蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。




2018年5月24日の体組成計計測値

2018年の5月に入って、体脂肪率が正常範囲の上限値である22%にまで下がった。このタイミングで、5月10日、終夜睡眠ポリグラフ検査を行った。去年の九月の検査で発見された睡眠時無呼吸は、ほぼ完全に治っていた。

https://keiyu.or.jp/msac/wp-content/uploads/2021/04/yomo_03.jpg
ヒトとチンパンジー咽頭[*2]
 
https://www.brh.co.jp/publication/journal/102/rp/research01/img/figure06@2x.jpg
ヒトは複雑な子音を発声できるが、「いびき」も子音の一種である[*3]

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群を疑って、吉祥寺睡眠メディカルクリニックを受診したのは、2012年のことであった。
www.tokyo-sleep.jp

パルスオキシメーターを装着してひと晩計測した。赤色光・近赤外線を反射させて、動脈血の酸素飽和度(SpO2)を測定する。


帝人の酸素飽和度モニタPULSOX®-Meシリーズ

試しにハタ・ヨーガの吸息の保息(antara kumbhaka)を行ってみたところ(→「瞑想時の脳波」)、酸素飽和度は95%まで下がった。脳が低酸素状態になると、神経細胞を保護するためにDMT(ジメチルトリプタミン)が分泌され、アヤワスカ茶を服用したときと同じような体験が起こると考えられている(→「DMTーありふれた構造の特異な物質」)。

この時にはとくに問題は見つからなかったが、精密検査のため、国立精神・神経医療研究センター睡眠障害センターを紹介された。

終夜睡眠ポリグラフ検査

2013年から2014年にかけては、イギリス、オーストラリアと、在外研究で海外に出ていた。帰国し、ようやく本格的な終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を受けたのは、それから5年経った、2017年の9月である。これで、睡眠時無呼吸症候群や、周期性四肢運動障害・レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)などが発見できる。




(左)センサー着用前、「「終夜検査の様子」を自撮りしようとしている様子」を自撮りしている凜々しい姿
(右)センサー着用後の無残な姿
国立精神・神経医療研究センター病院三階南病棟)

国立精神・神経医療研究センターで終夜睡眠ポリグラフ(PSG: polysomnography)検査を行った。心電図用の電極と、脳波、手足の動きを計る筋電の電極が貼りつけられ、胸部と腹部には呼吸の度合いを測る帯が巻かれ、鼻には呼吸を計測するセンサーなどをつけられる。天井に設置されたカメラ(右上)で、寝ている閒、ずっと撮影される。

こんなものをつけて眠れるはずがない。ふとんの中で悶々と時間を過ごす。イライラして我慢できなくなった。「こんなものをつけて眠れるはずがない。みんな、立ち上がろう」と言って、立ち上がって鼻のセンサーをちぎり捨てた。驚いて飛び起きた。夢だった。本当に鼻のセンサーを外していた。ナースコールのボタンを押し、スタッフを呼び出す。睡眠薬を飲ませてくれた。そして意識を失っているうちに検査は終わった。

この精密検査で、睡眠時無呼吸が見つかった。いびきが酷く、寝ている間に呼吸が止まってしまう、という病気である。


終夜睡眠ポリグラフの結果。午前0時から1時にかけて、酸素飽和度が下がっている。
 

拡大図。呼吸が乱れ、酸素飽和度が67%まで下がっている。

 

AHI(無呼吸低呼吸指数)、つまり一時間あたり呼吸停止の回数が20回をこえると、保険適用による治療の対象になるのだという。

https://www.respiallergy.com/image/mukokyu/zu_02.gif
AHIの値を20で分けた場合の生命予後[*4]

AHIが20以上の状態を10年も続けていれば、生存率は半分になるという。その原因は、おもに循環器系の疾患である。

CPAP

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:経鼻的持続陽圧)という、睡眠中に喉に空気を送り込んで、いびきをかかないようにする、そういう装置を、毎晩つけて寝ることで、閉塞性睡眠時無呼吸の症状は抑えることができる。


CPAP国立精神・神経医療研究センター病院

CPAPは人工呼吸器のような装置で、これをつけて寝るのは、かなり邪魔になる。慣れないと、かえって眠れなくなる。

www.philips.co.jp
フィリップスのCPAPドリームステーション

毎晩の計測結果は、無線でフィリップスのサーバーに送られ、クラウド経由で病院からアクセスできる。

DreamMapper

DreamMapper

  • Philips Respironics
  • メディカル
  • 無料

データはスマホのアプリからも見ることができる。


2018年4月17〜18日のAHI(無呼吸低呼吸指数)は6.9。グラフは直近の7日間の値。

呼吸停止の回数、AHIは、CPAPによる治療開始前の、毎時23回よりは大幅に改善している。毎時5回が治療の目安である。

肥満の改善

睡眠時無呼吸症候群を積極的に治療する確実な方法はない。たるんだ喉を切除する手術もあるらしいが、かなり乱暴な方法なので、お勧めはできないと主治医の亀井先生は言った。消極的な方法ではあるが、一生、CPAPをつけて寝るしかないという。

小平にある国立精神・神経医療研究センター病院を退院し、新宿の晴和病院に移った。都心の病院で夜だけ過ごし、昼は出勤する「ナイト・ホスピタル」というプログラムである。

担当の主治医は、東大病院から来た上瀬大樹先生になった。上瀬先生は、脂質代謝と脳機能の関係に独自の見解をお持ちだった。

まずは肥満の改善から。肥満は万病の元だし、見た目も悪い。喉のたるみを減らすことで、いびきも改善できるかもしれない。

脂質よりは炭水化物を抑えるというダイエットを実行した。具体的には、米やパンをやめて、おかずだけをたべるといった方法である。

体重は、2015年には78kgで、これは英語圏での生活で脂っこいものを食べすぎたからでもあり、日本に戻ってからはだいぶ体重が減った。

CPAPをつけはじめた時に67kgだったのだが、さらに5kg減らして、62kgにまで落とした。78kgに比べれば、16kg減ったということになる。過食症が治ったということでもある。


 

2018年5月10〜11日のPSG検査結果(神経研究所付属晴和病院

AHIは去年9月の23から2に激減した。5以下であれば睡眠時無呼吸は完治したということになる。

周期性四肢運動障害

今回の検査で異常値を示したのは、周期性四肢運動指数、つまり、寝ている間にどれぐらい脚が動いたか、である。毎時2.2から21.4回に増加しており、15回以上が、周期性四肢運動障害の目安になる。


