蛭川研究室

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【講義ノート】「人類学B」2021/01/18

人類学Bの講義は、これで最終回になります。

前回の講義では起源神話における<自然>から<文化>の分離という、すこし抽象的でわかりにくい話になってしまいました。

今回は最終回なので、半年の授業(→「人類学B 西暦2020年度」)を振り返りたいのですが、おおよそ、最初は自然人類学から始めて、徐々に文化人類学社会人類学へと話を進めてきました。

人間もまたヒトという動物であり、生態系の中で、植物や動物を食べて分解し、それをエネルギー源にして生活しています。有性生殖を行い、遺伝子を組み換えながら、遺伝子のコピーを残してきました。

しかし同時に、人間は文化を持った動物でもあります。有性生殖は婚姻という文化によって意味づけられます。人類の祖先は神様のような超自然的な存在によって創造され、あるいは、肉体の死後も霊魂は存続するという宗教的な観念も持っています。

人間は、文化を持ち、技術によって自然状態を改変し、生物としてより快適な生活を行い、より多くの子孫を残せるように、進化してきました。しかし逆に、文化が生物学的な生存や繁殖を妨げてしまうこともあります。

とりわけこの数百年、数十年の間に、科学に裏付けられた技術が発展し、それは人間の生活を飛躍的に豊かにしましたが、その反面、生態系のバランスが崩れ、逆に人間の生活が脅かされるという事態も生じつつあります。

多くの「未開」社会や伝統社会が、<自然>から<文化>が発生したことのほうを重視する神話的世界観を持つのに対し、技術が発展した近現代社会では、逆に、行きすぎた<文化>から<自然>への回帰という観念が重視されるようになってきました(→「文明社会の神話的思考」)。

もちろん、いまさら、高度な技術に支えられた文明社会をすべて放棄して自然に還るわけにはいきません。しかし、一見、原始的なようにみえる「未開」社会の文化を研究することは、文明の行き過ぎを自省するための参考にもなるでしょう。

人類学は、自然科学と人文・社会科学の橋渡しとして、こうした問題を、浅くではあっても広く概観する視点を提供してくれる学問だということができるでしょう。

期末レポートについて

教室での期末試験は行いません。その代わりに、Oh-o!Meijiシステムを通して期末レポートを提出してもらいます。授業の内容について、簡単に論述してもらう形式にします。

問題は「『人類学B』 2020年度 秋学期 期末レポート課題」にもアップしました。



CE2021/01/17 JST 作成
CE2021/01/26 JST 最終更新
蛭川立