蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

感染予測シミュレーションによる今後の見通し

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。

 
【この記事は2020年5月22日に更新を止めました。それより新しい状況をふまえた議論は「新型コロナウイルス感染の現状と見通し(試論)」をごらんください。】
 

有効数字と誤差

2003年4月、私が雲南省にいたとき、公式発表では省内のSARS感染者数は0名だった。真偽のほどは確かめようがないが、隣接地域に流行が広がっており、かつある程度の人口があるところで「0名」というのは、調査不足や情報隠蔽を疑いたくなる(雲南省の人口は約四千万人)。いっぽうで、ごく少数であっても、たとえば「2名」などと発表されると、逆に信頼性がおける。

大きな数字であっても、たとえば死亡者が52785名、とピッタリな数字ほど、その正確さを疑う必要がある。なるほど死亡者の数はともかく、死因はそれほど正確に確定できないものだし、重複しやすい。すでに病気に罹り弱っている人に別の病気が感染すれば命取りになるからである。

数え方によって数が変わったり、検査の精度が100%ではない場合には、誤差を示すのが当然であり、誤差が示されていない数字は疑わしい。研究論文では誤差が示されるのが当然だが、役所の数字には誤差が示されていないことが多く、不思議なことである。わざと「52785名」などというピッタリした数字を出して情報の正確さを装っている、というのは勘ぐりすぎだろう。

あるいは、有効数字は二桁ぐらいとみなして、約五万二千人、と書いてもいい。こういうときに、漢数字は便利である。

最新情報の分析

5月22日

日本にかぎって言えば、5月31日に緊急事態を解除するという見通しだが、新規感染者数は0に収束しつつあり、回復者数が増え、感染者数も減り続けている。

しかし、公表されている患者数のピークは1万人強(1万人に1人)であり、欧米に比べて100分の1のオーダーである。なぜ、こんなに少ないのだろうか。

  • 検査数が少ないので見かけ上の患者数が少ない
    • これについては抗原・抗体の検査が進めば実態が明らかになるだろう
    • 限られたサンプルでの調査結果は5月17日以前の記事に書いたとおり
  • 日本人は清潔好きで秩序を重んじるから
    • この可能性については「外出自粛勧告下出勤」に書いたが、それだけでは100倍の違いは説明できない
  • 日本で流行したウイルスと欧米で流行したウイルスは種類が違う
    • この可能性は以前から知られていたことだが、下記で少々検討してみたい

https://bedford.io/images/blog/ncov_nextstrain_2020_03_01.png

https://bedford.io/images/blog/ncov_nextstrain_2020_03_01_wa1.png

auspice
SARS-CoV-2には、大きく3種類の変異があり、東アジア<ヨーロッパ<北米の順に毒性が高い[*2]

日本では東アジア型の変異はすでに1〜2月に流行しており、4〜5月に流行したのはヨーロッパ型の変異だという説が出てきた[*3]

日本ではヨーロッパ型の変異があまり流行しなかったのは、東アジア型の変異に対してすでに免疫ができていたからだ、というのである。

これは驚きだが、その根拠は、季節性のインフルエンザが2019年の12月までは増えつづけたが、例年のように1〜2月の流行が起こらないまま終わってしまったことにあるという。しかし、季節性インフルエンザとSARS-CoVが交差するという仮説には些か無理があるのも事実である。

そのこともまた、マスクや手洗いをするという日本人の習慣が奏効したのではないかという考察を「『病という物語』と認知バイアス」に書いたが、そうではなく、事前にSARS-CoV-2に感染して免疫ができていたから、インフルエンザにも罹りにくかったのだ、という仮説である。それが正しいかどうかも、今後の抗体検査によって確かめられるだろう。

5月17日

厚労省と東大・慶大のグループが独立に行った抗体検査によると、東京都の陽性率はいずれも0.6%だったという。

人口1000万人の東京では、現在の感染者数は1500人、回復者数が3500人と報告されている(合計で2000人に一人の割合)。人口の0.6%というのは、60000人だから、桁違いに多い(200人に一人の割合。感染しても発症する割合は一割程度だということもできる。