むずむず脚症候群(RLS)の鉄-ドパミン仮説[*5]

鉄分の不足とドーパミンの不足が関係している可能性があるということで、血液検査を行った。鉄分は50μg/㎗で、男性の正常値である60〜210μg/㎗を下回っていた。しかし、鉄の蓄えであるフェリチンは162.2ng/㎖で、これは男性の正常値である21〜282ng/㎖の範囲内だったため、とくに治療するほどのことはない、ということになった。


「不足が気になる女性」向けに配合された鉄と葉酸サプリメント[*6]

薬を処方されるようなことはなかったが、ドラッグストアで鉄と葉酸サプリメントを買い、服用するようになった。鉄は月経中に不足しがちであり、葉酸は胎児の神経系の発達に必要ということで、なぜかまとめて女性向けということになっているらしい。

精神・神経疾患との関係では、鉄の不足も葉酸の不足も、いずれもうつ病のリスクを高めるという研究がある[*7]。私じしんはうつ病とは診断されていないが、気分障害睡眠障害には共通する栄養学的原因があると考えられている。

付記:睡眠時無呼吸の再発と再治療

その後、歳とともに体重は徐々に再増加し、2022年に入ったころには、また70kgを超えた。3月に人間ドックを受けた結果、高脂血症脂肪肝が再発していた。

パルスオキシメーター、リングO2を購入した。

新型コロナウイルス感染症の自宅待機の症状を自己管理するということで、個人用のパルスオキシメーターが各種、出回るようになったが、指先に挟むタイプだと外れやすい。指輪型だと精度は悪いが、一晩中つけていても外れないという利便性がある。

4月のAHIの測定値の最大値は20を超えていた。保険適用レベルである。そのタイミングで、以前に睡眠サプリのことで話をしていた、精神科医の江越正敏先生との再会があった。
www.fire-method.com

意外なことに、ファイヤークリニックという、ダイエット専門のクリニックを起業したのだという。飽食の時代、人々の痩身願望につけ入り、暴利を貪る悪徳商法、いかにも怪しい。江越先生とはずいぶん議論をしたが、その内容は、ここでは省く。

研究協力も兼ねてファイヤー方式の減量プログラムに参加し、2ヶ月かけて体重を10kg減らした。


2022年の前半の体重の推移

睡眠中にいびきをかいていた時間[*8]

AHI(血中酸素濃度の低下頻度)
5以下が正常値で、20以上が保険適用

減量と並行して、睡眠時無呼吸もふたたび改善。眠りも深くなり、朝の眠気もだいぶ改善した。
(もうすこし書き加えて整理します。)



記述の自己評価 ★★☆☆☆
CE2018/03/30 JST 作成
CE2022/07/04 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:“いびき”は無呼吸への第一歩 | 守谷いびき・無呼吸センター(孫引き)

*3:RESEARCH サルの発声から見るヒトの言語の起源 | JT生命誌研究館

*4:無呼吸症候群|中島アレルギー・呼吸器内科クリニック(孫引き)

*5:宮本雅之・宮本智之・岩波正興・鈴木圭輔・平田幸一 (2009).「Restless legs syndromeの病態生理」『Brain and Nerve』61(5), 523-532.

*6:

*7:功刀浩・古賀賀恵・小川眞太郎 (2015).「うつ病患者における栄養学的異常」『日本生物学的精神医学会誌』26(1), 54-58.

*8:

Sleep Cycle: スマートアラーム目覚まし時計

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通信アプリへの対応

「テレワーク」の普及にしたがって、各種の動画通信アプリを使うようになったが、SNSなども含めて、対応できるものを表にまとめておく。

サービス名 文字 音声・動画
電話・SMS
Twitter
Facebook
LINE
Skype
Zoom
Google -
  • もちろん、ふつうの電子メールはできる。メッセージ機能は、長い文章には向かない。
  • もちろん、ふつうの電話はできる。ただし、有料である。
  • スマホ、ノートPC、デスクトップ機と使い分けているが、資料を見ながら長時間話をする場合は、デスクトップ機が良い。デスクトップではiMacを使っているが、Skypeが動かない。

CE2020/08/14 JST 作成
蛭川

新型コロナウイルス感染の現状と見通し【覚書】

この項目は、医学に関連した書きかけの項目です。この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

追記

7月中旬の時点では、新規感染[判明]者の急増は、検査数が増加したことによる見かけの増加であり、死亡者数がほぼ0で横ばいなので、日本での感染は終わりつつあるということを書いた。

https://pbs.twimg.com/media/EjJmq9HVgAAPnwt?format=png&name=900x900
2020年1月〜9月の日本での新型コロナウイルス感染症の流行状況[*1]

8〜9月と、新規感染[判明]者数は、順調に減り続けた。しかし、死亡数は遅れて増え始め、15人/日程度まで増え、その後、またすこし減少傾向にある。これは、5月のピーク時の約1/4である。

CE2020/10/08 JST 追記



緊急事態の解除によって規制がゆるんでから、また感染者が増加してきて、第二波が来たともいわれる。

国際的には感染(判明)者の少ない日本だが(後述)人口が密集しており連鎖的な感染が起こる可能性が危惧されている東京都の状況を分析してみたい。なおこの試論(私論)は、自分なりに、できるだけ冷静に数字を比較してみたいと思って書いたものではあるが、結果的に、報道されていることよりは、やや楽観的な分析になった。それと、早く感染が落ち着いてほしいという希望的な気持ちは、分けたつもりである。

見かけ上の感染者数は検査数に依存する

f:id:hirukawalaboratory:20200713184142p:plain
 
f:id:hirukawalaboratory:20200713184211p:plain
 
f:id:hirukawalaboratory:20200713184229p:plain
東京都の感染者数と検査件数の推移(2020年7月12日まで)[*2]

いちばん上の、新規感染者数のグラフだけを見ると、6月から新規感染者数が急増し、5月のピーク時を超えて史上最高になっているようにみえる。(数字のオーダーからして、たとえば140人というのは、東京都の人口である1400万人の10万人に1人である。)しかし、これだけをもって、規制が緩んだから第二波が来た、という結論にはならない。

