hirukawa-classes.hatenablog.jp
承前。
リアルタイムディスカッションは12時30分までを予定していますが、本日16時33分に、明治大学を爆破するという予告が来たようです。
理由も動機も、なぜ16時33分という時刻指定なのかも、どの地区のどの部署かという情報も明らかにされていません。職住近隣、通行中の皆さんも、前後も時間的余裕をみて距離をとりたいものです。
狙われているのは中野キャンパスで、他の校舎は関係ないとか、未確認情報が流れていますが、信頼性の低い情報にも注意です。
あるいは、大学への爆破予告は、たとえばいたずらのような電話なども含めれば、以前から頻繁にあったのですが、それで研究や教育を中断することなどできなかったのが、今は遠隔通信で対応できる柔軟性ができた、という側面もありそうです。
以前、帝京大学の文学部に勤めていたときにも、文学部のある教授に対して、日付指定で意味不明な殺害予告の手紙が送られてきたことがありました。しかし、それで大学全体を閉鎖することはできませんでした。そんな余裕はありませんでしたし、手紙の内容も支離滅裂で、病的な内容でした。
けっきょく、犯人は逮捕され、精神鑑定の結果、治療のために精神科病院に入院となりました。実名と実住所を書いた、同じ内容の手紙を、多数の大学教授に送っていたので、すぐに逮捕され、精神鑑定を受けることになったそうです。
今回の事件の真相については、そういう詳しい事情は聞いていません。しかし、金銭を要求するなどの具体的な声明もなく、なぜ分単位の時間まで指定しているのか、それにはいささか病的なものを感じます。
数年前に、一年ほどロンドンに住んでいたときに、近所の陸軍の建物が、イスラームを名乗る過激派に襲撃され、アフガンの戦場から帰国した兵士が首を斬られるという痛ましい事件が起きました。この種の事件は世界的には日常的に起こっていますが、日本では報道されません。
テロといえばイスラームという偏見はよろしくないものですし、犯行はイスラームを名乗る過激派によるもので、大多数のムスリムが人道的な人たちであることは、当然なのですが。
日本では、「反イスラーム的」な書籍を出版した筑波大学の先生が刃物で首を斬られて殺されたという事件がありました。しかし、犯人や犯行の理由は不明なまま、時効となってしまいました。
ja.wikipedia.org
もっとも、こういう事件の場合は、理由が事前に明らかになっており、特定の当事者に対して、理由が明示されていて、回避も可能です。
金曜日はイスラームの安息日であり、太陽の位置によって決まる礼拝の時間とも無関係です。
しかし、ここでこれ以上心配していても仕方がないところもありますので、別の事件の話に戻りましょう。こちらは、明らかに精神疾患と関わる事件なのですが、発狂した人物が凶悪犯罪を犯したという話とは逆で、心を病んだ大学生が、自分で自分を治療してしまい、刑事事件として告発されたという、不思議な事件です。
大学生救急搬送事件の謎を追って
先週に引きつづき、事件の謎を追っています。
事件自体は去年起こったことで、関係者が逮捕され、裁判が始まったのも、半年前のことでした。しかし、事件の発端となった大学生のことが報道されるようになったのが、つい十日ほど前で、ちょうど授業で臨死体験というテーマを扱っていたタイミングでした。
私は人類学と心理学の学際領域で研究を続けてきましたが、いっぽうではアマゾンの先住民族の薬草文化について研究し、いっぽうでは心物問題、心身問題・心脳問題と生物学の交錯するとして、とくに臨死体験の聞き取り研究を続けてきました。
どんなことを研究しているのかと訊かれて、心物問題への生物物理学的アプローチです、などと言っても抽象的すぎて理解されにくく、アマゾンの先住民族が精神展開作用を持つ薬草を使っているとか、臨死体験で死後の世界を見てきたとか、具体的に説明すると、ますます、アマゾンの原住民の幻覚植物?死後の世界?といった具合で、さらに怪しくて理解不能と思われてしまうので、困っていたところでこんな事件です。
