蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

日本の精神展開薬研究史

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この記事は特定の薬剤や検査・治療法の効果を保証しません。個々の薬剤や検査・治療法の使用、処方、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

武田薬品の麦角アルカロイド研究

東京帝國大學農芸化学科を卒業した阿部又三(1909-1992)が武田長兵衛商店研究部(後の武田薬品研究所)に就職し、麦角アルカロイドの研究を始めた[*2]のが1938年である。

同年、スイスのサンド(現・ノバルティス)社ではアルベルト・ホフマン(1906-2008)がLSD-25の合成に成功ていた。しかし、LSD-25は片頭痛治療薬や陣痛促進剤の一環として開発されたものであって、その向精神作用が知られることなく、世界は戦争に巻き込まれていった。

阿部の研究テーマは上司の勧めだったらしいから、武田研究所はこれ以前から麦角アルカロイドに関心を持っていたらしい。「産めよ増やせよ」という時代背景があった、と回想されている。

武田薬品の麦角研究は世界的にみても先進的で、逆に欧米での研究を刺激したとも評価されており[*3]、阿部又三とアルベルト・ホフマンの間には私信のやり取りもあった[*4][*5]

山城祥二こと大橋力大橋力(1933-)も阿部又三とともに麦角アルカロイドの生合成経路の研究を行っている[*6]。大橋は1975年に博士論文「麦角アルカロイドの生合成に関する研究」[*7]を発表した。

合成から5年後、1943年4月16日ににセレンディピティが起こる。ホフマンが偶然LSDを摂取してしまい、その向精神作用を発見した。ホフマンが帰宅中の自転車でその効果を確認したのが4月19日である[*8]

その後、武田研究所でも麦角アルカロイドの向精神作用の研究が行われた[*9]

1957年には、武田薬品薬用植物園のヤマハギに含まれるDMTが子宮収縮作用を持つことが発見される[*10]が、この時点ではDMTの向精神作用については触れられていない。

筆頭著者の後藤實は戦後の日本で広く漢方薬の研究につとめ、また後進を育成した人物である。

LSD京都学派

1950年代後半になって、ザンド社からLSDとシロシビンのサンプルが京都大学医学部に送られ、その後、加藤清(1921〜2013)をはじめ、藤縄昭(1928-2013)、笠原嘉(精神医学)(1928-)、藤岡喜愛(1924-1991)[*11]らが精神医学的な研究を深めていった[*12][*13]

じつは、加藤はそれ以前にからメスカリンを独自に合成して実験を進めていたという。ただし、合成した物質がメスカリンかどうかわからないまま、ボランティアに飲ませて「官能検査」をしていたという[*14]。戦中戦後の混乱期での出来事である。

木村敏(1931-2021)はハイデルベルク学派の精神病理学との交流があり、また音楽にも造詣があった。LSDを自ら服用し、音楽に色を感じるという共感覚を得たという[*15]。時間論における〈祭 festum〉のメタファーも、LSDの自己実験によって着想を得たものだとされる[*16]

佐保田鶴治(1899-1986)はLSDを服用し、自らの「過去生」のようなヴィジョンを体験したが、それらはヨーガの過程における魔境とした[*17][*18]

上田閑照(1926-)もまた、禅の思想にもとづき、LSD体験中に光やビジョンに得たとしてもそれは魔境だと批判した。

「實驗美學」の試み

臺弘と江副勉(1910-1971)は東京帝国大学医学部と松沢病院LSDの実験を行った。

精神科医でもあり画家でもあった徳田良仁(1925-2021)は、自らがLSDを摂取し絵を描いた実験を論文にまとめた[*19]。描画実験の様子は島崎敏樹によって録画され、草月アートセンターで「L.S.Dの実験」が上映された[*20]。上映会を行い解説を行ったのは島崎(西丸)敏樹(1912-1975)と徳田良仁本人である。

安部公房(1924-1993、作家)もこの記録映像をみて『藝術新潮』に「実験美学ノート LSD服用実験をみて」[*21]という感想を寄稿し、人工的な物質を投与して意識を拡張させることを不自然だとか不道徳だとか言うほうが野蛮な発想だが、才能のない人間がLSDを服用しても、自分の才能のなさを見せつけられるだけだとも論じている。

また、LSDを作家や芸術家に投与する実験美学には価値があり、自分も近々服用したいと述べている。じっさいに服用したのかはわからないが、阿部が一連のシュールな小説を書き始めたのは、この1959年からである。

同じく1961年には、鶴岡政男(1907-1979、画家)は「美術サロン-心の深層を探る・幻想による美術実験」(東京テレビ(現・TBS))という番組内で島崎敏樹LSDを投与され絵を描いた。

島崎敏樹は、画家だけではなく、小説家や詩人にLSDを投与する計画を進めた。1961年には谷川俊太郎(1931-詩人)は「LSDの幻想…ある詩人のモノローグ」(東京ラジオ文化放送)で島崎敏樹LSDを投与され、その様子はでラジオ中継された。

この実験については谷川は「LSDリポート」[*22]にも簡潔に書かれている。体験の段階を7個の段階に分け、1〜2行で簡潔にまとめられている。総合的には「私の期待していたような、内面への冒険というにはあまりにも浅い体験だった」と、あっさりまとめている。

