蛭川研究室

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「不思議現象の心理学」2021/06/18 講義ノート

さて本日、6月18日、金曜日の授業ですが、先週まではプラセボ効果や象徴的効果の話をしていたのですが、あらためて、テレパシーの話からつなげていって、もういちど、共時性シンクロニシティ)というテーマを扱います。

まずは「集合的無意識と共時性ーユングの著作を中心にー」に目を通してください。この記事は前の授業でも読んでくださいとお知らせしたものですが、かなり長いコンテンツで、しかも説明不足でわかりにくいところがあるので、補って書き直しました。さらに長くなってしまいましたが、わからないことがあればぜひ質問してください。

書いている本人は内容を理解しているから書いているのですけど、わからない人が、なにがわからないのかは、わからないもので、質問があれば、また記事を書き直すと、そういう議論を通じて、私も学ばせてもらいます。なお、画像が表示されない場合は、お知らせください。これは、はてなブログで起こっている不具合で、個々のページの画像を張り替える作業を進めています。

この記事では、フロイトユングという二人の精神科医の説を紹介しています。二人とも、テレパシーのようなものがあると考えてはいましたが、フロイトのほうが合理的で、それは無意識の情報伝達の仕組みだろうと考えました。しかし、ユングのほうがより神秘的で、テレパシーというのは情報が伝わるのではなく、二人の心がシンクロするのであって、それは量子力学という新しい物理学によって説明できるという、突飛なアイディアを展開しました。

去年の授業でも「テレパシー」について扱ったのですが、やはり、共時性のことを話題にする人が多かったので、また繰り返します。つまり、人から人へと(言語などの物理的な情報を介さずに)情報が伝わったように思える場合も、本当に情報が伝わっているのかもしれないし、情報は伝わってはいなくても、情報が伝わったような気がする場合もありえます。

たとえば、ある人のことをふと考えたときに、ちょうどその人からメッセージが送られてきた、という体験をすることがあります。この場合、二人の間に、物理的ではない情報交換が行われたと解釈することもできますし、たまたま、偶然だった、と解釈することもできます。しかし、たまたまだったとしても、その出来事には意味があるように感じられますし、そのことをきっかけに、二人の関係はより親密になるかもしれません。こういう、偶然なのだけれども、意味のある偶然のことを「共時性」といいます。これは、じっさいにテレパシーが存在するかどうかとは、別の問題です。

それから、これも去年からの繰り返しなのですが、統合失調症など、ある種の精神神経疾患の症状としても、テレパシーのような体験が起こることがありますが、そうした病理的な現象は、また別に考える必要があります。

このことに触れておきたいのは、統合失調症という病気は、そう珍しい病気ではなく、百人に一人ぐらいがかかる病気で、脳が発達し終えて、さらに発達しすぎることによって起こるという説もあり、だいたい二十歳ぐらいで発病する人が多いのです。早期発見、早期治療が有効です。かつては精神の異常だと考えられていましたが、いまでは神経の病気だということが明らかになっており、薬を飲んで治すことができます。ただ、治療せずに放置すると、慢性化し、悪化していきます。

統合失調症の初期の症状で、テレパシーのような体験があります。たとえば「他人の考えていることが自分の頭の中に入ってくる」とか「自分が考えていることが他人に知られてしまう」といった感覚です。これは、どちらかというと、不快な体験です。「言葉がなくても相手の気持ちがわかる」という体験は、どちらかといえば心地よい体験ですが、病的な妄想の場合は、それが被害妄想のような、不快な体験になることで、区別することができます。

このことも、去年の授業であったことなのですが、期末のレポートに、イヤホンで音楽を聴いていると、知らない男の人の声で悪口が聞こえてくるんですけど、これは超常現象でしょうか、といったレポートが出てきたりして、ちょっとそれは心配になりました。それなら授業中にもっと説明しておけばよかったかなと。多少なりとも心当たりのある人は、精神科医のところに行って相談しましょう。精神科だとか、精神病だとかいうと、なにか怖い感じがしますが、敷居が高いな、と思ったら、ふつうの内科の医者に行ってもいいでしょう。学生相談室に行くのもよいのですが、今は電話での相談しか受けつけていません。

私も三年ほど前に学生相談室で相談員をしていたことがあるのですが、相談に来る人の半分以上は精神的な問題を相談に来るのに驚きました。勉強のことや学生生活のことを相談に来る人のほうが多いかと思っていたのですが、それも、よく話を聞いてみると、背後に心の病があったり、私もいろいろ学びました。もともと心理学や、夢や不思議な体験に関心を持って研究してきたのですが、それと精神病や心の病は別のことですから、あまり詳しくなかったのですが、学生相談をしながら、健康的な不思議体験と病的なものを区別する必要を学びました。私は医者でも心理臨床家でもありませんが、勉強の話があれば相談に乗るし、これは心の病かな、と思った人は、提携している心理士さんや精神科医の先生を紹介したり、そんな仕事をしていました。

来週以降の授業では、またテレパシーや超能力の科学的研究や、それに対する批判、ニセ科学の傾向と対策、などについて議論を進めていく予定です。



CE2020/06/18 JST 作成
CE2021/06/17 JST 最終更新
蛭川立