蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「身体と意識」2021/11/05 講義ノート

最初からお断りしておきますが、今回はパソコンの音声入力を使ってしゃべったことを文字に起こしています。ですからかなり文章がおかしいのですがそういうことです。いま文字に起こしたものにもう一回手を加えてみましたが、ひらがなにしたほうがいいのが漢字になっていたりが多いですね。それから私の口癖のようですが、まあ、とか、あの、が多くて、文字にするとしつこく感じられます。だいぶ削りました。

これからの講義についてもですね、今までと同じような講義ノートの形式とリアルタイムディスカッションで続けます。教室に戻すかどうかって言う事はちょっと考えつつも、教室の大きさなどもあって考えているところですが、いろんな方法も考えています。例えば私がしゃべった動画を撮影してもそれをアップするとか、もう一つは講義ノートと言うのを、手書き打っていると非常に時間がかかるのと、同じ時間でも口で喋るというのが時間あたりの情報量が非常に多いわけで、これはリアルタイム講義のほうがはるかに情報量が多いですね。

この最近のコンピューターの音声入力、音声認識の精度がかなり上がってきていて、今はそれを使ってるんですけれども、しゃべったものをそのまま文字に変換させてます。これはまあまあ精度が良いですね。 精度が良いとは言ってもかなり誤変換があるのでまぁ後からちょっとは書き直さないと、間違いだらけの文章になってしまうのですが、でもところどころ日本語としておかしくても、実際の講義の内容と言うのは、かなり文法的に間違っていても、まぁそれ話し言葉ですからその話し言葉の雰囲気をそのまま伝えるにはこの音声認識の機能と言うのを使ってしゃべったことを文字に起こしてみるっていうのも面白いんじゃないかなと思って、今日の講義ノートはこの実験でやってみます。と言うことなので文章が多少おかしかったとしてもこれしゃべったままのものだと言うふうに、理解してください。

向精神薬について、精神に作用する物質の分類と言うのをちゃんと知っておいた方が良いと言う事は、違法か合法かとは別に、もう繰り返しお話ししている事ですが(→「向精神薬の分類」)簡単に言うと目覚めさせる薬、興奮剤とか中枢神経刺激薬といったものと、それから逆にリラックスさせる、眠くさせると言うそういう薬があって、繰り返しお話ししている事ですが、簡単に言うと目覚めさせる薬、中枢神経刺激薬といったものと、それから逆に間リラックスさせる眠くさせるという薬があって、睡眠薬とか抗不安薬というのがありますが、アルコール、エタノール、お酒ですね、これも一時的に脳を麻痺させてちょっと興奮する作用がありますが、リラックス作用がありさらに、たくさん飲むと眠ってしまうとか意識を失ってしまうとか死んでしまうとか、実はこれもねあまり、えーと、安全な薬物では無いのですね。

そういう興奮させる薬と鎮静させる薬以外にいわゆる、サイケデリックとか幻覚剤と言われるような薬物があるのですが、これはあの目覚めている状態で夢を見るような特殊な薬物なの いやこれは非常に興味深い作用する物質なのですが逆に、あまり身近なものではないので、ちょっとその話は後に回しましょう。

おそらく一番身近な神経刺激薬あるいは、興奮剤と呼ばれているもので、カフェインですね、コーヒーに入ってますし、後はお茶にも入ってるんですけどお茶の場合にはテアニンと言う物質が打ち消しているのでちょっと効果がはっきりしないのですが、カフェイン、コーヒー、と言うのが多分が1番身近にある向精神薬だと思います。 まぁお酒は好きな人は好きですけど飲まない人は飲みませんし、やはり強い薬物ですから、体質に合わないとかたくさん飲みすぎて大変なことになるとかっていうことがあるわけですけど、おそらくコーヒーやお茶と言うのは、飲んだことがない人はほとんどいない位ポピュラーなものですし、カフェインも飲むと後ちょっと目が覚めるとか元気になるとか、こういう薬物の体験ていうのは1番、一般的と思います。

なのでそういう薬物を使用するって言うと何か特殊なことなのかなと思ってしまいますが、これはごく普通の事なんだと言うことからも話を始めたほうがいいかなと思います。

カフェインは交感神経を興奮させる薬物です。興奮剤。これの中には、メタンフェタミンいわゆる覚せい剤が含まれます。カフェインと覚せい剤が同じ薬物だと言うと驚かれるかもしれませんが国際的な分類では同じ興奮剤に含まれています。コカインもこのグループ準じます。

カフェインを含むコーヒーと言うのは普通に飲まれているものですそれがドラッグであるとか、薬物だと言うような意識はあまりないわけです。しかし覚せい剤メタンフェタミンと言うのも何が問題なのかっていうと、それは暴力団の資金源になっていると言う、これが今の日本の社会の問題であるわけです。例えばコーヒーに含まれているカフェインだけを抽出して、もし注射すると言うことをすれば非常に危険な使い方であるわけですが、逆に言えばごく少量の覚せい剤を口から飲むと言うことであれば、まぁ量がほんと少なければですね特に問題は無いわけです。ただし法律では覚せい剤は違法だというルールはありますので、これは守らなければいけないと言うことになります。