河合隼雄(1928-2007)は谷川俊太郎との対談[*23]で、LSDの使用を飛行機で山に登るようなものだと例えている。(これは、もともとはユングの言葉かもしれない。)

詩人、多田智満子(1930-2003)は、1962年にLSD摂取実験に参加。この時の「なまなましい原体験」は詩集『薔薇宇宙』[*24]にまとめられた。LSD服用前後の状況については「薔薇宇宙の発生」[*25]「魂の形について」[*26]の中でも詳しく語られており、この時期のLSD体験の描写としてはもっとも豊かなものである。同時に、詩人として、豊穣な体験(シニフィエ)を言語(シニフィアン)に置き換えることの困難についても率直に述べられている。

 宇宙は一瞬のできごとだ
 すべての夢がそうであるように
 神の夢も短い
 この一瞬には無限が薔薇の蜜のように潜む


 『薔薇宇宙』

多田にLSDを投与した医師は神谷美恵子(1914-1979)だとされている[*27][*28]が、公には語られていない。神谷自身は自著『生きがいについて』[*29]の中で、ハクスリーのメスカリン体験について触れつつも、変性意識体験それ自体よりも、その文脈が重要なのだと批判的に論じている。

谷川の体験の中にも「c 白い紙の表面に,日本の模様のミニチュアが無数に浮かぶ。・・・それが無限に変化する」というヴィジョンが語られているのだが、谷川はその中には入っていこうとはしなかったようだ。それに比して多田は、その無限に変化していく文様の中に没入し、そのことが「薔薇宇宙の誕生」に詳細に記述されている。物質が神経に何を見せるか、ではなく、作家の意識がヴィジョンの中にどこまで入り込もうとするのか、そういうセットの違いが体験の質を決定する。

九州大学からイギリスのモーズレー病院とタビストック・クリニックに留学した神田橋條治は「LSD精神療法中にみられたanaclitic状況」[*30]という論文を発表した。加藤清との対談で「僕は、LSDを使ったとき」[*31]と語っているが、これはLSDを患者に投与したのか、自分で服用したのかは、わからない。

稲垣足穂の「わたしのLSD[*32]の中で使用される「加速剤」はLSDの比喩であろう。精神科医でもあり俳人でもあった阿部完一も『絶対本質の俳句論』[*33]の中で自らのLSD体験を語っている。

1960年代以降

石原慎太郎は『光より速き我ら』の中で、LSDと舞踏との関係について「人間の感覚も精神も、一度解体しようなんて思って見る間に、もう溶けてしまっているんだ。その上に薬でトリップして見ても、それは、 衛生博覧会、グロのグロだ」と書いているが、この作品は1976年に発表されている。

LSDは日本では1970年に麻薬及び向精神薬取締法によって規制されたが、1960年前後に行われた学者や芸術家たちの実験的な試みは一般には広がらず、その後の若い世代に起こったサイケデリック、ヒッピー文化や学生運動とは、断絶があるようだ。



記述の自己評価 ★★★☆☆

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CE2021/07/23 JST 作成
CE2024/02/01 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:阿部又三 (1987).「麦角菌研究の思い出」『日本農芸化学会誌臨時増刊号』61, 28-30.

*3:日本学士院賞 (1971).「農学博士阿部又三君の『麦角菌による麦角アルカロイド類の生産に関する研究』に対する授賞審査要旨

*4:大和谷三郎・阿部又三 (1959).「麦角菌に関する研究(第30報)Elymoclavineといわゆるペプタイド型麦角アルカロイドとの化学的関連性」『日本農芸化学会誌』33(12), 1036-1039.

*5:阿部又三・大和谷三郎・山野藤吾・楠本貢 (1959).「麦角菌に関する研究(第31報)ハマニンニク型麦角菌の培養からPenniclavineおよび1種の新水溶性アルカロイドTriseclavineの分離」『日本農芸化学会誌』33(12), 1039-1043.

*6:大橋力・青木俊三・阿部又三 (1970).「菌類によるアルカロイドおよび関連物質の生産(第5報)代表的な麦角アルカロイド間の生成上の関係について」『日本農芸化学会誌』44(11), 527-531.

*7:大橋力 (1975).「麦角アルカロイドの生合成に関する研究

*8:LSD』19-28. https://www.amazon.co.jp/LSD%E2%80%95%E5%B9%BB%E6%83%B3%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%97%85-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%83%E3%83%95%E3%83%9E%E3%83%B3/dp/4788501821/www.amazon.co.jp

*9:油井亨・竹尾雄児 (1962).「Clavine系麦角アルカロイドの薬理学的研究(Ⅰ)諸種動物における一般症状とこれに及ぼす2, 3中枢抑制剤の影響」『日本薬理学雑誌』58(4), 386-393.

*10:後藤實・野口友昭・渡邊武 (1958). 「有用天然物成分の研究 第17報 植物中の子宮収縮成分の研究 その 2 ヤマハギ中の子宮収縮成分について」『YAKUGAKU ZASSHI』78, 464-467.

*11:藤岡喜愛『イメージと人間』105-108.

*12:塚崎直樹 (2016).「加藤清とトランスパーソナル精神医学」『トランスパーソナル心理学/精神医学』15(1), 14-22.

