蛭川研究室

蛭川立の研究と明治大学での講義・ゼミの関連情報

フェネチルアミン(PEA)

この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]

フェネチルアミン (phenethylamine) は、フェニルエチルアミン (phenylethylamine)ともいう。略してPEA。

「恋愛ホルモン」

PEAは脳内で生合成され、ドーパミンノルアドレナリンのようなカテコールアミン神経伝達物質と同様に機能するらしい。

happymail.co.jp

通俗的には「恋愛ホルモン」とも呼ばれ、恋する女は美しくなる等々、随所に魅惑的な言説が流布している。そしてまた、恋は冷めやすく、長続きするのは愛である、といった人生の知恵も語られている。

news.yahoo.co.jp

カカオにはPEAが含まれており、バレンタインデーにチョコレートを贈るのは、恋の魔法である、などとも語られる。

カカオは中米の先住民が儀礼的に使用してきた飲料であり、内因性カンナビノイドであるアーナンダミドも含まれている。伝統的にはカカオには砂糖を入れることはなかったが、商品化されたチョコレートの最大の魔力は砂糖かもしれない[*2]

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Fenyloetyloamina.svg/2880px-Fenyloetyloamina.svg.png フェネチルアミン[*3]

フェネチルアミン誘導体には、メタンフェタミンのような刺激薬も含まれるが、不思議なことに、トリプタミン誘導体のサイケデリックスに似た作用を持つ、MDMAやMDPEAなどのエンタクトゲン(共感薬)(ブログ内記事「エンタクトゲン」を参照のこと)も含まれる。

フェネチルアミン誘導体の精神作用の自己実験を続けたシュルギンは、PEAは経口摂取しても「効果は感じられない」と述べている[*4]。消化管内ですみやかに分解されるからである。しかし、PsychonautWikiには、PEAは「MAOIと組み合わせて摂取することで、MDMAと同様、強いエンタクトゲンとしての効果を引き起こしうる」と書かれている[*5]

「BrainON」

ラン藻の一種であるAphanizomenon flos-aquaeから抽出したPEAの粉末がサプリとして流通している。

E3Live社製「BrainON」

「BrainON」は、PEAと、シアノバクテリア(ラン藻)光合成色素であるフィコシアニンの粉末であり、深い紫紺色がある。

スティックに小分けされたBrainONの粉末。AMALA・河合真由美(公式サイト)さんからお譲りいただいたもの[*6]

日本語のシールの下に、英文で成分が表記されている。

英語をカタカナ読みした「ブルーグリーンアルジー」というのは、ようするに「ラン藻」のことである。真核生物の藻類と区別し、原核生物であることを強調するために、シアノバクテリアと呼ぶことも多い。

水を注いでかき回すと、泡の立ち具合がアオコか水の華かという風情になる。

スティック一本分を一服すると、体内から温泉が湧き出てくるような、心地よい熱感を感じ、それが何時間も続く[*7]。精神刺激薬のようでもあるが、柔らかな陶酔感もあり、サイケデリックスのような内省的なところもあり、そして何時間も突き上げられるような感覚は、MAOIを含むアヤワスカにさえ似ている。

抗うつ作用

PEA自体は経口摂取してもMAOですみやかに分解されてしまうので、PEAのサプリメントを飲んでも、じっさいにはあまり効果がないはずである。しかし、PEAはセレギリンなどのMAO-B阻害薬(ドーパミンやチラミンなどの分解を阻害するが、ノルアドレナリンセロトニンなどの分解は阻害しない)と組み合わせると、分解が抑えられ、MAO-B阻害薬の抗うつ作用を増強するという[*8]

このBrainONを服用すると、なぜ数時間も効果が継続するのだろうか。PEAとともに濃縮されているフィコシアニンがMAO-B阻害薬としての作用も持つという、驚くべき仮説がある[*9][*10]。もしそうなら、BrainONは、同じ植物の成分の組合せによるフェネチルアミン・アヤワスカだということになる(ブログ内記事「アヤワスカ茶の生化学」を参照のこと)。

アノトキシン(藍藻毒)

ラン藻はシアノトキシン(藍藻毒)と総称される毒素を生産する。とくに富栄養湖で大量発生するアオコが水生動物に致命的な害を与えることはよく知られた問題である。

世界中の淡水域・汽水域に生息するAphanizomenon flos-aquaeもまたアオコを形成するラン藻であり、神経毒や肝毒性物質を生産する。

サプリメントとしては、オレゴン州アッパー・クラマス湖を産地とするものが世界的に多く流通している。

アッパー・クラマス湖

この湖で収穫されるAphanizomenon flos-aquaeミクロシスチンなどのシアノトキシンを生産しており、サプリメントにも混入している可能性については、公的な注意喚起がなされている[*11][*12]

アッパー・クラマス湖に生育するAphanizomenon flos-aquaeはシアノトキシンを生産しない系統であるとか、サプリメントに混入しているのは他種に由来する毒素だという議論がある。いっぽう、毒素を摂取するリスクをおかしてでも健康食品として高額で購入し摂取する意味があるのか、サプリメント会社の過剰宣伝ではないか、等々の議論が続き、Wikipedia上でも編集論争が起こっている[*13]

追記

サプリメントにおける論争には、しばしば自然なもの、天然なものは健康によい、という象徴論が混入し、やがて疑似科学論争に発展していく。科学的なエビデンス自然主義的な象徴論の不毛な論争は避けなければならない(ブログ内記事「〈ナチュラル〉と〈ケミカル〉の象徴論」を参照のこと)。

PEAには共感作用があるかもしれないし、抗うつ作用があるかもしれない。類似する作用を持つ物質としては、たとえばMDMAがある。「合成麻薬」などといって、ただ規制するのではなく、きちんと研究して有効活用できるようにしたいものである。


