日本列島で話されている(いた)言語・方言[*1 ] は、おおよそ以下のように分類される。
日琉語族の系統関係[*2 ]
日本語の「方言」の分布[*3 ]
日琉語族
✝ 大陸倭語(?)
日本語派
八丈語
[本土]日本語
西日本方言(→京都方言、大阪方言)
東日本方言
九州方言
琉球語派
奄美語
沖縄語(広義)
宮古語
八重山語
与那国語
アイヌ語[族]
琉球の諸言語は日本本土の方言の違いよりも大きいが、歴史的な音韻の変化を反映している[*4 ] 。
「人」
日本語派
変化
pito
日琉祖語(推定)
hito
日本語
軟音化
「人」
琉球語派
変化
pitu
琉球祖語(推定) 八重山語
三母音化
hitu
宮古語
軟音化
hichu
硬口蓋化
cchu
沖縄語
1音節目の消失
たとえば「沖縄の人」は日本語で言えば「okinawa-no-hito」になるが、沖縄語では「ukinawa-nu-hichu」を経て、「uchinaa-n-chu」となる。(複数形の「人々」は「hito-bito」になる。単数形の繰り返しが複数形を作るのは、オーストロネシア語族にみられる特徴だが、マレー語では単数形が「oran」で、複数形も「oran-oran」である。)
VIDEO
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日琉語族の起源と分岐にかんする二つの仮説の年代的対比[*5 ]
日琉語族は大陸の弥生系民族に由来すると考えられているが、諸説がある。稲作の起源地である長江文明に由来するという仮説もあるが、いずれにしても紀元前1000年ごろ(中国の殷(商)〜周代)に山東半島から朝鮮半島に伝わり、そこでアルタイ系・朝鮮系の言語と接触し、弥生時代(朝鮮の原三国〜三国時代)に日本列島に伝わったとされる。
日本(本土)
日本語は、から北九州に伝わった弥生語が、アイヌ語に近い縄文語に覆い被さるように広がったと考えられている。
アクセント
日本語の方言を、語彙よりもアクセントの違いによって分類すると、大きく京阪式と東京式、および九州南部〜琉球・南東北のN型(無型・一型・二型)などの形式に分けられる。同じ「人」でも、京阪式では「híto」(HL)、東京式では「hitó」(LH)と逆のアクセントになっている。また、京阪式には、「木(kí)」のような上昇型、「アホ(ahò)」のような下降型の声調に似たアクセントがあり、これはシナ・チベット語に近い特徴だとも言える。
声調を持つ京阪式が弥生系言語で中国語に近く、無アクセントか尾高型が縄文系言語で韓国語に近いという考え方もある。
日本語のアクセント[*6 ]
言語と遺伝子の間には、ある程度の相関関係があるが、語彙よりもアクセントなどの音声との相関が強い。これは、脳の言語野(ブローカ野・ウェルニッケ野)における言語処理の領野の違いが反映されていると考えられる。
日本文化には縄文=周縁/弥生=中心、という二重構造があるとされるが、アクセントにも東京式=周縁/京阪式=中心という二重構造がある。
縄文系と弥生系の遺伝子頻度の分布[*7 ]
東京型を基準とした標準語のアクセントについてはNHKの放送用の辞典がある。
京阪式を代表する京都方言について、もっとも網羅的なものに『京都府方言辞典』がある。
大阪方言については『大阪ことば事典』が詳しい。
船場言葉を中心に、近世以降の大阪方言を網羅している。京阪式のアクセント記号がついているが、日本語の方言辞典である以上、アクセント表記は必須であるが、方言の辞書の多くにはアクセント表記がないのは問題である。
また言語は地域よりも階層によって異なるところがあり、『関西弁辞典』 では、京阪神の方言を地域別ではなく職能集団別に分類し、ポピュラーになっている上方話芸の言葉以外に、京都の御所ことば、職人ことば、花街ことば、大阪の船場ことば、神戸のヅカ(宝塚)ことばを列挙した上で、御所ことばと船場ことばの類似性を論じている。職業や階層による言語の分化は、琉球における那覇くとぅばと首里くとぅばにおいてもみられる。
敬語
日本語は敬語が発達しているが、敬語についてのハンドブックは多数出版されている。