しかし、そう結論する前に、以下の問題を検討する必要がある[*4]

  • 検査キットの信頼性
    • 偽陽性(感染していないのに抗体を持っている)の確率は0ではない。かなり高い可能性がある。
  • サンプリング
    • 厚労省の調査では、500人の検査で、陽性は3人だったという。サンプル数が少なすぎる。

下のクルーズ船の分析データと比較して、じっさいの感染者数は200〜1000名に1人、感染しても発症せずに終わる確率は50〜90%だといえる。

中国など、諸外国の疫学的データはどのような数字になっているのだろう。

5月14日

日本では、部分的に緊急事態を解除することになった。

感染者数は、順調に減少し、新規感染者数は、0に向かって収束しつつある。新規感染者数が0になっても、感染者数は横ばいになるだけで、減らないというわけでもなく、回復者数が増えてきているので、感染者数も5月に入ってから、急に減少に転じている。

現在の感染者数はざっと5000人で、16000人が感染、1000人が死亡、10000人が回復、という割合になる。

感染者というのは、有症状感染者の数であって、無症状感染者はその何十倍もいるのではないか、だから、無症状や軽症の場合でも、PCR法で抗原検査を進めるべきだというという意見もある。

特定の集団の全数調査として、3000人が乗っていたクルーズ船では600人(20%)が感染し、症状が出た人が300人、症状が出なかった人が300人と、ほぼ半々だった[*5]

全体の感染者数を、症状が出ている感染者の二倍と見積もると、約一万人となり、これは、一億人の人口に対して、一万人に一人の感染者がいるという計算になる。

CE2020/05/14 JST 追記
CE2020/05/20 JST 修正

5月6日

5月6日に解除予定だった緊急事態が、5月31日に延長された。

f:id:hirukawalaboratory:20200506195115p:plain
5月6日までの全国の感染者数[*6]

5月5日に12081人だった感染者数が、6日になって200人ほど減少した。これで、ピークを越えたのかもしれない。

新規感染者数は減少しているが、まだ100人ていどである。しかし、回復者が300人あったので、差し引きで200名減となった。

今後、感染者数はどう推移するだろうか。

https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/053/935/990/752faa530d.jpg?ct=1054505c0a95
全国の新規感染者数の実績と予想[*7]
 
https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/053/935/999/2ab7b4d031.jpg?ct=19c503ba1fe8
東京都の新規感染者数の実績と予想[*8]

これは、ひとつのシミュレーションだが、実際の値とシミュレーションの数値が比較的よく一致している。

緊急事態宣言が出された4月7日の3日後、4月10日ぐらいに新規感染者数がピークに達し、減少に転じている。

接触60%減で新規感染者が横ばい(感染者は直線的に増加)になり、目標の80%減で新規感染者がほとんどいなくなる(感染者数は横ばい)のに対し、実際には70%減にとどまっており、5月31日には100人ぐらいまで減りそうな見通しである。(このシミュレーションでは、回復者の増加は計算されていない。)

(CE2020/05/06 JST 追記)


感染者数と新規感染者数

以下のようなグラフをよく目にする。

https://s.yimg.jp/images/yjtop/hazard/coronavirus/2020/total0421_03.png
 
https://s.yimg.jp/images/yjtop/hazard/coronavirus/2020/graph0421_02.png
2020年4月21日現在の感染の状況[*9]

上のグラフを見ると、感染者はどんどん増えているようにみえるし、下のグラフを見ると、感染者はすでに減少に転じているようにみえる。

上のグラフは「いま、感染している人の数」であり、下のグラフは「今日、新たに感染した人の数」である。つまり、感染者は増えてはいるけれども、増加速度は落ちているということである。

あらためてグラフをみると、東京都の外出自粛要請が出された3月25日ごろから感染者数増加の速度が上がり、4月7日に日本政府が緊急事態宣言を出し、その一週間後ぐらいから増加速度が落ちてきている。

https://graph-stock.com/wp-content/uploads/2020/04/COVID-19InspectionPersons0423-2cream-640x360.png
東京都における検査数と陽性になった新規感染者数[*10]