朝起きたときにコーヒーを一服してそれから学校に行くとか会社に行くとかと言うような1日の活動を始めると言うのはまぁ普通のことです。覚せい剤とかと言うものであったとしても、それ自体は一度使ったら中毒になって止められないとかそういった事は、この興奮剤の依存性とか乱用と言うものはどういうものかと言うと、朝起きた時に元気にすると言う位だけではなくて、例えば徹夜でがんばってしまうとか、そういう時などコーヒーとかあるいはもうちょっとカフェイン濃度を濃くしたエナジードリンクとかですね、そういうものが売っているそうですが、私はちょっと飲んだことがないのでわからないですが。そこで問題になるのは、何が問題なのかって言うと、うん、何か頑張りすぎてしまうと言うそういう所にむしろカフェインや覚醒剤などの薬物の問題点があると思うわけです。

つまりエナジードリンクとかといっても飲んで元気になるわけですけど、本当にね体にエナジー、栄養分を補給して元気になるのではなくて、いわば脳を刺激して元気になったような錯覚と言うのか幻覚というか、そういうことをさせるわけですね。

本当は体が疲れているのに、すごく自分は元気なんだと言うような錯覚というか幻覚を感じさせる薬であると言う意味では扱い方を間違えると危険な薬にあるわけです。そのこれは暴力団の資金源になっていると言う事でも問題になっているわけですけれども、これも強さへの願望と言うんですかね、自分が普段の自分以上に頑張っていると言う、あの自分の能力と言うものが100%ぐらいしかないとすれば、覚せい剤っていうのは、それが200%位のパワーがあって、まぁ昼も夜も寝ないで頑張れるという錯覚とか幻覚を起こさせると、そういう意味で危険だと言えるわけです。

もちろん頑張ろうと言う、頑張って仕事しようとか頑張って何とかしようって言うこと自体は、いいことですよね。それはねあの、努力していこう発展させると言う社会を発展させると言うふうな力にもなってきたので、これは近代社会と言うものの発展、勤勉さと言う事と関係あると言うことです。

覚せい剤と言うのは実は日本で合成されたものです。メタンフェタミンと言うのはマオウという漢方薬に含まれるエフェドリンと言う物質を改良して明治時代に日本で作られたものです。これはその、明治時代以降の日本の急速な発展そして海外に向けて戦争を始めていくと、そういう時代の中でまぁ作られていったと言うそういう時代背景もあるわけですね。でそれはまた戦後の日本においては、その復興経済発展といったことにも関係しているわけです。これについては「興奮するモダン・沈静するポストモダン」と言う記事にも書きましたし、後は私が講義をした動画も以下にリンクがありますので見てください。


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朝なかなか寝布団から起き上がれないとかそういう事は誰にでもあることですけれども私が個人的には、これは結構重症でありまして、これが私が睡眠や意識の研究をしている個人的な動機でもあるんですけど、寝ていて、朝目覚まし時計に起こされても、もう全然起き上がれない全く体が動かないとか起き上がれないとか、がんばって起き上がってもまた急に眠くなって急に眠くなって眠てしまうとかそういった、ちょっとねえー過眠症というか、眠りすぎてしまうっていうのがあるんですけど。そういう時には興奮剤、中枢神経刺激薬とか、そういう薬も時々服用しています。カフェインも同じですが、胃が痛くなったり、副作用っていう動悸がしたりとかですね、そういう副作用が多いのかなと思います。なので私はあまりコーヒーとかカフェインは飲まないのですが副作用の出方は遺伝的な体質によってだいぶ違うようです。

薬物の社会的背景についてもあまり細かく語るのはこの授業から外れるのですが、コカインというのが南米のインカ帝国を作った、がんばって帝国を作った人たちによって使われてきたものでやはり厳しい環境の中で頑張るって言う、そういう精神と一致していると言うことであります。(→「勤勉と強迫の文化」これは本題から逸れます。南米の先住民社会の話です。)

何の話をしてたのかと言うと、これは脳の化学的な反応と言う事に話を戻しますと、脳内で交感神経を興奮させるような物質で神経伝達物質として、アドレナリン、ノルアドレナリンドーパミンといったカテコールアミン系の物質がありますが、これについてもカテコールアミンの生合成の経路といったことを動画で少し喋りましたが、ここまで詳しく話をすると専門的になりすぎるので、あまりちゃんと見なくてもいいです。これらのドーパミンノルアドレナリン、アドレナリンと言う物質がだいたい同じような構造の物質だということがわかればそれでいいと思います。