1日あたりの新規感染者数は、感染者数ではない。緊急事態宣言下にあった4月と5月の2ヶ月間で、感染者の増加が止まり、急速に減少した。6月には低い水準で推移していたが、7月からはまたすこし増加してきている。

しかし「(新規)感染者数」というのは正確な表現ではない。「検査によって感染していることが判明した人数」のことである。「感染しているのに検査していない人数」は含まれていない。

下の、検査数の推移をみると、PCR法によるウイルスの検査は5月から順調に増加している。検査が増えれば「検査によって感染していることが判明した人数」も増える。

https://pbs.twimg.com/media/EcIlNIbUcAA_FlP?format=png&name=900x900
東京都のPCR法による検査と陽性率の推移[*3]

検査の陽性率をみると、陽性率もすこし上がっている。検査が増えたから見かけ上の感染者数が増えただけなら、陽性率は変わらないはずだから、ただ検査数が増えたからだ、という仮説は成り立たない、

しかし、サンプルは極端に偏っている。どういう人たちが検査されたのかが問題である。もしランダムサンプリングなら、陽性率は真の感染率になるから、少なくて10万人に1人ぐらい、0.001%から、多くても100人に1人ぐらい、1%は超えないだろう。

感染が拡大していたころは、疑わしい症状が出ていた人を中心に検査していたので、最大で25%ぐらいであった。現在は、都心の飲食店関係者などを集中的に検査しているので、それもまた考慮する必要がある。なお、感染拡大前にはだいたい1%で推移していた。これは後で見る抗体検査の陽性率に近い値である。

重症者数は減っている

検査すれば感染者が出てくるということは、「感染しているのに検査していない人数」が、もっとたくさんいることになる。つまり、この新型コロナウイルス感染症は(とくに若年齢層では)、重症化率、死亡率が非常に低い病気であり、当初から多数の感染者がいたのだが、ほとんどが発症せず、あるいは無症状だったということだ。もしウイルスが変異したり、変異したウイルスが海外から持ち込まれたのであれば、より重症化率、死亡率の低いウイルスだということになる。

では、本当の「感染者数」は、どれぐらいいるのだろうか。その推定が難しいのは、感染しても発症しない人や、軽症で終わる人が多いからである。

日本などアジアでは欧米よりもはるかに感染率が低いようにみえるのは、検査数が少ないからだという説がある。しかし、欧米では重傷者や死亡者も多い。(不幸なことに)重症者や死亡者の人数が、感染者数の確実な指標になる。

しかし、感染して重症になる人は病院に来ることが多いから、その人数はわかる。

f:id:hirukawalaboratory:20200718171956p:plain
東京都の重症患者数の推移(2020年7月18日まで)[*4]
 
https://news-pctr.c.yimg.jp/r/iwiz-tpc/images/story/2020/7/18/1595037002_tokyo.png
東京都の人工呼吸器が必要な重症患者数(2020年7月17日まで)[*5]

「感染して重症になった人」は、5月にピークの100人に達した後、ほぼ一定の割合で減少しつづけている。【追記】なお、7月の中旬に入って増加に転じているので注意が必要である。いまのところ、5人から10人へといった増加は、まだ誤差の範囲内であり、増減を論じられる数ではない。【さらに追記】より重症な、人工呼吸器が必要な重症患者数にかぎってみると、4月下旬をピークに単調に減少しており、7月に入っても減少傾向は変わっていない。

重症者の定義は曖昧なので、死亡者数のほうが確実な指標になるのだが、幸いなことに、東京都ではほぼゼロで推移しているので、計算できない。

致死率は年齢によって大きく違うのだが、日本では1%ぐらいである。、本当の感染者数は、死者数の100倍いることになる。死者数がゼロなら計算のしようがないから、重症者数を指標にしてみよう。5月のピーク時には(検査によって判明した)感染者数は2000人で、重症者数は100人であった。重症化率は5%だと計算できる。その後、重症者数は減り続け、10人になった。これを20倍すると、ピーク時と同様の検査をすることで判明するであろう感染者数は、200人しかいないことになる。

現在の感染者数が1000人を越えたということと、重症者数から推定される感染者数が200人まで減ったという数字との矛盾は、どう説明すれば良いのだろうか。

あらためて確認しておく必要があるのだが、「感染者数」と言われているのは、「検査によって感染していることが判明した人数」のことである。特定の集団に対する検査が増えたことを差し引けば、「実際の感染者数は」が増えているとはいえないし、減っているかもしれない。

検査の数が増えると検査の精度が下がるのも事実である。検査の失敗には偽陰性(感染しているのに感染していないという結果が出てしまう場合)と擬陽性(感染していないのにしているという結果が出てしまう場合)がある。基準を厳しくすると偽陰性が増える、つまり感染している人を見逃してしまう。偽陰性にならないいように基準をゆるめると、擬陽性が増える。それゆえ、検査数が増え、しかも検査の精度が下がると、擬陽性が増え、見かけ上の感染者数はさらに増える。

だから、実際の感染者数は減っており、第二波は来ていないどころか、感染は他のリスクのノイズの中に消えていくレベルまで収束しつつある。検査が進むことによって発見された「見かけ上の新規感染者数」だけを見ていては、無用な不安が社会経済的活動を抑制してしまう。

失業率と自殺率の間には高い相関があるが、失業がすぐに栄養失調をもたらすというよりは、うつ病のような、ストレスからくる精神疾患が増加することが懸念される。

抗体検査の陽性率が高いのはなぜか

PCR法などを用いた現在の感染の有無の検査と、もうひとつ、抗体検査、つまり、すでに感染して免疫を獲得しているかどうかという検査も行われている。

東京大学では、5〜6月に、1000名を対象とした抗体検査が行われ、7名が陽性だったという報告がある[*6]。単純に計算すれば、陽性率は0.7%であり、10万人が抗体を持っている、つまりすでに感染したという結果になる。これは、累積感染者数(検査によって感染が確認された人数)である約5000人の、20倍となる。

また、厚生労働省では、東京23区内の1971名の抗体検査を行い、2名が陽性であった。これも単純計算すれば陽性率は0.1%であり、累積感染者数よりもはるかに多い。しかし、陽性者数が2人というのは、調査の結果としては少なすぎる。95%信頼区間における誤差を含めれば、0.04〜0.24%となる[*7]。この下限である0.04%は、東京都の人口1400万人と掛け合わせれば5600名であり、累積患者数とほぼ同じ値になる。