新規感染者数が一週間おきに増減しているようにみえるのは、週末は検査数が減るという原因によるもので、じっさいの感染者数の変動ではない。

https://memorandum.yamasnet.com/wp-content/uploads/2020/05/%E6%84%9F%E6%9F%93%E8%80%85%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E6%95%B0%EF%BC%88%E6%9D%B1%E4%BA%AC%EF%BC%89.gif
5月1日までの新規感染者数を7日間平均でならすと、下のグラフのようにきれいな曲線になる[*11]

諸外国と比較してみた場合、どうだろうか。

https://www.ft.com/__origami/service/image/v2/images/raw/http%3A%2F%2Fcom.ft.imagepublish.upp-prod-us.s3.amazonaws.com%2Ff9f6fc0e-840c-11ea-b872-8db45d5f6714?fit=scale-down&quality=highest&source=next&width=1260
1日あたりの新規感染者数が30人を越えた日より、4月22日(BST)までの集計[*12]

他国と比べると、人口が一億以上である日本の新規感染者数が、しばらく桁違いに低水準で推移していたのが、4月に入ると急に増加しはじめたことがわかる。そして4月の中旬になってやや頭打ちになっている。(こちらのグラフは一週間おきの変動を平均してならしている。)

縦軸が対数グラフになっている。生物の個体数の増加のような指数関数的な(ネズミ算的な)増加の変動を冷静に分析する場合には、対数グラフを用いたほうがよい。そのままの数だと、爆発的に増加している様子だけに目を奪われてしまう。

また、上のグラフは対数グラフではあっても、実数だから、国の人口を考慮していない。日本でも、患者数が一万人ではあるが、人口は一億人だから、感染者数は一万人に一人ということになる。1日あたりの死亡者数は15人だが、日本の人口自体が毎日死亡により3700人失われているから、これはすべての死亡者の250人に一人だということになる。しかも、すでに病気を持っている人が感染症も重症化させやすいので、じっさいには死亡理由は複数であることが多い。(詳細は「日本における出生数、死亡数とその原因」を参照のこと。)

年齢の要因

f:id:hirukawalaboratory:20200505191932p:plain
日本での新型コロナウイルス感染症の年齢別致死率[*13]

また、死亡率が年齢によって極端に違う場合には、すべての年齢層を合わせた致死率の数字にはあまり意味がない。

高齢になるほど致死率が高い場合は、それ以外の要因での致死率も比較検討しなければならない。

https://d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/15538133/picture_pc_a2a7e582936f04f676563aa150711c54.png
日本における年齢別10年後生存率[*14]

たとえば70歳の人が80歳になるまでに死んでしまう確率は約20%である。70歳の人がこれから10年間に新型コロナウイルス感染症に感染して死亡する確率が5%だとしても、これは罹患しなくても20%が死亡するという数字と比較して検討しなければならない。(10年間死亡率を例にとることには根拠がなく、乱暴な議論ではあるが。)

国別など、集団間で死亡率を比較する場合、その社会の高齢化の度合いも考慮する必要がある。

SIRモデル

最初のグラフに戻って、ごく簡単に感染者数の増減を式にしてみると、以下のようになる。(本当は「感染者数」=「有症状感染者数」+「無症状感染者数」なのだが、5月14日の最新情報に書いたように、実際の感染者は報告されている感染者の二倍ぐらいと推測される)

「今日の感染者数」
=「昨日の感染者数」+「昨日の新規感染者数」
ー「昨日の回復者数」ー「昨日の死亡者数」
 
「明日の感染者数」
=「今日の感染者数」+「今日の新規感染者数」
ー「今日の回復者数」ー「今日の死亡者数」

そして、感染者数の増加は、

「感染者数の増加」=「今日の新規感染者数」ー「今日の回復者数」

となる。ところで、まだ感染していない人が、一日の間に感染する確率は、

「まだ感染していない人が新たに感染する確率」
=「一日に接触する感染者数」×「感染率」

とあらわせる。新規感染者数は、この確率に、未感染者数の人数を掛けあわせたもの、つまり

「新規感染者数」=「未感染者数」×(「感染者数」×「感染率」)