記述の自己評価 ★★★☆☆ (つねに加筆修正中であり未完成の記事です。しかし、記事の後に追記したり、一部を切り取って別の記事にしたり、その結果内容が重複したり、遺伝情報のように動的に変動しつづけるのがハイパーテキストの特徴であり特長だとも考えています。)


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CE2022/05/02 JST 作成
CE2022/05/08 JST 最終更新
蛭川立

サイケデリックスの簡易試験

日本では違法薬物=覚醒剤大麻という公式が広く流布しており、サイケデリックスが問題になること自体が少ないので、鑑定方法についてもあまり知られていない。

薬物事件弁護の解説書にある簡易検査表[*1]

MDMAはアンフェタミンと似た構造を持つ物質だが、法律上は「覚醒剤」ではなく「麻薬」である。MDMAは、Marquis試薬を使うとメタンフェタミンと区別することができる。

なお、Duquesnoy試薬で簡易検査を行ってTHCが検出されても、それが「大麻」であることの証拠にはならない。合成されたTHCは「麻薬」であるが、植物由来のTHCとは区別できないからである。大麻であることを確認するには薄層クロマトグラフィーで複数のカンナビノイドを検出するのが良い方法なのだが、ここではカンナビノイドについては詳述しない。

インドール系とフェネチルアミン系

市販のキットでもサイケデリックスなどの物質の簡易検査はできる。一回の検査にかかるコストは百円ぐらいしかかからない。

testkitplus.com www.protestkit.eu

たとえば、上記のような通販サイトから試薬を取りよせることができる。

https://dancesafe.org/wp-content/uploads/2014/02/2022-color-chart.png 各種試薬の呈色表[*2]

サイケデリックスの検出でいちばんよく使われるEhrlich試薬は、インドール環を持つ物質(紫色)を迅速に検出する。

さらに、Hofmann試薬は、一時間ぐらいかかるが、LSD・シロシビン(紺色)、DMT(黄色)、5-MeO-DMT(緑色)を識別する。LSDとシロシビンの識別はできない。

また、Marques試薬とMecke試薬を使うと、メタンフェタミン、メスカリン、MDMA、NBOMeなど、フェネチルアミン誘導体が検出できる。

Simon's試薬は、アンフェタミン類とMDMAをいずれも青色として特異的に識別するため、覚醒剤の検査に使われるが、アンフェタミン類とMDMAを区別できない。

Froehde試薬は、あまり使われない試薬だが、メスカリンを絞り込んで鑑別するのに役立つ。Morris試薬も、ケタミンを絞り込んで識別するのに使用される。

https://bunkpolice.com/wp-content/uploads/2019/12/LSD_flow_chart_white_small-1024x931-800x727-1.png LSDの鑑別法。Ehrlich・Hofmannの両方の試薬に反応すればインドール系のサイケデリックスであり、フェネチルアミン誘導体は反応しない[*3]
 
その次に、Marques・Mecke試薬を使ってフェネチルアミン誘導体を識別する。 https://bunkpolice.com/wp-content/uploads/2019/12/mescaline_flow_chart_white_small-1024x931-800x727-1.png メスカリンの鑑別法[*4] https://bunkpolice.com/wp-content/uploads/2019/12/MDMA_flow_chart_white_small-1024x1024-800x800-1.png MDMAの鑑別法[*5]

「N-爆弾」

古典的サイケデリックスは一時的な精神不安を引き起こすことはあっても、身体的に有害なものではない。しかし、LSDの偽物として流通しているNBOMe系の物質と、「エクスタシー」の錠剤に混入している物質は問題である。(それは、LSDやMDMA自体の取り締まりが厳しすぎるがゆえに起こる逆説なのだが。)

LSD系の物質は無味無臭であり、非常に微量の溶液を紙に染みこませた形で流通しているので、その紙にどういう物質が含まれているのかは、鑑定しないかぎりはわからない。

口に入れたときに苦味を感じる場合、25I-NBOMeなどのNBOMe系の、MDMAやメスカリンに似たフェネチルアミン誘導体が混入している(あるいは意図的に染みこませている)可能性があるので「bitter, spitter(苦い?吐け!)」と言われてきた。(NBOMeは消化酵素で分解されてしまうので、口の中に留めずに飲んでしまっても効かなくなる。)

psychonautwiki.org

「N-Bomb(N爆弾)」などと呼ばれる新規物質は2010年代から流通しており[*6]、MDMAと同様、共感薬(エンタクトゲン)としての作用があるのと同時に、体温や心拍数の増加、発汗、筋肉のこわばりと歯ぎしりなどの副作用があり、過量服薬では致命的になるリスクがある[*7]

25I-NBOMeは日本では薬機法の指定薬物から、麻向法で規制される規制薬物に格上げされている[*8]

https://cdn.protestkit.eu/wp-content/uploads/2020/12/lsd_chart.webp LSDアナログとNBOMe系物質の識別[*9]

LSDMarquisなどフェネチルアミン誘導体を検出する試薬には反応しないとされるが、ブロッターは黄色〜黒を呈色することもある。これは微量のLSD自体よりも、ブロッターの紙自体やインクが反応していると推測されている[*10]

https://www.erowid.org/columns/crew/wp-content/uploads/2015/06/3542_master_lsd_blotter_detail1_big2.jpg LSD-25が染みこませてあるブロッターをMarquis試薬、Mecke試薬、Mendelin試薬に入れた場合の色彩の一例[*11]