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ちなみにあのこういう精神刺激薬、中枢神経刺激薬と言うのを飲みすぎたらどうなるのかっていうことがあるんですが、もちろん交換神経を興奮させるので、血圧が上がりすぎたりとかそういう危険性もあるんですが、精神に対する作用としては、特に覚せい剤とかコカインとかなんですがたくさん飲むと被害妄想が出てきたりするんですね。 被害妄想とかというのは誰かから攻撃されているとか悪口を言われてるとかって言うような、統合失調症と言う病気の最初の方で出てくる陽性症状と言われるものですが、それとよく似ています。統合失調症というのは精神病の代表的なもので、これもあまり身近なものでは無いかもしれませんがしかし、100人に1人位の人が、20歳位で発病することが多いと言う割と普通の珍しくない病気なので、でもこれは早く発見して早く直せば治る病気なので気をつけた方が良いですね。

心が病んでいるとか性格がおかしいとかと言うよりは脳の病気であるということがわかってきているので、 ドーパミンの働きを抑える薬を飲むと、良くなると言うこともわかっていますので、早期発見早期治療をすれば、治る病気だと言うこともわかっています。

妄想とか被害妄想と言うとまた、普通の人には関係のない病的な話なのかなと思うと、そうではなくて、疑いを抱く、いま目に見える現実の背後に何か隠された意図があるんじゃないだろうか、隠された悪意があるんじゃないだろうかと言うことをちょっと心配すると言うのは誰でも考えることだと思います。(→「妄想と陰謀論」本筋とは外れますが、ご参考までに。)

例えば新型コロナウィルスは、中国から感染が始まったと言う事なんですが、これが本当はどこから来たのかよくわからないですね。市場とか研究所とか言われていますが、でこれに対して何かね、中国の政府とかその当事者が何か情報を隠してるんじゃないだろうかと、そういうふうに考えるのは、そういう疑いを抱くと言うのは、まぁ正常の範囲ですし、むしろそれぐらいの疑いと言うのは考えた方が良いわけです。ところがこれがだんだん程度が増してきますと、実はこの新型コロナウィルスと言うのは中国政府の陰謀であるとか、生物兵器として開発されたものである、それによって攻撃されているんだとか、 そういう陰謀論みたいな思想になってくるとまぁやや病的になってきます。とは言えそういう陰謀が本当にないとは言えないので、それも絶対間違いでは無いですしその正常な思考と病的な思考と言うものの間にははっきり線は引けないと言う事です。そしてその脳神経科学的な見地から言うと、これは脳内の神経伝達物質ドーパミンと言う物質の量が増えたり減ったりすると言う事で説明されています。というのはこのドーパミンを増やす興奮薬を飲み過ぎると被害妄想のようなものが出てきますし、逆にその被害妄想のような症状と言うのはこのドーパミン系の働きを抑えるような薬で良くなるということがわかっているからです。

それから逆に脳の働きを抑えるような物質、向精神薬としてはオピオイドですねそれから、GABA受容体に働きかけるベンゾジアゼピン系の抗不安薬睡眠薬と言うものがあります。睡眠薬と言うのもまぁ、あのー、それに近い作用するものとして多分もっと身近な物質はアルコール、エチルアルコールエタノール、お酒ですね、これがあります。この抑制させるタイプの物質と言うのはあんまり一般的ではないですかね。いやしかし、今睡眠のサプリというのはねかなり非常に、一般に流通していて、コンビニとかに売っているようですけど、テアニンとかGABAとかグリシンとかって言うものがよく眠れるサプリとして売っています。あの社会的な背景としては、とにかく頑張って頑張ってって仕事するって言うような社会の仕組みからちょっと、頑張りすぎてしまう、ストレスが溜まっているそういうストレスをちょっとリラックスさせると言う、そういうことが必要されてきてる時代なんだろうなと言うふうに思います。

ただし本当に神経の働きを抑えるような物質が乱用されると言う事は、特に日本ではあまりないですね。やはりそう社会の価値観として、真面目であることを勤勉であることというのが良いとされて、あまり後リラックスばかりしていて寝てばかりいるって言う事は 今までの社会の仕組みとしては、あまり望ましいことではなかったと言う事ですね。まぁお酒を飲んでちょっと神経を鈍らせて、ちょっともう疲れた、脳の憂さ晴らしをするとか、あるいはちょっと夜寝る前に晩酌って言うんですかちょっと脳を休めて寝るとか、と言うこともまぁ日本の文化の中にはあったのですが、しかしあのアルコールも飲みすぎると体には悪いですし、後はね攻撃的になって暴力振るったりするって言う弊害もあることも多いので、特に緊急事態宣言家下は、大声で喋るとかどうなのかって言う話そういう理由もあってお酒を飲むって言う人の数が減っていると言う感じがします。

でその一方でリラックスするためのサプリメントとか食べ物とかですね、かなり流通してきているなと言う気がします。睡眠薬と言うとちょっとこれはねぇ特殊でやはり医者に行って眠れません、て言わないともらえない薬なのですけど、でも弱い睡眠薬、ちょっとリラックスさせる薬、サプリメントっていうのはむしろ今の日本の社会では結構流行っていると思いますね、テアニンというのが、あのお茶に含まれるリラックスさせる物質で、お茶には沢山のカカフェインが入ってるんですけど、カフェインの作用を打ち消す物質としてテアニンが注目されています。 テアニンのテ、と言うのはお茶のティーと言う言葉から来ているわけです。