*13:加藤清・藤繩昭・篠原大典 (1959).「LSD-25による精神障害—特にLSD酩酊体験の深層心理学的意義について」『精神医学』

*14:加藤清・上野圭一 (1998).『この世とあの世の風通し―精神科医 加藤清は語る―』春秋社, 62-63.

*15:木村敏『精神医学から臨床哲学へ』61-64.

*16:木村敏『時間と自己』

*17:佐保田鶴治『八十八歳を生きる』

*18:平田精耕・佐保田鶴治(司会・山折哲雄)(1984).「対談:禅とヨーガがめざす世界」『恒河 The Ganges』1984年第3号,32-42. (『うちこのヨガ日記』でも該当部分が紹介されている。) uchikoyoga.hatenablog.com

*19:徳田良仁(1959).「LSD-25による体験—とくに絵画制作を中心として」『精神医学』1, 181-192.

*20:www.sogetsu.or.jp

*21:安部公房「實驗美學ノートー『LSD』服用實驗をみて(天才的創造を生む新薬)」228-231.『藝術新潮』昭和34年、3月号(安部公房全集第九巻にも再録)。徳田良仁「LSD(幻想劑)による繪画制作を實驗して」228-229.も並べて掲載されている。

*22:谷川俊太郎 (2012).「LSDリポート」谷川俊太郎『一時停止』草思社, 35-38. (初出は1961年)

*23:

*24:「薔薇宇宙」『多田智満子詩集』思潮社, 57-59.

*25:多田智満子「薔薇宇宙の発生」『多田智満子詩集』110-121.

*26:多田智満子『魂の形について』

*27:金沢百枝(2022).「解説 風のゆくえ」多田智満子『魂の形について』筑摩書房.

*28:神谷光信(2018).「多田智満子(1)薔薇宇宙の彼方へ

*29:神谷美恵子『生きがいについて』

*30:神田橋條治『発想の軌跡』岩崎学術出版社、6-20.

*31:加藤清・神田橋條治・牧原浩(1993)『分裂病者と生きる』金剛出版、131.

*32:稲垣足穂(1989).「わたしのLSD」『稲垣足穂詩集(現代詩文庫1037)』思潮社, 107-109.

*33:『絶対本質の俳句論』

大麻とカンナビノイド

Cannabis and Cannabinoids

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

植物としてのオオアサ

大麻、つまり[オオ]アサは、バラ目アサ科の一年生草本である。「má」という読み方は、中国語由来であり「麻」という漢字は、屋根の下にアサが二本生えているさまをあらわす象形文字である。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f9/Cannabis_sativa_-_K%C3%B6hler%E2%80%93s_Medizinal-Pflanzen-026.jpg
アサ(Cannabis sativa[*2]

カンナビノイド

大麻(アサ)の有効成分である物質群はカンナビノイド(cannabinoid)と総称されている。

https://cdn.shopify.com/s/files/1/0587/7884/5367/articles/fd2da0_65532c9ec6d142e7a8183c1f1d8bad22_mv2_720x.jpg?v=1638942135
大麻草で合成されるカンナビノイド[*3]

https://www.researchgate.net/profile/Farahnaz-Fathordoobady/publication/332566538/figure/fig1/AS:845595514245120@1578617089156/Major-cannabinoids-present-in-Cannabis-sativa-L-Biosynthesis-and-conversion-pathways.png
主要なカンナビノイドの生合成経路[*4]

大麻には100種類以上のカンナビノイドが含まれているが、とくにサイケデリックスに似た精神活性作用を引き起こす物質としてはテトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC: THC: tetrahydrocannabinol)が、また向精神作用が少なく医療用としての使用がもっとも普及してきたカンナビジオール(CBD: cannabidiol)などがある。

カンナビノイドは体内のカンナビノイド受容体、CB1(主に中枢)・CB2(主に末梢)に作用する。

https://www.fundacion-canna.es/sites/default/files/images/articles/en/articles-endocannabinoid-system_text_2.jpg
CB1受容体・CB2受容体の分布[*5]

CB1受容体のアゴニストとして精神活性作用を引き起こすのは主にTHCテトラヒドロカンナビノール)である。

CBDの流行

精神活性作用をほとんど持たないCBD(カンナビジオール)は法的に規制されておらず、サプリメントとして広く流通するようになってきたが、難治性てんかんに有効だとして医薬品(エピディオレックス)としての治験も進んでいる。

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/35/2e37bc8770add186ca3609562fbc16ce.jpg
CBD(カンナビジオール)の抗てんかん作用[*6]

CBDが注目されるいっぽうで、「多幸感」という「副作用」があるTHCが、逆にてんかんの発作を誘発する有害な薬物として忌避されるようにもなってきている。幸多きことを罪悪とする精神論の一種であろう。

THCと「脱法カンナビノイド

THCは、典型的な精神作用を持つカンナビノイドであり、おもにΔ9-THCとΔ8-THCがある。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e1/Delta-9-THC.jpg?1659776093293
Δ9-THC[*7]
 
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Delta-8-THC.jpg
Δ8-THC[*8]

Δ9-THCは位置番号9位に二重結合があるが、Δ8-THCは位置番号8位に二重結合がある。

ところが、Δ9-THCもΔ8-THCも、麻薬および向精神薬取締法で規制されている。いずれの分子も、1個残った二重結合も水素化してしまうと、水素はさらに2個増えて6個になる。

https://vapemania.tokyo/wp-content/uploads/2021/09/hydrogenation-hhc-remixjpg.jpg
THCとHHC[*9]

