「人類学B」2021年度 秋学期 期末レポート課題

提示された三問から、二問を選択し、それぞれ、解答用紙一枚(裏表二面)を超えない範囲で解答してください。いずれも単純な答えの出ない問いかけです。どのような仮説・学説を用いても、どのような結論になってもかまいませんが、議論が、既存の知見をふまえた上で、論理的に展開されていることを評価します。



【1】

ヒトの脳の重量は約1.5kgで、ゴリラやチンパンジーの約3倍です。脳が大きくなることによって人間は認知能力を高め、他の動物にはない文化を発展させました。

しかし、脳が大きくなることで生存に不利になることもあります。脳は体重に比べて約2%の重さしかありませんが、身体全体のエネルギーの半分を消費するので、大きな脳を持つことは、飢餓に弱いなど、エネルギー効率からすれば生存には不利です。

また、人間は芸術や宗教など、一見、動物としての生存には直接必要のない活動に多くの時間を費やします。たとえば雨乞いをすることは無駄なことかもしれませんし、歌って踊ることは時間とエネルギーの浪費だともいえます。こうした精神文化は、生物として生き延びるのには必要ないともいえます。

さらに、人口が増え、文明が発展したことで、逆に資源の浪費や、環境破壊が起こり、人間を含む生物全体の生存を脅かすようになったという問題もあります。

それでも人間が大きな脳を進化させ、繁栄してきたのはなぜでしょうか。あなた自身の考えを論述してください。



【2】

他の動物とは異なり、人間は葬送儀礼を行います。

たとえば、インドネシアのバリ島では、盛大な火葬儀礼が行われます。現代では、葬儀や婚礼などは簡素に行うほうが合理的だという意見が増えていますが、いっぽう、火葬儀礼は伝統文化として受け継がれるべきで、観光化されることで地域振興にもなる、という考えもあります。

そもそも人の死という不幸な出来事に対して、楽しそうに騒ぐのは不謹慎だとも思えます。しかし、バリ島民の世界観において、死とは、精神が、肉体という物質の制約から解放される喜ばしい出来事でもあり、火葬によって肉体を焼いてしまうのは、精神が肉体へ戻りたいという執着を断つためだとされます。これは、火葬という文化の由来である、古代インド哲学における論理的思考の帰結であり、たんに非科学的な迷信だと決めつけることもできません。

上記のような議論に対して、あなた自身の考えを論述してください。



【3】

世界各地の様々な民族を調査した結果、狩猟採集民から賃金労働者へと、一般に文明が進歩するほど労働時間が長くなるというパラドックスが明らかになってきました。

一見、文明の発展から取り残されてきたようにみえる未開民族も、文明的な暮らしよりも、簡素で時間的な余裕がある生活のほうを積極的に選びとってきたのかもしれません。

逆に、たとえば日本の都市社会では、過労が問題になり、積極的に休暇をとらなければいけないという考えも出てきました。AI(人工知能)が進歩すれば、機械が働いてくれるぶんだけ、人間の仕事が減るはずですが、実際には、AIによって職が奪われるという可能性が憂慮されています。

上記のような、労働時間のパラドックスは、なぜ生じるのでしょう。文明的な豊かさと、時間的な余裕は、両立しないのでしょうか。あなた自身の考えを論述してください。



別途添付した、Microsoft Word形式のファイル二個のそれぞれに、学生番号、氏名、所属学部と学科、年・組・番号、提出日を記入し、選択した問いの番号を括弧内に書いた上で、解答してください。(採点結果の欄には何も記入しないでください。)

Webサイト、紙媒体を問わず、引用は、必ず引用部分と出典を明記してください。

なお、例年、講義の感想をひと言、書き添えてくれる人がおります。肯定的な意見でも批判的な意見でも、成績評価には反映しませんが、歓迎します。

日本時間で西暦2022年1月24日(月曜日)の00時00分から、1月27日(木曜日)の23時00分までとします。(機械で処理しているので、1秒でも遅れると受け付けられません。23〜24時ごろにはアクセスが殺到し回線がダウンする可能性があるので、早めの提出をお勧めします。)

その他、FAQの「期末レポートについて」に、問題になりそうな点を列挙しておきました。ご一読ください。それでも疑問がある場合には、上記サイトにあるアドレスに、メールでお問い合わせください。