あとはGABAと言うものが売られていますがこれは実は脳内で働いている神経伝達物質そのものです。ドーパミンノルアドレナリンセロトニンが、脳で神経を興奮させるような神経伝達物質であるのに対してGABA、ガンマアミノ酪酸は神経の興奮を抑制させる代表的な神経伝達物質です。でこの神経伝達物質そのものがですね普通に売られるようになりましたねぇ、サプリメントとしてもありますしあとはチョコレート。もし本当にはっきり効くっていうことがわかっているのだとしたらこれたくさん飲んだら意識を失って倒れてしまうでしょうから、ほんとに効くのだとすれば、病院で処方されると言うことになるのでしょうけど、大丈夫だから売ってるんですね。医者が処方するベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安、薬睡眠薬等はGABAと同じように作用するものです。睡眠薬などと言うとちょっと特殊な薬であって、 意識を失って倒れてしまうとか、もう死んでしまうとかいうイメージがあるかもしれませんが、実は普通に売ってるGABAと言うのも同じものだと思うと身近に感じられるものですね。

今まで向精神薬の中で脳の働きを興奮させるものと神経の働きの興奮を逆に抑制するものの2種類を見てきました。ここまでは身近でよくわかりやすいですけれども、それとは違う第3の薬物のグループがあって、これが精神展開薬とか、サイケデリックスとか呼ばれている、一番身近ではないのですがしかし非常に興味深い物質なので、これはぜひ来週以降改めてお話ししたいと思います。というのはこれ、夢を見させる物質なのですね。幻覚剤などと呼ばれていて何か幻覚が見える怖い薬なんじゃないだろうか、やばい薬なんじゃないだろうかと言うイメージがあるのですが、これは何度もお話してきた通りおそらく寝てる時に夢を見るって、その夢を見させる物質と関係があるのではないだろうかと言う意味で、意識の状態と幻覚と言うと変ですけど、別の現実、別のリアリティーと言う、身体と意識、精神と物質と言うものを考える上で非常に興味深い物質であって、それが単に脳を覚醒させるとか興奮を抑えるとかと言うものとは次元の違うものだと言うことです。夢を見ているときは、寝ているのに醒めているという、不思議な状態にあるわけです。これはまた来週以降お話をしたいと思います。

「人類学B」2021/10/26 講義ノート

今回の授業ですが、有性生殖、動物の群れ、人間の婚姻と親族、といったテーマをもうすこし詳しく扱いたいと思います。

私の著書である『性・死・快楽の起源』をテキスト化したもののうち「『不倫』はなぜ禁止されるのか」という章をアップしました。

これだけで相当な分量になりますが、興味を惹かれた部分だけでも、目を通してください。そして、質問や意見を出してください。議論しましょう。

「不倫」というキャッチーな表現を使ったのは、読者の目を惹くためのマーケティングのようなもので、内容は、動物の生殖、動物の群れ、その中で、人間の婚姻、親族、社会について、一般的、教科書的な議論をしています。

本には書きませんでしたが、その後、勉強したところによると、中国の古典で「倫」というのは、妻が夫を尊敬することであり、妻が夫を尊敬しないことを「不倫」というのだそうです。昔の中国での、儒教道徳の思想です。「不倫」というと、既婚男性が、未婚の女性と性愛の関係になる、という組み合わせが多いのかなとも思いますが、これはまた一夫多妻制という、動物の配偶システムとも関係する、生物学的な問題でもあります。近代社会の倫理に反するようなことも書いていますが、これは、あくまでも進化生物学的であり、道徳的な善悪を論じているのではない、ということもお含みおきください。

じつはこの本は、二十年以上前に書いたものです。若気の至りで、文章表現に荒っぽさが目立ちます。下品な性的表現もありますが、わかりやすい表現を使おうとしただけで、読者に不快な思いをさせようという意図はありませんでした、ご容赦ください。文庫化の話もあったのですが、それは見送りました。いずれ書き直したいと思っています。

類人猿の配偶システム、一夫多妻とか一夫一妻とか、これを「ヒト上科の配偶システム」という表にまとめてみました。これも同時に参考にしてください。

それから、先週にアップした、脳の構造と機能についても、コメントや質問があれば、どうぞ。テーマがちょっと違いますが、同時並行で行きましょう。



デフォルトのリンク先は「はてなキーワード」または「Wikipedia」です。詳細は「リンクと引用の指針」をご覧ください。

明治大学蛭川研究室公式ホームページ ブログ版蛭川研究室



CE2021/10/25 JST 作成
CE2021/10/26 JST 最終更新
蛭川立

「身体と意識」2021/10/22 講義ノート

先週は京都での事件のことを長々と話しすぎまして、本題が後回しになっていましたが、脳の構造と機能、向精神薬の作用、といったお話しをしていきたいと思います。

向精神薬、薬物だとかドラッグだとかいうと、どうも興味本位な話になりがちなのですが、向精神薬の突いての知識がなぜ重要かというと、これは脳と心、身体と意識、物質と精神をつなぐものだからです。