LSDアナログ

かつて1V-LSDが合法だったころに行われた簡易検査の結果が検査キット会社のブログにアップされている。

https://cdn.protestkit.eu/wp-content/uploads/2021/07/1v-lsd-60-minutes.jpg 試薬メーカーのサイトに投稿されていた1V-LSDの簡易検査結果[*12]

Marques試薬に入れたブロットからは、赤黒い色彩が染み出ているが、この色彩の解釈は難しい。LSDMarquis試薬に対しては発色に一貫性がないからである。

2023年3月に1V-LSDが規制された後、日本では「1D-LSD」と印刷されたブロッターが流通するようになったが、口に入れると苦味があるという。それが1D-LSD自体の性質なのか、まだ新しい物質であり、その実態はよくわからない。ブロッターに絵が描いてある場合、そのインクの種類によっても特殊な味がする可能性がある。

日本で流通している2種類の「1D-LSD」の簡易検査。

上から順に、コントロール(試薬だけ垂らして試料は入れない)、「1D-LSD」の文字だけが書かれたブロッター、「1D-LSD」の文字と構造式が書かれた黄白色のブロッター。

試薬は左から順に、Ehrlich試薬、Hofmann試薬、Marquis試薬、Mecke試薬。

筆者蛭川による簡易試験(2023年6月1日)

2種類のサンプルでも発色が異なる。

Ehrlich試薬では、すぐに青紫色の反応がみられる。Hofmann試薬では、黄色、緑色、紺色と、じょじょに色が変わっていく。いずれもインドールアルカロイドであることを示している。

ただし、ブロッターに苦味があり、Marquis試薬やMecke試薬を滴下して茶色くなるということは、MBOMe系の物質が含まれている可能性もある。しかし、LSD系の物質もMarquis試薬やMecke試薬では不規則に発色する。

LSDアナログを溶液にするときに使用した溶剤がブロッターに残存しているのかもしれない。

いずれにしても簡易検査では、このブロッターに染みこませてある物質を正確に特定できない。

ほんらいならば製造元が成分の証明を行い、輸入業者がそれを確認し、公共機関がそれを保障する必要がある。健康被害が起こったり、実態がよくわからないうちに指定薬物として規制されてしまうのを避けるためにも、自主的な検査を行うことは有効なハーム・リダクションになる。


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【資料】Albert Hofmann『LSD: Mein Sorgenkind』

アルベルト・ホフマンの『LSD』の前書きの部分がKindleで試し読みできたので、その部分をテキスト化した。


VORWORT

Es gibt Erlebnisse, über die zu sprechen die meisten Menschen sich scheuen, weil sie nicht in die Alltagswirklichkeit passen und sich einer verstandesmäßigen Erklärung entziehen.

Damit sind nicht besondere Ereignisse in der Außenwelt gemeint, sondern Vorgänge in unserem Inneren, die meistens als bloße Einbildung abgewertet und aus der Erinnerung verdrängt werden. Das vertraute Bild der Umgebung erfährt plötzlich eine merkwürdige, beglückende oder erschreckende Verwandlung, erscheint in einem anderen Licht, bekommt eine besondere Bedeutung. Ein solches Erlebnis kann uns nur wie ein Hauch berühren oder aber sich tief einprägen.

Aus meiner Knabenzeit ist mir eine derartige Verzauberung ganz besonders lebendig in der Er- innerung geblieben. Es war an einem Maimorgen. Das Jahr weiß ich nicht mehr, aber ich kann noch auf den Schritt genau angeben, an welcher Stelle des Waldweges auf dem Martinsberg oberhalb von Baden (Schweiz) sie eintrat.

Während ich durch den frisch ergrünten, von der Morgensonne durch- strahlten, von Vogelgesang erfüllten Wald dahin- schlenderte, erschien auf einmal alles in einem ungewöhnlich klaren Licht.

Hatteich vorher nie recht geschaut, und sah ich jetzt plötzlich den Frühlingswald, wie er wirklich war? Er erstrahlte im Glanz einer eigenartig zu Herzen gehenden, sprechenden Schönheit, als obermich einbeziehen wollte in seine Herrlichkeit. Ein unbeschreibliches Glücksgefühl der Zugehörigkeit und seligen Gebor- genheit durchströmte mich.

Wie lange ich gebannt stehenblieb, weiß ich nicht, aber ich erinnere mich der Gedanken, die mich beschäftigten, als der verklärte Zustand langsam dahinschwand und ich weiterwanderte.

Warum dauerte die beseligende Schau nicht weiter an, da sie doch eine durch unmittelbares, tiefes Erleben überzeugende Wirklichkeit offenbart hatte?

Und wie konnte ich, wozu mich meine überquellende Freude drängte, jemandem von meinem Erlebnis berichten, da ich doch sogleich spürte, daß ich keine Worte für das Geschaute fand? Es schien mir seltsam, daß ich als Kind etwas so Wunderbares gesehen hatte, das die Erwachsenen offensichtlich nicht bemerkten, denn ich hatte sie nie davon reden hören.

In meiner späteren Knabenzeit hatte ich auf meinen Streifzügen durch Wald und Wiesen noch einige solche beglückende Erlebnisse. Sie waren es, die mein Weltbild in seinen Grundzügen bestimmten, indem sie mir die Gewißheit vom Dasein einer dem Alltagsblick verborgenen, unergründlichen, lebensvollen Wirklichkeit gaben.

Oft beschäftigte mich damals die Frage, ob ich vielleicht später als Erwachsener fähig sein würde, anderen diese Erfahrungen mitzuteilen, ob ich als Dichter oder Maler das Geschaute darzustellen vermöchte. Aber ich fühlte mich weder zu dem einen noch zu dem anderen berufen, und so würde ich wohl diese Erlebnisse, die mir so viel bedeuteten, für mich behalten müssen.

