蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「お茶」は「麻薬」なのか ー京都アヤワスカ茶会裁判ー

この記事には係争中の裁判についての記述が含まれており、中立的な観点を欠いている可能性があります。事実関係にもとづく検証が必要とされています。

(慌ててメモ的に情報を書き足しているうちに、ずいぶん長くなってしまいました。切り貼りして整理していきます。ひとりの研究者として知り得た情報と解釈を書いていますが、「麻薬」や裁判にかかわる難しい問題であり、勤務先の明治大学や学部としての見解でもありませんし、製薬会社などとの「利益相反」の関係もないことはお断りしておかなければなりません。)

次回公判について

次回、第5回公判は、11月16日11時より京都地方裁判所で行われます。

部屋は、一階の大法廷、101号法廷です。第三回までの公判は二階の202号法廷だったのですが、回を追うごとに傍聴希望者が増え、前回の公判から大法廷に変更になりました。

傍聴は自由ですが、ソーシャルディスタンスを保つという意味で、二席ずつ空けてしか坐れないので、大法廷でも、希望者全員が部屋に入れないことが予想されます。抽選をするとは聞いておりませんので、そうすると行列を作って先着順になるという仕組みです。

裁判自体は一時間ぐらいで終わる予定だそうですが、裁判の後で、弁護士による説明会が行われます。被告の青井さんは保釈されているので、ふつうにお話ができます。(海外渡航など、逃亡可能な行動は制限されているそうですが、詳しいことはわかりません。)

前回までの公判と青井被告との面会の記録を「誰が「お茶」を裁けるのか ー 京都アヤワスカ茶会事件 ー」というタイトルのエッセイとして執筆中です。英訳された後、ポルトガル語訳され、ブラジルで出版される予定です。

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DMT(N, N-ジメチルトリプタミン)

ひとりの研究者としての蛭川の見解

 
中南米の先住民文化や、精神展開薬と意識状態の生物学を研究してきた者として、とくに、アマゾン先住民が使用してきたアヤワスカ茶が、日本という場所で、しかも裁判という文脈で議論されていることに、強い関心を寄せています。
 
一般に、刑事裁判というのは、検察側が被害者の立場を代弁し、弁護側が加害者の立場を代弁するという構図があります。しかし、薬物事件というのは、それが刑事事件として扱われること自体が、社会学的に分析されるべきテーマなのですが、今回の裁判についても、検察側を支持するのか、弁護側を支持するのかといわれても、正直なところ、被害者がいないのになぜ刑事裁判なのか、ということ自体からして、議論の構図がよくわかりません。
 
私としては、この裁判が、中南米の先住民文化や、精神展開薬についての理解を広め、深めるきっかけになれればと思っています。実用的にみても、精神展開薬は、無意識の働きを活性化させることで、結果的にうつ病や不安障害に対する応急措置としても有効であることが知られています。医療用としても使えないのは、他の依存性薬物と混同され「麻薬」という、医学的な分類というよりは、文化的な偏見によるカテゴリーに分類され、規制されているからで、そうした規制を考えなおすきっかけになることも望んでいます。
 
それゆえ、被害者がいないのに、精神展開薬の有用性を主張している人が、加害者という名の被害者になっているという、奇妙な状況になっているわけですが、その中で、科学的、あるいは文化的に、いったん価値判断を留保すると、自動的に弁護側を支持することになってしまいます。
 
被告の青井さんが行ったことについては、じつはよく知らないのですが、薬効がある薬草を、臨床的な専門知識や資格なしに売買したことは、大きな問題だと思います。しかし、副作用の予防や対策まで説明した添付文書をつけた上で、有用な薬草を普及させ、逆に、法的規制の裏で、正体不明の薬物が流通し、健康被害が出るのを、間接的に防いでいたという意味合いもあります。(いずれにしても、これらの問題は、どちらかといえば薬事関連の法で検討すべきことなのですが、今回の裁判では、麻薬の規制に違反したという犯罪のうほうが問題になっています。)
 
被害者なき刑事裁判という不思議な構図の中で、今回の裁判に限っては、私の推理する範囲内ですが、青井さんが起訴された背景には、麻薬売買組織を摘発したという誤解があったようです。そして、起訴してしまった以上は有罪判決を出さないと検察組織としてのメンツが立たないというジレンマを抱えた検察側のほうが困っているという、これまた不思議な状況です。
 