たとえば『敬語マニュアル』は、尊敬語や謙譲語以外にも、ジェンダーや時代、フォーマルさの度合いなど、実用的な記号が付記されており、使いやすい。
古語
日本語で「古語」や「古文」という場合、上代日本語から近世日本語までの時代の日本語を指している。古語辞典は中高生の学習用に多数出版されており、それぞれ色刷りの図版なども楽しめる。
WEBサイト上にも電子辞書がある。
kobun.weblio.jp
Weblio古語辞典(WEB辞典)
上代日本語では万葉仮名などの漢字の分析から、母音が8個、ア(a)・イ甲(i)・イ乙( ï)・ウ(u)・エ甲(e)・エ乙(ë)・オ甲(o)・オ乙(ö)に区別されていたので、この発音記号が書かれている辞書が正確である。
文字だけの記録からは発音はわからないが、おおよそ、ア(a)・イ(i)・ヰ(wi)・ウ(u)・ヱ(je)・エ(e)・ヲ(wo)・オ(o)のようなものだったと推定されている。
日琉祖語が6母音だったという説にもとづいて、おおよそ、ア(a)・イ甲(i)・イ乙(ui)・ウ(u)・エ甲(e)・エ乙(ai)・オ甲(o)・オ乙(ə)だったという仮説もある。これによると、上代には「上(カミ甲)」は「kami」、「神(カミ乙)」は「kamui」のように発音されていたと考えられる。アイヌ語で「神」に相当するのは「kamui」だが、これは日琉祖語以前に日本列島で使われていた「縄文語」に由来するのかもしれない。(日本語からの借用という可能性もある。)
音声
実際の口語的な発音は動画・音声のサイトに各種、アップされている。
VIDEO
www.youtube.com
すでに使われなくなった日本の古語についても発音を再現している動画もある。再現された弥生語や上代日本語は、琉球語、とくに先島の言葉に似た発音だということが感じられる。
琉球・沖縄
琉球の諸言語は多様であるが、狭義の沖縄語は、沖縄本島の中南部の方言であり 、国立国語研究所の『沖縄語辞典』は首里方言を基準として、オンラインでデータベース化された。
mmsrv.ninjal.ac.jp
よりコンパクトな『沖縄語辞典』は、那覇方言を基準としている。
沖縄本島南部方言以外にも、たとえば宮城信勇 が八重山の石垣方言をまとめた『石垣方言辞典』などが出版されている。
これら、琉球語派の諸言語、奄美から八重山までの各地域の方言を網羅した、オンライン版『大琉球語辞典』が2025年に琉球大学のサイトで公開された。
ryukyu-lang.lab.u-ryukyu.ac.jp
古語については『沖縄古語大辞典』がある。
日本標準語との混合言語であるウチナーヤマトゥグチ (沖縄大和口)については、地域や時代によっても変異があるため、体系的な辞書というほどにはまとめられていない。
沖縄の人が本土の人に対して「標準語」だと思って話している言葉が「ウチナーヤマトゥグチ 」で、それを聞いている本土の人は「沖縄方言」だと思って聞いているという誤解があることが多い。「沖縄方言」「ウチナーグチ」と題した語彙集の中にも、じっさいにはウチナーヤマトゥグチをまとめたものも多い。話し手と聞き手が相互に歩み寄ろうとして誤解しているので、話されている言葉が「ウチナーヤマトゥグチ」だと意識されにくいという事情もある。
アイヌ語
アイヌ語は古アジア系という仮説もあるが系統不詳の孤立言語で、日琉語族とは別系統である。二重構造説によれば、アイヌ語は縄文語の、日琉語は弥生語の系統ということになる。
アイヌ語の諸方言のうち、北海道アイヌ語については、日本語との対訳辞書がある。沙流川流域の平取町二風谷がアイヌ文化研究の拠点であったこともあり、一般向けにはとくに沙流方言の辞書が複数、出版されている。
この二冊の辞書のデータは合併されて電子化され、国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブから検索することができる。
ainugo.nam.go.jp
CE2023/02/25 JST 作成
CE2026/02/20 JST 最終更新
蛭川立