Auf unerwartete Weise, aber kaum zufällig, ergab sich erst in der Mitte meines Lebens ein Zusammenhang zwischen meiner beruflichen Tätigkeit und der visionären Schau meiner Knabenzeit.

Ich bin Chemiker geworden, weil ich Einblick in den Bau und das Wesen der Materie gewinnen wollte. Mit der Pflanzenwelt seit früher Kindheiteng verbunden, wählte ich als Arbeitsgebiet die Erforschung der Inhaltsstoffe von Arzneipflanzen, wozu sich in den pharmazeutisch-chemischen La-boratorien der Sandoz AG in Basel Gelegenheit bot.

Dabei stieß ich auf psychoaktive, Halluzinationen erzeugende Substanzen, die unter bestimmten Bedingungen den geschilderten spontanen Erlebnissen ähnliche visionäre Zustände hervorzurufen vermögen.

Die wichtigste dieser halluzinogenen Substanzen ist unter der Bezeichnung LSD bekannt geworden. Halluzinogene fanden als wissenschaftlich interessante Wirkstoffe Eingang in die medizinische Forschung, in die Biologie und Psychiatrie und erlangten später auch in der Dro- genszene weite Verbreitung, vor allem LSD.

Beim Studium der mit diesen Arbeiten in Zu-sammenhang stehenden Literatur lernte ich die große, allgemeine Bedeutung der visionären Schau kennen. Sie nimmt einen wichtigen Platz ein, nicht nur in der Geschichte der Religionen und in der Mystik, sondern auch im schöpferischen Prozeß, in Kunst, Literatur und Wissenschaft.

Neuere Untersuchungen haben ergeben, daß viele Menschen auch im täglichen Leben visionäre Erlebnisse haben, aber ihren Sinn und Wert meistens nicht erkennen. Mystische Erfahrungen, wie ich sie in meiner Kindheit hatte, scheinen gar nicht so selten zu sein.

Visionäres Erkennen einer tieferen, umfas- senderen Wirklichkeit als der, welche unserem rationalen Alltagsbewußtsein entspricht, wird heute auf verschiedenen Wegen angestrebt, und zwar nicht nur von Anhängern östlicher religiöser Strömungen, sondern auch von Vertretern der Schulpsychiatrie, die ein solches Ganzheitserlebnis als heilendes Grundelement in ihre Therapie einbauen.

Ich teile den Glauben vieler Zeitgenossen, daß die geistige Krise in allen Lebensbereichen unserer westlichen Industriegesellschaft nur überwun- den werden kann, wenn wir das materialistische Weltbild, in dem Mensch und Umwelt getrennt sind, durch das Bewußtsein einer alles bergenden Wirklichkeit ersetzen, die auch das sie erfahrende Ich einschließt und in der sich der Mensch eins weiß mit der lebendigen Natur und der ganzen Schöpfung.

Alle Mittel und Wege, die zu einer solchen grund- legenden Veränderung des Wirklichkeitserlebens beitragen können, verdienen daher ernsthafte Beachtung.

Dazu gehören in erster Linie die ver- schiedenen Methoden der Meditation in religiösem oder weltlichem Rahmen, deren Ziel es ist, ein mystisches Ganzheitserlebnis herbeizuführen und dadurch ein solches vertieftes Wirklichkeitsbewußtsein zu erzeugen.

Ein anderer wichtiger, aber noch umstrittener Weg zum gleichen Ziel ist die Nutzbarmachung der bewußtseinsverändernden halluzinogenen Psychopharmaka.

So kann LSD in der Psychoanalyse und Psychotherapie als Hilfs- mittel dienen, um dem Patienten seine Probleme in ihrer wirklichen Bedeutung bewußtzumachen.

Die geplante Hervorrufung mystischer Ganzheitserlebnisse, besonders durch LSD und verwandte Halluzinogene, ist im Unterschied zu spontanem visionären Erleben mit nicht zu un- terschätzenden Gefahren verbunden: eben dann, wenn dem spezifischen Wirkungscharakter die- ser Substanzen, ihrem Vermögen, den innersten Wesenskern des Menschen, das Bewußtsein, zu beeinflussen, nicht Rechnung getragen wird.

Die bisherige Geschichte von LSD zeigt zur Genüge, was für katastrophale Folgen es haben kann, wenn seine Tiefenwirkung verkannt wird und wenn man diesen Wirkstoff mit einem Genußmittel verwechselt. Besondere innere und äußere Vorbereitungen sind notwendig, damit ein LSD-Versuch ein sinnvolles Erlebnis werden kann.

Falsche und miẞbräuchliche Anwendung haben LSD für mich zu einem rechten Sorgenkind werden lassen.

In diesem Buch möchte ich ein umfassendes Bild von LSD, von seiner Entstehung, seinen Wirkungen und Anwendungsmöglichkeiten geben und vor den Gefahren warnen, die mit einem Gebrauch verbunden sind, der dem außergewöhnlichen Wirkungscharakter dieser Substanz nicht Rechnung trägt.

Wenn man lernen würde, die Fähigkeit von LSD, unter geeigneten Bedingungen visionäres Erleben hervorzurufen, in der medizinischen Praxis und in Verbindung mit Meditation besser zu nutzen, dann könnte dieses neuartige Psychopharmakon, glaube ich, von einem Sorgenkind zum Wunderkind werden.