これが「hexa-(6)hydro-(水素)cannabin(大麻抽出物)-ol(ヒドロキシ基)」、つまり、ヘキサヒドロカンナビノール(HHC)である。

https://dailycbd.com/en/wp-content/webp-express/webp-images/doc-root/wp-content/uploads/sites/7/2021/08/types-of-thc-double-bonds-1.png.webp
Δ9-THCの向精神作用を1.0とした場合、Δ8-THCは0.5、HHCは0.8、CBNは0.1だという評価もある[*10]

HHCは麻薬及び向精神薬取締法では規制されていないので、THCのような精神作用を持つ合法的な物質として流通していたが、日本では2022年の3月に薬機法によって指定薬物として規制された。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/35/11-Nor-9%CE%B2-hydroxyhexahydrocannabinol_Structure.svg/2880px-11-Nor-9%CE%B2-hydroxyhexahydrocannabinol_Structure.svg.png
9-Nor-9β-hydroxyhexahydrocannabinol(俗称「9β」、HHCの9位が-OHに置換された物質)

その規制をかいくぐるように、THCやHHCに酢酸(CH3COOH)を作用させた「THCO」や「HHCO」という物質が流通するようになってきた。


THCOとHHCO

しかし俗に「O系」と呼ばれるこれらの物質は、加熱するとケテン(CH2=CO)が発生し肺を傷めるという健康被害の可能性が指摘されている。また精神作用もTHC以上に強いともいわれており、これらも規制される可能性が高い。そうするとまた分子構造をすこし変えた、法の網をかいくぐる、さらに正体不明の物質が流通するという「いたちごっこ」が繰り返される可能性が懸念されている。

また、THCと「尻尾(アルキル基)」の長さが違うカンナビノイドの流通と規制も続いている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3b/Thcv.svg/2560px-Thcv.svg.png  
THCV(TetraHydroCannabiVarin)
 
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Tetrahydrocannabinol-c4.svg/2560px-Tetrahydrocannabinol-c4.svg.png 
THCB(TetraHydroCannaButol)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d1/THC.svg/2880px-THC.svg.png
THC(TetraHydroCannabinol)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8a/D9THCH_structure.png
THCH(TetraHydroCannabiHexol)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/82/THCP_2D_skeletal.svg/2880px-THCP_2D_skeletal.svg.png
THCP(TetraHydroCannabiPhorol)

アルキル基が長いほどCB1受容体と強く結合するため、精神作用も強い傾向がある。上図のうち、THCはすでに麻薬として規制されており、THCPはHHCと同時期、2022年3月に指定薬物として薬機法で規制された。

とくに日本でこうした「脱法カンナビノイド」のいたちごっこが起こりやすいのは、大麻草やTHCの所持が厳罰化されたままだからでもある。

内因性カンナビノイド

人間の脳の中にも、カンナビノイドと同じ働きをする神経伝達物質が存在する。植物の体内で見つかった精神活性物質と同じ受容体に作用する物質が動物の脳内にも発見されるというのは、オピオイドと内因性オピオイドなどでも同じである。(DMTと内因性DMTはまったく同じ物質である。)

1992年には、カンナビノイド受容体を通じて機能する神経伝達物質が発見され、アナンダミド(anandamide)と命名された[*11]インド哲学で超越的至福を意味する「アーナンダ(आनन्द ānanda)[*12]」と「アミド」の合成語である。アナンダミドは物質名としてはAEA(N-アラキドノイルエタノールアミド)とも呼ばれる。

https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1007%2Fs12210-020-00957-z/MediaObjects/12210_2020_957_Fig3_HTML.png?as=webp
AEA(アナンダミド)とΔ-9THCの立体構造[*13]

アナンダミド(AEA)と大麻に含まれるカンナビノイドの構造式は一見すると同じようには見えないが、その立体構造には類似性がある。

https://bsd.neuroinf.jp/w/images/thumb/b/b2/Yukihashimotodani_fig_2.jpg/1246px-Yukihashimotodani_fig_2.jpg
内因性カンナビノイドの生合成と分解経路[*14]

その後、内因性カンナビノイドとしては、2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)が発見された。

カンナビノイドと共進化

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/26/Truffe_nature.JPG
トリュフTuber melanosporum[*15]

内因性カンナビノイドとして脳内に発見されたアナンダミドは、その後、黒トリュフTuber melanosporum)の子実体にも含まれていることが発見された[*16]

黒トリュフの体内におけるアナンダミドの機能は不明だが、トリュフの匂いはイノシシのオスのフェロモンに似ており、イノシシのメスを誘引するという。アナンダミド(AEA)も同様に、捕食者であるイノシシなどに食べられ、報酬を与え、そして胞子を拡散させるために機能しているという説もある[*17]

アサの雌株が種子に近い部位でTHCなどを高濃度で分泌し、捕食者の食欲を増進させ(俗にいう「マンチ(munchies)」)[*18]、味覚などの感覚を増大させるのと同様の共進化だと考えられる。