嗜好品として使われる向精神薬も、乱用される向精神薬も、医者で処方される向精神薬も、意外に単純な構造の分子です。そういう分子が脳の働き、心の働きに大きな作用を及ぼすということは、非常に注目すべきことです。

たとえばお酒に含まれるエチルアルコールエタノールですが、炭素が2個、酸素が1個、水素が6個、全部で原子が9個です、こんな単純な分子が、感情や思考を大きく変えます。このことは、心の働きを物質的に解明するのに非常に重要な手がかりなのです。

しかし、お酒を飲んでも眼前のリアリティが根本的に変わるほどの意識変容が起こるわけではありません。覚醒状態と睡眠状態の違いほどの意識状態の変化を起こす物質が、サイケデリックスとか、精神展開薬とかいう物質です(→「精神展開薬(サイケデリックス)」。幻覚剤とも呼ばれます。サイケデリックというと、カラフルな幻覚が見えて気が狂ってしまうというイメージがあるのですが、簡単に言うと、意識が明晰に保たれたまま、夢を見るという感じでしょうか。これはなかなか体験しないとわからないものです。夢を見たことがない人に、夢とはどういう体験なのかを説明するのが難しいのと同じです。とはいえ、夢という幻覚を見たからといって気が狂ってしまうわけではありません。

京都での事件、京都アヤワスカ茶会裁判の発端が、この精神展開薬であるDMTでした。今まで夢なんか見たことがないという人が、生まれて初めて夢を見て、びっくりして世界観や人生観が変わってしまったという、それが発端でした。人生観が変わってしまった結果、うつ病が治ってしまったというわけです。じっさい、うつ病や不安障害という病気は、これは性格が暗いとか、そういうことよりは、脳内物質のバランスの崩れであるという、脳という内臓の病気だというパラダイムが最近の精神医学です。

たとえばうつ病は、神経伝達物質であるセロトニンが不足する病気なので、DMTのような精神展開薬、セロトニンとよく似た物質を飲んで、セロトニン受容体、5-HTレセプターのアゴニストとして作用させるとか、あるいは、脳内でセロトニンが分解されるのを阻害する物質、そういう薬を飲めば治ると、そういう方向で研究や治療が進んでいます。

こういう話をしていると、セロトニンとか、受容体とかいう専門用語が出てきます。必要におうじて基礎知識を補っていきましょう。

まず、薬物の分類についての基礎知識が必要です(→「向精神薬の分類」)。これは前回も、私の授業では、もう何回も言っている話ですが、ドラッグというのは全部ダメという観念体系があって、そこを整理しないと話が先に進まないからです。高校までは、ダメゼッタイという公式の暗記ですが、大学での勉強は、なぜダメなの?と問い直し、考える作業です。

また京都裁判に話を戻しますが、この京都での裁判が長期化しているのは、そもそも警察や検察の人たちが、DMTという精神展開薬が何であるのかはほとんど知らずに、薬物=覚醒剤暴力団=摘発、という、暗記したとおりの公式にしたがって、薬草を売っていた男性を誤認逮捕してしまった、というのがウラの実態らしいのです。公式というのは暗記しておくと便利なものですが、世の中、たまに公式には当てはまらないことが起きます。そういうときに役立つ思考法を訓練する、これが大学の勉強です。

話を戻します。意識を変容させる向精神薬について、これを理解するには、神経や神経伝達物質の基礎知識が必要です。これは「神経伝達物質と向精神薬」に書きました。目で見る医学の基礎知識というYouTube動画へリンクを張っておきましたが、これを10分、いや、最後の3分の部分だけでも、見るだけで、だいたい基礎知識は身につきます。今回の授業は、この3分を見てもらえれば、もうそれで充分です、というぐらいです。なお、最初のほうの、呼吸器系の病気では血中の酸素が減り、というあたりは、この授業とは関係ありませんが、世界的に肺炎が流行している昨今の状況下では、パルスオキシメーターなどが日常的に話題になっていますね。

それから、脳の構造と機能についても、あるていどは知っておくといいのですが、心理学や精神医学では、意外に脳のことは知らなくても大丈夫なのです。なぜかというと、じつは脳のどの部分が、どういう働きをしているのか、まだよくわかっていないからです。神経や神経伝達物質の細かいことはよく研究されているのですが、脳が全体としてどう働いているのか、これが意外にわかっていないのです。世の中には「脳科学」と題する本が多々ありますが、かなりの部分、推測で書かれたものか、明らかにデタラメな疑似科学もあります。医学の専門書のコーナーには「神経科学」という本ばかりで「脳科学」という本はありません。せいぜい「脳神経科学」という言葉がある程度です。

脳と神経系の構造については「ヒトの脳の構造」、「向精神薬の分類」という記事を書きました。この記事から、さらに別の記事にリンクを張ってありますが、全部をしっかり読んでいると、だいぶ時間がかかりますので、時間がない人は、ほどほどにしておいてください。