〈ナチュラル〉と〈ケミカル〉の象徴論

大麻の「神話」

日本ではアサは大麻取締法で規制されており、代表的な精神活性物質であるTHCは麻薬および向精神薬取締法で規制されている。しかし、THCアセテート化してすこし分子構造を変えたTHCOという物質は、THCと似た精神作用を持っているのに麻向法では規制されていない。しかし、2023年の3月には、薬機法による指定薬物に指定された。

THCOは加熱するとケテンが発生し、ケテンを吸引すると肺を傷めるという。THCOが規制されたのは、こういう生理的な危険性があるからなのか、THCと同様の精神作用があるからなのか、理由は定かではない。

アサという植物は天然のハーブだから安全で、THCOのような合成された化学物質は副作用がある、危険だという「神話」がある。

しかし、人類学は、このような「神話」を、たんに「誤った信念」とは見なさない。「神話」とは、真偽とは別の次元で語られる観念の体系のことである。

たとえば日本における「アサ」は「麻」のことだが、カラムシ「苧麻」や「亜麻」と区別するときには、「大」をつけて「大麻」と呼ぶ。大麻は神話性の強い植物である。縄文時代から近代の神道にいたるまで聖別されてきた伝統がある。

アメリカ占領下において日本で大麻取締法が制定されたのは、伝統的な麻産業を衰退させ、石油から作られる化学繊維を売り込むためだった、という説もある。原発事故で汚染された土地に麻を植えると放射性物質を吸収してくれるという説もある。これらの説が正しいかどうかは、検証すればよい。検証しない仮説を正しいと主張したり、検証した結果、誤りであったとしても、それを認めないのであれば、これらの主張は疑似科学となる。

注連縄はもともとアサで作られるものである。アサの繊維が丈夫だから、というのは「科学的」な根拠だが、それだけでは充分な説明にはならない。他にも丈夫な植物はある。アサだけを聖別するのは「象徴的」あるいは「神話的」な分類であり、文化的な背景によって意味づけられる。

神社の注連縄は、伝統的には大麻で作られていた。たんに丈夫であればいいというのなら、化学繊維で注連縄を作ってもいい。しかし、あえて大麻を使う必要があるのは、日本の風土の中で麻を育て、伝統的な方法で縄を作り、神社という場所に奉納するという文化的なプロセスがあるからである。植物を聖別する文化は、自然科学には還元できない構造としての意味を持つ。

〈自然〉と〈文化〉

ナチュラル〉と〈ケミカル〉という二元論は、構造人類学が神話的象徴論において見出した〈自然〉と〈文化〉の基本構造のバリアントである。ただし、〈自然〉を〈文化〉よりも優位とする逆転は、文化が発展し自然が衰退してきた、近代都市社会に特有の分類体系である。

たとえば日本では、文化が優位とする観念が、自然が優位とする観念に入れ替わったのは、高度経済成長期である。このことは「文明社会の神話的思考」で詳述した。

「医療化」という言説

植物がすべて有益なわけではない。毒を含む植物も多いし、薬草にも有害な副作用はある。

大麻の精神作用にも有益なところと有害なところがあり、セッティングによっても変動する。大麻には鎮痛作用や催眠作用もあるが、従来の薬よりも非常に優れているわけではない。大麻が万病に効くといった言説があるなら、それは神話的な語りであって、医学の語りとは区別されるべきである。

大麻は癌に効くかという議論があるが、じゅうぶんな証拠は得られていない。なるほど癌にともなう痛みや、抗がん剤の副作用である食欲不振の改善には役立つだろう。

しかし、もし大麻が癌に効かなかったからといっても、大麻には価値がないのだろうか。病気を治すものが良いもので、病気を治さないものは無益だという「医療化」の語りもまた相対化されなければならない。

〈ケミカル〉の危険性

THCOを加熱して吸引すると有害な成分を吸い込んでしまうというが、大麻を加熱して煙を吸っても、また別の有害な煙を吸い込むことになる。経口摂取では問題はないから、これは物質じたいの性質というよりは摂取方法の違いによって生じる有害性である。タバコの喫煙は有害だというが、ニコチンを口の粘膜から吸収させる方法もある。

しかし、THCOのように新たに合成された物質や、あるいは古くから存在していても使用している人の人数が少なかったり、動物実験が不十分だったりする物質の副作用については不明なところが多い。これに対して、アサのように、世界中の広い地域で何千年も薬草として使用されてきた植物は、その点では安全性が担保されているといえる。ただし、植物の場合には品種や部位によって含有する物質の種類や濃度にはばらつきがある。

伝統的なアヤワスカ茶にはDMT含有植物としてチャクルーナが使用されてきたが、アカシア、ヤマハギ、クサヨシなど、別のDMT含有植物を使ってアヤワスカと同様の作用を持つ「アヤワスカ・アナログ」も開発されてきた。しかし、これらの植物にはDMT以外の成分も含まれており、その効果や安全性は未知の部分が多い。

LSDやMDMAは合成された物質だが、十分な研究が行われている物質でもある。

LSDは非常に微量なので、切手のような紙にしみこませた物が流通している。しかし、流通している「紙」の成分や量は、一見しただけではわからない。このように流通している物質には、以下のような危険性がある。

  • 製造の過程に問題がある
    • 全体の濃度が不明であり、濃度が高すぎても危険
    • 微量の物質を紙に染みこませる過程で、物質の配分が不均等になる
    • 有害な不純物が混じっている
    • 意図的に違う物質を混ぜている
      • たとえば「エクスタシー」という錠剤には、MDMAのほかにメタンフェタミンなどを混ぜることがある
  • 流通の過程に問題がある
    • 流通している間に成分が分解して濃度が低下する
      • たとえばLSDは高温、酸素や光によって分解しやすい
    • 流通の過程で別の物質に変化している
    • 偽物が流通する

