概説
仏教経典はキリスト教の『聖書』やイスラームの『クルアーン』のように整理されておらず、おそらく長い時代に書きためられた文献が非常に大量にある。書かれた言語によって分類すると、もっとも古いのがパーリ語で書かれた上座部仏教の経典であり、次にサンスクリットで書かれた大乗仏教の経典がある。
大乗仏教のうち、さらに新しい時代に編纂されたのが密教(タントラ仏教)の経典だが、書かれた言語からすると、もともとはサンスクリットで書かれたであろう経典の多くが、インドから仏教が失われていく過程で散逸してしまった中で、とくにチベット語に翻訳されたものが残されているものが多い。
大蔵経
日本では、およそ大乗仏教の時代に中国を経由して経典を輸入したため、漢語で書かれた大乗経典は古くから知られていた。
漢文の大蔵経としては「SAT大正新脩大藏經テキストデータベース」がオンライン上で公開されている。
その後、大乗経典は元のサンスクリットから平易な日本語に訳されるようになった。上座部仏教と中期以降の密教については、新しい時代にパーリ語やチベット語から直接翻訳されるようになった。
日本語に翻訳されている仏教経典については、Wkipediaの「日本語訳仏典」にまとめられている。
タイ・チェンマイ、ワット・ラム・プンの図書室
上座部仏教経典
パーリ三蔵
ローマナイズされたパーリ三蔵(Tipiṭaka)は、Vipassana Research Instituteによって「Pali Tipikata」にまとめられている。
上座部仏教は伝統的には日本には伝わらなかったのだが、それゆえに新しい時代になってから、パーリ語から直接日本語に訳されるようになった。
律蔵
パーリ三蔵(Tipiṭaka)のうち、律蔵(Vinayapiṭaka)は、戒律等の「条文」であり、とくに現代日本語訳は行われていない。
経蔵
経蔵(Sutta pitaka)のうち、『長部経典』『中部経典』『相応部経典』『増支部経典』は、中村元の監修による和訳『原始仏典』が春秋社から出版されている。
『小部経典』については、近年、正田大観による和訳が電子書籍として出版された。もっとも初期の経典とされる『ダンマパダ』や『スッタニパータ』など、主要な経典についてはについては、中村元の訳で岩波文庫として出版されている。また『ミリンダパンハ』については和訳が『ミリンダ王の問い』として東洋文庫におさめられている。
論蔵
論蔵(Abhidhamma piṭaka / Abhidharma piṭaka)は、経蔵の後から追加された考察だとされるが、和訳については、藤本晃 『『アビダンマッタサンガハ』を読む』と、その解説書である『ブッダの実践心理学』(全八巻)がサンガから出版された。
大乗仏教経典
大乗仏教経典のほうは、じつに様々な和訳があり、詳細は列挙しきれないが、
網羅的な全集としては、中央公論社の『大乗仏典』(インド編、全15巻、中国・日本編、全30巻)があり、このうちインド編のほうは文庫化されている。蛭川研究室ではこれを全巻所蔵している。
東京書籍からは、中村元の翻訳による『現代語訳 大乗仏典』(全7巻)が出版されている。
ことに日本仏教の宗派で重要視される『法華経』や『浄土三部経』などについては翻訳や解説も多いが、正確なところを知りたければサンスクリット原文を参照するしかない。蛭川研究室では『梵文和訳 無量寿経・阿弥陀経』を所蔵している。(『観無量寿経』のサンスクリット原典は発見されておらず、おそらく漢語が原典らしい。)