とりわけ、薬物売買に手を染めてしまった非行青年を更生させてあげたいという愛と正義の志のあまり、勇み足になってしまった若い担当検事さんのほうが、組織の一員としての責任感を背負い込み、被害者状態になってしまっているようで、お気の毒です。被害者なき犯罪を起訴した検察官が被害者になってしまうという、「逆冤罪」にもなってしまっているとすれば、これはまったく由々しき事態です。
 
このような不条理な出来事を起こしてしまったのは、ひとえに向精神薬についての知識の不足のゆえにだと考えておりますし、大学や研究所で研究している人間として、自らも、まだまだ不勉強ではなかったかと自省させられております。
 
研究者として望むことは、この裁判を通じて広く議論が起こり、誤った知識が是正され、我々のおさめた税金が、正しく人々の安全と健康を守るために使用されることです。検察側に協力している科学捜査研究所麻薬取締官、大学教授などの先生がたの報告書にも目を通しましたが、何らかの利権ゆえに冤罪を作ろうなどという悪意は感じられません。しかし、たとえ高価で立派な機材があっても、使う人の知識が不足していれば、税金の無駄遣いになってしまうのだなと痛感しています。
 
こうした誤解があるだけで、皆が求めていることは健康と幸福であることに変わりはありません。誤解が解けた後は皆さんとお茶を一服して語り合えることを希望しています。
(2020/2563年9月3日記)

概要

2019年7月、慢性な抑うつ状態から抜け出したいと考えていた大学生が、「薬草協会」からアカシアの樹皮を購入、お茶にして飲んだところ、たちまち人生の意味を悟ってしまった。隣にいた友人が驚き、救急車を呼んでしまい。事件が発覚した。(→「大学生が薬草茶を飲んでうつ病を自己治癒した」)

2020年3月、「薬草協会」を運営していた青井硝子(筆名)が逮捕された。アカシアの樹皮には「麻薬」として規制されているDMT(ジメチルトリプタミン)が含まれており、2020年5月に青井容疑者は「麻薬及び向精神薬取締法違反」で起訴された。

DMTは精神展開薬(サイケデリックス)の一種であり、もともと南米の先住民族が宗教体験を得るために使用してきた薬草茶、アヤワスカ茶の有効成分である。現在は、うつ病などの治療薬としても研究されている。

DMTは柑橘類や牧草など、多くの植物に含まれており、また脳内では神経伝達物質としても機能している。

2020年6月には京都地裁で初公判が行われた。青井被告は、ふつうの植物から茶を作ることが「麻薬」の製造にはあたらないこと、かりに茶が「麻薬」だったとしても、生きづらい人が楽になり、普通の人でもより意味深い人生を送れるようになるために茶会を行ったのだと罪状を否認し、裁判が続いている。

報道されたこと

西暦2020年3月、男子大学生とその友人が違法薬物を含む植物を購入し飲用、意識を失い救急搬送された。植物を売った男性が逮捕された、と報じられた。

www.nikkei.com
2020年3月21日「麻薬かお茶か?逮捕に波紋 原料に幻覚成分、京都府警」『日本経済新聞

www.okinawatimes.co.jp
2020年3月24日、同一の記事を『沖縄タイムズ』は「弁護人『原料は麻薬ではなく茶』ソウシジュ粉末を販売 京都府警が取締法違反容疑で逮捕」と「ソウシジュ」という沖縄語で報じた。

www.kyoto-np.co.jp
2020年3月24日「麻薬成分含む『茶』販売、男を容疑で逮捕 サイト『薬草協会』運営」『京都新聞

報道内容を整理すると、以下のようになる。

  1. 2019年7月、京都在住の男子大学生とその友人がインターネット経由で樹木アカシアコンフサ(和名ソウシジュ)の粉末を購入し、これを茶にして飲み、意識を失うなどして救急搬送された。
  2. アカシアコンフサは麻薬取締法で規制されている成分、ジメチルトリプタミン(DMT)を含んでいる。
  3. アカシアコンフサの粉末を販売していたのは「薬草協会」を運営していた住所不定・農業の男性、青井硝子で、2020年3月3日に麻薬取締法違反(製造、施用ほう助)の疑いで逮捕されたが、お茶は麻薬ではないと容疑を否認している。
  4. 弁護人の喜久山大貴弁護士は、以下のように主張している。
    1. 茶にしてもDMTの結晶になるわけではない。
    2. 茶を麻薬と見なすことはおかしい。
    3. 自生する植物の所持や利用を禁止するに等しい。
    4. DMTは人間の血液や尿にも含まれている。