となる。いっぽう、

「回復者数」=「感染者数」×「回復率」

なので、これらをあわせて代入すると、

「感染者数の増加」
=(「感染者数」×「感染率」)×「未感染者数」
ー(「感染者数」×「回復率」)

となる。これが、SIRモデルにおける微分方程式


 \frac{d}{dx}I(t)=βS(t)I(t)-γI(t)

の意味するところである。この種の微分方程式は解析的には解けないものだが、変数にいろいろな値を入れて、さまざまなシミュレーションが行われている。

微分方程式のシミュレーションというと難しそうだが、上に書いたような足し算や引き算をそのまま表計算ソフトに打ち込んでも、それなりの計算はできる[*15]

接触減はどの程度感染者を減らせるか

さて、死亡者の数を減らし、回復者の数を増やすのは、医療の仕事である。

いっぽう、まだ感染していない人間にできることは、日々の接触者数と接触の濃厚さを減らすことである。(当座、街にいるひとたちの誰が感染者かはわからない。いまの日本では感染者は一万人に一人しかいないという計算になる。)それは、自分の身を感染から守ることでもあり、また無自覚なまま感染者になってしまい、未感染者に感染させることを防ぐためでもある。

しかし、接触をゼロにすることはできない。では、どれぐらい減らせばいいのだろうか。

https://jbpress.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/550/img_b06490ee9b44a1777e67bc64ae1f7fd743891.jpg
接触減の割合による感染者数の試算(2020年4月17日)[*16]

接触6割減で感染者数は横ばいになり、それよりすこしでも低いと指数関数的に増えてしまい、逆に7割以上ならじゅうぶん減少する。それ以上減らしても、あまり効果はない。

https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXMZO5810333015042020CR8001-PB1-1.jpg?auto=format%2Ccompress&ch=Width%2CDPR&fit=max&ixlib=java-1.2.0&s=9c3601dbbf6db100f65cdc861b5bcc7d
接触をまったく減らさなかった場合のシミュレーション。[*17]

もし接触をまったく減らさなければ、感染者は指数関数的に急増し、その後は低下する。医療崩壊が起こり、約3ヶ月で40万の死亡者を出すという試算である。日本での(感染症流行前の)一年あたりの死者数が137万人(3ヶ月当りでは34万人)だから、それに匹敵する数である。逆にいえば、感染を完全になくしても、日本では3ヶ月間に30万人の人が死亡するということでもある。なんの対策もしなければ合計で70万人の死者が出るかといえば、そうではない。病気は重複するし、老衰死は一定の割合で起こるからである。(ちなみに日本における出生数は1年あたり86万人であり、3ヶ月だと20万人になる。)

https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXMZO5796187011042020CZ8001-PN1-2.jpg?auto=format%2Ccompress&ch=Width%2CDPR&fit=max&ixlib=java-1.2.0&s=6d6f9134ce34cbc135b6f8b5b079210b
接触減の割合をより細かく仮定した場合のシミュレーション[*18]

接触を7〜8割減らせば、一ヶ月程度でじゅうぶんに収束させられるというのが、緊急事態を5月上旬までとする根拠である。都市部での人の動きが日々モニターされているが、現段階では東京で7割前後の減少となっており、地方都市では目標を達成していないところが多い[*19]。ただし、割合だけが問題ではない。10000人が3000人に減ることと、1000人が300人に減ることでは、意味が違う。

https://wedge.ismedia.jp/mwimgs/0/5/-/img_05674d1d7ebc8cc1cd2abc4d2e576124480497.png
台湾大学の徐丞志による試算。日本では4月16日〜26日に新規感染者数のピークが来ると予測している[*20]

また別の試算では、日本では4月16日〜26日に新規感染者数のピークが来ると予測しているが、じっさいの新規感染者数は、楽観的なシナリオよりも、さらに早く減少している。緊急事態宣言による自粛勧告が、適切に機能しているように思われる。また、それに先立って東京都が三月の時点で自粛勧告を出していたのも早い対応だったといえる。