アサ(大麻)の起源は2800万年前(古第三紀漸新世)だとされるが(→「アサ(大麻)の起源と伝播」)、黒トリュフの起源は1億5000万年(中生代ジュラ紀)まで遡れるので、カンナビノイドを介した動植物の共進化は、アサよりも前にトリュフと捕食者との間で始まっていたのかもしれない[*19]



記述の自己評価 ★★★☆☆
(授業のための覚書を書き足していくうちに、かなり長くなってしまったので、それぞれ切り出して別記事として独立させます。大麻、オオアサ、麻、アサなど、表記が揺れているが、これは文脈によって使い分けるしかありません。大麻について肯定的な引用が多くなってしまったかもしれませんが、危険性などについても信頼できる情報があれば教えていただければ幸いです。)

  • CE2021/04/26 JST 作成
  • CE2023/02/15 JST 最終更新

蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:アサ」『Wikipedia』(2021/06/02 JST 最終閲覧)

*3:CBDfxJapan (2021).「カンナビノイドとは?- CBD、CBG、CBN、CBC」(2022/06/17 JST 最終閲覧)

*4:Farahnaz Fathordoobady, Anika Singh, David D Kitts, and Anubhav Pratap-Singh (2019). Hemp ( Cannabis Sativa L.) Extract: Anti-Microbial Properties, Methods of Extraction, and Potential Oral Delivery. Food Reviews International, 35(7), 664-684.

*5:FundaciónCANNA.「The Endocannabinoid System」(2022/06/17 JST 最終閲覧)

*6:福田一典(銀座東京クリニック院長)(2015).「421)難治性てんかんとカンナビジオール」『「漢方がん治療」を考える』(2021/06/02 JST 最終閲覧)

*7:delta-8-Tetrahydrocannabinol」『Wikiwand』(2022/08/30 JST 最終閲覧)

*8:delta-8-Tetrahydrocannabinol」『Wikiwand』(2022/08/30 JST 最終閲覧)

*9:アッキー (2022).「HHCとは? 話題のカンナビノイド ヘキサヒドロカンナビノールを解説」『VapeMania』(2022/08/30 JST 最終閲覧)

*10:Daily CBD (2022). What is HHC? Hydrogenated Cannabinoids & Apocalypse-Ready THC (2021/10/22 JST 最終閲覧)

*11:William A. Devane, Lumir Hanuš, Aviva Breuer, Roger G. Pertwee, Lesley A. Stevenson, Graeme Griffin, Dan Gibson, Asher Mandelbaum, Alexander Etinger, and Raphael Mechoulam. (1992). Isolation and Structure of a Brain Constituent That Binds to the Cannabinoid Receptor. Science, 258, 1946-1949.

*12:古代インドのヴェーダーンダ学派では、存在(सत् sat サット)+意識(चित् cit チット)+至福(आनन्द ānanda アーナンダ)= सच्चिदानंद saccidānanda サッチッターナンダという三位一体の基本概念が意識の本質だと考える。

*13:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z

*14:エンドカンナビノイド」『脳科学辞典』(2022/06/17 JST 最終閲覧)(孫引き)

*15:Tuber melanosporum」『Wikipedia』(2021/06/13 JST 最終閲覧)

*16:Giovanni Pacioni, Cinzia Rapino, Osvaldo Zarivi, Anastasia Falconi, Marco Leonardi, Natalia Battista, Sabrina Colafarina, Manuel Sergi, Antonella Bonfigli, Michele Miranda, Daniela Barsacchi, and Mauro Maccarrone (2015). Truffles contain endocannabinoid metabolic enzymes and anandamide. Phytochemistry, 110, 104-110.

*17:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z

*18:Marco Koch, Luis Varela, Jae Geun Kim, Jung Dae Kim, Francisco Hernández-Nuño, Stephanie E. Simonds, Carlos M. Castorena, Claudia R. Vianna, Joel K. Elmquist, Yury M. Morozov, Pasko Rakic, Ingo Bechmann, Michael A. Cowley, Klara Szigeti-Buck, Marcelo O. Dietrich, Xiao-Bing Gao, Sabrina Diano, and Tamas L. Horvath (2015). Hypothalamic POMC neurons promote cannabinoid-induced feeding. Nature, 519(7541), 45-50.

*19:Mauro Maccarrone (2020). Phytocannabinoids and endocannabinoids: different in nature. Rendiconti Lincei. Scienze Fisiche e Naturali, 31(4), 931–938. doi:10.1007/s12210-020-00957-z

「ゲリラ」としての学際研究

新しい研究分野は、必然的に学際的な様相を帯びるものである。しかし、学際的ということは、広く浅い雑学という意味ではない。すこし長くなるが、日本の宗教学の先駆者のひとりである柳川啓一による、よく知られた一節を引用する。

…宗教学は、宗教一般を解くきめ手を求めて、社会、心理、文化に関する理論を追う放浪の旅に出てしまった。さきの(野次馬の:引用者注)定義「自分ノ関係ナイコトヲワケモナク騒ギ廻ル」というのは、家に落ち着いている人からみた冷酷な定義ではないか。野次馬にとってみれば、何もかもが自分に大いに関係がある気がして騒ぎ廻るのである。新奇な理論と領域を追い求めた野次馬性とは、実はゲリラ性ということができる。こうした意味のつけ方によって、従来、他の学問に対してひけ目と自認していた点を、一挙に積極的ポイントに転化できる。
 