いまは逆に、日本でアマゾンの先住民文化と不思議体験の両方がわかる研究者は他にいないということで、問い合わせや取材がやってきて、こんなことで自分の研究が社会的な意義を持つことになるとは、と、うれしい悲鳴状態です。取材に応じてばかりで本業が疎かになってはいけないのですが、大学での仕事と社会的な活動がうまい具合にリンクしているのが、また不思議です。
どうか、受講している皆さんも、推理小説を読みながら謎解きをしていく、そんな感じで勉強していってください。しかし、これはフィクションではありません。ノンフィクションです。この、つねに謎を解きながら進んでいく、ときには社会的な問題を乗り越えて行く、ノンフィクション性が、学問の現場のリアリティです。
小説なら、書き終えられた時点で結論は出ています。小説なら、もし早く結論を知りたければ、後から読むこともできます。ネット動画やDVDなら、早送りも巻き戻しも自由自在です。謎解きの過程は楽しめなくなりますが。しかし、私が今ここで書いていることは、現実社会で起きていることで、情報は断片的でまだ真相がわからず、裁判も進行中で、先行きが見えません。
ミステリー小説などという言い方もしますが、その場合に「推理」されるのは、犯行の方法です。しかし、いまお話しているミステリーとは、脳と物質の謎です。本質的なミステリーです。
先週に引きつづき、私はずいぶんと興奮してしゃべり続けていますが、そして読んでいる皆さんのほうは、何がミステリーなの?と思っているでしょう。法医学的な犯罪捜査でも、犯行現場に残された毛髪をPCR検査したところ、容疑者のDNAと一致した、といったことが行われているのですが、こういう話も、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)という言葉の意味がわからないと、何が謎で、何をどうやって解明しているのかがわかりません。
臨死体験
さて、話をいったん臨死体験に戻します。そもそも臨死体験とは、ということなのですが、だいぶ前に作った覚書的なページを更新しました(→「臨死体験」【必読】)。
また、参考映像としては、かねてより紹介してきたNHKのプレミアムの『超常現象』、これがお薦めです。
二百円払って見る価値はあります[*1]。
40分〜60分ぐらいのところで、臨死体験のことが取りあげられています。まずはこの部分を見てください。
基礎知識
いまお話していることは、まさに学際的、文理融合、脳神経科学から文化人類学まで、広範にわたりますが、いま、裁判のことで問い合わせてくる皆さんに対しても、まずは背景になる予備知識を、ということで、前回の授業でも紹介しましたが「京都アヤワスカ茶裁判を読み解く基礎知識」というリンク集を作っておきました。このリンク先がまた難しい内容かもしれませんが、ざっと目を通した上で、わからないところがあれば、随時、掲示板に質問を書き込んでください。
今後の予定
来週、11月6日は、学園祭期間です。大学が閉鎖された状態で、どうするのか。それは、学生の皆さんの創意工夫にお任せするとして。リアルタイムディスカッション授業もお休みにします。
今後、情報公開と裁判がどのように進むかはわかりませんが、授業の内容としては、心物問題、心身問題という、より抽象的な話に議論を移行させていきます。犯人は誰だ、犯行の手口は何か、という話には、あまり深入りしません。それは、本当のミステリーではないからです。
脳と心、物質と精神、これこそが本当のミステリーです。乞うご期待。
(このノートを置いているブログが新蛭川研究室のルートディレクトリになっていますが、これは、記事をカテゴリ管理するためです。)
CE 2020/10/29 JST 作成
CE2020/10/30 JST 最終更新
蛭川立
*1:ネット上には「https://www.bilibili.com/video/av968934301/」のようなリンクが貼られていることがあります。インターネット上の著作権は、難しい問題です。勝手にダウンロードしたものをコピーして販売するのであれば問題ですが、ネット上にアップされているコンテンツにリンクを張ること自体には問題がないという考えもあります。これについては「インターネット情報の普遍性と著作権についての覚書」に、私なりの考えを書いておきました。