なぜこうした数値の揺れによってまったく異なる説明ができてしまうのかといえば、そもそも人口に対する感染者数が非常に少ないからである。0.04%、5600人というのは、1400万人の人口のうち、1万人のうちの4人であり、感染者数が最大になったときの人数は、その半分であるから、1万人のうち2人である。6月の感染者数を700人とすれば、0.002%、つまり、2万人に1人という人数になる。

すでに別の病気に罹患している人に感染しやすいことをあわせて考えると、やはり、ほとんどゼロの領域で議論していることになる。だから、正確な議論ができないのである。

アジアの感染者数は非常に少ない

欧米では感染者数が人口の1%であり、上記の抗体検査結果と同程度の値だともいえる。

f:id:hirukawalaboratory:20200708163114p:plain
人口100万人当たりの死亡数(2020年6月25日現在)[*8](死亡者の大半は高齢者なので、少子高齢化が進んでいる社会ほど、高い値が出やすい)

この極端な死亡率の差の原因は何だろうか。日本国内だけを見ていてはわからないのだが、むしろ、感染が始まった中国も含め、アジア太平洋地域で死亡率が低いことのほうに注目することが必要である。

日本人は清潔好きであり、対人距離が遠い、声が小さい、など、コミュニケーションの濃度が低い。花粉症の時期などにマスクをすることに慣れている、等々、文化的な理由は考えられる。もしそうなら、そういう習慣を強化し、あるいは、海外に向けて発信していく必要があるだろう。

しかし、日本以外のアジアでも、同じぐらいの割合で死亡率が低いことは、この文化差だけでは説明できない。

アジアでは、多くの人がすでに類似した別のウイルスに感染して抗体を持っていたという仮説がある。今回のSARS-CoV-2自体が「-2」、つまり、同じ中国の雲南省のコウモリに由来するSARS-CoVの「第二波」であり、SARS-CoV、あるいは同種異株のウイルスが、ほとんど症状を引き起こさずに感染していたという説明は可能である。

この仮説は、2019年以前に集められた血液のサンプルの抗体を検査することによって確かめることができるだろう。

しかし感染が終わったわけではない

しかし、感染症の場合は、ほとんど終わったように見えても、なかなか0にはならない。理屈の上では、感染者が1人でもいれば、なにかのきっかけがあれば、また指数関数的に増え始める。

季節性インフルエンザほど気温の影響は受けないようだが、夏には感染がおさまり、冬には感染が拡大する可能性もある。そうやって毎年「振動」しながら、何年もかけて0へと「収束」していくのかもしれない。

少数ではあっても無症状の感染者が無自覚に感染を広げれば、それが高齢者や別の病気になっている人を重症化させ、死亡者を増やすことにもなる、という考え自体は、変わらない。

追記:東京で感染者数が急増?

7月7日にこの記事を書いた以降、東京では新規感染者の報告数が急増し、流行のピーク時を超えたという。これは、検査数が増えたから見かけ上の感染者数が増えた、というだけでは説明できない。

次に考える必要があるのが、検査されたサンプルの偏りである。どこで、どういう人たちを検査したのかが明確にされなければ、表面的な数字は意味を持たない。

下記に引用した記事でも、東京での新規感染「判明」者、約二百名のうち、半数が「接待を伴う飲食店の従業員や客など」であり、さらにその半数がホストクラブ関連だというから、東京で大規模な感染が拡大中だと報道されたとしても、少なくとも半分は差し引く必要がある。

https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/8/d/7/8/8d78ff7ea79d24897b01aaa8eb66261f_4.jpg
 
https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/8/d/7/8/8d78ff7ea79d24897b01aaa8eb66261f_3.jpg

2020年7月10日現在の、東京都における新規感染[判明]者の、感染経路の割合と、年齢別の割合[*9]

感染経路に「夜の繁華街」が多いのは、第一に「夜の繁華街」に関わっている人の検査が多いからであり、「夜の繁華街」で、じっさいに感染しやすい状況がある、ということでもある。

感染経路不明者が多数だからといって、すぐに謎の市中感染が広がっているといえない理由は、新規感染「判明」者の年齢層が20代〜30代に偏っているからで、これがサンプルの偏りを示している。もし、たんに人の多いところで感染が広がっているのであれば、年齢層はもっと広く分布するはずである。感染経路が不明といっても、その人の年齢や性別ぐらいは調べているだろうし、それを統計的な数字として出すのは問題がないはずである。(「夜の繁華街」が特別視されているから、そこに出入りしていたことを言いたくない、という人も一定数含まれるだろう。)

検査数の増加とサンプルの偏りを除外しても、じっさいに感染者数が増えている可能性は否定できない。しかし、慌てて第二波だといえないのは、重症者数が順調に減っているからで、5人を下回った。

急な感染拡大の場合には、感染してから重症化するまでに、数日かかる、ということは考慮する必要がある。とはいえ、新規感染「確認」者数が増えてきたのは6月上旬からなのだから、重症者数が単調に減少していることとは、整合性がない。(重症化する前に受診する機会が増えたということなら良いのだが。)

さらに追記:空気感染よりも唾液対策に重点をおくべきか?

感染の拡大防止のためには、感染経路不明、は、不明なので仕方がないとして、感染クラスターの定量的な分析が有効である。

https://wwwnc.cdc.gov/eid/images/20-2272-F1.jpg
緊急事態宣言の前の日本での感染クラスタ[*10]

医療施設は特殊なのでいったん置いておくとして、一般的な経済生活においてもっとも重要なのが[家庭を別にすれば]職場、学校、通勤や通学のための電車やバスである。職場では一定数発生しているが、これは職種によって大きく違う。その他は、飲食店、ジム、音楽関係のイベントがあり、いっぽう、交通機関は少ない。

また、定量的な分析ではないが、クラスターが発生しそうで発生していないところとして、

  • 会議
  • 満員電車
  • パチンコ
  • (高級な)レストラン
  • 劇場、映画館
  • 学校などの授業
  • ショッピングセンター

が挙げられている[*11]

さらに、飲食店や音楽イベントといっても、カラオケ、居酒屋、ナイトクラブ、合唱などが挙げられており、これらを総合すると、閉鎖された場所で、集団で大きな声を出すこと、そして大人数で喋りながら飲食を共にする場所での感染が多く、逆に、閉鎖された空間で人が集まる場所であっても、学校の授業、満員電車、映画館のように、会話や飲食をしない場所では感染が少ないことがわかる。