とくに人間の脳は巨大化しすぎていて、複雑に折りたたまれているので、平面的な図を見ても、なかなかよくわかりません。私じしんが脳の模型を使って解説している自撮り動画「脳の構造」のほうをごらんください。3個動画がありますが、全部で10分もありません。これでも、だいたいの感じはわかりますね。

今後の授業をどうするのか、まだ試行錯誤中です。掲示板ディスカッション方式のほうがいいという意見もありますし、といって、こうやって文字で書くよりも、しゃべったほうが情報の量としてはずっと効率的です。教室での講義に戻す前に、講義動画を録画してアップして、この講義ノートからリンクを張り、そして授業時間には掲示板でディスカッションを行うと、今回は、そういう組み合わせの実験的授業です。



CE2021/10/21 JST 作成
CE2021/10/22 JST 最終更新
蛭川立

脳と神経伝達物質 ー 模型による解説 ー

この記事には医療・医学に関する記述が含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません[*2]。個々の薬剤や治療法の使用、処方、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

脳の構造と分子の構造、平面的な図表では理解しにくいものは、模型を使って体感するとわかりやすい。自分で試行錯誤するのがいちばんだが、他人が試行錯誤しているのを見ても、教科書に載っている完成図を見るよりは、その複雑さがわかるだろう。

脳の構造


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脳と脊髄の構造(縦断面)


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脳の構造(実物大)頭蓋骨と大脳
 

www.youtube.com
脳の構造(実物大)辺縁系と脳幹

神経伝達物質の生合成


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カテコールアミンの生合成
 

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エフェドリンからアンフェタミン類へ
 

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セロトニンメラトニン
 

www.youtube.com
トリプトファンからDMTへ
 

www.youtube.com
セロトニンとDMT



CE2021/10/17 JST 作成
CE2021/10/18 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

「人類学B」2021/10/19 講義ノート

10月19日、火曜日の授業ですが、たまたま大事な会議の予定と重なってしまいました。例年ですと、やむを得ず休講、とせざるをえないところですが、ここはオンラインの良さを活かしたいところです。

研究室でコスプレをして、講義ふうに語ったものを自撮りして、ネット上にアップしておきました。

なお、リアルタイムのディスカッションはお休みにします。質問やコメントはまた来週受け付けることにします。悪しからず、ご理解のほどを。

脳の構造

人類の進化とともに、大脳化が進んだという話をしました。脳の構造については、基礎知識として、いつかどこかでお話ししようと思っていたのですが、これは、今日、自習とします。

リンク先の資料「脳の構造」から動画を見ることができます。私じしんが複雑な脳の模型を扱いかねていますが、ヒトの脳は大きくなりすぎて、内部に巻き込んでいる部分が多く、この内部構造がわかりにくいのです。(このページの後半には、脳内ではたらく神経伝達物質についての解説動画もアップしてありますが、これは人類学Bの授業とは直接関係がありません。)

それから、「ヒトの脳の構造」のページには、脳の構造や進化について、他のすぐれた教材サイトへのリンクを紹介しています。カギ括弧でくくられたリンク先には、私が編集した記事があります。そちらもご覧ください。そして、静止画と動画と、広めの画面で並べながら見ると、静止画が立体的に理解できると思います。

脳の構造や分子の構造は、模型を組み立てたり分解したりして、はじめて立体的に理解できるものです。これは、自分でやるのがいちばんいいのですが、他人が試行錯誤をしているのを見るだけでも、その複雑さと美しさがわかります。

分析ゼミの募集

それから、いまの二年生の皆さん、来年の分析ゼミを決める時期が来ました。ゼミ紹介動画も作ったのですが、これは、いまの三年生と行っているzoomゼミの様子を録画したものです。

commonsi.muc.meiji.jp

ゼミ生との対話というよりは、私がバーチャルリアリティについて語っているところを、3年のゼミ生に編集してもらいまして、私の研究への熱意?は感じられるかもしれませんが、じっさいゼミで何をやるのか、全体像がよくわかりませんね。

教室での説明会は今年は中止となりましたが、例年、私のゼミは2、3人の少人数でやっておりますので、関心がある人、質問がある人、個別に連絡をください。面接とは別に、研究室に来てもらって、お話しをすることもできます。ゼミの募集で気をつけるべきことは、教員と学生の関心領域のズレです。一次募集で面接をしますが、成績の善し悪しで合格とか不合格ではなく、私が指導できる範囲と、ゼミ生が研究したいテーマが一致しない場合、また別の先生のところに行ったほうがいいことも多いのですが、二次募集では間に合わないことが多いのです。

ちなみに問題分析ゼミナール紹介動画のページにも、ゼミ紹介動画があります。

www.meiji.ac.jp

こちらは4年ほどまえに作ったサイトですが、インドネシアのバリ島に行っているゼミ生と通話しているところを撮影するという、入れ子状の構造になっています。

憑依儀礼という神秘的な現象の中に参与していく、そういう視点と、それを批判的に、あるいは理系の思考で理解していくという、両方の観点からやっていますという意味で作りました。このときに、人間の心を脳という物質としてとらえる白衣の科学者というコスプレをいたしまして、このスタイルを授業用の動画でも使ってみました。

