脊椎動物の進化(参考資料)

https://finding-geo.info/basic/UbR0Rld3wXk3_rev_S.png
地質年代と主な動植物の進化[*1]

https://kumamoto-museum.net/kmnc/wp-content/uploads/sites/2/2020/06/73eab54b0e5d9166043ae8f2293fbe04.jpg
脊椎動物系統樹[*2]

脊椎動物門は、もともと、魚類、両生類、ハ虫類、鳥類、哺乳類という5個の「綱」に分類されてきた。

現在では、かつて脊椎動物門と呼ばれていた分類群は脊椎動物亜門となり、頭索動物亜門(ナメクジウオなど)と尾索動物亜門(ホヤ類)を加えて脊椎動物門とするようになった。

また、鳥類は絶滅を免れた恐竜の子孫だという説が確実になってきたので、鳥類をハ虫類に含めることもある。



(参考のための画像リンク)

CE2021/09/27 JST 作成
CE2021/09/27 JST 最終更新
蛭川立

*1:栃木県の地球科学「地質時代」(2021/09/27 JST 最終閲覧)

*2:熊本県博物館ネットワークセンター「脊椎動物の進化」(2021/09/27 JST 最終閲覧)

サル目(霊長類)の系統分類と進化史

中生代の終わり、6500万年前に恐竜が絶滅した後、新生代が始まる。昼行性の恐竜に対し、夜のニッチでひっそりと暮らしていた哺乳類(有胎盤類)が急速に適応放散した。霊長類(サル目)も、このときに登場した。

霊長類は樹上生活に適応した動物であり、立体視ができ、初めは夜行性だったがその後、昼行性となり、色覚が進化したという特徴がある。

サル目の系統樹

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サル目(霊長類)の系統樹[*1]

化石種も含めた霊長類の系統樹をみると、旧世界では、ヒト上科は衰退に向かってきたグループであり、オナガザル上科は繁栄しつつあるグループだということがわかる。このことは、進化に方向性があっても、必ずしも人間のような存在を目的として進化しているのではないという可能性を示唆している。

サル目の系統分類

(絶滅種は含まず)

  • Order Primates サル目(霊長目)
    • Suborder Strepsirrhini 原猿亜目 
      • 原猿類。マダガスカルなどに生息し。多くは夜行性で、嗅覚が発達)
      • Infraorder Lemuriformes キツネザル下目
      • Infraorder Loriformes ロリス下目
      • Infraorder Tarsiiformes メガネザル下目
    • Subroder Haplorhini 真猿亜目
      • Infraorder Platyrrhini 広鼻亜目
        • Superfamily Ceboidea オマキザル上科
          • 新世界ザル。南米に生息)
      • Infraorder Catarrhini 狭鼻亜目
        • Superfalily Cercopithecoidea オナガザル上科
          • 旧世界ザル。アフリカ・ユーラシアに生息)
          • Family Cercopithecidae オナガザル
        • Superfamily Hominoidea ヒト上科 
          • 類人猿( ape)とヒト)
          • Family Hylobatidae テナガザル科
            • Genus Hylobates テナガザル属 
              • (テナガザル。東南アジアの熱帯雨林に生息)
          • Family Pongidae オランウータン科
            • Genus Pongo オランウータン属 
              • (オランウータン。東南アジアの熱帯雨林に生息)
          • Family Hominidae ヒト科

現存するサルたちの姿

日本にでは、野生のサルであるニホンザルが生息していたということもあり、サル学・霊長類学が早くから発展した。その後、アフリカの類人猿などの現地調査も進められた。

いっぽう、名鉄名古屋鉄道)の観光開発の一環としてつくられた、霊長類に特化した動物園である日本モンキーセンターには世界中のサルが集められ、敷地内には京都大学霊長類研究所が併設され、国際的な霊長類研究のセンターとなっている。