複数の人が会うときには、飲食じたいが目的ではなくても、飲食店が使われることが多い。典型的なのは居酒屋である。同じお皿の料理を複数名で食べることが多く、かつ大人数で大きな声で喋るために利用されることが多いからである。(といって、居酒屋は最悪だから重点的に休業すべきだということにもならない。静かに味わうに値する料理も少なくないからである。)

もともと、この新型コロナウイルスSARS-CoV-2)は、空気感染の割合が低く、飛沫感染の割合が高いとされてきたが、呼吸器と消化器から出る液体(主に鼻水、唾液、便)、とくに唾液を経由した感染を避ければ有効だということがわかる。

他人の唾液が自分の口に入る、という場合、もっとも直接的なのは、口と口のキスであり、大声で話す人の唾液を吸い込むことである。そして、他人の唾液が入った飲食物を口にすることである。唾液が体外に出ると、単独では生きられないウイルスは徐々に死んでいく。誰かがくしゃみをした唾液が手すりに付着し、それを手で触り、その手を洗わないまま、その手で食べものを食べるという場合、その時間の間にウイルスの数は減っていくので、感染の確率は下がっていく。

感染経路で「家庭」が一定数あるのなら、中途半端な外出自粛には意味がない。杓子定規に「ソーシャルディスタンス」を2mとることにも意味がない。人が集まっても喋らない(マスクをして小声で話す)状態で感染は起こりにくいのであれば、「三密」ばかりを気にしても仕方がない。

感染の拡大を防止しつつ、社会的活動を続けるためには、流布している情報の不正確さを疑う必要がある。主に唾液から感染するといった仮説の検討など、より正確な感染経路の分析と、それにもとづいた対策が必要であろう。

幸い、新たなデータは日々集積され、分析されている。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(出典のほとんどが学術論文ではなくインターネット上の記事であり、専門知識が不十分なコメントである。学術的な正確さは保証されない。)
CE 2020/07/07 JST 作成
CE 2020/07/19 JST 最終更新
蛭川立

*1:

*2:新田祐司・佐藤賢・榎本敦・合田義孝 (2020).「チャートで見る日本の感染状況 新型コロナウイルス」『日本経済新聞』(2020/07/13 JST 最終閲覧)

*3:藤井聡 (2020). 『Twitter』(2020/07/12 JST 最終閲覧)

*4:[無署名記事](2020).「都内の最新感染動向」『東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト』(2020/07/18 JST 最終閲覧)

*5:新型コロナウイルス感染症 東京都の重症者における人工呼吸器装着数の推移(2020年8月17日、更新終了) - Yahoo!ニュース

*6:川村猛・児玉 龍彦 (2020). 「新型コロナウィルス抗体 第二回東京の500例測定結果について」『東京大学 先端科学技術研究センター』(2020/07/08 JST 最終閲覧)

*7:高橋義明・田辺俊介 (2020). 社会調査の視点から考える厚生労働省の抗体保有調査の 意味と問題点:今後の抗体調査の改善に向けて NPI Policy Paper July 2020.

*8:畑川剛毅 (2020).「BCG接種? 交差免疫? 日本のコロナ死者なぜ少ない」『朝日新聞デジタル』(2020/07/12 JST 最終閲覧)

*9:小倉貞俊・松尾博史・岡本太 (2020).「東京で最多更新243人感染 1都3県で300人超」『東京新聞』(2020/07/12 JST 最終閲覧)

*10:Yuki Furuse, Eiichiro Sando, Naho Tsuchiya, Reiko Miyahara, Ikkoh Yasuda, Yura K. Ko, Mayuko Saito, Konosuke Morimoto, Takeaki Imamura, Yugo Shobugawa, Shohei Nagata, Kazuaki Jindai, Tadatsugu Imamura, Tomimasa Sunagawa, Motoi Suzuki, Hiroshi Nishiura, and Hitoshi Oshitani (2020). Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January–April 2020. Emerging Infectious Diseases, 26.

*11:鹿嶋友敬 (2020).「クラスター発生していないところからコロナの感染経路を考える」『オキュロフェイシャルクリニック東京』(2020/07/12 JST 最終閲覧)

連絡先・アクセス

まずは電子メールを

連絡手段にはいろいろありますが、電子メールがもっとも簡単で、確実です。ここ数年、イギリスやオーストラリアなど、世界各地を転々とする生活を続けてきましたが、明治大学公式の電子メールアドレス

hirukawa(半角あっとまーく)meiji.ac.jp

は、ずっと変わっておりませんので、こちらにお送りください。持ち歩いているスマホでも送受信ができます。電波が届かないほどの辺境の地に行くことは、めったにありませんが、夜に寝ている時間などにはチェックしません。

私用メールアドレスは非公開です。明治大学以外の複数のプロバイダのメールを公用としても使っていたこともありましたが、現在は解約したか、私用としてしか使っていません。アドレス帳の変更など、よろしくお願いいたします。

SNSなど

TwittermixiFacebook、LinkedIn、instagramなど、いくつかのSNSに実名で登録しています。

SkypeとLINEのアカウントもありますが、非公開です。必要に応じて、お問い合わせいただければ、IDをお知らせいたします。

郵便物

手紙や小包など、物理的な郵便物は、

〒101-8301 東京都 千代田区 神田駿河台 1-1
明治大学 駿河台研究棟 4階 研究棟受付 気付 蛭川立

宛にお送りください。本人が不在の時でも平日の昼間であれば郵便物は受けとることができ、教員用のメールボックスで保管してもらっています。メールボックスには入らないような大きな荷物も同じ場所で保管してもらっています。

なお、以前には郵便物の配達先として2階にある蛭川の個人研究室を指定していましたが、私が不在中に研究室に直接配達に来ていただいた運送業者のかたが不在通知を残して帰ってしまうということが度々ありましたので、郵便物の配達先は研究棟受付と明記していただきますよう、お願いいたします。

自宅住所は公開しておりません。自宅への郵便物の郵送が必要な場合は、お問い合わせいただければ、お知らせいたします。

宅配便の場合には、自宅を留守にしていたり、寝ていたりすると、再配達でややこしくなってしまうので、大学に届けていただければ、確実に受けとって保管しておいてもらえるという意味もあります。