とくに違法な物質ではこのような問題が起こりやすい。ある物質を違法にすれば、分子構造を変えた、正体不明の脱法ドラッグの流通を増やしてしまう。ハーム・リダクションの観点からすると、有害な副作用を持つかもしれない物質であればこそ、むしろ合法化して品質検査を行ったり、薬局で売る、医師が処方するといった流通方法をとるほうが安全である。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(研究用のメモであり網羅的な内容ではありません。間違いや不足しているところなどをご指摘いただければ幸いです。)

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  • CE2021/04/26 JST 作成
  • CE2023/03/23 JST 最終更新

蛭川立

南米におけるアヤワスカ文化の現代的展開

西洋のサイケデリックルネサンス歴史観によれば、1971年の国際条約によるLSDなど精神展開薬の世界的規制が、暗黒時代の始まりとされる。それから40年が経ち、2010年代から、まず神経症圏の治療薬としてサイケデリックスの復興が始まった。

しかし、植物は国際条約では規制されておらず、あるいは自生地における儀礼的使用の規制は留保されてきた。

西洋における「暗黒時代」にも中南米では自生地を中心にサイケデリック植物の文化は発展しつづけた。これは、古代ギリシア・ローマ文化が中世のアラビア世界で継承され、西欧世界で逆翻訳された歴史とも似ている。

メキシコとアメリカではペヨーテとマジック・マッシュルームは使用されつづけたし、南米のアヤワスカの使用はむしろアマゾンからブラジルへの都市部へと拡大した。

ブラジルのアヤワスカ宗教運動

アマゾンでは20世紀に入ってゴム・ブーム(ciclo da borracha)が起こり、1910年代には、セリンゲイロであったハイムンド・イリネウ・セーハ(Raimundo Irineu Serra)が先住民のアヤワスカと出会い、1930年代には[イギリス由来のスピリチュアリズムではなく]フランス由来のスピリティズムと習合しながら、サント・ダイミの活動が整備されていく。


レヴィ=ストロースが訪問したブラジルの先住民(1935〜1939)

1930年代までにゴムの生産はイギリス領の東南アジアに移動するが、1940年代にマレーシアなどが日本に占領されると、ブラジルでは第二次ゴム・ブームが起こった。

サンパウロに亡命したレヴィ=ストロースがブラジルの先住民社会を訪ね歩いたのは、この二つのゴム・ブームの間である。レヴィ=ストロースアヤワスカとは接触しておらず、むしろサイケデリックスがもたらす元型的な精神作用よりも、より精神分析に近い理論で先住民文化を分析していった。レヴィ=ストロース神話論理については、ここでの本題からは逸れるので、別の記事にまとめたい。

イリネウ師の後を継いだパドリーニョ・セバスチャンの折衷主義がサント・ダイミがUDVとともに都市部に広がったのは比較的新しい時代、1980年代で、そこから欧米や日本に伝播したのが1990年代である。セバスチャン折衷主義派がアクレへ回帰し、マピアー共同体を建設したのも1980年代である。

ブラジルでのアヤワスカ宗教については「ブラジルにおけるアヤワスカ宗教運動の展開」にも書いたのだが、記事を統合したい。

ペルーのアヤワスカ・ツーリズム

またペルーでは、1990年代のアルベルト・フジモリ政権下でセンデロ・ルミノソやMRTAなどのゲリラ活動が鎮圧され、これと並行してシピボ=コニボの村落を中心として、アヤワスカ・ツーリズムが勃興した。ペルーではアヤワスカやサン・ペドロが国家遺産に指定された。南米には西洋のような暗黒時代はなかった。

私がシピボのサン・フランシスコ共同体を訪れたのは、フジモリ政権の末期、2000年〜2001年のことだったが、このときの記録は「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」に書いた。

それからブラジルのサント・ダイミに接触したのは2004〜2005年のことである。クリチバのスピリティストの大学である、ベゼッハ・ヂ・メネゼス大学に招聘されたのがきっかけだった。スピリティストとしてではなく、学内では少数派であった、科学的な実験超心理学を推進するグループに招聘されたのだった。



記述の自己評価 ★★★☆☆
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  • CE2022/010/30 JST 作成
  • CE2023/03/15 JST 最終更新

蛭川立

精神展開薬(サイケデリックス)

この記事は特定の薬剤や治療法の効能や適法性を保証するものではありません。個々の薬剤や治療法の使用、売買等については、当該国または地域の法令に従ってください。

サイケデリックス(psyche-delics)とは「無意識の意識化」を意味する。使用する当事者のセット(精神状態)とセッティング(環境)によって大きく左右されるため、その精神作用は、ときに逆説的でさえある。

敢えて比喩的にいえば、サイケデリックスは、薬物依存を引き起こす薬物ではなく、むしろ薬物依存を軽減する薬物となりうる。精神疾患を引き起こす薬物ではなく、むしろ精神疾患を軽減する薬物となりうる。犯罪を引き起こす薬物ではなく、むしろ再犯率を軽減させる薬物になりうる。さらには、過量摂取で死に至る物質というよりは、適量摂取で、死に至る病を受容させる薬物にさえなりうる。



精神展開薬(psychedelics: サイケデリックス)は非常に興味深い精神活性物質であり、著作やブログにたくさんの記事を書いてきたが、関心が深いテーマだからこそ、興味の赴くまま、文章があちこちに分散してしまっている。

分子構造と生合成については「サイケデリックスの分子構造と生合成過程」に書いた。

サイケデリックスの量と作用時間については「サイケデリックスの量と作用時間」に、また精神病を引き起こす可能性など、有害な作用については「サイケデリックスと物質誘発性精神病」に書いた。