その後の報道

www.kyoto-np.co.jp
2020年10月9日「麻薬成分入り「お茶」販売容疑、農業の男逮捕 顧客に自衛隊員や看護師ら500人」『京都新聞』が半年以上に及ぶ捜査の終結を報道。

news.yahoo.co.jp
2020年10月20日「麻薬かお茶か、法廷論争に “究極のドラッグ”DMT、その作用とは」『47NEWS』
捜査の終結を受けて、事件の概要を報じた記事。発端になった大学生の臨死様体験にも触れている。

起訴から裁判へ

  • 2020年3月3日、「薬草協会」の青井硝子(以下敬称略)が逮捕された。起訴状や、裁判の記録書類のうち、公開されているものは『薬草協会』の「裁判の行方」のページにアップされている。

起訴と事件名

(大学生が2019年7月23日以前に麻薬であるDMTを「製造」と「施用」したことについては、大学生が未成年であるため、家庭裁判所で保護されている。)

  1. 2020年4月7日
    • 今城まゆ(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第316号(製造・施用幫助)
      • 青井硝子が「大学生2019年7月に麻薬の「製造」と「施用」をしたこと」を「幇助」したこと
  2. 2020年4月14日
    • 今城まゆ(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第353号(麻薬所持)
      • 青井硝子が2020年3月3日に麻薬を「所持」していたこと
  3. 2020年5月29日
    • 今城まゆ(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第453号(麻薬施用)
      • 青井硝子が2020年2月26日に知人宅で麻薬を「施用」したこと
  4. 2020年6月26日
    • 今城まゆ(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第574号(原材料提供)
      • 青井硝子が顧客に、麻薬の「原材料」を「提供」したこと
  5. 2020年8月12日
    • 今城まゆ(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第771号(原材料提供)
      • 青井硝子が顧客に、麻薬の「原材料」を「提供」したこと
  6. 2020年8月31日
    • 中村裕史(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第831号第1(原材料提供)
      • 青井硝子が顧客に、麻薬の「原材料」を「提供」したこと
  7. 2020年8月31日
    • 中村裕史(京都地方検察庁
    • 令和2年(わ)第831号第2(製造幇助)
      • 青井硝子が上記と同じ顧客に麻薬の「製造」を「幇助」したこと

まとめると、以下のようになる。

  • 青井被告は、自宅に麻薬を「所持」していた(上記2)
  • 青井被告は、知人宅で麻薬を「施用」した(上記3)
  • また、青井被告は「薬草協会」を通じて、アカシア・コンフサの樹皮を販売していた
    • アカシア・コンフサは、麻薬であるDMTを含んでいるが、麻薬原料指定植物以外の、麻薬を含む植物(およびその一部分)は、違法ではないので、その所持、譲渡、売買などは、合法である
      • しかし、麻薬を含む植物(およびその一部分)を購入し、そこから麻薬を「製造」したり、それを「施用」(飲むこと)したりすると、違法になる(上記1)
      • また、麻薬を含む植物(およびその一部分)から、麻薬が「製造」されると知りながら、それを譲渡、売買すると「原材料提供」として、違法になる(上記4〜7)

これでも、まだわかりにくい。さらにまとめると、以下のようになる。

青井被告は、自宅に麻薬を所持していた。これを知人宅に持って行き、施用した。(知人は、施用しなかったらしい。)

青井被告は「薬草協会」を通じて、麻薬を含む植物を販売していた。これは麻薬の原材料提供となる。(売買したことは問題になっていない。)

麻薬を含む植物を購入した顧客のうち、大学生は、自宅で麻薬を製造し、服用した。これは大学生自身が罪に問われ、青井被告は、それを幇助した共犯者とみなされている。(他にも顧客が多数あったはずだが、それを所持したり施用したりした証拠が見つかっていない。)

公判

  1. 2020年6月8日(初公判)
  2. 2020年7月20日(第二回公判)
  3. 2020年9月7日(第三回公判)
  4. 2020年10月12日11時(第四回公判)
  5. 2020年11月16日11時(第五回公判:予定)