電話・FAX・無線通信

研究室(221号室)の内線番号は2021ですが、室内に本人がいる確率はあまり高くありません。留守番電話機能もありません。

電話連絡は、情報コミュニケーション学部共同研究室

03-3296-2039(平日の昼間のみ)

にダイヤルして、伝言をお願いします。またFAXでの通信が必要な場合は、駿河台情報コミュニケーション学部事務室

03-3296-4351

まで、蛭川立宛と明記した上で、送信をお願いします。

ふだん携帯しているiPhoneがもっとも確実につながる端末ですが、番号は非公開です。必要な場合はお尋ねください。電話には出られない場合も多いのですが、重要な用件は留守番電話のほうに録音を入れておいていただくか、あるいはショートメールをお送りいただくか、あるいは

hirukawa(半角あっとまーく)meiji.ac.jp

までメールをください。

携帯電話の普及に伴い、自宅の有線電話は解約しました。ちなみにアマチュア無線局JQ1NEDは更新せず廃止しました。

研究棟・研究室へのアクセス

ここ数年、四カ所の研究室を転々としてきましたが、和泉校舎、猿楽町校舎にあった研究室は、2011年度をもってすべて撤収しました。

現在の研究室は、明治大学駿河台キャンパス研究棟二階の221号室です。研究棟には原則として誰でも出入りできます。研究室に在室しているときも、扉が「不在」となっていることがあります。まずは、扉をノックしていただければと思います。

私じしんが会場係として研究棟で研究会を行うことがありますが、会議室は同じ研究棟の建物内にあります。「心の科学の基礎論研究会」など、十人規模の研究会は研究棟の第8会議室で行うことが多いのですが、私の研究室と同じ二階にあります。

電車の最寄り駅は、JR・地下鉄丸ノ内線御茶ノ水駅、千代田線の新御茶ノ水駅都営地下鉄神保町駅です。駐車場(時間貸し:7時〜23時)はリバティータワーの地下にあります。

明治大学駿河台キャンパスの建物群への行き方については、大学の公式サイトに「アクセスマップ」がありますが、研究棟の入り口は、わかりにくい場所にあります。

https://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/6t5h7p000001h0z0-img/surugadai_1_1.gif

とある研究室のサイト上に、印刷可能な詳細な地図があります。

http://www.isc.meiji.ac.jp/~sano/image/surugadai_map0.gif

研究棟への入り口が、かなり詳しく書かれています。ただし、ここ数年、校舎の建て替えが次々と行われているので、研究棟以外の建物については、現状はすこし変わっています。

研究棟へのアクセスが難しいのは、坂道の多い立地で、階数が複雑に入り組んでいるからでもあります。

研究棟の二階以上が研究室になっており、二階に221号室があります。研究棟への入り口は主に三カ所あり、アクセスには四通りあるのですが、やや複雑です。リンク先の地図の順に従って書きます。

(1)リバティータワー(23階建、近隣で最も背の高い建物)に入り、三階に上がります。そこから渡り廊下を渡って、研究棟に行くことができますが、そこは研究棟の四階です。

(2)リバティータワーの一階を通り抜け、いったん外に出てから、研究棟一階の守衛室のある入り口に入ることができます。

その他のアクセス方法としては以下の二通りがあります。

(3)裏側の、金華公園側の道路から階段を昇って、研究棟一階の守衛室のある入り口に入ることもできます。道路から階段を昇ったところなのですが、そこが研究棟の一階になります。

(4)山の上ホテルの横の、木立の中の小径を歩いて行くと、守衛室のない、もう一つの入り口に入れます。地上から水平な道を辿った先ですが、研究棟に入るとそこは三階です。

さて、研究室へのもっとも確実なアクセスは、研究棟一階の守衛さんに行き先を告げ、内線で電話してもらうことです。しかし、「関係者」は守衛室の前を素通りすることもできます。研究棟三階の入り口には守衛さんはいません。代わりに「関係者」以外は立ち入ることを禁じる旨の看板が立っています。「関係者」を明確に定義することは困難ですが、いずれにしても、三階の入り口は、休日や深夜には閉まってしまいます。

(5)実は、研究棟には、もう一つ、地下の秘密の通路があり、深夜や休日には、守衛さんの付き添いで、そこを通ることもできるのですが、ここでは、これ以上触れないことにします。

迷ってしまったら、メールやLINEで連絡をいただくか、携帯電話に電話してください。


Escher, M. C. (1961). Waterfall.(ベルギー王立美術館にて購入したクリアファイル)

研究室の設備

仕事上の打ち合わせや学生さんの少人数指導では、研究室を打ち合わせの場所として活用しています。ソファに3人、補助椅子に2人、合計5人ぐらいまでの来客が入れます。

近隣には喫茶店や食事処も多いのですが、研究室でお話をすることの利点は、研究関係の資料とネットに常時接続しているパソコンがあることと、周囲や時間を気にせずにゆっくり話ができることです。研究棟には無線のWi-Fiは飛んでいませんが、2023年度以降、蛭川研究室内で独自に電波を飛ばしています。

飲食物が必要な場合には、ご自身で持参してください。冷凍冷蔵庫、電子レンジ、湯沸かし器、および簡単な食器を備えつけています。お持ち込みの飲食物を冷蔵したり冷凍したり、加熱したりできます。



CE2013/03/09 JST 作成
CE2023/07/09 JST 最終更新
蛭川立

重力波望遠鏡

国立天文台三鷹の干渉計型重力波アンテナTAMA300は、マイケルソン干渉計である。岐阜県飛騨市に建設している大型低温重力波望遠鏡KAGRAのための技術開発を行っている。

www.nao.ac.jp


TAMA300の構造[*1]

マイケルソン干渉計では、反射して戻ってくる光を観測することで、空間の伸び縮みを検出する。

相対性理論では、絶対時空を背景にして光の速度が変化するという古典力学的な枠組みをとらず、光速度は一定で、時空が伸び縮みすると考える。光速度の不変性を実験的に示したのが、マイケルソン・モーリーの実験である。

時刻のずれを、光子という素粒子の速度の変化として捉えるというニュートン力学の解釈が誤っているわけではない。しかし、光速度が不変だという観測事実を優先するなら、古典力学の背景にある2個の「公理」、つまり相対性原理(ガリレオ[*2]と絶対時空(ニュートン[*3][*4]30-31.のどちらかを捨てる必要があり、アインシュタインは相対性原理を公理として残した。アインシュタインの力学を相対性理論という所以である。