社会現象の予測不可能性

もっとも、見通しが楽観的だからといって、人々が楽観的に行動しすぎると事態はまた悪化してしまう。社会的モデルの自己言及的な難しさである。一般に、悲観的なシナリオにしたがって努力すれば事態は早く改善するし、楽観的なシナリオにしたがって楽しめば、事態を悪化させてしまう。

多少のリスクがあっても楽観的に楽しもうと考えるのは個人の自由である。しかし、感染症の場合は、個人の意思決定が社会全体の状況を変えてしまう。緊急事態宣言とは、社会の秩序を保つために、一定の期間、個人の自由を制限するという発想である。

これは、負のフィードバックが起こる場合だが、正のフィードバックが起こることもある。

悲観的なシナリオにしたがって行動すれば事態は改善するかといえば、そうでもなく、逆に、悲観的な行動が悲観的なシナリオを「自己成就」させてしまうという逆の効果もある。

「あの銀行はつぶれるらしい」という噂が広がり、人々が慌てて預金を引き出すと、じっさいに銀行はつぶれてしまう。「医療崩壊が起こる」という不安が広がって、患者が「その前に診察してもらおう」と殺到したり、医者が他の病気を後回しにしてしまうと、実際に医療崩壊が起こってしまう。

発散/収束/振動

しかし、新規感染者数が0になったとしても、それは感染者数が増えなくなるということであり、感染者数が0になることを意味しない。感染者数が爆発的に増える(発散しかけてまた減少する)ことを防いだというだけで、接触を元通りに戻せば、感染者数はまた増加に転じてしまう。

ただし、新規感染者数を0に保てば、回復者と死亡者のぶんだけ、じょじょに感染者数は減っていく。高齢の感染者が死亡していくことは残念なことだが、しかし高齢者が死亡する原因はガンや心臓病など多数ある。老衰死、つまり病気や事故以外の死亡も、日本では一ヶ月あたり一万人である。

将来の数値がどうなるかについては、数学的には三つの可能性に分類される。

  1. 発散
  2. 収束
  3. 振動

「発散」というのは、感染者数が無限に増えるということだが、これはありえない。

次の可能性は「収束」である。数学的には「終息」という言葉はないが、強いて言えば「0へ収束する」と解せる。だから、感染者数が0に収束しなければ「終息」にはならない。じっさいには、患者数は当面、0にはならず、ほどほどの数に収束するか、あるいは季節性インフルエンザのように、一年サイクルで「振動」しつづけることになるだろう。振動が起こる理由のひとつは、インフルエンザウイルスが高温多湿に弱いからである。

ウイルスと宿主の共進化(蛇足)

RNAウイルスは短期間でさまざまな変異へと進化していくので予断を許さない。しかし、ウイルスからすれば、宿主に死ぬほどの打撃を与えるのは失敗である。逆に致命的なウイルスに感染した場合、宿主は子を産んで自らの老衰死を早めるという方略をとることがある。それに対して、ある種のウイルスは、宿主が老衰死するのを妨害し、むしろ長生きさせようとする。

宿主に寄生しつつ、宿主が、感染したと自覚するほどの症状をあらわさず、より元気で社交的になり、長生きする変異のほうが感染力が強く、集団に広がっていく。

これは、ウイルスの弱毒化と呼ばれる現象であり、SARSの病原体であるSARS-CoVよりもCOVID-19の病原体であるSARS-CoV-2のほうが重症化しにくいのは、そのためかもしれない。

日々、多数の無害なウイルス(と、少数の有益なウイルス)が感染を繰り返しているのだが、それは感染者にも気づかれず、気づかないから医学の対象にもならない。

これは、非常に長い目でみれば、生物の進化のプロセスだといえる。



(5月5日追記)
SEIRモデルシミュレータは、数値を変化させると時系列のグラフをつくってくれるインタラクティブなサイトである。

記述の自己評価 ★★★☆☆
(この記事は、数字の解釈など、考え方を示したものであって、個々のデータについての専門的な知識の裏付けがない。ネット上から拾い集めた図表を読み解くといいながら、まず引用が正確ではない。それらを確認するための一次資料となる研究に当たっていない。肯定的なことばかり書くと御用学者ではないかと疑われそうだが、幸か不幸か、開示すべき利益相反はない。本音をいえば、多少の助成金でも頂いて研究助手を募集したいぐらいである。)
CE2020/04/22 JST 作成
CE2020/07/08 JST 最終更新
蛭川立