ちなみに、ふだんは白衣は着ていません。白衣というのは、薬品などで汚れないように、という実用的な衣装なのですが、実証的な近代科学、理系人間の象徴としてのフェティシズム的な象徴論的な意味も強く帯びています。

今後の展望

今後の授業をどうしようか、まだ考え中ですが、たとえば、こういう動画で授業をしながら、同時に掲示板で議論するという、そういうハイブリッド形式も考えています。今回はリアルタイムディスカッションができませんが、来週以降、動画と掲示板の組み合わせも模索していくつもりです。授業を教室に変更する場合は、早めに連絡をします。



CE2021/10/17 JST 作成
CE2021/10/18 JST 最終更新
蛭川立

カテコールアミンとインドールアミン

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

カテコールアミンとその誘導体

https://kotobank.jp/image/dictionary/naikagaku10/media/ASNKG1207030000_P01.png
カテコールアミンの生合成[*2](日本語)
 
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/08/Catecholamines_biosynthesis.svg/1024px-Catecholamines_biosynthesis.svg.png
(英語)[*3]

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「身体と意識」2021/10/15 講義ノート

事前の授業計画とは前後してしまうのですが、脳や神経の構造や機能を学んだ後で、いろいろな意識体験の具体例を示していくという演繹的な方向よりも、具体例を示してから、基礎知識を説明するという帰納的な進め方をしたほうが、わかりやすいだろうなと思って、行ったり来たりしながら進めていきます。

まずは驚くべき具体例として提示したいのは「京都アヤワスカ茶会裁判」です。これは、去年、2020年の6月から始まった裁判なので、私の授業では、もう何回か取り上げました。

事件の概要はリンク先に書きましたが、その発端は、京都のとある大学の一年生でした。彼は、哲学書などを読むのが好きな青年で、自宅に引きこもって本を読み、大学にもあまり行かない、そのうちに、だんだんとうつ病になってしまい、さらに悪化して、死にたい、自分は死ななければならないという観念にとりつかれてしまったそうです。

良い大学に合格して入学して、とくに不幸な出来事があったわけでもなく、そんなふうに絶望するような状況ではありませんでした。それなのに、とくに理由もないのに、絶望的な気持ちになってしまい、自分のような人間は死んだほうがいいんだと、そういうおかしな観念にとりつかれてしまう、それが、うつ病という、一種の病気であるわけです。

しかし、その大学生も、頭の良い男子でしたから、これはおかしいな、うつ病という病気なんだろうな、ということは、自分でもわかっていたのだそうです。それで、医者に行って脳の調子を整える抗うつ薬などをもらって飲んだりしたのですが、良くならない。これを、精神医学の用語では、治療抵抗性うつ病、といいます。

その優秀な大学生は、自分が治療抵抗性うつ病だということも理解していて、この、治療抵抗性うつ病には、南米アマゾンの先住民族が治療儀礼に使ってきた、アヤワスカという薬草が効くという情報をネットで調べて、そしてネットでアヤワスカという薬草を買い、飲んだところ、ほんの数時間の間に、自分がいったん死んで生まれ変わるような体験をして、そして翌日にはすっかりうつ病が治ってしまったそうです。

ただし、アヤワスカのお茶を飲んだ直後には、死の世界に引き込まれていくような怖い体験が起こり、隣にいた友達が、びっくりして救急車を呼びました。アヤワスカ茶は飲んで死ぬような毒薬ではありませんし、本人もそれは知っていて飲んだのですが、友達が救急車を呼んだので、病院に運ばれて、アヤワスカという薬草を飲んだと医者に説明したところ、そのアヤワスカには、DMTという違法薬物が含まれているということで、その大学生は逮捕されてしまったと、それが事件の発端だったそうです。

その大学生は未成年でしたし、悪いことをしたわけでもありませんから、実名報道もされず、家庭裁判所に保護され、無罪放免になりました。しかし、そのアヤワスカという薬草を売っていた青井硝子という人も逮捕され、この人は成人でしたから、起訴されて裁判になりました。しかし、青井被告は、うつ病を治す薬草を売っただけであり、じっさいにうつ病が治ったのだし、何も悪いことはしていない、アヤワスカという植物自体は法律で所持も売買も規制されていないのだと罪状を否認し、今に至るまで裁判が続き、決着がついていません。


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(途中で追加ですが、私のゼミの卒業生が、九月に京都地裁で行われた公判を傍聴してきたそうです。一年生のころからバンドをやっていて、卒業後もずっとミュージシャンです。地上最強のアヤワスカダイエット、などと変なことを言っていますが、まあ彼も舞台でエンターテインメント、パフォーマンスをするのが仕事ですから、半分ぐらいは変なことを言っているので、適当に聞き流してください。ただし、半分ぐらいはかなりちゃんとしたことを言っています。ただし、結論として青井被告は無罪というのは、ちょっと事実とは異なる結論です。)

