蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「人類学A」2024/04/11 講義ノート

毎週の講義の補足メモです。オンライン授業のときにはじめたものですが、講義をする私にとっても、この講義メモは役に立っています。

人類学の講義ですが、最初に「人類学とは何か」というところから始めると抽象的すぎるかもしれません。人類学では、ヒマラヤやアマゾンの少数民族の文化や、縄文時代旧石器時代の人間の話を扱います。そんな研究をして何の役に立つのかというと、役に立つというよりは、知的な冒険心が基本にある分野ではあります。

それが現代の情報社会と何の関係があるのか、ということの一例として、まずは「京都アヤワスカ茶会事件」のお話をします。五年前のことですが、京都のとある大学の大学生が、引きこもりで不登校うつ病になっていたのですが、ネットで買った薬物を飲んで救急車で運ばれたという事件です。その薬物が違法薬物だったというので、その大学生は逮捕され、裁判にまでなってしまいました。

その大学生は薬物を大量に飲んで自殺しようとしたと報じられたのですが、実態はまったく逆でした。アヤワスカという薬草をネットで買って飲んで、自分のうつ病を治してしまったというのです。

四年前のことになりますが、この裁判の弁護士さんから、私のところに連絡が来ました。アヤワスカというのは、南米アマゾンの先住民族が使っている薬草です。その薬草を研究しているというので、私のところに問い合わせが来たのです。

アヤワスカという薬草には、ジメチルトリプタミンという物質が含まれていて、脳に栄養分を補給して、疲れた神経細胞を再生させるという不思議な作用があります。いま、うつ病自殺念慮の特効薬としての治験が進んでいます。

アマゾンの先住民の文化についてはまた別途、お話をしますが、これは不思議な事件でした。ジャングルに住む少数民族が使ってきた薬草と、なんでもネットでスマホで買う、現代の引きこもり大学生の問題がリンクした、人類学の研究が現代の情報社会の問題とつながってしまった事件でした。私もこの事件を通じて人類学という学問の現代性について考えなおすことになりました。

ちなみにこの授業では出席はとりません。成績評価は期末試験か期末レポートのみで評価します。教室での試験かレポートかは、まだ決めていません。



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CE2024/04/11 JST 作成
CE2024/04/11 JST 最終更新
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