蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

薬物依存

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

この記事は特定の薬剤や治療法の効能を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、処方、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

依存と離脱

依存性薬物には、依存性がある。依存性は、精神依存と、身体依存に分類される。精神依存とは違い、身体依存は、離脱症状(禁断症状)を伴う。

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薬物依存が起こるプロセス[*2]

たとえば「またタバコを吸ってスッキリしたい」というのは精神依存であり、これは、多少なりとも、どんな依存性薬物にもある。「タバコを吸わないとイライラする」というのは離脱症状である。「『タバコを吸わないとイライラする』からタバコを吸ってスッキリしたい」というのは、身体依存である。

離脱症状をなくすために薬物を使用するようになるのが身体依存であり、依存のサイクルから抜け出しにくくなる。

耐性とは、何度も薬物を使ううちに、少量では効かなくなり、量を増やさなければ効かなくなる現象である。耐性と依存性、とくに耐性と身体依存性が両方ある薬物は、さらに深刻な依存のサイクルに陥りやすい。

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向精神薬の作用[*3]LSDを含む物質群は精神展開薬(幻覚剤)と総称される)

https://bsd.neuroinf.jp/w/images/3/3f/%E4%BE%9D%E5%AD%98%E7%97%87.png
報酬系に影響を与える依存性物質とその標的分子[*4]

向精神薬の依存性(とくに身体依存)と耐性に着目すると、これは抑制系の薬物に顕著である。とくにあへん類(オピオイド、狭義の麻薬)、バルビツール酸(昔の睡眠薬で、今はほとんど使われない)、アルコール(エチルアルコール、つまり酒)には強い耐性と身体依存性がある。


身体的依存性の低さの順に並べた主要な精神活性物質[*5]

その他の薬物には、それほど強い依存性はない。また、近年の研究では、LSDやDMTなどの精神展開薬(幻覚剤)には、逆にアルコールやコカインなどに対する依存症を改善する作用があることが明らかになってきている。精神展開薬には、認知の枠組みをリセットし、その人の人生観をいったん壊して再構築する作用があるため、その「副作用」として、薬物依存やその他の嗜癖行動が消えてしまうことがある。

毒性

依存性と紛らわしい言葉として「中毒」があるが、「中毒」とは、薬物が直接心身に与える悪影響のことであり、精神毒性と身体毒性に分けられる。

身体への毒性は、使用方法によっても大きく異なる。静脈注射はもっとも危険な方法である。メタンフェタミン覚醒剤)の有害性は、注射という方法によって実際以上に問題となっている。タバコや大麻の有害性は、喫煙という方法によって実際以上に問題になっている。経口摂取は、もっとも穏やかな方法である。

薬物依存の政治と文化

上の図で「その他」に分類されているアルコールとニコチン(タバコ)と、図に載っていないカフェイン(国際疾病分類ではアンフェタミン類(覚醒剤)と同じカテゴリに分類されている)は法的に規制されていないが、他の薬物よりも安全だからではない。向精神薬の法的規制の根拠は、薬物自体の危険性よりは、歴史的、社会的な要因が大きい。酒やタバコが合法なのは、税収減になっているという理由もある。

また、薬物に対する依存性は、身体に作用する薬物にもあるし、遺伝や生育歴による個人差もある。ここでは薬物依存についてのみ書いたが、誰しも、家族や組織など、何かしらに依存して生きているし、適度に依存することはむしろ健康なことである。しかし、たとえば家族に依存しすぎるのにも弊害はあるし、逆に、家族などに正常に依存できない人が、別の依存の対象を見つけて逃避するために向精神薬が使われることもある。(詳細は「依存の社会理論」を参照のこと)



記述の自己評価 ★★★☆☆

CE2021/04/26 JST 作成
CE2021/12/17 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター「回復と再乱用防止」『薬物乱用防止のための基礎知識』(2021/06/02 JST 最終閲覧)

*3:やめたい人へ。薬物 - 病気の怖さ(和田清(2000)『依存性薬物と乱用・依存・中毒』星和書店, 14.より孫引き)

*4:依存症 - 脳科学辞典

*5:薬物依存症 - Wikipedia