さらに、慣性質量と重力質量は観測によっては「区別できない」(観測精度を上げれば区別できるかもしれない)ことから、アインシュタインは慣性質量と重力質量、つまり加速度と重力を「区別しない」という「公理」をたてた。これによって相対性理論は加速度のかかっていない「特殊相対性理論」から、加速度のかかっている「一般相対性理論」へと一般化された。


 

特別公開日には「重力波」という案内が出る
 

 

ふだんは入れない地下に干渉計がある
 

狭い空間で頑張って自撮り

三鷹では空は明るくなってしまい、光学望遠鏡は高い山の上に移動してしまったが、重力波のほうは地下で観測している。それでも道路を大きな車が走ると値に影響してしまうのだとか。(2019年10月撮影)

www.nhk-ondemand.jp

岐阜に設置されたKAGRAのノイズ問題はサイエンスZEROでも紹介されているが、日本海で荒波が起こっただけで観測に影響が出るという。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(日々その都度、思いついたことを書きとめているだけなので、文章は荒く、途切れ途切れです。学術的に価値がありそうなコンテンツは、できるだけ加筆修正して独立させます。)

  • CE2022/06/01 JST 作成
  • CE2022/06/27 JST 最終更新

蛭川立

蛭川ゼミ紹介動画

2020年度より蛭川ゼミが復活します。まず、新3年生の募集にあわせて、明治大学情報コミュニケーション学部の「ゼミナール紹介動画」のページに、蛭川ゼミの紹介動画もアップされました。


蛭川立 問題分析ゼミナール

映像が作成されたのは2年前の2017年です。当時ゼミの3年生だった平井萠菜さんが、インドネシアのバリ島から現地調査の様子を生中継している様子を中心に作られています。

三年生のゼミのテーマを「人類学と意識研究」としておりますが、その二つの視点を織り込んでいます。

冒頭は、バリ島の憑依儀礼、サンギャン・ジャランです。男性に馬の霊が憑依し、火渡りが行われます。ギアニヤール県ボナ村で行われている観光用のパフォーマンスなのですが、観光化されているのにもかかわらず、当人は本当に解離トランス状態に入っています。これは、観光化が進んでも内容が失われないか、あるいはさらに発展するバリ島の儀礼文化の特徴です。そのことを、平井さんがLINEの通話機能を使ってレポートしています。場所は、ギアニヤール県プリアタン村の、ユリアティ・ハウスです。バリ島の伝統文化を研究する、とくに日本人の拠点になっている場所でもあります。

もちろん「馬の霊が憑依する」というのは、ひとつの文化的な解釈であって、その真偽は保留して、その意味を研究するのが、文化人類学の立場です。いっぽうで、本当に「霊」が「憑依」するのか、それが仮に幻覚・妄想であったとしても、どのような生理的なメカニズムで起こる体験なのかを研究するのが、意識研究・意識科学の立場です。



2019/10/27 JST 作成
2019/11/08 JST 最終更新
蛭川立

【資料】シャルル・フーリエ(Charles Fourier)

著作・邦訳

フーリエの著作はCharles Fourier(Wikipedia)Bibliographieにリストアップされており、ここからもリンクが張られているが、フランス語版全集はOeuvres complètes / de Charles Fourier[*1]にアップされている。

またシャルル・フーリエ[*2]に邦訳著作リストがある。

『四運動の理論』

1808年に公刊された主著『Théorie des quatre mouvements et des destinées générales』は、気宇壮大な宇宙的スケールの社会進化論である。

邦訳『四運動の理論』はハードカバーで出版された後、文庫になっている。

えてして日本の知識人が西欧、とくにフランス語で書かれた思想を日本語に翻訳することで劣等感を優越感へと変換してきたのとは対照的に、フーリエの著作が日本語に翻訳されることは、なによりフーリエ自身にとって喜ばしいことだろう。というのは、日本では幕末期にあたる時期に、すでに彼は日本における女性の性的地位の高さを見抜いていたからである。

女の特権の伸張による喜ばしい成果を約束した指標のうち、あらゆる国での経験を挙げておかねばならない。すでに見たように、最良の国民とは、必ずや最高の自由を女に与えている国民である。文明人におけると同様、野蛮人や未開人においてもこのことが見られた。野蛮人のうちもっとも勤勉かつ勇敢であり、もっとも尊敬に値する日本人は、女に対しても、もっとも嫉妬心がなくもっとも寛大である。

タヒチ人は、おなじ理由によって、あらゆる未開人のなかで最良のものである。その国のもたらすわずかな資源をもとに、これほど産業を発達させた民はなかった。またもっとも女を迫害しないフランス人は、もっとも柔軟な国民であるという意味において、文明人のうちで最良のものである。明敏な君主はどんな事業においても、ただちにこの国民を最大限に利用できる。軽薄、 個人的自尊、卑猥といった欠点はあるにせよ、野蛮人の性格とは正反対の柔軟性があるという事実のみによって、彼らは第一等の文明国民なのである。


『四運動の理論』[*3]

食や性などの快楽を肯定し、それを「罪」として否定するのではなく、「恥」によって節制するという文化が、ポリネシアと日本で共通していると指摘したのはベネディクトの『菊と刀[*4]だったが、フーリエはその人類学的議論を百年先取りしている。

もっとも進んでいるのはフランス人だというのはフーリエエスノセントリズムかもしれないが、軽薄、自尊、卑猥に過ぎるという自嘲的な自己批判もまた、フランス文化の特徴をよくとらえているとは言えまいか。

原文は『Théorie des quatre mouvements.』に公開されている。

『愛の新世界』

更なる総合を目指していた1816〜1818年ごろの遺稿は『Le Nouveau Monde amoureux』というタイトルで編纂されている。

作品社から刊行された和訳『愛の新世界』の表紙も官能的である。初版はピンクの豊満な裸婦のようであったが、増補新版のほうがオレンジの濃淡になり落ち着いたデザインになった。

宗教が連繋すべきはどの情念だろうか。この疑問は当節の政治家たちにとっては厄介なものだ。私は彼らには期待しない。思春期の人々の宗教である複合宗教にとって神託の役目を果たしてくれることになるのは、女性たちの心である。

