蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

「VR元年」略史

日本では、2016年が「VR元年」と呼ばれたことがあった。この年に、VR器機が一般消費者向けに普及しはじめた。

第二次VR元年

個人的にも、最初にVR世界に没入したのが、この西暦2016年であった。

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Oculus Rift Cv1を用いた三次元宇宙シミュレーション「Mitaka for VR」の中に入り込み、土星の輪を撫でる。目の前の土星があまりにもリアルで、輪にぶつかりそうな錯覚におそわれ、腰が引けている(2016年11月、三鷹ネットワーク大学)。

国立天文台三鷹で開発されたMitakaは、あたかもシミュレーション仮説のように、仮想世界の中に(観測可能な)全宇宙を作る試みである。ユーザーは直径300億光年の世界を(光速を超えた速度で)自由に行き来できる。

当初は国立天文台三鷹の3Dプラネタリウム4D2U」で投影するためのプログラムだったが、PCの平面画面上でも動かすことができるようになった。さらに、2016年には、Mitaka for VRが開発され、Oculus RiftやHTC Viveのような個人向けVR装置で使用することもできるようになった。

第一次VR元年

もちろん、VRの技術はもっと以前に遡る。

ヴァーチャルなコンテンツ自身は、絵画や文字の発明にまで遡ることができる。絵画の起源は5万年以上前に、文字の起源は5000年以上前に遡る。文字は高度な情報圧縮技術であり、それを「解凍」するためには一定の技能を習得する必要がある。たとえば俳句はわずか17文字、34バイトの情報量だが、そこに視覚や聴覚などの感覚情報、思考や感情などの大量の情報を圧縮して保存できる。

ふたたび個人的な体験談だが、最初にVR装置に入り込んだのは、西暦2000年のことであった。

東京大学インテリジェントモデリングラボラトリ(廣瀬通孝研究室)でCABIN (Computer Augmented Booth for Im- age Navigation)が開発されたのが1997年である。

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CABINの外観[*1]
 

CABIN Computer Augmented Booth for Im age Navigation
CABINの仮想都市。明晰夢の中で意識的に空を飛んでいる感覚に似ている。(2000年8月)

VRの技術が現実化した1990年代を振り返って、このころを「第一次VR元年」と呼ぶこともある。CABINの開発を指揮した廣瀬通孝が「HMDがダメだといわれた時代 - CABIN誕生」(世界VR史)の中で、このころの技術史を振り返っている。



記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2021/01/14 JST 作成
蛭川立

*1:大谷智子「さよならCABIN