手もとの百科事典によるゲリラの定義。
 
「一定ノ公表サレタ制服ヲ着用セズ、カツ正規軍ニ属スルコトヲ明示シナイデ、対敵戦闘行動ヲ行ナウ者オヨビソノ団体ヲイウ」(小学館版)。
 
われわれは、宗教学であるという「制服」は着用せずともよいし、学問上の「正規軍」であることを明示する必要もない。他の学問があまり手をつけていない領域に、別にこれが宗教学と名乗りもあげず、忍び込んだ上での奇襲攻撃が、われわれの本領ではなかったか。
 
…しかし、と疑問を出す人もいる。それらの領域で、けっきょく、アマチュア、せいぜい、セミ・プロ扱いをうけて引き下がらずにえないのではないか。そう、もう一つのゲリラ行動の特徴がある。さきの百科事典のつづき。
 
「ゲリラハ、単独マタハ小部隊ノ行動ニヨリ敵ヲ奇襲シテ小戦果ヲアゲ迅速ニ退却スル」。
 
ここが大事な所で、戦場に長く留まってはいけない。社会学とか心理学とか其の他何々学という正規軍が到着して、調査・実験の正確性とか、役割構造・因子分析とか、土語を習得して一年滞在とかうるさいことを言い出したらさっさと引き揚げるべきである。何よりもわれわれの目標は、宗教に対する興味であって、一定の収穫があればそれでたりる。
 

(柳川啓一「異説 宗教学序論」[*1])

私は、たとえ比喩であっても、軍事的な問題解決を好むものではない。しかしこの言葉は含蓄深い。こうした流れの延長線上に、植島啓司中沢新一といったトリックスターたちが位置している。彼らの研究スタイルには賛否両論があるが、それがトリックスターの、トリックスターたる所以でもある。それには相応のリスクが伴うのも事実であり、だから「ゲリラ戦」なのである。

制服には制服の美学がある。しかし、何よりも先立つのは「宗教に対する興味」なのだから、必ずしも「宗教学であるという『制服』」を着用する必要もない。

ここでは、とくに宗教学だけについて議論しているわけではない。その「宗教」を別の関心対象に置き換えても、同様の議論は成り立つ。「○○に興味がある」(が、それが「なに学」なのか解らない)という関心が、「○○学」という領域設定に先立つのである。もし「○○学者だから、○○の研究をする」だとか「○○学の方法論は××だから、その方法論の対象となる研究をする」と考えるとしたら、それは「正規軍」の発想である。すでに目的と手段が入れ替わってしまっているのである。



CE2016/12/10 作成
CE2022/06/30 更新
蛭川立

*1:祭と儀礼の宗教学』1987年、7-8頁。初出は1972年。

デリリアント(せん妄誘発薬)

Deliriants

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

トロパンアルカロイド

トロパンから生合成されるスコポラミン、ヒヨスチアミン、アトロピン(l-ヒヨスチアミン )などを総称してトロパンアルカロイドという。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5b/Tropane_alkaloids_biochemistry.png
トロパンアルカロイドの化学構造と系統発生[*2]

トロパンアルカロイドは広義のサイケデリックス(精神展開薬)(→「サイケデリックス(精神展開薬)」)に含まれる。しかし、狭義のサイケデリックスの場合は閉眼時に幻覚が見えたとしても、意識は清明であるのに対し、トロパンアルカロイドは意識水準が下がりせん妄状態を引き起こし、それが何日も続く場合がある。このため、デリリアント(deliriants:せん妄誘発薬)と呼ばれることもある。

リリアントの作用は、それ自体で死に至ることは少ないが、外傷や自傷行為も引き起こす[*3][*4]

トロパンアルカロイドはナス科のチョウセンアサガオベラドンナヒヨスマンドレイクなどの植物に含まれる。

チョウセンアサガオ
Datura spp.
中米
ベラドンナ
Atropa belladona
ヨーロッパ
ヒヨス
Hyoscyamus albus
ヨーロッパ
マンドレイク
Mandragora spp.
ヨーロッパ
キダチチョウセンアサガオ
Brugmansia candida
南米

これらの植物は世界各地で呪術的に使用されてきたが、不快なせん妄状態を引き起こすため、どちらかといえば邪術や呪詛のために用いられてきた。現代でも違法薬物にはなっていない。

なお、アンデス北部が原産地であるコカノキ科のコカに含まれるコカインは、麻酔薬でもあるが、精神展開作用はなく、合成物質であるメタンフェタミンに似た中枢刺激薬である(→「中枢刺激飲料の現代史」)。

キダチチョウセンアサガオ

キダチチョウセンアサガオ属Brugmansia spp.)はアマゾン川上流域の先住民族シャーマニズムにおいて薬草・毒草として用いられる[*5]

ペルー・アマゾンの先住民シピボ族はフシュ・カナチャリ(hushu kanachari:白いカナチャリ)、キダチチョウセンアサガオBrugmansia candida)を薬草・毒草として使用してきた[*6]

https://uniraolodge.com/wp-content/uploads/2020/06/toe-2-768x512.jpg
アマゾンのキダチチョウセンアサガオ[*7]