神と人類を幸福にするにもっともふさわしい情念とはどれか、神の至福にわれわれを結びつけてくれそうな情念とはどれかを決定する機会を女性たちに与えれば、どの女性もこう答えることだろう。「まったき神なる性格をそなえ、私たちを神に合一させてくれる唯一の情念とは、恋愛です」、と。恋愛の陶酔の中でこそ、人は天に昇り神の幸せをわかちもったと信じるのである。ほかの情念では幻想はこれほど高貴ではないし宗教的でもない。 これほど高位の等級まで五官と魂の陶酔を昇らせることはないし、神の幸せにわれわれを近づけてくれることもない。文明世界では宗教とは神への希望の宗教であって、神の幸福と連合(アソシアシオン)する宗教ではないが、これとはまったく違って、恋愛の幻想こそは神との合一の宗教の幼芽を生みだすにもっともふさわしいものなのだ。
 
 
『愛の新世界』[*5]

もし男たちが一般に恋愛における移り気やひそかな多婚を嫌っており、女たちも移り気や間男という名の姦通を憎んでいるのだとすれば、そこから得られる結論は、人間本性は恋愛において貞節へと傾斜しているのであり、政治学が期待をかけるべきはそういう貞節への傾向に合致したものだ、ということになるはずだ。しかし、野蛮人や自由な文明人の例から明らかなのは、男性がすべて多婚を好んでいるのだということである。また文明の女性たちも、多少とも自由なら、同じように男性を複数もつことを好んでいるか、あるいは少なくとも、定期的に相手を変えたり、正規の恋人を補う一時的な寵愛対象をつぎつぎに引継ぎさせたりしたいと思っているものなのだ。その際、正規の恋人は、全体を取り仕切り、恋愛における諸変種〔に耽溺していること〕の仮面の役目を果たす。幾世紀にもわたる経験からこういう真実が確かなものになっているというのに、一体どうして、自然と真実を研究していると言いつのるえせ学者たちが、この自然の託宣を見誤るなどということがありうるのだろうか。結婚によって掟として押しつけられているような、恋愛において永遠の貞節を守るよう要求するあらゆる法律に対して、人類がひそかに叛乱を起こしていることを、彼らといえども認めざるをえないはずなのである。

こういうと彼らは、「政治が違犯を見過ごしにしているせいだ」と答える。これもまた愚かな発言だ。法律をつくっておきながら、それを骨抜きにし、違犯に眼をつぶったり、助長させたりしているのだから、本性との闘いに敗北したと告白しているのだ。つまり、立法家は[  ]をする代わりに本性との闘いに深入りしてしまい、そのうえ叛乱を大目に見ることによって自分自身に疑いをかけているわけだから、明らかに、二重に無能だということになる。法律は、慎重にも、ひそかな多婚や夫婦間の不貞に眼をつぶっている。なぜなら、〔厳密に取り締まれば〕家庭の数と同じだけ裁判を開かざるをえなくなるからだ。

『愛の新世界』[*6]

原文は『Le Nouveau Monde amoureux.』に公開されている。

『産業の新世界』

1829年に刊行されたもうひとつのヴィジョン『Le nouveau monde industriel et sociétaire』は、田中正人による抄訳『産業的協同社会的新世界』が、中公バックスの『世界の名著』の42巻『オウエン サン・シモン フーリエ[*7] におさめられているが、『愛の新世界』と同じ福島知己による全訳『産業の新世界』が2022年に公刊された。

帯には「数人の寵児を富裕にさせるために、勤労大衆すべてを貧窮に陥れている」とあるのみだが、これは後世の社会主義が継承したフーリエ思想のごく一部分にすぎない。

本文を開けば明らかなように、フーリエが示しているのは、すべての人間が恋愛貴族へと進化する可能性をはらんでいるという、壮大なる福音である。

その他の著作

いわゆる社会主義の前駆的な社会理論として書かれた「社団的社会主義要綱・労働階級の政治的能力」は『世界大思想全集16』に収められている。

伝記・解説

デューリングはフーリエ精神病者と罵倒したが、エンゲルスは『反デューリング論』で、むしろ空想的社会主義(utopischer Sozialismus)の先駆者としてのフーリエの想像力を評価している。原語の「ユートピア」は日本語では「空想」と訳される。

フーリエのビジョンは楽天的であって、精神病的な妄想のような暗さがない。貴族階級を否定して全員が労働者階級になるような社会ではなく、労働者階級が貴族階級へと進化するという理論だが、すでに現代においても、かつて貴族しか享受できなかったような生活が技術の進歩によって一般化している。

日本語の解説としては『空想から科学へ』をもじった『科学から空想へ ー よみがえるフーリエ ー 』があり、日本語訳された解説書としては、『フーリエユートピア』がある。

伝記的な書物である『シャルル・フーリエ伝ー幻視者とその世界ー』によれば、フーリエは私生活においては必ずしも恋愛や美食の実践家でもなければ、ユートピア共同体の実験を行ったわけでもない。晩年は一人暮らしであり、出入りしていた家政婦によって絶命しているのを発見されたという。


追加:その他の概論

note.com

www.youtube.com
https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/1154/1/miharatomoko.pdf


  • CE2019/07/27 JST 作成
  • CE2022/06/03 JST 最終更新

蛭川立

*1:https://gallica.bnf.fr/accueil/fr/

*2:ameqlist 翻訳作品集成(Japanese Translation List)

*3:フーリエ, C. 巌谷国士(訳)(2002). 『四運動の理論(上)』現代思潮新社, 220.

(Fourier, C. (1808). Théorie des quatre mouvements et des destinées générales. Leipzig.)

*4:ベネデイクト, R. (1967) 長谷川松治(訳)『菊と刀―日本文化の型―』社会思想社.

(Benedict, R. (1946). The Chrysanthemum and the Sword. Houghton Mifflin.)

*5:フーリエ, C. 福島知己(訳)(2010).『愛の新世界』作品社, 28.

*6:フーリエ, C. 福島知己(訳)(2010).『愛の新世界』作品社, 284.

(Fourier, C. (1816-1818/1967). Le Nouveau monde amoureux. Editions Anthropos.)

*7:田中正人訳「産業的協同社会的新世界」中公バックスの『世界の名著』42巻『オウエン サン・シモン フーリエ中央公論社