裁判では、何が争われているのか。

  • 【検察側】
    • 青井硝子は、自宅にアカシア茶を所持していた。その証拠として、アカシア茶からはDMTが検出された。
  • 【弁護側】
    • アカシア茶にDMTが含まれていたとしても、茶は植物の一部分であって、精製された麻薬ではない。
  • 【検察側】
    • 青井硝子は、2020年2月26日に、知人宅でアカシア茶を施用した。その証拠として、3月3日に採取された尿からDMTが検出された。さらに、5月7日に採取された尿からはDMTが検出されなかった。
  • 【弁護側】
    • かりにアカシア茶にDMTが含まれていたとしても、茶は植物の一部分であって、精製された麻薬ではない。
    • DMTは人体内にも存在する物質で、その濃度には個人差があり、また時間的にも変動する。それゆえ、尿中にDMTが検出されたとしても、それがアカシア茶に由来するものなのか、体内で合成されたものに由来するのかは、判断できない。また、アカシア茶を服用していない状態で、DMTが検出されなかったとしても、それも、アカシア茶を服用しなかったことの証拠にもならない。
  • 【検察側】
    • 青井硝子は、顧客に対し、そこから麻薬が「製造」され「施用」されることを知っていながら、麻薬の原材料を提供した。
  • 【弁護側】
    • 青井硝子は、販売した植物が、どのように使用されたのかは知らない。
  • 【検察側】
    • アカシアを購入した大学生は、じっさいに麻薬を製造した。その証拠として、製造された茶からは麻薬であるDMTが検出された。これは製造の幇助である。
  • 【弁護側】
    • アカシア茶にDMTが含まれていたとしても、茶は植物の一部分であって、精製された麻薬ではない。
  • 【検察側】
    • 購入した大学生は、じっさいに麻薬を施用した。その証拠として、また、施用した後の大学生の尿中からは、麻薬であるDMTが検出された。これは施用の幇助である。
  • 【弁護側】
    • DMTは人体内にも存在する物質で、その濃度には個人差があり、また時間的にも変動する。それゆえ、尿中にDMTが検出されたとしても、それがアカシア茶に由来するものなのか、体内で合成されたものに由来するのかは、判断できない。また、アカシア茶を服用していない状態で、DMTが検出されなかったとしても、それも、アカシア茶を服用しなかったことの証拠にもならない。

それから、弁護側は、以下の2点を補足している。

  • DMTを含む茶が合法であることには、根拠があり、逮捕・起訴した後で、違法として有罪にすれば、罪刑法定主義に反する。
    • 日本も批准している国際条約では、DMTという物質自体は麻薬として規制されているが、国際条約の解釈として、DMTを含む植物や、そこから造られる茶については、規制の対象外だと明記されている。
    • 日本国内では、DMTを含む茶については、過去に複数回、捜査されており、厚生労働省から、注意喚起が出されていた。これは、麻薬及び向精神薬取締法には違反していないという判断である。
  • かりにアカシア茶が違法な麻薬であったとしても、青井被告は、真摯な宗教行為として茶を用いていたのだから、これは正当行為にあたり、処罰されない。

これがまたややこしいのだが、まとめると、以下のようになる。

  1. アカシアの樹皮から造られた茶は、植物の一部なのか、精製された麻薬なのか。
  2. 尿中からDMTが検出されたり、されなかったりするのは、アカシア茶を施用した結果なのか、内因性DMTの時間的変動なのか。
  3. アカシア茶の茶会や譲渡・販売は、真摯な宗教行為なのか。

目下、裁判での最大の争点は(1)である。しかし、これは法解釈の問題である。むしろ、学術的に興味深いのは、その後である。

DMTは、多くの植物の体内で生合成されており、おもに昆虫忌避作用がある。また、哺乳類の体内でも生合成されており、セロトニンと同様の神経伝達物質として作用している。同じトリプトファンというアミノ酸から生合成される物質だが、セロトニンは昼間に多く分泌され、その産物であるメラトニンは夜に多く分泌される。またDMTは朝に多く分泌され、その前駆体であるNMTは、夜に多く分泌される。青井被告の尿の場合、朝に採取した尿からはDMTが検出され、昼に採取された尿からはDMTが検出されなかった。さらに、DMTは、σ-1レセプターにもはたらきかけ、低酸素状態で神経保護作用を示す。臨死体験や、ヨーガによる保息によってDMTがより多く分泌され、精神展開体験を引き起こすことが説明される。

また、DMTは精神展開作用を持つが、それが同時に抗うつ・抗不安作用を示す。このことは、DMTが宗教体験を引き起こし、同時にうつ病や不安障害の治療薬としても有効だという研究と整合性がある。