【日本モンキーセンター Webサル図鑑】には、飼育されているサルの画像が分類群別に整理されている。以下の写真は霊長類研究所のサイトからの借用。

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f:id:hirukawalaboratory:20210927010712p:plain
主な霊長類の写真[*2]

以下はモンキーセンターで飼育されている動画のチャンネル。

www.youtube.com

www.youtube.com



CE2005/04/19 JST 作成
CE2021/09/27 JST 最終更新
蛭川立

*1:京都大学霊長類研究所霊長類はどう進化してきたの?」『霊長類研究所WEB博物館』(2021/09/27 JST 最終閲覧)
このページで引用した系統樹の図は画像を貼り付けただけだが、上のURLから改めてサイトに入って図の中の数字や文字をクリックすると個々の種などの写真と解説を見ることができる。

*2:京都大学霊長類研究所世界の霊長類、その歴史、現生種の系統図、写真」(2021/09/27 JST 最終閲覧)

「人類学B」2021/09/28 講義ノート

今週は、地質年代を下りながら、人類へとつながる系統樹を、ひたすら追っていきます。毎週のスケジュールは「人類学B、2021年度」のページに書きました。毎週毎週、すこしずつ書き足しながら書き換えています。本当は半期ぶんの全部の資料はあるのですが、去年のものをただ使い回すのではなく、書き直してからリンクを張ります。

予習復習は大いに結構ですが、今週は、だいたい「サル目(霊長類)の系統分類」と、「化石人類の進化史」のあたりです。それから、その手前に「脊椎動物の進化」という資料も加えておきました。

大脳化、脳が大きくなったという進化史は、また別の話なので、来週ぐらいに議論しましょう。それから来週はアフリカで誕生したホモ・サピエンスが何万年もかけて世界中に広がっていった。それから日本列島まで来た、というところまで進めます。

毎週のディスカッションの結果も資料にフィードバックしています。前の授業で気候変動、温暖化や寒冷化と人類進化の関係についてだいぶ議論があったので、そういう部分も書き加えました。

同じような系統樹の図ばかり見ていても、ちょっと面白くないかもしれません。本当はサルの生態など、DVDがあって、いつもは教室で上映しているのですが、このブログ形式の授業だとそれができません。また教室での講義ができるようになったら、上映しようと思います。

サル目(霊長類)の系統分類」のページの下のほうにも写真と動画へのリンクを張っておきましたが、興味があれば動画など見てください。愛知県犬山市にある、モンキーセンターはお勧めです。じっさいに行くと、世界中のサルたちがいます。ただ昨今は感染症対策も大変ですが、さしあたりは「日本モンキーセンターおうちどうぶつえん」などもご覧ください。

ところで地質年代なども、あるていどの基礎教養としては、知っておいてください。だいたい「紀」あたりを知っておいてください。試験には出しませんが。「今は?」と聞かれたら「新生代第四紀」、「だいしき」と発音したり「だいよんき」と発音したりするんですが、まあそれはさておき、あるいは「ジュラ紀」とか「白亜紀」と言われたら、はあ、それは「中生代」だな、とか、恐竜が栄えた時代だなとか、恐竜は中生代の終わりに絶滅したんだなと、それぐらいは知っておくとよいでしょう。歴史の勉強で、「中世」には鎌倉時代室町時代があって、武士が台頭した時代だな、といった知識があると便利なのと同じようなものです。

それから遺伝と進化のメカニズムのほうですね。遺伝子とかDNAとかRNAとか、突然変異とか自然選択とか自然淘汰とか、そういった基礎知識も、あるていどは持っておいてほしいのですが、知っている人は知っているでしょうし、知らない人はあんがい知らないかもしれません。これは高校までの理科で生物をどれぐらい勉強したかにもよっても違いますが、じょじょに説明していきます。掲示板授業なので、わからないことがあれば質問してください。

