力質量は同じものだという「公理」(等価原理)をたて、そこから演繹的に理論を構築する。一般相対性理論は、場の量子論(電磁気学と量子力学の統一理論)とは折り合いがつかないままである。
熱力学と統計力学
もうひとつ、基礎物理定数を挙げるとすれば、ボルツマン定数kである。これは、ミクロな統計力学で示される分子の運動エネルギーと、マクロな熱力学で示される「温度」とを対応づけるための比例定数である。
記述の自己評価 ★★★☆☆
(つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)
デフォルトのリンク先ははてなキーワードまたはWikipediaです。「」で囲まれたリンクはこのブログの別記事へのリンクです。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。
CE2024/03/13 JST 作成
CE2024/04/09 JST 最終更新
蛭川立
*2:ニュートン, I. 中野 猿人(訳)(2019).『プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編 物体の運動』講談社, 30-31.
(Newton, I. (1687). Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica. Londini : Jussu Societatis Regiae ac Typis Josephi Streater.)
*3:「【文献】カント「空間について」『純粋理性批判』」を参照のこと。
*4:www.kids.isas.jaxa.jp (宇宙科学研究所キッズサイトより引用。私じしん、五才の時に「光年」というのが時間の単位ではなく距離の単位だと知り、その深遠さに幻惑されたものである。その衝撃はその後の研究生活をずっと動機づけている。)