被告の主張

青井被告は本人は、罪状をほとんど認めず、争うと主張している。

初公判では、アカシア茶は違法な麻薬ではなく、また自分はアカシア茶によって救われた。救いを求めて救われた者が、また人を救う、これは仏教における菩薩(ボーディサットバ)の慈悲であり、罪に問うことはできない、と、サンスクリット語まで交えながら、飄々と罪状を否認した。

話に聞くかぎり、この種の薬物事件では、被告は違法行為を反省し、不起訴で終わるか、起訴されても、執行猶予つきの判決がくだされるのがほとんどで、実刑か無罪かという方向で裁判が進むことは異例のことで、ほとんど前例がないらしい。

一般に、刑事事件というのは、逮捕してから取り調べが行われ、じゅうぶんに違法だという見通しがある場合に、容疑者が起訴されるので、無罪になることはほとんどないらしいのである。

だから、今回の起訴でも、青井被告がほぼ確実に有罪になるという見通しがあったはずなのだが、裁判の過程では、どちらかというと弁護側がいろいろな議論を持ちかけては、検察側がそれに反論するだけの強い論理を持ち出してこないのが、素人目には不思議なことに思える。担当の検事が、組織犯罪を摘発したと勘違いして、勇み足で起訴してしまったところが、そんな組織は見つからず、といって起訴した以上は取り下げるわけにもいかず、検察側のほうが困ってしまっている、という憶測も飛び交っているが、実態は不明というしかない。

青井被告が不特定多数の顧客にアカシア茶を売っていたのは事実で、それは、個人的な範囲内でお茶会をしていたとか、無料で配布していたということよりは、罪が重そうなものだが、今回の裁判では、そのことは問題にされていない。アカシアの樹皮を買ってお茶を飲んだ人が事故を起こしたとか、精神に異常をきたしたといった噂は多数あり、一部は事実なのかもしれないが、起訴や裁判というのは、因果関係が不確かなことには立ち入らない、というルールがあるようだ。

事件の発端となったのは、大学生が救急搬送されたからだが、言動が異常だっただけで身体には害はなかったらしい。このときに大学生は、医者から処方された薬も含めて、複数の薬物を同時に摂取していたらしく、アカシア茶を服用したことと、救急搬送されたことについても厳密には因果関係がみとめられないらしい。むしろ、うつ病が治ってしまったのだとすれば、青井被告がいうとおり、菩薩の慈悲だということになってしまう。

裁判という「知的なスポーツ」

この事件に関して青井被告は「薬草協会」のサイトに「裁判の行方」という声明文を発表した。

4ヶ月も勾留されて途中何度か挫けかかりましたが
 
・一連の事件に犠牲者や被害者が出ていない。
 
精神科医の方から「自殺志願者から自殺衝動が抜けて元気になるという、極めて意義深く興味深い結果が出ている。もしこれで無罪が勝ち取れたなら、アヤワスカを利用した治療研究を一気に進めることができる」と打診があった
 
という二点により、最後まで争う決意を固めました。
 
争うといっても、悪いことを正当化しようとしたり言い逃れしたりするつもりはなく、「法律を解釈する」という知的なスポーツに興じる、という意味です。人道に悖ることをしたわけではないとはっきり言いきれるので、そのようなことも言えるわけです。
 
強制捜査をされて精神にひどい悪影響が出ている方々や、4ヶ月もの勾留で多大な損害が出たことはとりあえずいったん忘れて、スポーツマンシップにのっとり健やかに闘っていこうと思います。

裁判とは法律を解釈するという知的なゲームであり、スポーツマンシップにのっとり正々堂々と闘います、という選手宣誓である。

担当の喜久山大貴弁護士は、これは本当の確信犯だ[*1]、というコメントを寄せている。もっとも、青井被告は、法律の条文を検討した上で、違法だと明文化されていないことは合法であると判断した上で行ったことなのだから、確信「犯」だとも言えないのかもしれない。

関連する国内法と国際条約

→「国内法と国際条約におけるDMTと植物の規制」のページを参照。



CE2020/08/02 JST 作成
CE2020/10/22 JST 最終更新
蛭川立

*1:確信犯(Überzeugungsverbrecher)とは、ドイツの刑法学者ラードブルフの言葉で、合法か違法かはともかく、正しいと確信したことを行った場合に使われる。確信犯という言葉は、これは違法だと確信しながら、敢えてそれを犯す、という意味に使われる場合もあるが、これは故意犯である。