遺伝子は親から子へ、子から孫へと受け継がれていきます。長い長い進化の歴史も、子供を産むという出来事の繰り返しであるわけです。母親の卵子と父親の精子に遺伝子DNAが入っていて、それが授精してDNAが合わさって子供のゲノムができる、そういう身近な出来事の連鎖です。

もうちょっと応用編として、時事的な話題もとりあげますと、いま、ワクチンの集団接種が進んでいますね。アメリカのファイザーやモデルナが開発したワクチンが主流です。mRNAワクチンという最先端の技術です。mRNAって何?とか、変異株には効かないかもしれない?とか、そういうことが話題になっています。

こんな最先端のワクチンを全人類に接種しようという人類史上初の試みです。短期的には予防効果は抜群のようですが、将来的に未知の副作用が出てくるかどうか、それもよくわかりません。ただし、RNAとか変異とかいうことを知っておくと、ニュースも理解しやすくなりますし、怪しげな情報にも冷静に対応できます。

私も2回接種して、中和抗体ができてきたところです。私の個人のブログのほうに「抗体検査からワクチンへ」という体験記を書きました。検査キットを買ってきて何回も試してみたというマニアックな記事です。授業とは関係ないので興味がない人は読まなくても結構です。

そもそも今回の新型コロナウイルス、これは正式名称ではSARS-Co-V-2というのですが、これは一本鎖RNA型ウイルスなので、二本鎖のDNAよりもずっと簡単に変異してしまう。でも変異はいろいろ起こるので、より症状が重い方向ばかりに変異するとは限りません。非常に感染力が強くてほとんど無症状な変異が一気に広がると、ふつうの風邪になって終わってしまうかもしれません。最終的にはそうなるかもしれません。ただそれは今年起こることなのか、何十年後に起こることなのか、これはわかりません。

ワクチンを打つと人間のDNAが書き換えられてしまう?遺伝子が組み換えられてしまう?といった話もありますが、SARS関連コロナウイルスも、それを真似して作られたワクチンも、mRNAのようなものなので、逆にDNAに組み込まれてしまうということはありません。ただ、同じ一本鎖RNAウイルスでも、レトロウイルスというものがありまして、たとえばAIDSを引き起こすHIVウイルスなどがありますが、これはウイルスが自分のRNAを逆転写してDNAを合成して、宿主のDNAに入り込んで遺伝情報を書き換えてしまうことがあります。

ウイルスというのはべつに人間を殺そうという意図を持った生き物だというわけではなくて、むしろ遺伝情報の一部が体の外に飛び出したものだといえます。つまりウイルスが感染するというのは、人間からまた別の人間へと遺伝情報が移動しているのだともいえます。じつはまったく無害でまったく病気を起こさない、だから誰も気づかないウイルスが日々大量に行き交っているのですが、病気を起こさないので誰も研究しないんですね。だから実態もよくわかっていません。

SARS関連コロナウイルスはもともとコウモリから来て、ハクビシンラクダなど、人間以外のいろいろな動物の間も行き来しています。遺伝子というのは、親から子へ、だけではなく、ウイルスという形で、親子だけでなく、たくさんの人間の間、いろいろな種類の動物の間も行き来してしまう、ひょっとしたら何万年か先に、人類の手が急に翼に変化して、空を飛べるようになるかもしれません。

こういうメカニズムで生物の進化が起こる可能性については、最近、だいぶ研究が進んできたようですが、驚くべき発見です。詳しいことは「ウイルス進化論」という記事に走り書きをしました。人類学の話題からはちょっと逸れますが、興味があれば読んでみてください。日本人の起源の解明にも関係しているということは、また来週ぐらいに扱います。

余談が長くなってしまい、しかもかなり専門用語が出てきてしまいましたが、遺伝学の用語ですね、よくわからなければ、なんとなくわかるような、わからないような、という程度に、聞き流してください。DNAや遺伝子や変異や進化のことなども、これから3週間ぐらいかけて、必要におうじて、行きつ戻りつしながら説明していきます。



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CE2021/09/26 JST 作成
CE2021/09/28 JST 最終更新
蛭川立