サイケデリックスを含む植物や薬草の全般については「サイケデリックスを含有する植物」や「精神活性物質と植物・菌類」という記事にまとめたが、内容が重複する記事が他にもある。

精神疾患の治療薬としては「サイケデリックスの抗うつ作用」と「サイケデリックスによる依存症の改善」にまとめている。



以下の記事も未整理だが、個々に独立した記事として整理しなおしたい。

主要な精神展開薬

サイケデリックスには多数の精神活性物質が含まれるが、メジャー・サイケデリックス、あるいはクラッシック・サイケデリックスとも呼ばれる主要な物質は、モノアミン神経伝達物資にによく似た構造をもっている。

https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S0960982221016857-gr1_lrg.jpg
主要なサイケデリックス(精神展開薬)[*1]

モノアミン神経伝達物質は、インドールアミン(セロトニンなど)とカテコールアミン(ドーパミンノルアドレナリンなど)に二分されるが、これに対応して、メジャー・サイケデリックスも、インドールアルカロイド(DMT、シロシビン、LSD、イボガインなど)と、フェネチルアミン誘導体(メスカリン、MDMAなど)に二分される。これらの物質の生合成については「サイケデリックスの生合成過程」を参照のこと。

その他、狭義の精神展開薬に似た作用をもつ、エンタクトゲン(共感薬)やカンナビノイド、デリリアント(せん妄誘発薬)も精神展開薬に含めることもある。(詳細は、それぞれ「エンタクトゲン(共感薬)」「大麻とカンナビノイド」「デリリアント(せん妄誘発薬)」を参照のこと。)

精神展開薬の分類

列挙していくときりがないが、とくに注目すべき物質、つまり薬草として広く用いられてきたもの、あるいは医薬品として研究が進んでいるものを厳選するなら、以下の表のようになる。(精神活性物質全般とそれを含む生物のリストは「精神活性物質と植物・菌類」「サイケデリックスを含有する植物」を参照のこと。)


インドールアルカロイド
LSA(リセルグ酸アミド) ヒルガオ
バッカクキン
LSD(リセルグ酸ジエチルアミド) (合成化合物)
DMT、NMT
5-MeO-DMT
5-HO-DMT(ブフォテニン)
多数の動植物
(ヒトの体内にも存在)
シロシン(4-HO-DMT)
シロシビン
シビレタケなど
イボガイン イボガ
フェネチルアミン誘導体
2C-B (合成化合物)
メスカリン
MMDPEA(ロフォフィン)
ペヨーテ
サン・ペドロ
MDMA (合成化合物)
ミリスチシン ナツメグ
カンナビノイド受容体作動薬
カンナビノイドTHC、CBDなど) アサ
ウラジロエノキ
アナンダミド(AEA) 黒トリュフ
(ヒトの体内にも存在)
カヴァラクトン カヴァ
メセンブリン カンナ
解離性麻酔薬など
ケタミン (合成化合物)
PCP(フェンシクリジン) (合成化合物)
DXM(デキストロメトルファン (合成化合物)
亜酸化窒素(N2O) (合成化合物)
サルビノリン サルビア
GABA受容体作動薬
イボテン酸
ムッシモール
ベニテングタケ
テングタケ
トロパンアルカロイド
スコポラミン
ヒヨスチアミン
アトロピン
チョウセンアサガオ
ベラドンナ
ヒヨス
マンドレイク
キダチチョウセンアサガオ

イボガとイボガインはほぼ一対一対応である。それからアサとカンナビノイド、カヴァとカヴァラクトンもほぼ対応している。

メスカリンは中米のペヨーテとアンデスのサン・ペドロの二属のサボテンに含まれる。

シロシンとシロシビンは、ほぼシビレタケ属の菌類のみに含まれる。しかし、シビレタケ属のキノコは世界的に自生しているのに、儀礼的に使用されてきたのはメソアメリカに限定されている。

DMTは、アマゾン・オリノコ地域のチャクルーナやヨポに含まれ、儀礼的に使用されてきた。DMTは特異な物質であり、多くの動植物の体内で生合成され、神経伝達物質でもある。DMTはミカン科、マメ科(ヨポ、アカシア、ミモザヤマハギなど)、イネ科、アカネ科(チャクルーナ)、ナツメグ科(ヴィローラ)などの植物に含まれる。またヒキガエルの分泌液には5-MeO-DMTやブフォテニンが含まれる[*2]

LSDとMDMAは、合成サイケデリックスとしてもっとも研究され、流通してきた物質である。いずれも国際条約で規制されたが、アンダーグラウンドでは流通しつづけており、医療用としても再評価が進んでいる。また分子構造をすこし変えた合法物質も研究・流通している。(「LSDアナログ」を参照のこと。)

伝統文化の中の精神展開薬

精神展開薬を含む薬草は世界各地の伝統文化で、呪術・宗教的な儀礼の中で用いられてきた。(「『茶』の文化的バリエーション」を参照のこと。)

サイケデリックスを含む薬草の使用は、とくに中南米の先住民文化に偏っている。

中米のアステカ文化を引き継いだマサテコ族は、テオナナカトル(シビレタケ)、オロリウキ(ヒルガオ科)、ピピルツィンツィン(サルビアの一種)を用いてきた。ペヨーテはウィチョール族などに引き継がれ、サン・ペドロは北部アンデスで使用されてきた。

アマゾン川上流域でアヤワスカの原料となるチャクルーナはもっぱらDMTを含有しているが、オリノコ川流域で喫煙されるヨポにはDMT、5-MeO-DMT、ブフォテニンなどが含まれる。マメ科のヨポはアカシア属やミモザ属と近縁である。

