蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

【資料】レヴィ=ストロース『構造人類学』

シャーマン=巫師はトランス状態に入るために精神展開作用のある物質を使用することもあれば、しないこともある。シャーマンが精神活性作用を持つ物質を摂取する場合には、服薬の構造が逆転する。

すなわち、医学においては、医者が患者に指示をして、患者が薬剤を服用する。しかし、巫術においては、巫者が薬剤を服用し、患者はその指示に従う。

レヴィ=ストロースは『構造人類学』に収録された論文において、アメリカ大陸の二つの先住民における治療儀礼をとりあげている。

「象徴的効果」においては、中米・パナマの先住民、クナの助産儀礼が論じられている。

精神分裂症の治療においては、医師が作業をおこない、患者がその神話をつくり出す。シャーマニズムの治療においては、医師が神話を提供し、患者は作業をなしとげるのである。(「象徴的効果」222.)

「呪術師とその呪術」においては、北米・カナダ・ブリティッシュコロンビアの先住民、クワキウトルの治療儀礼が論じられている。

シャーマンによる治療では、呪術師が語り、黙っている患者のために消散をおこなうのに、精神分析では、患者が語り、聴いている医師に向って消散をおこなう。(「呪術師とその呪術」201.)

1958年に出版された論集の中で使われている「精神分裂症」や「精神分析」という用語は、今となっては文脈にそぐわないかもしれないが、いずれにしても呪医は饒舌である。呪医の身体を通じて神話が語っているからである。


下記の版より引用。