【資料】『荘子』(胡蝶之夢)

胡蝶之夢

昔者(むかし)、荘周、夢に胡蝶と為る。栩栩然(くくぜん)として胡蝶なり。
 
自ら喩しみて志(こころ)に適えるか、周なるを知らざるなり。
 
俄然として覚むれば、則ち蘧蘧然(きょきょぜん)として周なり。
 
知らず、周の夢に胡蝶と為るか、胡蝶の夢に周と為るかを。
 
周と胡蝶とには、則ち必ず分有り。此を之(これ)物化(ぶっか)と謂う。

 
荘子』(内篇 斉物論第二)[*1]

蝶になってひらひらと飛んでいた。はっと目が醒めると夢だった。そう思って、目覚めたほうの世界での生活に戻る。それが普通である。

しかし、荘子こと荘周は問う。いま私、荘周は胡蝶になった夢を見ていた。けれども、逆のことも考えられる。つまり、いま、胡蝶が荘周となっている夢を見ているのではないだろうか。夢の中では、我々は「これが現実だ」と感じているが、だから、そこから覚醒した[と思っている]世界で「これは現実だ」と思っていても、それもまた夢であって、次の瞬間には目が醒めるかもしれない。そう考えてみることは可能である。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c1/Dschuang-Dsi-Schmetterlingstraum-Zhuangzi-Butterfly-Dream.jpg
 
陸治『夢蝶』[*2]

「物化」というのは解釈が難しい言葉である。荘周と胡蝶は別の存在である。別の存在であるのに、互いに変身することができる。このような作用を「物化」というのだろうか。

荘周の身体が属する物質世界こそが実在する世界であり、夢は幻覚にすぎない。近代社会の常識ではそう考えるし、古代より漢民族もこうした現実的な態度を好んだから、老荘思想は特殊な部類に属する。『老子』は意外に現世的だが、『荘子』はより厭世的である。


【余談】交淡如水

荘子』より、もうひとつ引用。

君子の交わりは淡きこと水の如く、小人の交わりは甘きこと醴(れい)の如し

君子は淡くして以て親しみ、小人は甘くして以て断つ

 
荘子』(外編 山木論第二十)[*3]

裏千家淡交会の「淡交」は、この「交淡」に由来する。「醴」とは、米から醸造される甘酒のことで、日本ではアルコール分が含まれていない飲料を指すが、中国では約一万年前、長江流域で水稲耕作が始まったときに最初に発明された酒が「醴」である[*4]



記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2017/10/17 JST 作成
CE2022/02/14 JST 最終更新
蛭川立

*1:「昔者莊周夢爲胡蝶。栩栩然胡蝶也。自喩適志與。不知周也。俄然覺、則蘧蘧然周也。不知周之夢爲胡蝶與、胡蝶之夢爲周與。周與胡蝶、則必有分矣。此之謂物化。」

池田知久訳注 (2014).『荘子 上 全訳注』(講談社学術文庫2237)講談社, 217-218.より引用。『荘子』の訳註は多数あるが、文庫サイズで手軽に参照できるものとしては池田知久の訳註が文献学的には充実している。充実のあまり文庫本とはいえないほどの分厚さであり、それが上下二巻に分かれている。

*2:陸治(Lù Zhì, c. 1496-1576)は明代の画家。

*3:「君子之交淡若水(じょすい)、小人之交甘若醴。君子淡以親、小人甘以絶。」

池田知久訳注 (2014).『荘子 下 全訳注』(講談社学術文庫2237)講談社, 141-144.

