蛭川研究室

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「不思議現象の心理学」2021/06/25 講義ノート

不思議現象の心理学もあと四回になりました。

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おおよそのスケジュールとしては、シラバスとはすこし順序が違うのですが、話の流れで、まず先に疑似科学についての議論を先に扱います。これについては「科学と非科学の境界設定問題」という、かなり長い、そしてだいぶ専門的な記事を見てください。今週は、この記事をもとに議論をします。

本題である超常現象や超能力の話に戻る前に、ひたすら予備知識ばかりで回りくどいのですが、扱っている対象がだいぶ危険な分野であるだけに、その危ない世界に飛び込んでいく前に、信じ込んでしまったり騙されたりしないよう、しつこく予防のための知識ばかりお話ししているわけです。しかし、これはとても大事なことです。科学と非科学はどこが違うのか、これは、科学哲学という学問の基本でもあります。

たとえば、霊能力で病気が治るということについて、そんな非科学的なことはありえないと否定すること自体も、非科学的です。本当に治せるかもしれません。治せないかもしれません。治らないかもしれませんが、まあ、治らなくても害はありません。では何が問題かというと、治らない治療法に高いお金を払って、損をしてしまうとしたら問題です。それから、病気を治そうとするときに、霊能力者のところに行くのはいいかもしれませんが、霊能力者ばかりに頼って、ふつうの医者に行かないということがよくあります。普通の医者に行って普通の治療を受けないことで、治る病気も治らなくなってしまう、代替医療などで起こる健康被害は、そういうことで起こることが多いのです。

霊能力者というのは極端ですが、たとえば医者に行って薬を処方してもらえば治ったはずの病気でも、医者に行かずに、なにか別の健康法を実践して、治らなかったとすると、その健康法が悪いというよりは、医者に行かなかったことが問題だったと、そういうことは、よくあるわけです。

そして来週から、また超心理現象の実験的研究に戻ります。霊能力や祈祷で病気が治るとしたら、どういうメカニズムで治るのか、念じただけでスプーンが曲がるとしたら、どういうメカニズムで曲がるのか、この授業では、そういう未知の能力の研究がどこまで進んでいるのか、それを紹介するほうが本題です。それが、現代の物理学でどう説明できるか、これは、物理学の基礎知識がないと理解できないことなのですが、おおよそ、どんな議論があるのか、雰囲気だけでも伝えられたらと思います。そういう議論に進めて、最終回は、秋学期の授業である、身体と意識の予告編で終わりにします。同じ時間帯に私が担当する授業ですが、続きで受講する人には予告編として、履修しない人には、身体と意識の半年分の授業ではどんな内容を扱うのか、一回の授業で概観できると、それで最終回にします。