旧大陸インドール系のサイケデリックスを含む植物としては、西アフリカのイボガがある。

マイナー・サイケデリックスとしては、南〜東アジアを原産とするアサ、シベリアのベニテングタケ、南太平洋のカヴァが挙げられる。

トロパンアルカロイドを含む植物としては、ベラドンナ、チョウセンアサガオキダチチョウセンアサガオなどが世界各地で用いられてきた。これらの植物もとくに中南米で他の植物と組み合わせて使われてきた。


www.youtube.com

「ドラッグと宗教儀礼」とは、いかにも物騒なタイトルだが、医療大麻を推進する正高先生との対談動画の中でも世界各地のサイケデリック植物を紹介した。アサ(大麻)、イボガ、ペヨーテ、サン・ペドロ、シビレタケ、アヤワスカ、ヨポである。

また、別のページに書いた記事は以下のとおり。


www.youtube.com

追記

「精神展開薬」という呼称

変性意識状態を引き起こす物質の呼称として最も良く用いられるのが、英語の「psychedelics」である。これはギリシア語の「psychē(魂)」と「delos(顕現)」から作られた英語である。無意識が意識化するといった意味であり、日本語では「精神展開薬」と訳されるが、そのまま「サイケデリックス」と表記されることも多い。ただし「サイケデリック」というカタカナ語は、特定のサブカルチャーと結びつくことで、医学的に中立な語でなくなってしまったため、医学的には「精神展開薬」や「精神拡張薬」といった訳語が用いられる。

「幻覚剤(hallucinogen)」も一般的な同義語だが、「幻覚」は有害な副作用だけを想起させる呼称で、中立的ではない。積極的に神秘体験を引き起こすという意味では「entheogen」という呼称が提案されている。これは「エンテオゲン」、「エンシェオジェン」、または「顕神薬」と訳されるが、「神(theo)」という語が用いられているので、宗教的なニュアンスが強く、やはり中立的ではない。

呼称の統一が難しい物質群だが、それだけ多様な体験を引き起こしうる物質群だということもできる。(「向精神薬の呼称」も参照のこと。)

精神展開薬関連書籍

精神に作用する薬物全般を、なんとなく「麻薬」や「ドラッグ」としてまとめた本は多いが、サイケデリックスに絞った書物で、かつ日本語で読めるものは少ない。

ポーラン(2018)『幻覚剤は役に立つのか』亜紀書房

原題は『あなたの人生をどう変えるか』なのだが、日本語読者向けに、幻覚が見える麻薬、というイメージを変えるためにタイトルを超訳したのだろう。精神展開薬の現代史、とくに2000年代以降の「サイケデリックルネッサンス」における精神医学への応用についての、わかりやすい読み物であり、サイケデリックスの作用を端的に「人を思いっきりひっぱたいて、自分の物語から目覚めさせ」る、システムの再起動だと指摘している(P. 449)。日本語で読める本としては随一だが、体系的な本ではなく、物語風に読み流せる一冊。(というより、日本語で読める概説書がほとんどないというのが現状である。)

グリーンスプーン・バカラー(1979)『サイケデリック・ドラッグ』工作舎

日本語で読める体系だった概説書としてはこの一冊。精神展開薬の歴史、個々の物質、その哲学的、心理学的な含意などを体系的にまとめた事典的な内容。ただし、すこし内容が古く、訳の日本語もあまりよくない。

1979年に出版された原書のタイトルは「サイケデリック・ドラッグ再考」であり、1971年の規制以前を総括して振り返りつつ、改訂版ではMDMAなどの新しい薬物の可能性を展望している。古い本であるのに古さを感じさせないのは、1980年代から1990年代にかけて、研究が停滞していたからでもある。

植物図鑑として、欧語圏での書籍も含め、もっとも詳しいのは、エヴァンス・シュルツやアルベルト・ホフマンらが編集した『Platns of the Gods』である。

日本語に直訳するなら「神々の植物」となるはずが、「快楽植物大全」という奇妙なタイトルになっている。精神展開薬の作用を、いわゆる快楽と訳すのは、読者の誤解を生むが、これは売上を増やそうという戦略的意図だろうか。あるいは、ここでいう快楽とは、仏教用語の「快楽(けらく)」のことだと解釈することもできる。

https://www.amazon.co.jp/Plants-Love-Aphrodisiacs-History-Present/dp/0898159288

ちなみにこの本の姉妹編として媚薬図鑑『Plants of Love』があるが、こちらは和訳されていない。



CE2016/10/10 JST 作成
CE2023/04/12 JST 最終更新
蛭川立

*1:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982221016857

*2:アマゾン・オリノコ地域でKambôなどと呼ばれるフタイロネコメガエル(Phyllomedusa spp.)の分泌液はオビイオドに類似した成分であり、インドールアミンではない。

WEBに楽譜を組み込む方法

HTMLのテキストに楽譜を埋め込む方法は、まだ標準化されていない。

ja.wikisource.org

Wikipediaでは、おもにLilyPondとABC記譜法が使用されているらしい。

ABC記譜法

たとえば「起立・例・着席」の三和音は、ABC記譜法では

M:2/2
L:2/4
%%score={1|2
[V:1] "C"[CEG] "G7"[B,DFG] | "C"[CEG]2 |]
w: T D T
w: I V7 I
[V:2 bass] C, G,, | C,2 |]

のように表記される。Javascriptのコードにしてそのまま埋め込むと、以下のように楽譜に変換される。


M:2/2
L:2/4
%%score={1|2
[V:1] "C"[CEG] "G7"[B,DFG] | "C"[CEG]2 |]
w: T D T
w: I V7 I
[V:2 bass] C, G,, | C,2 |]

ABC記譜法のコードをMIDIに変換すれば、サイト上で音を再生することもできる。


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