*4:日本では弥生文化とともに水稲耕作とALDH2(つまり天然の抗酒薬であるアセトアルデヒドが分解できない酵素)遺伝子が渡来した。これは、アルコールによる死亡に対する淘汰圧の結果だと考えられる。東北地方と九州以南でうつ病が多いのは、日照時間の短さ、5-HTTLPR遺伝子の変異、そしてALDH2遺伝子の頻度と関係があるのかもしれない。

【資料】ジェイムズ『宗教的経験の諸相』

私たちが合理的意識と呼んでいる意識、つまり私たちの正常な、目ざめているときの意識というものは、意識の一特殊型にすぎないのであって、この意識のまわりをぐるっととりまき、きわめて薄い膜でそれと隔てられて、それとは全く違った潜在的ないろいろの形態の意識がある、という結論である。私たちはこのような形態の意識が存在することに気づかずに生涯を送ることもあろう。しかし必要な刺激を与えると、一瞬にしてそういう意識の形態の意識が全く完全な姿で現われてくる。それは恐らくどこかにその適用と適応との場をもつ明確な型の心的状態なのである。この普通とは別の形の意識を全く無視するような宇宙全体の説明は、終局的なものであることはできない。
 
ジェイムズ『宗教的経験の諸相』[*1]

合理的な意識状態とはまったく違った意識の状態が、すぐ隣にあって、ちょっとした刺激で全く完全な姿で現れてくるという、これは亜酸化窒素による精神展開体験をふまえた論考だとされるが、たとえば眠ると夢を見るということを例に挙げれば、それほど奇妙な議論ではないことが理解できよう。



亜酸化窒素はNMDA受容体に作用し、ケタミンのような解離性麻酔作用を示す。また、ケタミンと同様、治療抵抗性うつ病を急速に改善する[*2]が、日本では「指定薬物」として規制されるようになった[*3]

記述の自己評価 ★★★☆☆
CE2017/03/29 JST 作成
CE2021/09/23 JST 最終更新
蛭川立

*1:ジェームズ, W. 舛田啓三郎(訳)(1961).『宗教的経験の諸相(ウィリアム・ジェイムズ著作集3)』日本教文社, 190.

(原文は「It is that our normal waking consciousness, rational consciousness as we call it, is but one special type of consciousness, whilst all about it, parted from it by the filmiest of screens, there lie potential forms of consciousness entirely different. We may go through life without suspecting their existence; but apply the requisite stimulus, and at a touch they there in all their completeness, definite these of mentality which probably somewhere have their field of application and adaptation. No account of the universe in its totality can be final which leaves these other forms of consciousness quite disregarded.」
James, W. (1988). Writings 1902-1910: The Varieties of Religious Experience / Pragmatism / A Pluralistic Universe / The Meaning of Truth / Some Problems of Philosophy / Essays. Library of America, 349.)

*2:Peter Nagele, Andreas Duma, Michael Kopec, Marie Anne Gebara, Alireza Parsoei, Marie Walker, Alvin Janski, Vassilis N. Panagopoulos, Pilar Cristancho, J. Philip Miller, Charles F. Zorumski, and Charles R. Conway (2015). Nitrous Oxide for Treatment-Resistant Major Depression: A Proof-of-Concept Trial Biological Psychiatry, 78(1), 10-18.

*3:佐々木正大(医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課課長補佐)(2016).「一酸化二窒素(別名:亜酸化窒素)を新たに指定薬物に指定」(2021/07/15 JST 最終閲覧)

「身体と意識」2021/09/23 講義ノート

「身体と意識」の初回の授業です。しばらくは昨年度と同様、オンライン方式で続けます。最初なので、すこし説明しておきます。

まず、「西暦2021年度 蛭川担当科目」をクリックすると、今年度の授業の一覧が出てきます。これの「身体と意識」をクリックすると、一月までの授業計画が表示されます。この授業計画から、それぞれの日の「講義ノート」をクリックすると、このページのような、簡単な授業概要の説明が出てきます。

授業計画の表からは、それぞれの回で扱う資料のページへのリンクが張ってあります。じつは授業に使う資料のページは去年までに作ったものがすべてブログ上に上がっているのですが、リンクを張る作業が追いついていません。毎週、リンクを張り直していきます。毎年同じ資料を使うのも進歩がありませんし、間違いがあれば訂正する必要もあるので、資料を加筆修正してから再度リンクを張り直していきます。