この事件のことは、去年から授業でお話ししていまして、その後、期末レポートを読んでみますと、同じ大学生として、こういう、引きこもって悩んでしまう大学生の気持ちはわかるとか、なんと、この青井被告のお茶を飲んで自分もウツを治したとか、そういう答案が複数出てきて、驚きました。実名のレポートにそういう話が出てくるということは。東京の大学生でも買って飲んでいた人がかなりいるということで、私は驚きましたし、そういうこともあって、この事件の話は、授業で何度もお話ししています。

なぜ私がこの事件とかかわることになったかというと、私は人類学的な視点から、南米アマゾンの先住民族がこのアヤワスカという薬草を使って治療儀礼を行っているということを研究していまして、そういう研究をしていたところで、こういう事件が起こったものですから、報道関係者や弁護士さんから問い合わせがあり、その後、専門知識のある研究者として、かかわることになりました。

事件の発端からしても、大学生はなにも悪いことはしていませんし、むしろ、自分の病気を自分で治してしまったわけですから、彼が犯罪者とされるのはおかしいと、そういう道義的な理由もあります。

この事件は、あまり大々的には報道されていません。なにしろアマゾンの先住民族が使っている薬草のことなど、ふつうは理解不能ですから、一般に理解されないのも当然なのですが、しかし、これで人生観が変わってうつ病も治ってしまうという、このことは、脳神経科学においては重要な発見です。ただし、最先端すぎて、あまり報道もされず、報道されないから大学の先生や医者でもまだ知らない人が多いという、そういうミステリーです。いわゆるミステリーではなくて、本当の意味での学問的なミステリーです。

こういう話を授業で話しても、あまりよくわからない変な話なのかな、と思いきや、意外に専門の学者のほうがこの事件のことを知らず、ネット上で情報収集している大学生のほうが意外に良く知っていると知りまして、そこでこの事件について授業で何度もとりあげているわけです。

私じしんも、アマゾンの先住民族が使っている薬草のことは知っていましたし、それが病気を治す成分を含んでいるとは知っていましたが、まさか日本でこんな事件が起こるとは思ってもみませんでした。ネット上では、心に悩みを抱える若者が情報交換し合っていて、かなり細かい精神医学の知識などがシェアされているということも、後から知りました。今の若者の文化なのですね。自宅に引きこもって外に出てこないけれども、じつはネットで世界中とつながっているという、これは、インターネットの進化、情報社会の若者の、現代的問題としてもとらえることができます。

去年、共同通信から私が取材を受けた「厳格すぎる薬物規制、このままでいいの? 文化人類学者と考えるサイケデリックス」という記事が、この事件を薬物問題全体の文脈で語っています。ただし、私の発言はカギ括弧の中だけで、文章全体は記者さんが書いたもので、二人の考えは微妙に違うところもあります。それから、こういうネット上の記事は、読者からのコメントも面白いですね。あまり炎上もしていませんし、意外に冷静な議論がなされています。

この裁判は現在進行中であり、この事件について語り始めると長く長くなってしまいます。春学期、五月の人類学の授業でも同じ話をしたので、人類学的背景については「「人類学A」2021/05/18 講義ノート」と、そのリンク先をごらんください。ただし、これは人類学の授業なので、南米の文化の紹介、というところにフォーカスしています。

多少はこのような文化的背景を知っておいてほしいのですが、こちらの身体と意識の授業では、薬物の作用そのものを見ていきます。アルコールやカフェインがそうですが、単純な分子が脳に作用するだけで、精神状態が変わってしまう、これは物質と精神の関係を考える上で、非常に興味深い事例です。お酒やコーヒーは身近なものですが、薬物とかドラッグとかいうと、なにかとても悪くて怖いものだという先入観があります。じっさい、所持しているだけで違法だという薬物も多いのですが、なぜ違法なのかもよくわからず、怖い、悪いというイメージばかりが信じられていて、冷静に議論されることは、あまりありません。本当は薬として有益なものも多いのに、この薬物問題は、なぜか科学的な議論が進んでいません。あるいは、単純な物質が意識を変えてしまうということに対する、漠然とした無意識的な不安が社会的に共有されているからなのかもしれません。

さて、では薬物とは、ドラッグとは何か、これについては、まず向精神作用のある物質の分類から知らなければなりません。高校までの勉強ですと、とにかく薬物はダメという天下り的な勉強です。なぜダメなの?という疑問を差し挟む余地がないんですね。これに対して大学での勉強というのは、薬物というけれど、文字通り、薬、なのですから、使い方次第で毒にも薬にもなる、いろいろな種類の薬があるのだから、一概にはダメとはいえないと、こういうことを批判的に議論していくこと、これが大学では大事になります。

薬物の分類については「向精神薬の分類」に詳しいことを書きましたが、今週はかなりコンテンツが豊富すぎて、ちょっとこのあたりまでにしておいて、ここまでのところでディスカッションをしましょう。そして、続きは来週以降にしましょう。