筆者がシピボ族の集落で研究していたときには(→「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」)ユベ(邪術師)が敵を呪うときにアヤワスカにカナチャリを混ぜて飲ませる、と聞いたことがある。カナチャリを混ぜたアヤワスカを飲まされた相手は数日間、邪悪な精霊に憑依され錯乱状態になるという。じっさいにはユベもカナチャリも見たことも[たぶん飲まされたことも]ない。(この記事に載せている写真もWEBサイトからの引用である。)ウナヤ(クランデロ、シャーマン)になるためのディエタ(食事制限をしながら植物の精霊と交感する修行)をするときには、修行者は自らカナチャリを摂取することもあるという。

ベラドンナとスコポラミン

ベラドンナ(セイヨウハシリドコロ: Atropa belladonna)は、西ヨーロッパ原産の植物で、種名の「bella donna」はイタリア語で「美しい・女性」を意味する。ベラドンナの抽出液を点眼すると瞳孔が開くので、目を美しく見せる薬として使われたという。

ヨーロッパの魔女(witch)はベラドンナを軟膏として用いていた。魔女が空を飛ぶという伝説は、ベラドンナに含まれるスコポラミンやヒヨスチアミンなどの幻覚作用をあらわしている[*8]

https://s.yimg.com/ny/api/res/1.2/E54KuNxpKTC_x9D.Rs6tqw--/YXBwaWQ9aGlnaGxhbmRlcjt3PTcwNTtoPTU4NTtjZj13ZWJw/https://s.yimg.com/uu/api/res/1.2/E0eX4I3F0yR4m5kfxrOhRQ--~B/aD0xMTk0O3c9MTQ0MDthcHBpZD15dGFjaHlvbg--/https://media.zenfs.com/en/the_conversation_us_articles_815/b2b82018e73bdb5cca4166fe0ec90369
箒に乗って空を飛ぶ魔女と悪魔。スイスの木版画。1400年ごろ[*9]

中世までのヨーロッパでは女性のシャーマンたちが薬草の知識を伝承していた。15世紀以降、キリスト教がヨーロッパの農民社会に広がる中で、こうしたシャーマンたちは魔女狩りによって悪魔的な信仰として排斥されていったと考えられている。

スコポラミンには抗コリン作用があり、少量では酔い止め薬として広く使用されている。

https://m.media-amazon.com/images/I/713kK8CiPZL._AC_SL1000_.jpg
酔い止め薬「ニスキャップ」(アネロン)

また、大容量のスコポラミンにはサイケデリックスと同様の迅速な抗うつ作用や薬物依存改善作用があると報告されている[*10]

断酒自助会であるアルコホーリクス・アノニマス(AA)の創始者の一人であるビルは、ベラドンナによるアルコール依存症の治療の過程で霊的体験を得て、アルコール依存症を克服した。その後ビルは実験的にLSDを摂取し、その体験がベラドンナ療法中に起こった霊的覚醒と同様の体験だと確認している(→「AAーアルコホーリクス・アノニマスー」)。



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  • CE2022/07/19 JST 作成
  • CE2022/07/28 JST 最終更新

蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:Tropane alkaloid」『Wikipedia』(2022/07/22 JST 最終閲覧)

*3:ヨーロッパでは男性が自分の陰茎と舌を切断したという精神分析学的な報告もある(Andreas Marneros, Philipp Gutmann, and Frank Uhlmann (2006). Self-amputation of penis and tongue after use of Angel’s Trumpet. European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience, 256(7), 458–459. doi: 10.1007/s00406-006-0666-2)

*4:日本ではパーティーで酒と一緒に服用され事故死も起こしているという(金邦夫 (2020).「山中のドラッグパーティーで大惨事…『幻覚を見ているのか?』救助隊員が遭遇した若者の奇行」『文春オンライン』(2022/07/22 JST 最終閲覧))

*5:シュルテス, R. E.・ホフマン, A.・レッチュ, C. 鈴木立子(訳)(2007).『図説快楽植物大全』 東洋書林, 140-143. (Schultes, R. E., Hofmann, A., Raetsch, C. (2001). Plants of the Gods. Inner Traditions.)

*6:Centro ecologico «UNI RAO» La planta maestra ha florecido pero en Perú, seguimos en cuarentena…(2022/07/22 JST 最終閲覧)

*7:Centro ecologico «UNI RAO» La planta maestra ha florecido pero en Perú, seguimos en cuarentena…(2022/07/22 JST 最終閲覧)

*8:要出典

*9:Michael D. Bailey (2022). The invention of satanic witchcraft by medieval authorities was initially met with skepticism. Yahoo! News.(2022/07/22 JST 最終閲覧)

*10:Jaffe, Robert J Jaffe, Vladan Novakovic, Eric D Peselow (2013). Scopolamine as an Antidepressant A Systematic Review Clinical Neuropharmacology, 36(1), 24-6. doi: 10.1097/WNF.0b013e318278b703.