オンライン授業の進め方ですが、昨年度以来、試行錯誤してきました。詳しい手順は「蛭川担当科目・オンライン授業の進めかた」に説明しておきました。事前にブログ上に教材をアップしておき、毎週の授業で読んでおくべきページを指定して、予習できるようにしておき、そしてこの講義ノートがあり、さらに授業の当日は、リアルタイムで掲示板方式で、この文章と同じような口語体で文字講義を行い、そこに受講生が質問やコメントを書き込み、議論が展開していく、という仕組みになっています。複雑な多重構造ですが、これが意外に慣れてくると面白いもので、教室での授業よりもずっと活発な議論になるのです。

さて初回は、まず授業全体の概要ですが、これは「「身体と意識」2021年度 講義概要」を見てください。公式シラバスのコピペです。

読むべき資料のリンクも計画表に張っておきましたが、まずは「意識の諸状態」です。それから文献資料として『荘子』と『宗教的経験の諸相』という本からの引用にもリンクを張っておきました。

詳しいことはリンク先の教材を読んでもらえばいいことなので、細かいことはここでは書きませんが、ようするに、人間の意識の状態は複数あって、その意識の状態に対応する複数の現実があって、その複数の現実を行き来しながら生きているのだ、ということです。こうやって抽象的に書くと、なんだかよくわからないかもしれませんが、いちばん身近なものが、毎晩の睡眠であり、睡眠中に見る幻覚である夢です。次回、来週は、このいちばん身近な幻覚体験である睡眠と夢を例にして、お話しを進めていきます。

この授業では、臨死体験や瞑想体験、薬物による幻覚体験など、不思議な体験や怖そうな体験も扱いますが、まずは睡眠と夢の話をします。これなら、誰でも体験したことがあるはずですし、複数の現実を行き来しながら生きているのだ、という考えも、ふつうに自然なことだとわかるでしょう。



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CE2021/09/23 JST 作成
CE2021/09/23 JST 最終更新
蛭川立

「身体と意識」2021年度 講義概要

意識の状態が変われば、それに対応して、経験される現実も変わる。もっともわかりやすい例は、睡眠中に見る夢である。夢の世界では、われわれは、夢の身体を持って行動している。

変性意識状態、つまり日常とは異なる意識状態には、夢のほかに、臨死体験、瞑想体験、精神疾患、あるいは向精神薬の作用など、さまざまな種類のものがある。しかし近代社会では、そうした多様な意識状態は存在しないか、存在しても問題にされないか、精神の異常として処理されがちである。

近代化される以前の多くの社会では、しばしば夢や幻覚と現実との境界が曖昧であった。とりわけ古代インド哲学や仏教思想の伝統では、物質的身体を持って「覚醒」して生きている状態のほうが、じつは夢の中で暮らしているような状態であり、その錯覚から「覚醒」しなければならないとする思想が顕著であった。

いっぽう、近代科学は、脳という物質のはたらきから精神が生み出されると考える。向精神薬が脳内でどのように作用するのかという機序の解明が進み、意識や思考などの複雑な情報処理が、脳内の生化学的な反応として理解されるようになってきた。

さらに現代では情報技術の発展も著しい。人生の三分の一が睡眠時間だということは変わらないが、われわれは「覚醒」しているときでさえ、テレビやスマートフォンの液晶画面の背後に、さらにはVRのゴーグルの中に、あたかも物質的世界が実在するかのように錯覚し、その仮想世界に没入して過ごす時間が増えている。現実と幻覚を隔てる境界の曖昧さは、原始社会や、古代宗教や、あるいは精神病理という特殊な世界だけでなく、近未来社会の日常となりつつある。



→「「身体と意識」2021年度講義計画

CE2021/09/23 JST 作成
CE2021/09/23 JST 最終更新
蛭川立