蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

インターネット情報の普遍性と著作権についての覚書

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承前

私はNHKの『超常現象』という番組の制作に携わったことで、金銭を得ていませんが、DVDをいただきました。

今までは、その一部を、授業という、教育目的の、非営利の場で、紹介していました。

ところで、過去のテレビ番組は、インターネット上にアップされていることがあります。それを視聴することの是非を問うことは、難しい問題です。インターネットは、人類の営為の素晴らしい共有財産です。しかし、番組を制作した人、本を書いた人は、その対価として、給料や印税ををもらって生活しています。

たとえば『超常現象 2集 秘められた未知のパワー ~超能力~』は、NHKオンデマンドにアップされており、220円を払うと視聴できます。

www.nhk-ondemand.jp

しかし、過去に放映されたテレビ番組がインターネット上にアップされていることがあります。
http://www.at-douga.com/?p=12816
@動画

インターネット上のリンクは、学術論文や著作と同様、引用元の許諾を得なくてもURLを張ることができるという紳士協定になっています。このページには番組の動画がアップされていますが、このページの著者が制作者の許諾を得ているかどうかは、見ているこちら側からは、わかりません。

よく見ると、このページの動画は「youku」という別のサイトから引用したらしいことが、小さな字で書かれてあります。いわゆる孫引きです。

たとえば、物理的な物体、たとえば書籍について考えてみましょう。

本屋さんに置いてある本を、その場で手にとって読むのは、それは、立ち読みと呼ばれ、対価を支払う必要はありません。立ち読みには、明確な時間制限はありません。

本屋さんに置いてある本を、お金を払わずにお店の外に持ち出せば、泥棒をしたことになります。レジで代金を支払って持ち出せば、問題はありません。

では、たまたま、雑誌が電車の座席に置き忘れてあるのを見つけて、拾って読むのは、泥棒でしょうか。電車の中で読んだ後で、また座席に置いておいたら、どうでしょうか。拾ったものは落とし物として駅員さんのところに持って行くべきでしょうか。もし、持ち主が、忘れ物として届け出ていれば、その雑誌は持ち主の手に戻るかもしれません。

しかし、読み終わった雑誌を捨てるつもりで座席に置いたのであれば、持ち主を探し出すのは難しいでしょう。もし、ゴミ箱に捨ててある雑誌を取りだして読んだとしたら、どうでしょうか。(衛生的には清潔ではありませんが。)

あるいは、誰か友達に本を借りて読んだとしても、友達にはお金を払いません。それが、友情というものです。自分が持っている本をコピーすること自体は、自由です。本に書かれていることは情報であり、本という物質自体に価値があるわけではありません。だから、コピーしたものを、たくさんの人に無料で渡せば、著作権の侵害になります。同じ本を図書館で借りて読むのは、無料です。私立の図書館であれば、それは紳士協定というものでしょうか。公共の図書館であれば、税金を支払った対価だと考えられます。

NHKの番組を視聴するのは、無料です。それは、受診料を支払った対価です。民放の場合には、番組の間にCMが流れます。CMは観ないで目を休めるとか、それを録画して、CMを早送りして観ることは可能です。

このような議論を厳密に進めるほど、果てしなく続いてしまいます。じつに悩ましい問題です。

制作している人にとっても、より多くの人に観てもらうことは、嬉しいことでしょう。しかし、制作している人たちの生活を経済的に保証することや、そのアイディアや努力を評価し対価を支払うことも必要で、どこかでバランスをとる必要があります。

ただし、情報が無償で共有されること自体は、素晴らしいことです。物理的な物体であれば、オリジナルはひとつしかありませんが、デジタル情報であれば、劣化せずにコピーし、共用できます。このことは、デジタル社会の新しい未来なのです。



CE2020/05/22 JST 作成
CE2020/05/24 JST 最終更新
蛭川立