*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。

*2:Trevor Bedford (2020). 「Cryptic transmission of novel coronavirus revealed by genomic epidemiology」『bedford lab』(2020/05/23 JST 最終閲覧)

*3:Yasuhiko Kamikubo & Atsushi Takahashi (2020). Paradoxical dynamics of SARS-CoV-2 by herd immunity and antibody-dependent enhancement. この論文については田口淳一 (2020).「コロナウイルス対策について vol.6 東京ミッドタウンクリニック 院長 田口淳一医師より皆様へ」『東京ミッドタウンクリニック』(2020/05/23 JST 最終閲覧)に日本語の解説がある。

*4:個人のブログにDORA (2020).「陽性率と偽陽性率が同じレベルとは。」『DORAのブログ』(2020/05/23 JST 最終閲覧)という批判がある。

*5:国立感染症研究所 (2020).「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例【更新】」(2020/05/15 JST 最終閲覧)

*6:新型コロナウイルス感染症まとめ 国内外の発生の状況」『Yahoo! JAPAN』(2020/05/09 JST 最終閲覧)(孫引き)

*7:タッチ_ (2020).「武漢ウイルス・緊急事態宣言後の状況(27日目)」『人馬一体!はそれとして…w』(2020/05/09 JST 最終閲覧)

*8:タッチ_ (2020).「武漢ウイルス・緊急事態宣言後の状況(27日目)」『人馬一体!はそれとして…w』(2020/05/09 JST 最終閲覧)

*9:新型コロナウイルス感染症まとめ 国内外の発生の状況」『Yahoo! JAPAN』(2020/05/09 JST 最終閲覧)(孫引き)

*10:東京都の1日あたりの新型コロナウイルス検査人数と感染者数の推移のグラフ」『Graph Stock』(2020/04/28 JST 最終閲覧)(孫引き)

*11:YAMA (2020).「東京都の感染者数の7日移動平均をプロット – コロナウィルスとの闘い」『YAMA'S MEMORANDUM』(2020/05/09 JST 最終閲覧)

*12:Financial Times.FT Visual & Data Journalism team (2020). Coronavirus tracked: the latest figures as the pandemic spreads | Free to read Financial Times.(2020/03/31 JST 最終閲覧)

*13:忽那賢志 (2020).「小児と新型コロナ 重症化しないから安心ってホント?」『Yahoo! JAPANニュース』(2020/05/06 JST 最終閲覧)

*14:梶原健司 (2019). 「10年後に何%の確率で生きているか。」(2020/05/06 JST 最終閲覧)

*15:関沢洋一「感染症についてSIRモデルから学んだこと」には、Excelを使った簡単な計算方法が載っている。

*16:中村潤児 (2020). 「接触頻度によって著しく変化する感染者数の挙動」『新型コロナウイルス感染者数推移の予測』(2020/04/17 JST 最終閲覧)

*17:[無署名記事](2020).「『接触8割減の徹底を』北大教授、最大40万人超死亡」『日本経済新聞』(2020/04/22 JST 最終閲覧)

*18:前村聡 (2020).「『接触7割減』では収束まで長期化 北大教授が警鐘」『日本経済新聞』(2020/04/23 JST 最終閲覧)

*19:新型コロナウイルス感染症対策~人流の減少率~」『内閣官房』(2020/04/23 JST 最終閲覧)

*20:野嶋剛 (2020). 「台湾の研究者が日本の新型コロナ感染拡大を試算、5万人感染で『第二の湖北省になる』と警告」『WEDGE Infinity』(2020/04/23 JST 最終閲覧)