仏教の戒律

初期仏教における戒と律

仏教における戒律は、戒(sIla:行為の規則)と律(vinaya:教団の規則)からなる。

初期仏教の経典の中で、もっとも重要視される『ダンマパダ』の第18章は、死を目前にした人が閻魔王に向き合い、自らの行いを振り返るという内容であり、その中に五戒の原型となる短文がある。

生き物を殺し、虚言(いつわり)を語り、世間において与えられていないものを取り、他人の妻を犯し、穀酒・果実酒に耽溺(ふけりおぼれ)する人は、この世において自分の根本(ねもと)を掘りくずす人である。

『ダンマパダ』(18:246-247)[*1]

この五戒はすべての仏教徒が守るべき戒であり、在家戒はこの五戒からなる。

イズラームにおいては、クルアーン憲法であり、ハディースが法律であり、さらに宗派ごとの法学者たちの解釈が加わるという体系があるが、上座仏教の演繹的な解釈は、これと構造が同じである。

たとえば、禁じられる性行為が、既婚女性と男性が交わることだけなのか(さらには、男性側のみなのか?)については、解釈が揺れている。出家は全ての性行為を禁ずるというのが一般的である。これを在家にまで適用すれば、仏教徒は子孫を残せないだろう。こうした極端な解釈をゆるすのも、インド系の哲学の特異なところである。


仏教における十戒

出家してビク(僧)になるためには227の出家戒を守らなければならない (この正確な数には異説がいくつかある)。いずれにしても日本仏教ではあまり守られていないが、たとえば原理主義的な色彩の強いタイ仏教ではこれらの遵守が建前になっている。

タイの場合、見習い僧、サーマネーラ(タイ語ではサーマネーン)になるためには十戒を守ればよいが、正式な僧が着る黄衣をまとうことはできず、白衣を着る。

在家者も特別な時期には八戒を守ることを要求されるが、八戒以上 では五戒の不邪淫が不淫、つまりいっさいの性行為の禁止となる。八戒十戒は僧俗の中間的な立場をあらわしており、その内容も多少入れ替わることもある。

タイでは女がビクニ(尼)になることは許されていないが、メーチーという、尼僧のような人々が存在する。彼女たちもまた八戒ないしは十戒を守り、剃髪はするが白衣を着る。

「酒」と「薬」の間

当時は存在しなかったタバコや覚醒剤ヤーバー)などについても、アルコールに準ずるものとして禁止するという解釈が一般的である。大麻についても酒と同様と解釈するか、しかし、もともとインドでは瞑想の補助として用いられていたものであり、薬だから禁止の対象外だという解釈もありうる。

なお、日本仏教では酒のことを「般若湯」と呼ぶこともある。また、午後の食事についても「薬食」、つまり薬であると解釈して許容するという慣例がある。さらに「薬食」は、僧侶の性行為を意味することもある。日本の仏教は世襲であることが多いが、これは僧侶の性行為を前提としている。



筆者蛭川じしんの短期出家体験については「タイでの一時出家」に書いた。

とくに、戒律はルサンチマンの投影ではないかという、社会思想の観点からの批判的分析については「宗教とルサンチマン」を参照のこと。



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  • CE2022/06/08 JST 作成
  • CE2022/11/30 JST 最終更新

蛭川立

*1:中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波書店, 44.

パーリ語原文では、以下のようになる。 (246) Yo pāṇamatipāteti, musāvādañca bhāsati. loke adinnamādiyati, paradārañca gacchati. (247) Surāmerayapānañca, yo naro anuyuñjati. idhevameso lokasmiṃ, mūlaṃ khaṇ ati attano. ( Dhammapada Verses 246, 247 and 248: Panca Upasaka Vatthu 。「surā」は穀物から作られる酒、「meraya」は果実から作られる酒と、区別されている。」

【資料】グレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)

日本語版『精神の生態学』の巻末にベイトソンの全著作とその和訳リストがある。

1936年『Naven』(邦訳なし)

1942年『バリ島人の性格』

1951年『精神のコミュニケーション』

精神医学のロイシュとの対談。

1972年『精神の生態学』(複数の邦訳がある)

1979年『精神と自然』

1980年、ベイトソンはサンフランシスコ禅センターにて死去。その後出版されたものは娘のキャサリンベイトソンらが遺稿をまとめたものである。

1987年『天使のおそれ』

1991年『Sacred Unity』(邦訳なし)

1984年には、キャサリンベイトソンが両親、グレゴリー・ベイトソンとマーガレット・ミードの回想『娘の眼から』を刊行している。

(作成中)

精神活性物質・精神展開薬関連書籍リスト

精神活性物質をめぐる用語

精神に作用する物質について、まず用語の整理をしなければならない。医学用語としては、英語との対応関係も明らかにする必要がある。

精神に作用する物質について、一般的には「psychoactive」「psychotropic」+「drug」「substance」の組み合わせで「向精神薬」や「精神活性物質」に対応する。

法律で規制されている精神活性物質について「薬物」(ドラッグ=drug)という言葉が用いられることが多いが、これは薬用物質全般を指す言葉でもあるので、使用しないほうが望ましい。

「麻薬」は「narcotics」に対応する言葉であろう。しかし漢字の「麻」は「アサ」という植物も意味するので、ややこしい。

著作リスト

精神活性物質全般

精神活性物質全般については、以下の著作がある。

日本語で書かれたものとしては、興味本位で学術的な正確さを書くものが多い。それらの著作については、ここでは割愛する。

この二冊は、ただ「薬物は危険だ」と主張するのではなく、具体的にどの精神活性物質でどういう健康被害が生じたのかを網羅的にまとめている。

薬用植物全般について書かれた一冊。

精神活性作用のある植物全般のエンサイクロペディア。



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  • CE2022/06/15 JST 作成
  • CE2022/06/15 JST 最終更新

蛭川立